変人公爵と噂の旦那様に嫁いだが、本当に変人だった件
「結納金を、もう300枚上乗せして下さい」
「な、何だと、結婚式で言う事か!」
私はルビア、自分で言うのもおかしいが、王国に名を轟かせた美姫だ。
しかし、お母様は強欲だわ。
結婚式当日に結納金を上乗せする。でないと私と結婚させないと言う。お相手は大商会の子息だわ。
「お母様、やめて・・」
「ルビア、母の言う事を聞きなさい。幸せになれるわ」
「もう、やめて!」
結局破談になったわ。
こうして、私は22歳になった。行き遅れだわ。
しかし、母の満足する結納金を払ってくれる貴族がいた。
公爵家のフランク様だ。
「まあ、金貨1000枚?是非ルビアをもらって下さい」
「お母様、公爵様は32歳だわ。変人公爵と有名だわ」
「ねえ。お母様の言う事を聞いたから公爵夫人になれたのよ」
目を輝かせて私の言う事を聞かないわ。
こうして私は公爵夫人になったわ。義両親は隠居して領地にいる。
「お早うございます。旦那様」
「うむ。昨晩はご苦労だったな」
「・・はい」
使用人達は優しい。貧乏子爵家出身の私にも親切に対応してくれる。
「奥様、メイド長のリビアでございます。何なりとお聞き下さい」
「よろしくお願いします」
家の事を習いながら、旦那様の帰りを待つ。
変人公爵という噂は嘘だったわね。
しかし、そんな期待を裏切る出来事があった。
旦那様と庭を散歩した時だ。
噴水の縁に飛び乗り歩く。少しでもバランスを崩せば水の中に落ちる。
まあ、少年みたいな心があるのかしら。小太りの体が左右に揺れるが落ちない。運動神経は良いみたいだ。
しかし・・・
「ルビア、押すなよ。絶対に押してはいけない」
「はい、もちろんです」
「ルビア、押すな。どこにいる」
「はい、旦那様の後方です」
旦那様が振り向いた。何か期待をしているような目だ。
「ルビア、決して押してはいけないよ」
「はい、絶対に押しません」
「ルビア、押すなよ・・・・」
「はい、旦那様」
・・・・・・・・
噴水の縁から降りた。
旦那様はがっかりしている。何故だろう。
私は言いつけを守っていたのに・・・
また、旦那様が外出するときに私に言いつけた。
「ルビア、あの離れの家に絶対に絶対に入ってはいけないよ」
「はい、旦那様」
「これが鍵だ」
えっ、何で入ってはいけないのに鍵を渡すの?
「いいか、絶対に入ってはいけないよ」
「はい、旦那様、絶対に入りませんわ」
夕方、帰ってこられた。
旦那様は真っ先に離れにいった。
入った形跡がないのを確認して・・・・ガッカリしている。ここから見ても肩を落としているのが分かるわ。
「ルビア、入らなかったのか?」
「はい、入りません」
この行動、髪を結ってもらっているときにメイドのフランに聞いた。メイド長のリビアの娘だ。
「えつ、・・・その分かりませんわ。それよりも、奥様、綺麗な金髪ですわ。下ろしてみましょうか?」
「はい、それでお願いします」
「奥様、使用人にお願いしますは不要です」
はぐらかされたのかしら。
生活自体は充実している。
「大公爵夫妻が来られるそうです」
「そう、出むかえる準備をするわ。教えなさい」
「はい、奥様」
義両親が来られるそうだ。結婚式の時に顔を見たぐらいだわ。
そんな大事な日に旦那様は奇行に走られた。
頭の上にタライを乗せて歩いているのだ。中に水が入っている。
いつもの台詞を言う。
「ルビア、絶対に押してはいけないよ。これは危険だ」
「はい、でも、旦那様、お義父様とお義母様がこられますわ」
「そうだ。だから絶対に押してはいけないよ」
旦那様は器用にバランスをとっているわ。
でも、やはりゆらゆら揺れている。
そんなときに、客が訪れたと報告が来た。
義両親か?と思ったら。お母様だった。
「お母様、何故?」
「ヒィ、何、公爵閣下、軽業師みたいなことをして、変人公爵とはいったものね。公爵閣下、結納金の追加をお願いします。後、金貨1万枚、でないとルビアを引き取りますよ。」
「お母様、やめて・・そんなお金払えないわ」
「ルビア、貴方の幸せのためよ。手を取りなさい。実家に帰るわ。傷物になった貴方でも良いと外国の王族から話が来たのよ。砂漠の国よ」
「ハーレムじゃない・・」
「ルビア、押すなよ。押しては決していけない」
何だか混沌としてきた。旦那様がお母様の前に立つ。
でも、『ルビア、押すなよ。絶対に押してはいけない』を連呼しているだけだ・・
屋敷の者は皆良くしてくれているわ。ここにずっといたいわ。
だから・・・・
「エイッ!」
と旦那様を押してしまった。
「キャアアー、何?冷たいわ!!」
ドタンと大きな音がして水がお母様にかかったわ。
するとメイドのフランが・・・
「旦那様、何してまんねん!」
商業都市の方言だわ。
旦那様はパンと紙の大きな扇ではたかれた。音だけはするが痛くはないようだ。
旦那様は・・・
「ヒィ、ルビア、押してはいけないと言ったのに、グスン、グスン」
泣き言を言っているが、何故か嬉しそうだ。
「誰でも押しとうなるわ!ねえ。奥様」
「ええ・・・」
確かに無性に押したくなったわ。
「ヒィ、冷たい。服の内側に入ったわ!」
「ほな。ここで脱ごうか?」
「そこのメイド、何を言っているの!おかしいわ」
「おかしいのはオカンや。何、嫁いだ娘をネタに金儲けしてんねん」
「ギャフン!」
バシッとお母様は紙の扇ではたかれたわ。
「何の騒ぎだ」
「フランク・・・」
義両親もやってきたわ。だけど一目見て・・・
「「嫁に何させてまんねん!」」
パチッと二人同時に旦那様の頭をはたいたわ。これは痛そうだ。
お母様は破談になった結納金を返さずにあちこちから取り立てが来て貧窮をしていた。お父様はお母様の言いなりだわ・・・・
上品な義両親だけど、言っている事がおかしいわ。
「全く、フランクもまだまだだな。ワシがお前の歳の時は領民をドッカンドッカンと笑わしておったわ」
「何言うてまんねん。領民は口開けて空を見上げて怪鳥が飛ぶ先をみとったで!」
「グウッ・・・それを言うなオカン」
義両親は引退して、領民を笑わそうと視察を繰り返しているそうだわ。
「ルビアちゃん。よろしうに」
「何かあったら、ドラゴンに乗って飛んで来るさかい」
終始お母様は無視されていた。
あんなに傲慢だったお母様が水を被っただけですっかり大人しくなっている。
強権をふるっていたお母様も中身は空っぽだったわ。
☆その後。
「ルビア、決して、離れを見てはいけないよ。絶対に入ってはいけないよ」
「はい、旦那様」
鍵を渡された。メイドを伴い中に入る。
「まあ・・」
「奥様、旦那様からのプレゼントです」
綺麗なドレス、宝飾品、皆、私に合わせてくれているのね。
部屋の一番奥に、それは置いてあった。
「奥様、最高級の紙で作ったハリセンでございます」
「まあ、フランの持っていた紙の扇ね」
「これで旦那様をはたいて良いのかしら」
「ええ、旦那様は喜びますわ。でも、タイミングがあります」
「私に出来るのかしら・・・」
「笑いは考えるのではなく、感じるのです。自然と出来るようになりますわ」
私はハリセンを手に持ち考える。
近い将来出来る気がするわ。
そう、きっと私にも出来るわ。
ツッコミというものを・・・
最後までお読み頂き有難うございました。




