幸せにしたいのは「キミ」がいい
渚に「幸せにしたい」と言った千隼。しかし彼女の「死にたい」と言う気持ちは変わらないまま……
彼女は一瞬困ったような顔をしたが、すぐさっきまでの表情に戻る。そして僕の言葉を一蹴するように言った。
「私はもう死ぬと決めたんです。あなたのそんな夢見事に関わる気はありません。」
一蹴されてもなお、僕は言い続ける。
「わかってるよ…さっきまで死にたいなんて言ってた奴がこんなこと言うなんてどうかしてる。それに君の気持ちはすごく分かる。だけど君には生きて欲しいんだ!」
僕がそう言うと彼女は少し声を荒げて言う。
「あなたに私の何が分かるって言うんですか!まだ会って1日も経ってないのに!」
そうだ。僕たちはまだ出会ってから数時間しか経っていない。それなのに僕はなぜかこの子を守りたいと思った。何でこんなにこの子に執着するのか。しばらく考え込んでいると、痺れを切らした彼女が言う。
「ねぇ!何で黙ってるの!なんか言ってよ!」
「……」
「ねぇってば!」
「…………」
「もう知らない!」
「………!!」
「……全部思い出した…」
彼女が背中を向けて行こうとする。それと同時に失っていたはずの記憶が逆流するように取り戻されていく。
「帆花……」
「は?誰ですかその人?」
彼女が食い気味に聞いてくる。
なぜ僕がこの子に執着するのか。なぜこんなにも懐かしく感じるのか。それを証明する理由になる、飛び降りで失っていた記憶、その中で最も大切な記憶が呼び戻された。
僕には妹がいた。“雨宮帆花“、絶対に忘れない、忘れたくない妹の記憶。
雨宮帆花、妹とは小さい頃仲が良かった。どこにでもいる仲睦まじい普通の兄妹だった。しかしある日突然それが崩れる。外では風が吹き荒れ、大雨の降る日だった。お菓子を巡って妹と喧嘩した。 喧嘩が激しくなり、妹が言った。
「お兄ちゃんなんてもう知らない!!」
「おい待て!!外は危な…」
僕がそう言い終わる前に妹はドアを開けて出て行った。僕は妹を追いかけなかった。変な意地でも張っていたんだろう。今でも後悔している。
妹が出て行ってから1時間後に親が妹がいないことに気づいた。母に何で止めなかったかなどこっぴどく叱られた。父は妹を探しに行った。
結局妹は見つからなかった。
雨があけ、警察や地域の人も総出で探した。学校や公園など探せる所は全て探した。それでも妹の痕跡は一つも残っていなかった。
僕は後悔で押し潰されそうになった。全部自分が悪いと思った。「あまり自分を責めないで」とか何とか言われたが一つも励ましにならなかった。それから今まで長い間両親はずっと妹を探している。だけどまだ見つかっていない。僕ももう一度妹に会えると信じていた。でももう死のうと思っていた。どうせ妹は僕に会いたくないと思うだろうから。
だけど渚に会って気が変わった。僕の妹も薄いアイボリーの髪だった。そんな妹に似ている渚、二度とこの子をあの日のように失いたくない。やっぱりもう一度妹に会いたい。そんな気持ちが僕を「生きる」という正しい道に戻してくれた。だから…
僕は渚に妹がいなくなったことを話す。それでも彼女は依然として強い口調で言う。
「あなたが妹を大切に思っていることは分かりました。でもそれとこれとは何も関係ありません。」
それに反論するように僕は言う。
「全く関係ないわけじゃないよ。君と妹はなんか似てるとこがあって懐かしい感じがするんだ。だから…妹みたいな君を目の前で失いたくない。もう二度と…」
それを聞いて彼女は少し考え、それから呆れながら言った。
「あなたの言いたいことは分かりました。でも私、年内には死ぬつもりなんですけど。その気持ちは変わりません。こんな私をどうする気ですか?」
少し気持ちが揺らいでくれたかもしれないと思って内心喜び、考えていた案を彼女に伝える。
「今日は12月11日。年末まではあと20日ある。」
「それがどうしたんですか?」
「君の20日を、僕にくれ!!」
第3話です!!ここまで読んでくださってありがとうございます!これからどんどん幸せになっていきますよ〜!
ここからの渚の20日の結末はいかに!?




