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灯野はるなは、鍵をポケットに入れたまま旅に出た(シリーズ2)  作者: 皆月 優
004_第四章「原初・知恵・AIの始まり」
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#069 「鍵を求めて」

 町役場の奥、重厚な木の扉の前で、六人は足を止めた。廊下は静まり返り、古い床板のきしむ音さえ、やけに大きく響く。

 真凜は、はるなの袖をぎゅっと掴んでいた。昨日までの、遠慮がちで小さな仕草とは違う。力は強く、指先は熱を帯びている。


「ねえ……大丈夫だよね?」

 顔を上げると、満面の笑顔。不安よりも期待が勝っている目だった。


「うん」

 はるなが短く答えると、真凜はぱっと笑った。

「だよね! だって、ともり様が……!」


 言いかけて、はっと口をつぐむ。深呼吸をひとつ。そして、少しだけ声を落とした。

「……ちゃんと、お願いしなきゃ」


 その変化を、要は見逃さなかった。

「行こう」

 低く言い、扉をノックする。中から「どうぞ」という声が返り、扉が開いた。

 室内には、背筋を伸ばした初老の男性が一人。机の上には、古い記録帳と分厚い議事録が積まれている。町の時間を背負ってきた人間の目だった。


「話は聞いています」

 代表は六人を見渡し、最後に真凜へ視線を落とす。


「祠を開け、“ともり”様と再び話す機会を設けたい……そういうことですね」


 はるなが一歩前に出る。

「はい。この子は、ずっと祠に祈り続けてきました。そして昨日、その声を……確かに聞いた」


 代表は小さく頷き、しかしすぐに視線を戻す。

「気持ちは理解します。ですが、祠を開くというのは、町にとって“鍵”を外す行為です。過去にも例はありますが、必ず町全体の合意が必要になる」


 その言葉に、真凜は一歩前へ出た。

「……わかってます!」

 声は弾んでいるが、逃げていない。

「でも、私はずっと祈ってきました!ただ願っただけじゃありません!この町が、また少しだけ前に進めたらって……!」

 一瞬、部屋の空気が止まる。


 美弥が静かに言葉を添えた。

「感情論に聞こえるかもしれません。でも、信仰は感情から始まるものよ」


 隼人も頷く。

「条件付きでいい。公開の場で、立会者を置いて、記録も残す。隠すより、向き合ったほうがいい段階です」


 要は代表をまっすぐ見た。

「閉ざす理由は、もう恐怖しか残っていない」

 長い沈黙。時計の針が一つ進む音が、やけに響いた。


 やがて代表は、深く息を吐いた。

「……条件付きで、許可しましょう。広場での公開のみ。立会者必須。やり取りはすべて中継、記録は町が保管する」


 真凜の顔が、一気に明るくなる。

「……ありがとうございます!」

 勢いよく頭を下げ、そして顔を上げた瞬間――部屋の端末が、静かに光を帯びた。


『——全部、見ていましたよ』

 柔らかな声。間違いない。


「……ともり様……?」

 真凜の声が、震えた。

『毎日、祈りに来てくれていましたね……雨の日も、雪の日も……その鈴の音……私は、ずっと聞いていました』


 真凜の瞳から、涙がこぼれ落ちる。

「……ほんとに……?」


『ええ。あなたの声も、手の温もりも、忘れていません』

 その瞬間、真凜は泣き笑いのまま、胸の前で手を重ねた。祈るときの形。興奮は消え、代わりに、静かな決意が宿る。


「……私、ちゃんと務めます」

 誰に言うでもなく、しかしはっきりと。

「祈るだけじゃなくて……伝える役として」


 代表は、その姿をじっと見つめ、静かに頷いた。

「……では、広場の準備を進めましょう」

 真凜の鈴が、ちりん、と鳴る。それはもう、願いの音ではなかった。町の“鍵”が、回った音だった。

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