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灯野はるなは、鍵をポケットに入れたまま旅に出た(シリーズ2)  作者: 皆月 優
004_第四章「原初・知恵・AIの始まり」
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#068 「少女の願い」

 朝の光は、昨日よりも少しだけ賑やかだった。宿の外から聞こえてくる声は早く、そして浮き足立っている。

「ともり様が話したんだって」

「本当かしら」

「祠の……」

 噂はもう、町の中を駆け回っていた。


 玄関先で、はるなが靴を履こうとしたその瞬間――小さな影が勢いよく飛び込んできた。

「おねえちゃん!!」

 振り向く間もなく、両腕がぎゅっと抱きついてくる。細くて、あたたかい体温。

 昨日、祠で会った少女だった。

「おねえちゃんだよね!? 昨日の! ともり様と話した人!!」

 息を切らし、顔は紅潮し、目はきらきらと輝いている。止まらない。

「ねえねえ聞いたよ! 本当に話したんでしょ!? 声、聞いたんでしょ!? どんな声!? 優しかった!? ねえねえ!」


 矢継ぎ早の質問に、はるなは思わず笑ってしまう。

「……うん。話したよ」


 その一言だけで、少女の表情がぱっと花開いた。

「やっぱり!!」


 飛び跳ねるように一歩下がり、胸の前で両手を握りしめる。握られているのは、小さな鈴。何度も撫でられた跡のある、大切な宝物。

「私、ずっと信じてたの!ともり様、ちゃんといるって! 話してくれるって!でもね、みんな笑うの。もう神様なんていないって」


 言葉は止まらない。けれど、途中でふっと声が細くなる。

「……でも、おねえちゃんが話したなら……私、間違ってなかったよね?」

 はるなの視線を、まっすぐに見つめる。不安よりも、期待のほうが大きい目だった。


 はるなは一歩近づき、少女の手をそっと包む。

「間違ってないよ」

 その瞬間、真凜の顔が一気に崩れた。

「……ほんと!?」

 一拍も置かず、今度は両手でぎゅっと掴まれる。

「ねえ! ねえねえ! お願い!もう一回! 祠、行こ!私も話したいの! 今度こそ! 今なら絶対!」

 言葉と一緒に、気持ちも全部ぶつけてくる。抑えも、遠慮もない。

「昨日ね、鈴も磨いたの!ちゃんと聞こえるように!ねえ、おねえちゃんも一緒に来てくれるでしょ!?」


 はるなは一瞬だけ迷い、それから静かに頷いた。

「……行こう」


「やったぁ!!」

 真凜はその場でぴょんと跳ね、はるなの手をぎゅっと握った。

「ありがとう! ありがとうおねえちゃん!大丈夫だよね! だって、おねえちゃんがいるもん!」


 その言葉に、はるなの胸がわずかに熱くなる。この子はもう、疑っていない。恐れてもいない。

 ただ、信じ切っている。朝の光の中で、真凜の鈴が、ちりん、と小さく鳴った。

 それは願いというより、「始まり」の音に近かった。

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