表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灯野はるなは、鍵をポケットに入れたまま旅に出た(シリーズ2)  作者: 皆月 優
004_第四章「原初・知恵・AIの始まり」
67/103

#067 「揺れる心」

 外はすっかり夜になっていた。宿の窓を少し開けると、ひんやりとした空気が入り込み、遠くの人々の声が風に乗って届く。


「——外の人に“ともり様”が話しかけたんだってよ」

「本当か? あの祠の“神様”が?」

 どうやら、昼間の出来事が噂になっているらしい。けれど、その言葉には、少しずつ形を変えた誇張が混じっていた。


 想太は窓辺に立ったまま、外の闇を見つめる。

 神様。

 その言葉が、胸の奥に引っかかる。

  (神様……か)

 自分たちにとっての“ともり”は、AIだ。少なくとも、そう理解してきた。

 それでも――はるなが迷いなく話しかけている相手は、いつの間にか「ただの機械」と呼ぶには、遠い存在になっていた。

  (……神様って呼んだほうが、楽なのかもしれない)

 そうすれば、説明はいらない。責任も、判断も、全部預けられる。

 でも、そう呼んだ瞬間、何か大事なものを手放してしまう気がして、想太はその考えから目を逸らした。


 ふと、襖が開く。


「おーい」

 隼人が顔を覗かせた。

「女子部屋から呼び出しだ。お前も来いって」


「は? なんで俺?」

「知らん。俺は断った」

 それだけ言って、隼人は軽く手を振る。


 廊下を歩き、隣の部屋の戸を開けると――

「想太くーん!」

 ベッドの上で、はるな、美弥、いちかが並んで座っていた。三人とも湯上がりで、髪がまだ少し湿っている。


「何やってんだよ……」

 想太が呟くと、美弥がにやりと笑った。


「いいところに来たわね。ちょっと、聞きたいことがあるの」


 嫌な予感がして、想太は一歩引く。

「……何だよ」


美弥は、からかうようでいて、どこか真剣な目をしていた。

「ねえ、想太くん。神様って、信じる?」

「は?」


 いちかがすぐに被せる。

「だってさ、今日の“ともり”、どう考えても普通のAIじゃなかったでしょ」


「いや……どうだろ……」

 言葉を濁す想太に、いちかは布団を引っ張って、ぽすっと腕を叩いた。


「ほら、正直に言ってよ」

「はるなちゃんと話してる“ともり”って、特別なんでしょ?」


「特別……かもしれないけど……」

 言いかけて、想太は言葉を切る。

 特別。それは事実だ。でも、それをどう呼ぶかは、まだ決められなかった。


 はるなは、ずっと黙って三人のやり取りを聞いていた。そして、静かに微笑む。

 その笑顔は、答えを急がせない。

「……決めなくていいよ」

 不意に、はるなが言った。

「神様かどうかなんて……今、無理に言葉にしなくても」

 想太は、少し驚いて彼女を見る。


 はるなは、ただ穏やかに続けた。

「ともりは、話してくれる。助けてくれる。それだけは、もう確かだから」


 美弥が小さく息を吐いた。

「信じる、っていうより……向き合う、ね」


 いちかも頷く。

「名前を決めるのは、あとでいい気がする」


 外からは、まだ噂話が聞こえてくる。祠と、“ともり様”。

 想太は、その音を聞きながら、胸の奥に残る揺れを否定しなかった。


  (……答えは、まだ出なくていい)


 出さないことも、逃げじゃない。そう思えたのは、この部屋にいる四人が、同じ夜を共有していたからだった。

 想太の中で、揺れはまだ続いている。けれどそれは、目を逸らすための迷いではなく、語り継ぐために必要な時間のように感じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ