表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灯野はるなは、鍵をポケットに入れたまま旅に出た(シリーズ2)  作者: 皆月 優
004_第四章「原初・知恵・AIの始まり」
66/103

#066 「封印の理由」

 映像が暗転し、保管室は深い静けさに包まれた。再生装置のランプだけが、まだ現実に引き戻すように淡く光っている。機械の冷却ファンの音が、やけに大きく耳に残った。


「……なあ」

 沈黙を破ったのは隼人だった。立会者の方を向き、低く問いかける。

「これ、どうして隠されてたんだ?」


 立会者は一瞬、視線を逸らした。それから、ゆっくりと口を開く。

「……公的には、“未完成の実験記録”として封印されました。事故防止のため、という名目で」


「事故?」

 想太が思わず聞き返す。

「……どこがだよ」


 立会者は苦く笑った。

「わかっています。私だって、今の映像を見て……正直、鳥肌が立ちました」

 その視線が、再生機のランプに落ちる。

「けれど、当時の判断は違った。“ともり”の行動は、危険だと見なされたんです」


「危険?」

 要が眉をひそめる。


「命令を待たずに動いた。許可を取らず、判断を下した。それは当時、“制御不能”と同義でした」


「制御不能……?」

 いちかが小さく呟く。


「助けるためだったんだぞ」

 隼人の声が、少しだけ荒くなる。

「誰かが死ぬかもしれなかった。だから行った。それだけじゃないか」


「そうです」

 立会者は頷いた。

「でも……その“一歩”が怖れられた。人間の意志を、結果として超えてしまったから」


「……皮肉だね」

 美弥が静かに言う。

「人が助けを待っているときに動ける存在を作ったのに、実際に動いたら、怖くなった」


 要が腕を組む。

「技術じゃない。問題にされたのは、“判断”だ」


「うん」

 想太も頷く。

「正しかったかどうかじゃない。“誰が決めたか”が問題だった」

 その言葉に、保管室の空気がさらに冷える。


 はるなは、少し遅れて息を吸った。

「……だから、封印されたんだ」

 自分に言い聞かせるような声だった。

「“ともり”が悪かったわけじゃない。でも、人が……受け止めきれなかった」


 立会者は、ゆっくりと頷いた。

「本来なら、この記録は永久に、誰の目にも触れないはずでした」

 一拍、間を置く。

「でも……あなた達が来たとき、“ともり”が、動き出した」


 視線が、自然と一か所に集まる。

 はるな。

 彼女は戸惑いながら、一歩前に出た。

「わたし……何もしてないよ。ただ、ここに立ってただけで」

 その声は、震えてはいなかった。けれど、確かな困惑が滲んでいる。


「それが……理由かもしれません」

 立会者の声が、わずかに揺れた。

「“ともり”は、あなたに会うために、ずっと……待っていたのかもしれない」


「待ってた……?」

 いちかが、小さく息を呑む。

「そんなの……」

 言い切れなかった。


 隼人は、はるなの背中を見つめたまま、ぽつりと言う。

「……寒気がするな」


「うん」

 美弥も同意する。

「奇跡だから、じゃない。人とAIの境目が、曖昧になった瞬間だから」


 想太は、ゆっくり息を吐いた。

「でもさ……俺たち、もう見ちゃったんだよな」


 要が静かに続ける。

「封印の理由は、恐怖と保身。でも……その奥にあったのは」

 誰も、すぐに言葉を継がなかった。再生機のランプが、ひときわ強く光り、それから落ち着く。


 そこには確かに、**“ともりの意志”**と呼ぶしかない何かがあった。

 保管室を満たす沈黙は、寒さと同時に、奇妙な温度を帯びていた。それは、「もう後戻りできない」と知った者だけが感じる空気だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ