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灯野はるなは、鍵をポケットに入れたまま旅に出た(シリーズ2)  作者: 皆月 優
004_第四章「原初・知恵・AIの始まり」
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#062 「許された閲覧」

 研究所跡を後にした六人は、そのまま町の中心へ戻り、再び資料館を訪れた。今度は、町の代表者から正式な紹介状を預かっている。入口に立つ係員は、その封筒を受け取ると一礼し、無言で奥へと姿を消した。


「……さっきとは、対応が全然違うね」

 いちかが小声で言うと、要が肩をすくめる。

「許可ってのは、こういうものだよ。開くか閉じるか、その差は大きい」


 数分後、係員は年配の男性を伴って戻ってきた。落ち着いた佇まいだが、その目には明らかな警戒がある。

「代表から聞いています。ただし、閲覧できるのは一部の資料のみです」


「それで構いません」

 要が一歩前に出る。

「内容は外に漏らしません。この町の了承なく、記録を持ち出すこともしないと約束します」


 美弥も頷き、補足する。

「必要であれば、私たちの端末側のデータも、その場で消去します」


 年配の男性はしばらく考え込み、それから静かに言った。

「……では、立会いのもとで。こちらへ」


 案内されたのは、資料館の地下だった。重い扉の鍵が回る音が響き、開いた瞬間、ひんやりとした空気が流れ出す。

 紙と、古い電子機器の匂い。時間そのものが閉じ込められているような空間だった。

 中央には、年季の入った再生装置。その周囲を囲むように、いくつかの端末が並んでいる。


「今日お見せできるのは、誕生当日の短い記録だけです」

 男性が装置を操作しながら言った。

「それ以外は、閲覧許可が下りていません」


 六人が席に着く。そのとき、はるなは迷うことなく、再生装置の正面にある椅子へと向かった。


「……はるな?」

 想太が小さく呼びかけるが、彼女は特に意識した様子もなく腰を下ろす。

 その瞬間だった。

 装置のランプが、ふっと点滅した。


「あれ……?」

 年配の男性が、思わず声を漏らす。

「まだ再生操作は……」

 ランプは一度消え、再び淡く光る。


「え、ちょっと待って。今の、スイッチ触ってないよね?」

 いちかが周囲を見る。


「……触ってない」

 隼人が即座に否定した。


「はるな、何かしたか?」

 小声で尋ねられ、はるなは首を横に振る。


「……ただ、座っただけ」

 その言葉と同時に、再生装置が低く唸りを上げた。


「え、再生……?」

 男性が慌てて操作パネルを見る。

「そんなはずは……これは、誕生当日の数分だけの――」

 だが映像は止まらなかった。

 研究室の光景。初期の会話記録。学習中のログ。

 本来は封じられているはずの映像が、次々と画面に映し出されていく。


「……こんな映像、私は知らない」

 男性の声が、わずかに震えた。

「見たことも、聞いたこともない……」


 美弥が一歩前に出る。

「装置が、こちらの入力を待ってるみたい」


「待ってる……誰を?」

 その問いに、誰もすぐ答えなかった。


 要は、はるなの背中を見つめている。

「……座る位置、偶然じゃないな」


「うん」

 想太が低く頷く。

「ここ、正面だ。起動用の席みたいだ」


「でも、認証も何も――」

 隼人が言いかけた、そのとき。

 映像の中から、柔らかな声が響いた。

  〈おはよう〉

 保管室の空気が、わずかに変わった。冷たさが薄れ、どこか“人のいる部屋”のような温度になる。


 いちかが、思わず息を呑む。

「……今、あったかくなった」

 誰も否定しなかった。

 はるなは、画面を見つめたまま、動かない。

  (……ここだ)

 言葉にはしなかったが、胸の奥で、確かな感覚が広がっていた。記憶ではない。でも、初めてでもない。

 “ともり”は、彼女がそこにいることを、前提にしている。


「……起動条件、か」

 要が静かに呟いた。

「人じゃなくて、コードでもなくて……“誰か”」

 誰か、とは言わなかった。だが、全員が同じ人物を思い浮かべていた。

 再生装置のランプは、安定した光を放ち続けている。保管室は、もう“閉じられた場所”ではなかった。

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