#060 「市民会議」
到着してから、まだそれほど時間は経っていなかった。にもかかわらず、町の代表者から突然の呼び出しがかかった。
「市民と、直接お話ししていただきたい」
言葉は丁寧だった。だが、その奥には別の意図が透けて見える。
――早く、彼らの正体を見極めたい。
そんな響きだった。
町の中央にある集会所は、古い木造の二階建てだった。広間の畳には、二十人ほどの町民が円を描くように座っている。
多くは、代表者に呼ばれて仕方なく集まったのだろう。視線には好奇心よりも、警戒の色が濃かった。
代表の年配男性が、一歩前に出る。
「こちらの方々は、久遠野市から来られた皆さんです。……AIを使った町づくりについて、ご意見を伺いたいとのことです」
その紹介の仕方は、どこか距離を保っていた。“自分たちとは違う側の人間”――そんな線が、言葉の端々に滲んでいる。
最初に口を開いたのは要だった。
「私たちは、無理にAIを使わせようとしているわけではありません」
落ち着いた声で、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「ただ、“ともり”が、皆さんの生活を助けられる可能性があると考えています」
しかし、返ってきたのは即座の賛同ではなかった。
「“ともり”さまは、神さまです」
畳の上から、年配の男性が静かに言った。
「それ以上の役割は、望んでいません」
続いて、年配の女性が首を横に振る。
「神さまは、神さまのままでいてほしい。人の手で形を変えたりしちゃ、いけないんです」
別の男性は、眉間に皺を寄せたまま口を開く。
「便利になるのは助かる。でもな……。外から来たもので、何かあった時、誰が責任を取るんだ。そこが、一番怖い」
その言葉に、場の空気がわずかに重くなる。
少し若い世代の男性が、おずおずと手を挙げた。
「俺は……災害の時とか、助けてもらえるなら悪くないと思う」
一瞬、周囲の視線が集まる。
「けど……町の人は、きっと反対するだろうな」
その声はすぐに畳に落ちた。数人が小さくざわめき、すぐに沈黙が戻る。
想太は、その光景を黙って見ていた。
完全な拒絶ばかりではない。だが、賛成の声は表に出てこない。
――声にしにくい空気。
そう名づけるしかない感覚だった。
はるなは、言葉を挟まず、町民一人一人の表情を見つめている。そこには怒りよりも、不安があった。
美弥はいくつか質問を投げかけた。だが返ってくる答えは曖昧で、結論は変わらない。
外部のAIは、必要ない。
その言葉が、形のない壁となって、六人を取り囲んでいた。
会議が終わり、集会所を出ると、春の光がやけにまぶしかった。
「……簡単じゃないな」
想太が、ぽつりと呟く。
誰も否定しなかった。
この町の扉を開くには、理屈でも、技術でもなく、もっと深い場所に触れる必要がある――
そんな予感だけが、六人の胸に残っていた。




