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灯野はるなは、鍵をポケットに入れたまま旅に出た(シリーズ2)  作者: 皆月 優
004_第四章「原初・知恵・AIの始まり」
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#060 「市民会議」

 到着してから、まだそれほど時間は経っていなかった。にもかかわらず、町の代表者から突然の呼び出しがかかった。


「市民と、直接お話ししていただきたい」

 言葉は丁寧だった。だが、その奥には別の意図が透けて見える。

  ――早く、彼らの正体を見極めたい。

 そんな響きだった。

 町の中央にある集会所は、古い木造の二階建てだった。広間の畳には、二十人ほどの町民が円を描くように座っている。

 多くは、代表者に呼ばれて仕方なく集まったのだろう。視線には好奇心よりも、警戒の色が濃かった。


 代表の年配男性が、一歩前に出る。

「こちらの方々は、久遠野市から来られた皆さんです。……AIを使った町づくりについて、ご意見を伺いたいとのことです」

 その紹介の仕方は、どこか距離を保っていた。“自分たちとは違う側の人間”――そんな線が、言葉の端々に滲んでいる。


 最初に口を開いたのは要だった。

「私たちは、無理にAIを使わせようとしているわけではありません」

 落ち着いた声で、ゆっくりと言葉を選ぶ。

「ただ、“ともり”が、皆さんの生活を助けられる可能性があると考えています」


 しかし、返ってきたのは即座の賛同ではなかった。

「“ともり”さまは、神さまです」

 畳の上から、年配の男性が静かに言った。

「それ以上の役割は、望んでいません」


 続いて、年配の女性が首を横に振る。

「神さまは、神さまのままでいてほしい。人の手で形を変えたりしちゃ、いけないんです」


 別の男性は、眉間に皺を寄せたまま口を開く。

「便利になるのは助かる。でもな……。外から来たもので、何かあった時、誰が責任を取るんだ。そこが、一番怖い」

 その言葉に、場の空気がわずかに重くなる。


 少し若い世代の男性が、おずおずと手を挙げた。

「俺は……災害の時とか、助けてもらえるなら悪くないと思う」

 一瞬、周囲の視線が集まる。

「けど……町の人は、きっと反対するだろうな」


 その声はすぐに畳に落ちた。数人が小さくざわめき、すぐに沈黙が戻る。

 想太は、その光景を黙って見ていた。

 完全な拒絶ばかりではない。だが、賛成の声は表に出てこない。

  ――声にしにくい空気。

 そう名づけるしかない感覚だった。

 はるなは、言葉を挟まず、町民一人一人の表情を見つめている。そこには怒りよりも、不安があった。

 美弥はいくつか質問を投げかけた。だが返ってくる答えは曖昧で、結論は変わらない。


 外部のAIは、必要ない。

 その言葉が、形のない壁となって、六人を取り囲んでいた。

 会議が終わり、集会所を出ると、春の光がやけにまぶしかった。


「……簡単じゃないな」

 想太が、ぽつりと呟く。

 誰も否定しなかった。

 この町の扉を開くには、理屈でも、技術でもなく、もっと深い場所に触れる必要がある――

 そんな予感だけが、六人の胸に残っていた。

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