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灯野はるなは、鍵をポケットに入れたまま旅に出た(シリーズ2)  作者: 皆月 優
004_第四章「原初・知恵・AIの始まり」
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#058 「閉ざされた扉」

 市役所の正面玄関は、古びた木製の扉が午後の陽に照らされ、鈍く光っていた。外から見ればこぢんまりとしていて、どこか温かみすら感じさせる建物だ。

 だが、いちかは中へ入る前から、胸の奥に小さなざわめきを覚えていた。受付カウンターの向こうには、柔らかな雰囲気の女性が座っている。


 いちかは背筋を伸ばし、いつもの調子で声をかけた。

「こんにちは!」

 背伸びをしてカウンター越しに顔を覗き込み、続ける。

「この町の歴史資料って、見られますか?」


 女性は一瞬だけ手元の書類をめくる動きを止めた。そして、笑顔を崩さないまま答える。

「……申し訳ありません。現在、一般公開は中止しています」

「え? なんでですか?」

 問い返すと、女性は言葉を選ぶように、ほんのわずか間を置いた。

「理由は……特にお伝えできません」

 その口調は穏やかだった。だが、そこには譲る余地のない線が、はっきりと引かれていた。

「えー……」


 思わず声が漏れ、背後で要が小さく苦笑する。

 (だって変じゃん。見せられない理由を言わないなんて……)

 いちかは心の中でぶつぶつと文句を言いながらも、それ以上食い下がらなかった。ここで踏み込めば、さらに扉が固く閉じられる――それは肌で分かる。

「ありがとうございました」

 短く頭を下げ、カウンターから離れた。


 次に向かったのは、町の資料館だった。こちらも重い木の扉に守られ、内部は薄暗く、ひんやりとしている。

 展示室へ進もうとすると、係員らしき男性が静かに立ちふさがった。

「関係者以外、立入禁止です」

「関係者って……この町の人じゃないとダメってことですか?」

「町の指定を受けた者に限ります」

 にこりともせず、淡々とした返答。その表情からは、交渉の余地が感じられなかった。


 いちかは小さく唇を尖らせる。

「なんか、最初から“ダメ”って決められてる感じだね」


 ぽつりとこぼすと、隼人が「まあまあ」と笑って肩に手を置いた。

「こういうのは、段階ってやつがある」


「……段階、ね」

 納得しきれないまま、いちかは外へ出た。


 午後の日差しがまぶしい。ふと視線を横へやると、細い路地の奥に小さな祠が見えた。

 石段の上に、木の屋根と注連縄(しめなわ)。白い紙垂(しで)が、風に揺れている。

 人の手で守られてきたことが、一目で分かる佇まいだった。


「……あれ、なんだろ」

 いちかは思わず一歩、そちらへ踏み出しかける。


 そのとき、後ろから要の声が飛んできた。

「いちかー、こっちだ」

 呼ばれて振り返り、いちかは名残惜しそうに祠から視線を外した。

 (あとで……行ってみよ)

 胸の奥に、その光景をそっとしまい込みながら、彼女は仲間たちの元へ戻った。

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