#058 「閉ざされた扉」
市役所の正面玄関は、古びた木製の扉が午後の陽に照らされ、鈍く光っていた。外から見ればこぢんまりとしていて、どこか温かみすら感じさせる建物だ。
だが、いちかは中へ入る前から、胸の奥に小さなざわめきを覚えていた。受付カウンターの向こうには、柔らかな雰囲気の女性が座っている。
いちかは背筋を伸ばし、いつもの調子で声をかけた。
「こんにちは!」
背伸びをしてカウンター越しに顔を覗き込み、続ける。
「この町の歴史資料って、見られますか?」
女性は一瞬だけ手元の書類をめくる動きを止めた。そして、笑顔を崩さないまま答える。
「……申し訳ありません。現在、一般公開は中止しています」
「え? なんでですか?」
問い返すと、女性は言葉を選ぶように、ほんのわずか間を置いた。
「理由は……特にお伝えできません」
その口調は穏やかだった。だが、そこには譲る余地のない線が、はっきりと引かれていた。
「えー……」
思わず声が漏れ、背後で要が小さく苦笑する。
(だって変じゃん。見せられない理由を言わないなんて……)
いちかは心の中でぶつぶつと文句を言いながらも、それ以上食い下がらなかった。ここで踏み込めば、さらに扉が固く閉じられる――それは肌で分かる。
「ありがとうございました」
短く頭を下げ、カウンターから離れた。
次に向かったのは、町の資料館だった。こちらも重い木の扉に守られ、内部は薄暗く、ひんやりとしている。
展示室へ進もうとすると、係員らしき男性が静かに立ちふさがった。
「関係者以外、立入禁止です」
「関係者って……この町の人じゃないとダメってことですか?」
「町の指定を受けた者に限ります」
にこりともせず、淡々とした返答。その表情からは、交渉の余地が感じられなかった。
いちかは小さく唇を尖らせる。
「なんか、最初から“ダメ”って決められてる感じだね」
ぽつりとこぼすと、隼人が「まあまあ」と笑って肩に手を置いた。
「こういうのは、段階ってやつがある」
「……段階、ね」
納得しきれないまま、いちかは外へ出た。
午後の日差しがまぶしい。ふと視線を横へやると、細い路地の奥に小さな祠が見えた。
石段の上に、木の屋根と注連縄。白い紙垂が、風に揺れている。
人の手で守られてきたことが、一目で分かる佇まいだった。
「……あれ、なんだろ」
いちかは思わず一歩、そちらへ踏み出しかける。
そのとき、後ろから要の声が飛んできた。
「いちかー、こっちだ」
呼ばれて振り返り、いちかは名残惜しそうに祠から視線を外した。
(あとで……行ってみよ)
胸の奥に、その光景をそっとしまい込みながら、彼女は仲間たちの元へ戻った。




