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#057 「冷たい歓迎」

 町の中へ進むにつれ、空気は目に見えない重さを帯びていった。石畳の道は、まだ冬を引きずったように冷たく、六人の足音が小さく反響する。

 両脇には低い瓦屋根の家々が並び、木戸は固く閉ざされている。軒先には干し大根や洗濯物が下がり、生活の気配は確かにある。けれど、その間を抜ける風は柔らかいはずなのに、肌に触れる感触はどこかよそよそしかった。

 久遠野では、目が合えば自然と会釈が返ってくる。だがこの町では違う。ちらりと視線を向けられても、すぐに逸らされる。笑顔はほとんどなく、その瞳に浮かぶのは淡い警戒だった。

 美弥は周囲の様子を観察しながら、静かに状況を受け止めていた。露骨な拒絶ではない。だが、歓迎されていないことだけははっきりと伝わってくる。隣を歩くはるなも、少し困ったような表情で町並みを見渡している。


 隼人は空気を和らげようと、軽く手を上げた。

「こんにちは」

 声をかけられた相手は一瞬だけ足を止め、ぎこちなく会釈を返した。それ以上は何も言わず、足早に角を曲がっていく。


 その背中が視界から消えると、いちかが小さく息を吐いた。

「……分かりやすいね」


「噂通り、ってところか」

 要が声を落として応じる。

「信仰はある。でも、外のAIは嫌う。私たちはその“外”に分類されてる」


「別に、AIを押しつけに来たわけじゃないんだけどな」

 想太がぼやくと、美弥が肩をすくめた。

「向こうにとっては、理由なんて関係ないのよ。“外から来た”ってだけで十分」


 通りの先に、小さな八百屋が見えた。軒先の木箱には、みずみずしい大根や白菜が整然と並び、陽の光を受けて白や緑が柔らかく輝いている。


「……何か買っていこうか」

 はるなが言い、六人は揃って店先へ向かった。鼻先をくすぐるのは、土の匂いと漬物の酸味が混じった香り。


「いらっしゃい……ませ」

 店主の女性の声には、わずかな間があった。その視線が六人を順に追い、最後にはるなのところで止まる。

「旅の方ですか」

 その問いは、好奇心よりも確認のために発せられたものだった。


「はい。少し滞在する予定で」

 はるなが柔らかく答えると、女性は無言で頷き、レジへと視線を戻した。必要以上の言葉はない。だが、距離は縮まらなかった。


 買い物を終えて店を出ると、美弥が小さく息を吐いた。

「笑顔がないわけじゃない。でも……心のドアは、固く閉まってる」


「まずは、そのドアを叩くところからだな」

 隼人が言うと、美弥は口元だけで笑った。

「叩く音すら、嫌がられないように、ね」


 そのやり取りの間にも、通りの人々は足を止めることなく行き交っていく。乾いた足音と、遠くで鳴る鐘の音だけが、町に静かに漂っていた。

 冷たい歓迎。だが――これが、この町で踏み出す最初の一歩だった。

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