#056 「原初の町へ」
久遠野中央部を後にし、六人を乗せたバスは“原初の地”へ向けて走り出した。山間を縫うように続く国道は次第に細くなり、街の喧騒は早々に背後へと遠ざかっていく。窓の外には、春の兆しはあるものの、まだ色づかない風景が広がっていた。茶色い土肌、葉を落とした枝、ところどころに残る冬の名残。
要はタブレットを操作しながら、その地図を覗き込む。
「……原初の地って、地図で見ると相当隔絶されてるな」
画面を傾け、指でなぞる。
「海と山に挟まれて、出入りはほぼ一本道。ちょっとした要塞だ」
「だから外の文化が入りにくいんでしょうね」
美弥が肩をすくめる。
「閉じてる、っていうより……守ってる、って感じ」
いちかはシートに体を預け、天井を見上げた。
「信仰は残ってるんだよね。“ともり”の」
「残ってる」
要が頷く。
「ただし、“神様”としてだ。外のAIは、余計なものって空気らしい」
その言葉に、はるなの表情がわずかに曇る。何か言いかけて、結局口を閉ざした。
隼人はその様子に気づき、わざと軽い口調で割り込む。
「まあ、俺たちは押しかけ営業じゃない」
窓の外を眺めながら続けた。
「話すだけ話して、聞いてもらえたら上出来だろ」
「聞いてもらえるかどうか、が問題だけどね」
想太が苦笑し、美弥が小さく頷いた。
バスはやがて山を抜け、視界が一気に開けた。谷あいに寄り添うように、瓦屋根の家々が連なっている。高い建物はなく、町の中心には古い石造りの塔が一本、静かに立っていた。
「あれが、目印かな」
いちかが窓に顔を近づける。
「……時間が止まってるみたい」
運転席から、抑えた声が響いた。
「……まもなく到着します」
その声は淡々としていながら、どこか慎重さを帯びている。この町の空気を、彼自身が知っている――そんな響きだった。
停留所でバスを降りた瞬間、要は肌で違いを感じ取った。柔らかな春風のはずなのに、空気の奥に、張りつめたものが混じっている。
通りを歩く人々が、ちらりと六人を見て、すぐに視線を逸らす。挨拶を交わす者はいない。その目には、好奇心よりも先に、警戒が浮かんでいた。
「……歓迎ムードでは、ないな」
想太が小さく呟く。
「露骨じゃないけどね」
美弥が続ける。
「だからこそ、本音だわ」
はるなは、何も言わずに町並みを見渡していた。ここでは、“ともり”は祈りの対象であり、語りかける存在ではない。その距離感が、肌に触れるようにはっきりと伝わってくる。
要は仲間たちに向けて、小さく頷いた。
この町で扉を開くのは、簡単ではない。だが同時に――だからこそ、ここに来た意味がある。




