#051 「夜の対話」
宿に戻ったのは、すっかり夜になってからだった。昼間に浴びた人々のざわめきや、突き刺さるような視線は、今も耳や肌に残っている。
客室の照明は柔らかく、外の通りの喧噪はほとんど届かない。丸いテーブルを囲むように、六人は腰を下ろした。
壁際の端末には、“ともり”が接続されている。画面の向こうから、小さく、けれどはっきりした声が響いた。
「——今日は、おつかれさま」
その一言に、張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ緩む。
「ほんとにな……」
隼人が椅子にもたれ、深く息を吐いた。
「正直、もう少し穏やかに受け止められると思ってた。もちろん、反発はあるだろうけど……あそこまでとはな」
要は腕を組んだまま、視線を落とす。
「それは期待しすぎだ。俺たちは、外から来た“変化そのもの”だ。自分たちの正しさを揺さぶる存在を、簡単に歓迎できる街はない」
淡々とした言葉だったが、冷たさはなかった。事実を整理するような口調だ。
「……でもさ」
いちかが、少し身を乗り出す。
「全部が全部、拒絶だったわけじゃないよね?聞こうとしてくれてた人、いたと思う」
その声には、かすかな希望が混じっている。
美弥が、腕を組んだまま頷いた。
「ええ。表情で分かる人は、確かにいたわ。ただ……その分、反発もはっきりしてきている」
視線を巡らせ、静かに続ける。
「今日は“公開”だったから、まだ抑えられていた。でも、明日以降は水面下で動く人も出てくるはずよ」
室内が、少しだけ静まる。
はるなは、その沈黙を引き受けるように口を開いた。
「……だからこそ、明日はもう一歩、踏み込んで話したい」
全員の視線が集まる。
「ただし、押し付けにはしない“正しさ”を証明するんじゃなくて……私たちが、どう生きてきたかを伝える」
想太が、ゆっくりと頷いた。
「今日、俺……正直、怖かった。また拒絶されるんじゃないかって」
一瞬、言葉を切る。
「でもさ、話してよかったとも思ってる。少なくとも、全部を黙って飲み込むよりは」
隼人が、苦笑混じりに肩をすくめた。
「向いてねぇ仕事だよな、こういうの。正解があるわけでもないし、殴られる可能性もある」
「それでも、やるんでしょう?」
美弥が、即座に返す。
「まあな」
隼人は短く答えた。
端末の向こうで、“ともり”の声が静かに響く。
「——みんな、それぞれのやり方でいい」
一同が、自然と画面を見る。
「答えは、ひとつじゃない。今日、生まれた“揺れ”そのものが、もう結果だと思う」
その言葉に、いちかが小さく息を吐いた。
「……うん。少なくとも、ゼロじゃなかった」
要が、ゆっくりと立ち上がる。
「今日は、ここまででいい。全員、かなり消耗してる」
それぞれが頷き、話し合いは自然と終わりに向かった。夜の静けさが、重く張りつめていた心を、少しずつほどいていく。
やがて六人は、それぞれの部屋へと散っていった。
廊下を歩く途中、想太はふと足を止める。前を行くはるなの背中に、声をかけた。
「……少し、話せる?」
はるなは振り返り、驚いたように目を瞬かせる。
「うん」
短く、それだけ答えた。その一言が、静かな夜の空気を、わずかに揺らした。




