#049 「真実の公開 その3 対話と理解」
会場の空気は、まだ張り詰めていた。だが、先ほどまでの刺すような視線は、わずかに和らいでいる。
言葉は、届いている——はるなは、そう信じたかった。
「……本当に、“ともり”は人を選ぶのか?」
後方に座っていた初老の男性が、おずおずと手を挙げた。厳しい追及ではない。確かめるような、純粋な問いだった。
はるなは、その顔をまっすぐに見つめる。
「はい。選びます」
一拍置いて、言葉を続けた。
「……でも、それは人を見下すためじゃありません。その人が抱えている願いに、応えるためです」
男性は少し驚いたように瞬きをした。
「……願い、だと?」
「ええ」
はるなの声は、静かだった。
「私も、選ばれた一人です。でも、選ばれたから偉いわけじゃない」
胸に手を当て、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「“ともり”は、私の願いを叶えるために力を貸してくれただけ。それ以上でも、それ以下でもありません」
隣で、想太が小さく頷いた。
「僕たち全員、同じです。特別な存在じゃない。でも——」
一瞬、言葉を探すように視線を落とす。
「“ともり”と過ごした時間が、僕らを変えた。それは、確かです」
ざわ……と、会場が静かに揺れた。否定ではない。考え込むような、低いざわめきだった。
そのとき、前列に座っていた若い女性が、ゆっくりと立ち上がった。
「……私の弟も」
声が、わずかに震えている。
「昔、“ともり”に助けられたことがあります。でも……それを言うのが怖くて、誰にも話せなかった」
沈黙が落ちた。
美弥が一歩前に出る。
「話してくれて、ありがとう」
それだけだった。けれど、その短い言葉に、女性の目から涙がこぼれ落ちる。
要が、会場全体を見渡す。
「今みたいに、話せること。それ自体が、最初の一歩なんです」
はるなは、深く息を吸った。この街には、まだ“ともり”を拒む声がある。恐れも、怒りも、完全には消えない。
それでも——
今この場所に、理解しようとする気配が、確かに芽を出していた。
小さく、脆い芽。けれど、踏み消されなければ、やがて根を張る。
はるなは、その未来を思い描きながら、静かに、もう一度マイクを握った。




