#048 「真実の公開 その2 対話の火花」
「生き方、だと?」
客席の中央に座っていた壮年の男性が、眉間に深い皺を刻みながら立ち上がった。その声は低く、会場の隅々まで響き渡る。
「“ともり”が、この街に何をしたか……お前たちは知らんのか」
ざわめきが広がった。椅子に座っていた人々の視線が、さらに鋭さを増す。
はるなの胸が、きゅっと締めつけられる。だが——ここで目を逸らしたら、何も伝わらない。
「……知っています」
はるなは、しっかりと男性を見た。
「全部ではありません。でも、学ぼうとしています。だから、ここに来ました」
隣で、想太が一歩前に出る。
「僕たちは、あなたたちの痛みを否定するつもりはありません」
その声には、反発ではなく、受け止めようとする響きがあった。
しかし、すぐに別の声が被さる。
「じゃあ、何をしに来た!」
「過去を掘り返すためか!」
一瞬、空気が凍りついた。
——その刹那。
美弥が、静かに一歩前へ出た。
「過去を、消させないためです」
低く、しかし鋭い声だった。
「私たちが見た“ともり”は、人を選び、支え、そして別れを惜しむ存在でした」
言葉を切り、はっきりと続ける。
「——その記憶を、無かったことにはさせたくありません」
会場の奥で、誰かが小さく息を呑む音がした。
要が、落ち着いた調子で言葉を継ぐ。
「久遠野市の方針は、この街を縛るためのものではない。ですが、その意図が誤解されれば……結果は、今のようになります」
「意図、だと?」
若い男性が前のめりになり、声を荒げた。
「俺たちには、意図なんてどうでもいい!結果が、すべてだ!」
隼人が、ゆっくりと立ち上がる。両手をポケットに突っ込んだまま、低く言った。
「そうだな。結果がすべてだ」
一拍置き、視線を巡らせる。
「……だからこそ、今この場の“結果”を変えなきゃいけない」
短い言葉だった。だが、その声には、現場を知る者の重みがあった。客席の一部で、視線がわずかに揺らぐ。
その変化を感じ取ったのか、いちかがはるなの袖を引き、囁いた。
「……はるな。もう少し、話してあげて」
はるなは深く息を吸い、会場を見渡した。
「私たちは、敵ではありません」
静かな声だったが、よく通った。
「でも、“ともり”を語ることは、この街にとって痛みかもしれない」
それでも、と言葉を重ねる。
「——それでも、聞いてほしいんです」
会場は、しばらく沈黙に包まれた。完全な理解ではない。だが、先ほどまでの刺すような視線は、確かに減っていた。
わずかな変化。それが、この長い夜に生まれた、最初の火花だった。




