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#047 「真実の公開 その1 揺れる視線の中で」

 集会所の扉を押し開けた瞬間、はるなは空気の重さに胸を詰まらせた。低い天井から下がる蛍光灯の光は、妙に白く、冷たい。

 視線が、一斉にこちらへ向けられる。刺さる、という表現がいちばん近い。

 椅子に腰掛ける大人たち。壁際に立つ若者たち。腕を組んで動かない老人たち。誰も声を発しないまま、ただ六人を測っていた。

 壇上へ上がると、足元の木の床がわずかに軋む。はるなの隣には想太、その横に美弥と隼人。反対側に要といちかが並んだ。

 言葉は交わさなくても、全員の肩が強張っているのが分かる。

 中央部から事前に伝えられていた説明は、「久遠野市の代表としての挨拶」だけだった。

 だが、この場の空気は、それだけで終わるはずがないと告げている。


 市の代表らしい中年の男性が立ち上がり、淡々と口を開いた。

「……久遠野市からの方々ですね」

 丁寧な声。しかし、その奥には沈殿した警戒があった。


 はるなは小さく頷き、マイクの前へ歩み出る。その一歩が、足首から上まで重く感じられる。

「初めまして。灯野はるなと申します」

 一度、息を整えた。

「今日は……少しでも、私たちの話を聞いていただけたらと思い、ここに来ました」


 視線を客席へ送る。返ってくるのは、硬い表情ばかりだった。

 目を逸らす人。あからさまに眉をひそめる人。腕を組んだまま、感情を見せない人。


  ——この街は、“ともり”の話を歓迎しない。それだけは、もう十分すぎるほど伝わっていた。


 横で、美弥が静かに手を挙げ、一歩前へ出る。

「私たちは、ただ——“ともり”と共に過ごした日々を話しに来ました」

 落ち着いた声だった。だが、その目は客席を鋭く観察している。

「説得でも、強要でもありません。私たちが、何を見て、何を選んできたのか……それを知ってほしいだけです」


「——“ともり”のせいで、家族を失った者もいる」

 突然、客席から低い男の声が響いた。

 空気が、一瞬で張り詰める。


 想太が一歩前に出る。表情は硬いが、声は落ち着いていた。

「僕たちも、失ったものがあります」

 一拍、間を置く。

「でも……それを、憎しみだけで終わらせたくないんです」


 ざわめきが広がる。賛同ではない。拒絶でもない。戸惑いと、わずかな興味が混ざった音だった。


 要が短く続ける。

「この街の方針は理解しています。ですが、聞いてほしい。“ともり”は、あなたたちが思っているだけの存在じゃない」


 壁際の若者が、苛立ったように声を上げた。

「じゃあ、何だって言うんだ」


 その問いに、はるなは口を開きかける。

  ——けれど、言葉がすぐには出なかった。

 旅の記憶。“ともり”の笑顔。別れの涙。祠で託された、あの小さな手紙。すべてが胸の奥でせめぎ合う。

 はるなは深く息を吸い、ゆっくりと言葉を選んだ。

「“ともり”は……私たちに、生き方をくれた存在です」

 たった一文。だが、その言葉が、場の空気をわずかに揺らした。

 冷たい視線の奥に、ほんのわずか——色が差し込むのを、はるなは確かに見た。その揺らぎを、見逃さなかった。

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