表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/54

#045 「誰の未来を守るのか」

 翌朝、宿を出ると、空気はひんやりとしていた。それでも、通りを行き交う視線は、昨日と変わらず冷たい。

 朝の光の中で、想太とはるなは、いつもどおりに言葉を交わしている。傍目には、何も変わっていないように見える。

 けれど、美弥には分かった。二人の間に、ほんのわずかな“間”が生まれていることを。

  ——近いからこそ、ぶつかる夜もある。

 今日は情報収集のため、美弥は単独で市場や路地を回ることになった。人混みの中に混ざると、耳に入ってくるのは商売の声だけではない。


「……中央部の人間に、また好き勝手される」

「もう二度と、あんなことを起こさせない」

 “あんなこと”が、何を指しているのか。聞き返すまでもなかった。

 火災事件は、この街にとって過去ではない。今もなお、判断の基準として息づいている。

 古道具屋の主人に話を向けると、返ってきたのは、迷いのない言葉だった。


「俺たちは、未来を守らなきゃならん。中央部がどう言おうと、関係ない」


「未来……って、この街だけの未来ですか?」

 そう尋ねると、主人は首を横に振った。


「いや、人間の未来だ。AIが関われば、人間は人間じゃなくなる」

 その断言は、理屈というより、長い時間をかけて固まった呪文のようだった。


  ——この街は、火災事件を境に、“AIが悪である”という物語を選んだ。

 そして、その物語を信じ続けることで、自分たちの未来を守っているつもりでいる。けれど、その物語が真実かどうかを、もう確かめようとする人は、ほとんど残っていない。

 真実よりも、**「そうであったほうが安心できる記憶」**が、街全体を覆っている。

 宿へ戻る途中、美弥は足を止めずに祠の前を通り過ぎた。

 昨日、あの場所に立っていた少女の姿はない。代わりに、小さな花が新しく供えられていた。


  ——彼女にとっての未来は、この祠と共に、静かに続いていくのかもしれない。


 美弥は、歩きながら考える。街の人々が守ろうとしている未来。そして、自分たちが信じている未来。その二つが、いつか同じ場所を向く日は来るのだろうか。

 答えは、まだ見えない。だが、問いだけは、確かにこの街に残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ