#039 「“ともり”を拒む者たち」
通りを歩くたびに、背中に刺さるような視線を感じた。正面からぶつかってくるわけではない。ただ、少しでもこちらを見ると、慌てて逸らされる——そんな視線だった。
「……完全に、避けられてるな」
要が小さく呟く。その低い声すら、周囲の空気をさらに冷たくしているように、美弥には感じられた。
美弥は足を止め、道の端に立つ掲示板へと視線を向ける。色あせた紙が何重にも貼り重ねられ、その一番上には大きく、
《祈りの行為禁止》
と印字されていた。横には細かい条例番号と、具体的な罰金額。
——ここまで、やるのか。
近づいて見ると、紙の端から、別の色の紙がわずかに覗いている。めくれかけた一片を、そっと指で押さえる。
その下に隠れていたのは——小さな祠の絵と、“ともり”の名前だった。それは、雑に引き裂かれた跡のように、無理やり剥がされている。
「……ねえ、これ」
美弥が声をかけると、隼人は掲示板を一瞥し、黙って頷いた。
「上書きして消してる。……何度も、だな」
短い言葉だったが、その中に確信があった。
通りの向こう側、古い石段の上に、半分崩れた祠が見える。誰も近づこうとはしない。けれど、祠の周囲だけは、雪が踏み荒らされていた。
——夜中に、誰かが来ている。
その事実が、かえって重くのしかかる。
「美弥さん」
声をかけてきたのは想太だった。いつもより硬い表情で、祠から目を離さないまま言う。
「……あんまり、長く見ないほうがいい」
美弥は小さく頷き、視線を祠から外した。だが、胸の奥には、別の感情が残ったままだった。
——あの祠は、この街の記憶そのものだ。消そうとしても、完全には消しきれない。だからこそ、あんな形で、残っている。
「……ここ、本当に長居できるの?」
いちかの小さな声が、足元の雪のように冷たく響いた。
誰も、すぐには答えられなかった。それぞれが、この街の“拒絶”の正体を、肌で感じ始めていたからだ。
美弥は歩き出しながら、心の中で決めていた。たとえ、どんな顔を向けられても。どれほど拒まれても。
——この街が、何を間違えたのか。その答えを、必ず見つけ出す。




