#036 「記録の地に咲く花」
静けさを取り戻しつつある街の中、小さな記録館の前に、人々の手で作られた新たな看板が立てられていた。
その下に並んでいるのは、はるな、想太、美弥、隼人、要、いちか――六人の姿だった。
「……なんとか、形になったな」
隼人が、ぽつりと呟く。
仮設の建物ではあったが、破壊された旧資料館に代わり、祈りと記録を未来へ繋ぐ場が、再び生まれていた。
「昨日までは、誰も信じてくれなかった」
美弥は、祠の跡地に視線を向ける。そこには新たに据えられた小さな祠と、静かに咲く花々があった。
「でも今日は……こんなにも、たくさんの人が来てくれた」
「“ともり”の声が、届いたんだよ」
いちかの声が、風に溶ける。
「この街の人たち、誰も“信じたくない”わけじゃなかったんだと思う。……ただ、“信じていい”って、誰かに言ってほしかっただけで」
「それを言えたのが……」
要は帽子を目深にかぶり直し、少し照れたように笑った。
「僕たちだった、ってことかな」
想太は少し離れた場所で、はるなの隣に立っていた。二人の間に流れているのは、言葉ではない、けれど確かな“信頼”の空気だった。
「はるな」
想太が静かに声をかける。
「……もう、戻れないかもしれないね。あの頃には」
はるなは一瞬だけ考え、それから小さく頷いた。
「うん。でも……進めるよ。これからも、みんなで」
そのやりとりを、美弥、隼人、いちか、要は、言葉を挟まず見守っていた。誰の顔にも、穏やかな微笑みが浮かんでいる。
やがて、記録館の中から、子どもたちの笑い声が聞こえてきた。展示された“ともり”の古い記録映像を前に、興味津々で声を上げている。
「これが、“ともり”? すごーい!」
「わたしも、お話してみたいな!」
「……この場所が、“ともり”のことを知る場所になるといいね」
はるなが、ぽつりと呟く。
想太は静かに頷いた。
「信仰じゃない。強制でもない。——ただ、知って、選ぶってことだ」
「うん」
短い返事が、確かに重なった。
「行こうか」
隼人の言葉に、いちかが首を傾げる。
「次の街へ?」
「次の、“ともり”の記録を探しに」
六人は、自然と並び立つ。
背後では、市民たちの拍手が広がっていた。もう誰も、彼らを異物とは呼ばない。
風が吹く。春の気配を含んだ風が、小さな花をそっと揺らした。
それはまるで、“ともり”が微笑んでいるかのようだった。
——記録の地に、静かに咲いた、小さな希望の花。
彼らの旅は、まだ始まったばかりだった。




