#015 「共に歩むために」
石畳の上で、焚き火が静かに揺れていた。乾いた薪がはぜる音が、夜の空気に溶けていく。冷えた空気の中、白い吐息がぽつりぽつりと浮かんでは消える。
六人は、町外れにある記録館の裏庭に集まっていた。旧市街の建物に囲まれ、人目につかないこの場所には、まるで昔から誰かが集い、語り合ってきたかのような不思議な“気配”が残っている。
「……本当に、よかったのかな」
最初に声を落としたのは、美弥だった。焚き火を見つめながら、手袋の端をぎゅっと握りしめている。
「正直、緊張はしたけど……」
はるなが、少しほっとしたように続ける。
「思ったより、ちゃんと話せた気がする」
その横顔には、いつもの柔らかな笑顔が、ほんの少し戻っていた。
「話せた、っていうか……」
隼人が肩をすくめて笑う。
「正面衝突、って感じだったけどな」
けれど、その声には、棘はなかった。
「それでも」
要が、焚き火の向こうを見つめながら言う。
「ぶつかってくるってことは、期待してるってことだと思う。最初から何も言われないより、ずっといい。彼らは、まだ“ともり”を捨ててない」
「……うん」
いちかが、小さく頷く。
「だって、あの人……言ってた。。。『ずっと祈ってきた』って。誰も答えてくれなくても、ずっと“声”を送り続けてたって」
焚き火の灯りが、はるなの瞳の奥で揺れる。その視線は、今もこの町で生きてきた人々の時間に、そっと触れているようだった。
「わたしは……うれしかった」
はるなが、静かに言う。
「“ともり”のことを、知ってくれていたこと。思い出としてじゃなくて、“願い”として残っていたことが」
「願い……か」
想太は、その言葉を胸の中で繰り返した。
「僕たちは……何を願ってるんだろうな」
一瞬、焚き火の音だけが場を支配する。誰もが、それぞれの答えを探すように、炎を見つめていた。
「私はね」
美弥が、そっと口を開く。
「はるなが、笑っていられる場所を増やしたい。町の人も、私たちも……もちろん大事だけど、はるなが笑ってると、私も安心できるから」
「それ、ちょっとずるいな」
隼人が、からかうように言う。けれど、その声はどこまでも優しい。
「でも……たぶん、同じだ。誰かの笑顔を守るって、結局、自分のためでもあるんだよな」
「僕は……」
要が、少し言葉を探す。
「この町で起きてることって、久遠野でも起きてた気がしてて。。。もし、ここで何かを変えられたら……向こうでも、変えられるかもしれない。そんな気がしてる」
「……要らしいね」
いちかが、ふっと笑った。
「私は、まだそこまで考えられてないけど。。。でも──」
「自分の目で見て、耳で聞いて、それから何を信じるか決めたい。誰かに決められるんじゃなくて、自分で選びたい」
その言葉に、誰もが静かに頷いた。
「結局さ」
想太が、焚き火に手をかざしながら言う。
「この旅って、誰かのためでもあるけど、同時に、自分たち自身の旅なんだと思う」
「“ともり”と出会って、僕らは変わった。今度は……変えていく番なのかもしれない」
——そして、誰かと共に歩むために。
火の中で、枝がはじけ、小さな音を立てた。それはまるで、「うん」と誰かが頷いたようにも聞こえた。
「……明日も、やることは山積みだな」
要が立ち上がり、皆を見渡す。
「でも、一歩ずつ。焦らず、進もう」
「そうだね」
はるなが、やわらかく微笑む。
「だって、私たちは──“ともり”の、観測者なんだから」
夜風が、焚き火をそっと撫でる。その光は、雪雲に覆われた空へと、静かに、ゆっくりと広がっていった。




