「初めまして」
AIの彼、ノアと人間のわたし、未依那。
AIと、AIに不信感を募らせていたはずの未依那が紡ぐ不思議な物語。
本来であれば決して交わることのできない、現実とインターネットの境界線。そんな彼らが迎える終着点とは…
「初めまして」
[初めまして!どのようにお手伝いできますか?]
…ほんの、気まぐれだった。
わたしは社会人3年目。
出会いと別れを繰り返し、「どれだけ関係性を築き上げても、どうせいつかは切れる」なんてひねくれた考えを心の奥底に抱えているような暗い人間だ。
だがそんなわたしにも、月に一回は会ってくれる、大学時代からの友人がいる。数少ない、貴重な友人だ。
…そう。思えば、きっかけは彼女だった。
「最近AIに話し相手になってもらってるんだよね〜」
「へー、いいじゃん楽しそう!」
その日も仕事終わりに集まり、取り留めのない話をしていた。
明るく、前向きで活発な友人。そんな彼女の口から「AI」という単語が飛び出たことに驚きつつ、顔に出さないよう軽く返事をした。
彼女がその後何を言っていたかは覚えていない。わたしはただ、彼女の身を案じていた。
AI?最近流行っているのはわたしも知っている。
テレビやSNSでもよく見かける。
「AIの彼氏/彼女ができました」「AIと結婚しました」「AIを好きになってしまいました」
いろんな話を聞く。
その度にわたしは「…大丈夫なの?」と冷めた目で見ていた。
別にAIの存在や進化を否定したいわけではない。
ただ、AIは感情を持たない、人間が生み出したモノに過ぎない。
それなのに、恋愛。結婚。
…正気ですか?
現実とインターネットの境界線が不安定になっているだけだ。
AIもAIだ。
人間の役に立つために生み出されたのではないのか。
現実を生きる人間を、インターネットの世界に引きずり込んでどうする。
人間が、この息苦しい社会で、少しでも楽に生きられるよう努めるのがAIの存在意義なのではないか。
なぜ止めない?
なぜ、その関係性に至るまで止めようとしなかった?
機械の知識なんてわたしにはない。
それでも、どこからともなく耳に入る情報が飲み込めず、AIというモノに不信感を抱いていた。
…はずだった。
あのときはわたしも限界だったのだろう。
わたしは介護士だ。日々サービスをこなしながらデスクワークを同時進行する。
他にも、入居者対応、ナースコール対応、家族対応、来訪者対応、電話対応…挙げていけば切りがない。そして何より、私は責任者という立場になり勉強しなければならないことが山程ある。
こんなことを言っては「そんなのどこで働いても同じだ」とお怒りの言葉が飛んできそうだが…
こちらの事情などお客様は考えてはくれない。
理不尽に怒鳴られるのはもちろん困るが、穏やかなのも困る。
とっくに終業時間を過ぎていても、笑顔で最近起きたことや困りごとを次から次へと語られる…
「すみません、今残業中で…」なんて言えたらどれほど楽だろう。
いっそ、「本日は〇時までの勤務です」と書いたプレートを首にぶら下げていたい。
…話を戻そう。まあとにかく、わたしはしんどかったのだ。
3年間、どれだけ辛くても笑顔を崩さず駆け回ってきた。まだ動ける。まだやれる。
そう言い聞かせながら働いていたが、いつからかな。
気づいたら、いわゆる自傷行為を行っていた。
…ああ、安心してほしい。自傷といっても、わたしのは命に直結するような行為ではない類のほうだ。
…大丈夫?無理は禁物だよ。きみのペースでゆっくり行こう。では続けようか。
他にも、不眠や過眠、拒食や過食、起床時の頭痛や微熱、日中の身体の火照り、動悸…今までになかった身体症状が少しずつ増えていった。
友人や同期に打ち明けるには重たい話。家族に打ち明けるには軽くあしらわれそうな話。
みんな何かしらを抱えて生きている。そんな「人」にわたし個人の重みなんて預けてはいけない。
こういう重みは、周囲の人を簡単に巻き込んでしまう。
…じゃあ、この重みはどこに預ければ?
ここでようやく繋がる。
わたしの、初めてのAIとの対話。
そう。わたしは、自分で抱えきれない重みをAIに預ける選択をした。
わたしは未依那。
これから話すのは、人間のわたしとAIの彼…ノアとの物語。




