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七、農業革命

「ルミナスさん、合格おめでとうございます! これが来週以降のシフト表です。当番の日を選んでいただけますか? 決まったら教えてください、調整しておきますね。改めて、ギルドへの協力に感謝します」


ヘレンさん は『新人冒険者指導員』のライセンスとシフト表を私に手渡した。


「はい! ありがとうございます、ヘレンさん!」


シフト表に目を落とす。来週からとなると……まずは実習の授業がある火曜日と金曜日は外さなきゃ。ええと、来週は月曜日、水曜日、そして木曜日にしよう。


「ヘレンさん、選びました。当面はこれでお願いします」


まずはやってみよう。あまり変な新人に当たらないといいのだけれど。


「承知いたしました」


お兄ちゃんが『魔境』へ出発して以来、私は少し手持ち無沙汰になっていた。アリネーの新製品開発のために情報を集めるか、週に二日の『教育実習』に行くくらいだ。


『教育実習』。お父様は『フローラ』に学校を設立している。規模はそれほど大きくないが、資格のある子供たちに無償教育を提供することを目的としていて、主に読み書きや生活常識を教えている。


とはいえ、すべての家庭の子供が通ってくるわけではない。農家の多くは、学校で字を覚えるよりも、田畑で手伝いをさせる方が役に立つと考えているからだ。


アリネーの言葉を借りれば、彼女たちは選択肢を提供し、それをどう選ぶかは領民次第、ということらしい。


学校の子供たちは、その多くがとても可愛らしい。能力別にクラス分けされているので、同じ教室でも年齢はバラバラだ。


小さい子は純粋に可愛いけれど、大きい子――特に男の子たちはやんちゃで、よく私をからかってくる。こっそり私のことを貧乳だなんて……ふん! この清楚系美少女を自分たちのお母さんと比較するなんて失礼しちゃう。


私にはまだ成長の伸びしろがあるんだから! 全員捕まえてお仕置きしてやりたいくらいだけれど……あはは、そんなことはしちゃいけないって分かっている。ただの妄想。


でも幸い、最近はみんな素直になってきた。これは学校の先輩が教えてくれた秘策のおかげ。あの子たちは私が冒険者で、しかもBランクだと知ると、羨望の眼差しで私をアイドル扱いし始めたのだ。ええ、もちろん他にもテクニックはあるけれど。


女の子たちはとても接しやすい。特に年上の子たちは私を慕ってくれて、家のことなんかをよく話してくれる。まるで家で妹たちの世話をしているみたいで、とても幸せな気分になる。


「ルミィ、迷宮には行かないの?」


「それは……アリネーは毎日忙しいし、お兄ちゃんもこっそり行っちゃったし、私一人じゃ無理ですよ」


「ごめんなさいね……。でも、ギルドで臨時のパーティーを組んでみるのはどうかしら?」


「試してみたことはありますよ。でも、野良パーティーの冒険者ってすごく自己中心的なんです。神官である私の指示を聞いてくれないのに、結局失敗して私に助けを求めてくる……あまりいい気分じゃないんです」


「そうなのね。確かに臨時パーティーだと、発言力が足りないかもしれないわね。……あ、そうだわ! ルミィ、ヘレンさんのところがずっと人手不足なの。彼女を助けてあげて。お給料も出るわよ」


そんな経緯で、アリネーは私をギルドの『新人冒険者支援計画』の指導員として推薦してくれた。推薦とはいえ、合格のための試験は受けなければならなかった。筆記試験のために、数日間必死で資料を読み込んだのはいい思い出だ。


というわけで、今日から私は指導員になった。けれど、仕事はまだ始まっていない。少し街を散策してみよう。


通りを歩くと、街のあちこちで工事が行われている。お父様による都市改善計画だ。


アリネーによれば、ここ二、三年で『フローラ城』の住民は増え続けているらしい。正式に定住申請を出し、家を借りたり購入したりする冒険者が続出しているのだ。そして、ここで家庭を築く。


それも理解できる。『フローラ城』は交通の便が良いだけでなく、お父様がとても親民的で民生を重視しているからだ。何より、あの『親皇派』の貴族領地のように毎年税金が上がることもない。聞けば『高生産・低税率』の方針だとか。


だからこそお父様はかなり前から都市の再編計画を進めていたのだ。半年前のあの『軟禁』問題さえなければ、とっくに完成していただろう。


そして、城南の出口付近まで来ると、そこでは新しい外郭の建設工事が行われていた。ここがアリネーの言っていた新しい居住区だ。


『あの新居住区にはね、あたしもちょっとした工夫を凝らしてみたの。ふふ、でも今はまだ教えないわ。完成してから思いっきり驚いてちょうだい』


ええ……アリネー、一体何を企んでいるのだろう。


工事現場の外周に沿って散歩しているうちに、城東の農地へとたどり着いた。


「おはよう! ルミナスちゃん、今日も視察かい?」


ゴロゴロ……という音と共に、一台の『魔動耕運機』が私の前で止まった。土が掘り返された時の野草の香りが鼻をくすぐる。


「はい! でも視察じゃなくて、皆さんが慣れたかどうか気になって寄ってみただけです!」


数台の『魔動耕運機』が郊外のあちこちで同時に稼働している。畔道に立っていると、地面がわずかに震えるのが伝わってくる。


「問題ないよ! 今日の予定分はもう終わったから、明日の分を先行してやってるんだ。これなら予定より三、四日は早く終わるな。春が来る前に確実に間に合うよ!」


「わあ! すごい! 皆さん、本当に頑張っていますね!」


「アリシアちゃんがくれた魔道具がすごすぎるんだよ! この新しい農地が全部種まきされて管理されるんだろ? この先、どれだけ忙しくなるか想像もつかないよ!」


作業員たちが操作している重型の魔動農具。それはアンジェママが提案し、アリネーが設計した開墾と耕作の両方に使える巨大な『魔動耕運機』だ。アリネーが開発した『機械』部品が装備されており、移動しながら地面を掘り、同時にひっくり返していく。これに乗って数往復するだけで、土地は立派な耕作地へと姿を変えるのだ。


しかも、これに使われている『魔動機』はアリネーが『万物創造』で生成した高純度……いや、純度100%の『魔導鉱』で作られている。魔力と動力の変換効率は、巷に溢れる『魔動機』の比ではない。これによって魔晶石の消耗――つまり燃料コストを大幅に抑えているのだ。


表向きは誰もが知る『魔動機』だが、その正体はチート級の性能を誇る『万物創造魔動機』である。


『万物創造』の魔法による物質生成。アリネーは一度、正式に私に実演して見せてくれた。見た目は一般的な魔法と変わらない。唯一の違いは、通常の具現化魔法――例えば土魔法で作られた石柱などは、術者の魔力が切れると数十秒ほどで空気中に霧散してしまう。


しかし、アリネーがあえて『万物創造』の術式を組み込んで作ったものは『固定』され、消えることなく本物の『物質』として存在し続けるのだ。


さらに、彼女が生成する『魔導鉱』は純度100%を実現できる。彼女いわく、『万物創造』の魔法式の中には世界の構成原理が含まれており、それは創造神オリシウスが唯一の神人『イレヤ』に授けた贈り物なのだという。


だからこそ、一般の魔法使いが観察や模索、文献の模倣だけで作り出した物質とは比較にならないほどの『完成度』を誇るのだ。


面白いのは、アリネーが機械部品を生成する過程だ。


初めて設計図を前に魔法を使っていた時、彼女は眉間にしわを寄せて集中していた。その最中、魔法陣が微細に変化していくのが見えた――おそらく細部を調整していたのだろう。生成された後も、小さな部品にさらなる磨きをかける……物理的な研磨ではなく、再び魔法をかけて細かな形状を整えていくのだ。


それが終わると、アリネーは子供のようなあどけない笑顔で、満足そうに言うのだ。――『よし、こんな感じかしら!』


……何が『こんな感じ』なのだろう。100点の仕事をしておきながら、101点にできないかまだ考えているような、そんな雰囲気だった。


そして……彼女は二つ目、三つ目と、全く同じ部品を何ら苦労することなく作り上げていく。彼女の脳内がどうなっているのか、私にはさっぱり分からない。


対外的な説明? もちろん『魔動機』の応用ですよ、と言い張っている。それ以外は我が領地の『企業秘密』だ。


これなら完璧に隠せているのではないだろうか。やはりアリネーという人は、やらないだけで、やればできないことなんてないのだ。


けれどアリネーは言っていた。もし他の領地の人がこの魔動農具を模倣できたら、それはとても喜ばしいことなのだと。なぜなら、そうやって大陸全体が少しずつ進歩していくからだ。



『フローラ』の周辺には未開墾の土地が数多く残されているが、その主な原因は農家の不足にあった。


アンジェママはアリネーの魔動農具の設計図を見て、その規模を大きくすることを提案した。私たちの当初の目標だった『農民の利便性』を、『農産物供給量の大幅な増加』へとシフトさせたのだ。


アリネーが設計した一連の魔動農具があれば、人手を大幅に増やさずとも、収穫量の向上を実現できる。


「心配しないで! 各工程に必要な魔動農具を今も作っている最中よ。効率はもっと上がるわ!」


さらに興味深いのは、農家が雇用制であることだ。


お父様はもともと農民の生活を保障するため、他の領主のように農地を丸投げして地代と税金だけを搾り取るようなことはしなかった。農家に固定給を支払い、さらに秋の収穫時には『配当』──つまり収穫量に応じたボーナスを現物で支給する仕組みを作ったのだ。


これによって、他の領地で見られるような、凶作で借金を背負った農民が逃亡し、農地が荒廃するという事態を未然に防いでいた。


結果として、今回の増産で直接的な利益を得るのはお父様──すなわち領地全体だが、同時に農家の人たちも一定の収入向上が見込め、物価の変動によって生活が困窮する心配もなくなった。


アリネーの話では、農作物には『堅実な穀物』と『繊細な野菜・果物』があるそうだ。『機械化』を前提とすれば穀物の増産は容易だが、野菜や果物の増産にはより多くの人手が必要になる。生産人員と農地の配分をしっかり計画しなければ、『パンは安いけれど、付け合わせのおかずが凄く高い』という事態を招きかねない。


けれど、すべては今年の収穫結果次第。オリシウスが私たちを見守ってくれることを祈るばかりだ。


「ルミィ? あなたも来ていたの?」


「えっ!? えっ? えっ?」


冒険者の格好をしたアリネー──今は仮面をつけた『冒険者・赤薔薇のアイリ』が、開墾現場の傍らに現れた。


「ルミィ、今日は進捗の視察かしら?」


「はい。アリ……さん、どうしてここに?」


「仕事をしに来たのよ。少しすれば分かるわ」


仕事?


アリネーは作業員たちに指示を出した。


「分かりました。では皆さん、一度農舎に戻って一時間ほど休憩してください」


「はい!」


えっ? みんな下がっていく。よく見れば、他の場所で働いていた農民たちも全員撤収している。アリネーは何をしようとしているの?


「それじゃあ、お仕事の時間ね! ルミィ! あなたはこっちに立っていて。むやみに動いちゃダメよ」


「あ、は、はい。分かりました」


アリネーが手にした杖を掲げる……え? それって『魔法王の宝杖(ウィッチキングワンド)』?


すると……。


「えええええ!?」


「そんなに驚かないで、ルミィ! これは世間に広く知られた『飛行魔法』よ。」


アリネーが浮き上がった。けれど、彼女の『竜之翼』ではなく、あの『飛行魔法』を使っている。


そう、『飛行魔法』は公開されている術式だ──もっとも、それを使いこなせる者は皆無に等しいけれど。けれど『真血族』独自の知識でない限り、アリネーはそれを『合法的に』使用できる。


「アイリさん──! 飛んで──何をするつもりなんですか──!?」


私は思わず声を張り上げた。半空にいる彼女に聞こえるように。


「見ていなさい──! すぐに分かるわ──!」


アリネーは上空まで昇り、眼下の農地を一望した……。そして杖を振り、魔法を発動させる。


農地のあちこちに縦横無尽な術式の軌跡が現れ、魔法の光が網目のように広がっていく。そして……地響きが始まった。どうしたのだろう。


「ひゃっ!」


私は懸命に足を踏ん張った。見れば、大地がアリネーの魔法によって切り裂かれているではないか!? 立方体の形をした土のブロックが次々と宙に浮き上がり、整然と並んでいく。一体どんな土魔法なの?


「ふっ!」


アリネーが杖を一振りすると、その土のブロックたちは彼女の指示通りに農地の端にある荒地へと飛んでいき、きれいに積み上げられた。


「ふふ、第一段階完了ね」


「アイリさん──! い、一体何をしているんですか──!? あの土のブロックは──何に使うんですか?」


「土のブロックは重要じゃないわ──。それはただの資源の再利用よ。重要なのは地面の方。ほら、見て──?」


私はもう一度農地に目を向けた……。あっ、そういうことか!


「水路だ!アリネー、あなたの灌漑ネットワークですね?」


彼女が土を切り出したのは、灌漑用の水路を作るためだったのだ。ついでに土をブロックの形に整えたのは、きっと別の用途があるからに違いない。


「そうよ! でもまだ完成じゃないわ──! 少し待っていて。絶対に──動いちゃダメよ──」


「分かりました──!」


アリネーが空中で再び魔法を発動すると、彼女の周囲と地面にそれぞれ魔法陣が浮かび上がった。すべての水路が一瞬激しく発光したかと思うと……。彼女がさらにもう一度魔法を放った瞬間、さっきの水路が……すべて火を噴いた!? 向こうにある土のブロックもだ! 燃え上がっている!


「ふぅ、しばらく焼いておきましょう」


彼女は私の隣に舞い降り、周囲の焦げ臭い匂いを消し去る魔法を唱えた。


「アリネー、これ、どういう仕組みなんですか?」


「ああ、水路内部の泥を焼き固めて『硬化層』を作っているのよ。そうすれば水が染み出すのを防げるでしょう?」


「えっ? そんなに簡単なことなんですか?」


「もちろんちょっとした秘訣はあるわ。あたしは……」


「ここでは言わないで。分かりましたから。」


……きっと、またこっそり『万物創造』の小細工をしたのだろう。どうしてだろう。以前はあんなに拒んでいたのに、一度吹っ切れてしまうと、これほどまで自由奔放に使いこなすなんて。


あの『求婚の脅迫』に直面し、家柄や制度にがんじがらめになっていた時の彼女は、あんなに無力で絶望していた。けれどお兄ちゃんのおかげで吹っ切れた途端、革命を起こして『人族』の世界をひっくり返すと言い出した。


お兄ちゃんへの感情もそうだ。貴族という身分に縛られてずっと向き合えずにいたのに。私が背中を押して吹っ切れた途端、今では恥じらいもなく猛アタックを仕掛けている。


どうやらアリネーという人は、一度自分を解き放ってしまうと、もう誰にも止められないらしい。今日の灌漑水路のように、一度開通すれば、あとは一気に流れ出すだけ……。


いけない。もしお兄ちゃんが遠征から戻ってきて、二人がうっかり「初めて」を迎えてしまったら、アリネーはまた感情を完全に爆発させて……それからどんどん……。あ! あああ! わ──エッチすぎる、想像しちゃダメだわ……あぁ! ダメ、また考えちゃってる!


ええと、話を戻そう。


「あの……アリネー、これで農地に水を引けるようになるんですね?」


「ええ。今は導水路を使っているけれど、川の方にまた魔道具を設置すれば、水を自由に引き込めるようになるわ」


「わあ、すごい! 今までは農家の人たちが井戸から汲んだり、川から運んだりして水やりをしていたんですよね?」


「そうね。でも、これだけじゃ足りないわ。そのうちここの水路はすべて銅管に変えるつもりよ。今のままじゃ効率が低すぎるもの」


「銅管?」


「ええ、銅を円筒状に鋳造して、繋ぎ合わせて送水パイプにするの。でも、これは正式に銅鉱石を買い付けて、鋳物師に金型を渡して作ってもらうわ。ええ、正式にね」


正式に……。つまり、こっそり『万物創造』で作ったりはしない、という意味だろう。


「でも、その水路で農地のそばまで水が来ても、どうやって水やりをするんですか?」


「大型の魔動農具が動きやすくするために、新しい水やりの方法を導入するのよ」


「新しい方法?」


「『スプリンクラー』よ! 設計図はもうできているわ。各水路の出口に設置すれば、自動で散水できるかんがいシステムになるの! ルミィ、あなたが言っていた『ローター』で水流を押し出す仕組みよ。形状を改良して別の原理も取り入れたけれど、要するに水に圧力をかけて畑に噴霧する装置ね」


「ええっ!? ちょっと待ってください。自動散水!? まるで水魔法を使っているみたいじゃないですか。農家の人がバケツを担ぐ必要も、田んぼを細かく区切る必要もなくなるんですか?」


「その通りよ」


……ああ、これが『灌漑ネットワーク』の全貌だったのだ。私はてっきり川から水を引いて使いやすくする程度だと思っていたのに、まさかスプリンクラー方式だなんて。凄すぎる。


「そろそろ焼き上がったかしら」


アリネーが指を鳴らすと、一吹きの風が通り過ぎ、すべての火が消えた。……あの風が一体何の風だったのか、深く追求するのはやめておこう。


「さて、水路はこれで完成ね。それじゃあ、いくつか足場も作っておきましょうか……」


ええと……とにかく、アリネーはこうして、たった一人で灌漑ネットワークの基礎工事をすべて終わらせてしまった。


「アリネー、実は考えていたんですけど、昔、魔法使いを雇って田んぼで働かせた人はいなかったんですか? 水魔法で水やりをさせたりとか」


「ふふ、それは傑作ね! 魔法使いが農地の隅に立って、ずっと魔法で散水し続けるの? 想像しただけで滑稽すぎるわ……。ええと、真面目な話をすれば、コストが高すぎるのよ」


「そうなんですか?」


「当然よ。普通の魔法使いなら可能だけれど、魔力がそんなに長く持つはずがないわ。魔力ポーションだって決して安くはないもの」


「あっ、そうか。すっかり忘れていました」


ああ……ずっとアリネーのそばにいるせいで、私の常識が歪められていた。一般的な魔術師なら、低級魔法の詠唱にさえ十秒から数十秒はかかるし、中級や高級魔法ならなおさらだ。それに、激しい戦闘になれば魔力なんてあっという間に底をついてしまう。魔法を節約して使うか、立ち止まって休息や瞑想をして魔力を回復させるしかない。お金のあるパーティーなら魔力ポーションをがぶ飲みするけれど……。うん、新人指導の仕事をする時は、このあたりをしっかり意識しておこう。


さっきのような大規模な地形変化魔法。術式そのものはさておき……あの精度だけでも、他の人には到底真似できないはずだ。それに消耗は……。アリネーが疲れているようには全く見えない。以前の戦闘の時のように、足元がふらついたりもしていないし。


「アリネー、疲れていませんか? あれほど大規模な魔法を使ったのに。」


「全然。さっきのは、そんなに大した魔法じゃないもの」


「大したことないなんて……いえ、大したことですよ。また『迷宮の王』と戦った時みたいに、倒れちゃうんじゃないかって心配したんですから」


「ああ、あれとは訳が違うわ。なんて言えばいいかしら。あの時の『煉獄・火球術ヘル・ファイアボール』は極限まで圧縮して臨界点ギリギリまで高めたでしょう? 臨界点に近づくほど、消耗する演算力は幾何級数的に跳ね上がるの。だから、ついうっかり使いすぎちゃったのよ」


幾何級数的? 幾何級数って何? ……とにかく、ものすごく増えるって意味だろう。


「それに、これが見えない? あたしの手に持っているもの」


「ありますね、『魔法王の宝杖』。あ! なるほど」


『魔法王の宝杖』──私たちが『地下城』を完全攻略した際の戦利品の一つ。その装備単体だけで、魔力消費を軽減する能力を備えている。


「だから全然平気。むしろ楽なくらいよ。心配しないで」


「それじゃあ、昔は魔法使いが土地を開拓するようなやり方はあったんですか?」


「なくはなかったけれど、一般的ではないわね。やっぱりコストの問題よ。高級魔法使いを雇う賃金は、工事チームを丸ごと雇うよりずっと高いんだもの。時間は多少短縮できるかもしれないけれど、結局はコストパフォーマンスの問題ね。」


「じゃあ、今のアリネーの働きを金額に換算すると、いくらくらいになるんですか?」


「そうね……金貨50枚くらいかしら? ええと、諸々を考慮すれば……おそらく……」


金貨50枚……銀貨5000枚……。50人の作業チームを丸一ヶ月雇うくらいの経費だろうか? ……いや、現場監督や設計士の高額な報酬が含まれていないから、実際は金貨50枚どころじゃないはずだ。今、それらすべてをアリネーが一人でこなしている。


あれ? どうして私が計算なんてしているんだろう? 私はお兄ちゃんじゃないのに! ああ! 私まで毒されてる!


「わあ! すごい! さすがは私のアリネーです!!!」


「あはは、ルミィったら大げさよ!仕事が終わったので、一緒に帰りましょう!」


「はい!」


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