十九、流星と紫電
『そうそう──あの指輪の件についてですが……それを次の課題としましょう。ふさわしい時が訪れたら、自分の力で解き明かすのですよ。』
あの日、ヴィルマ先生はそんな課題を出してきた。
もっとも、先生のあの調子からして本気じゃなかった。たぶん、お嬢様とルミ嬢がちょっと気まずくなる様子を楽しんでいただけだと思う。
でも、むしろ気になっているのは私の方だった。
最近、どうも好奇心が強くなってきた気がする。いろんなことを知りたくなる――とくに、私の大切な仲間であるアリシアお嬢様とルミ嬢のことを。
もちろん、別に詮索したいとかそういうんじゃない。ただ、こっそり理解しておきたいだけだ。あんなに優秀で、心根が優しくて、可愛くて、誰が見ても完璧な女の子たち――いったいどんな相手と付き合っているのか。
たぶん、二人とも相当な逸材に違いない。冒険者とか、そういうタイプだろうか?
今のところ、わかっているのは──
『えっと……戦場分析のこと?それは、いい先生に巡り会えたから……。彼が私を連れて六大迷宮を回って、いろんなことを教えてくれたの。だからね~』
ルミ嬢の相手は、彼女に冒険者の知識を教えた師匠のような人物。強力な戦士タイプの冒険者らしい。
『お兄ちゃんを助けた時みたいに?』『ルミィ、その身勝手な人のことは置いておきましょう。今はイシャさんの話よ。』
そしてお嬢様の相手は、ルミ嬢の「お兄ちゃん」らしい。いつも彼のことを「その人」と呼んでいて、詳しいことは一切語らない。
ただ、二人の相手は今どちらも彼女たちのそばにはいない。
「フローラ」にもいないし、会うことさえできない遠い場所にいるのか、あるいは仕事が忙しすぎるだけなのか……。
けれど、話を聞く限り、どちらも“何も言わずに去っていった”らしい。
しかも、そのまま音信不通。
……正直、話を聞いているうちに頭がこんがらがってきた。まさか二人一緒に旅に出た? あるいは同じ任務に?でも、にしても酷い話だ。こんなにも素敵な二人を置き去りにして姿を消すなんて!
いったいどれほどの事情があるというんだ? 今の時代、転移魔法陣だってあるのに、少しの時間も取れないなんてあり得ない!
考えれば考えるほど、お嬢様とルミ嬢が不憫でならない。……いや、ちょっと腹が立ってきた。
それでも恋愛の話になると、二人は決まって優しく微笑んで、指輪を撫でながら答えるんだ。
きっと本気で彼らを恨んでなんかいない。……うう、なんだよ、それ。ますます二人が可哀想じゃないか!
あの二人の男、まったく罪深いにもほどがある!
……もしかして、死んでるとか?
いやいや、それはないはず。ヴィルマ先生、ああ見えても死者をネタに冗談を言うような人じゃない。
じゃあ、あの指輪が同じデザインなのはなぜだろう?
きっと、彼らが旅立つ前に一緒に買って、二人に贈ったんだ。店で一番良い品を選んだのかもしれない。あるいは、お嬢様とルミ嬢が姉妹のように仲がいいから、敢えてお揃いにしたのかも。
うーん……。
そして、最後の手がかりは――冒険者《流星》。
冒険者称号《流星》を持つ戦士──本名は不明。
冒険者ギルドの戦士適性試験で最速クリア記録を持つ、両手剣使い。そして『レッドスピネル』のメンバーであり、お嬢様とルミ嬢以外の第三の仲間。
別名「逃げ足の速さが誰にも負けない両手剣の戦士…」。
私の調べによれば、その《流星》という冒険者は、ここ三ヶ月ほどギルドに姿を見せておらず、お嬢様たちとも組んでいないらしい。
……怪しい。
この《流星》ってやつ、あの二人のうちのどちらかに違いない。
さて、どっちの相手だろう?
戦士系で冒険者の知識を教えていた……となれば、やはりルミ嬢の師匠の方か?
一方、お嬢様の相手はルミ嬢の兄であること以外、ほとんど情報がない。
でも、性格からして、きっと知的で穏やかな人を好むタイプだろう。文官か、魔法学者か……うん、お嬢様ならそういうタイプの男性を選びそうだ。
ふむ、今のところ導き出せる結論はそれくらい。残りは――あの二人の男が帰ってくるのを待つしかない、か。
…
…
…
今日もまたギルドへやって来た。
とはいえ、今日は依頼を受けに来たわけではない。
「みんな!ついにわかったわよ!ギルドのパーティ評価の方針!」
あの日、ドロシーが私たちに、『パーティー評價』について説明してくれた。
「……つまりね、私たちは全員新人で、冒険者ランクもE級だから、『パーティー評價』もE級のまま固定されてるの。どれだけ『ギルドポイント(GP)』を稼いでも、上がらないのよ。」
「えっ?そういう仕組みだったの?」
私は以前、ギルド評価の仕組みを読んだことがあったけれど、細かいところまでは覚えていなかった。
「そう、私たちみたいに全員が新人で組んだパーティだと、そうなるの。」
「じゃあ、どうすればいいの?ベテランを加入させる?」
「それもできるけどね、イシャさん。私たちから『ランク評価』を申請することもできるの。イシャさんは戦士評價がC級でしょう? 今まで積み上げてきた『ギルドポイント(GP)』を使えば、冒険者等級を上げられるのよ。そうすれば『隊伍評價』も自然に上がるってわけ!」
――そうそう、確かに原則はそうだった。
『個人評價』は『冒険者ランクの上限』。
そして、『ギルドポイント(GP)』はその等級を上げるためのポイント。
私の場合は、『個人評價』がC級で、『冒険者ランク』がE級。
これまで『ランク評核』を申請していなかったけれど、今ならGPも十分貯まっている。つまり、C級まで一気に上げられるというわけだ。
「それじゃあ、やってみようか?」
「でも、イシャさんの実力はもうずいぶん上がってるでしょう? 今の状態で『能力檢定測試』を受けたら、もっと上の冒険者ランクを取れるかもしれませんよ。」
確かに、今の私なら『能力檢定測試』を受ければ、『個人評價』――つまり『冒険者ランク上限』そのものを引き上げられるかもしれない。
「えっと、そうだけど……あの『能力檢定測試』って、受けるのにお金がかかるんじゃなかったっけ?」
「そうです。E級冒険者の場合、受験料は銀貨50枚です。」
「ええっ!? 全然安くないじゃない!」
「大丈夫、費用はパーティの資金から出そう。」――ヨナさんがそう言ってくれた。
「それなら……問題ないね!任せて!」
というわけで、私は本日、ギルドにて『能力檢定測試』を受けることになった。
「イサベリアンナさん、『能力檢定測試』へようこそ。現在の等級はE級、E級冒険者の能力檢定測試……料金は銀貨50枚になります。」
支払いを済ませると、ヘレンさんが私を検定場へと案内してくれた。
手順は前回のテストとほぼ同じ。
そして、攻撃力測定の段階に入ったところで――
「イサベリアンナさん、二ヶ月前のあなたの戦士評價はC級でしたね。今回はさらに力を伸ばしたんですか?」
「そう言えるかもしれませんね。では――」
「わかりました!では、今回はレベル150の巨石ゴーレムから始めましょう!」
「えっ?150級!? この前は50級までだったよね!?」
「E級はあくまで冒険者としての評価です! 戦士としてはC級なんでしょう? それに、あの一件以来……いえ、ギルドの方針が変わりましてね。今は高レベルから始めて、様子を見て下げる方式なんです。」
「なるほど、了解しました。」
150級、か……。とりあえず試してみよう。
「『高・力量強化』! 『溜め・岩碎突』!」
ガァン────ッ!!!
……うん、やっぱり割れないか。
「では、次は100級の――」
「待って、まだ全力を出してません。」
「えっ?」
私は詠唱を開始し、『爆炎の衣・第三型』──攻撃力特化の『魔力付与』を発動。そのまま『爆烈・溜め・岩砕突』を放つ。
「はあああ────っ!!!」
ドゴォォォン!!!
炸裂!!
「試験官!!!」
ヘレンさんは少し驚いたような顔をしていた。
「み、見えました!A級!A+級です!!!」
あ、試験官の方も同じ反応だ。
「試験官?!200級のも試さなくていいんですか?」
「必要ありません!今の一撃、200級に当たっても粉砕です、無駄にする必要なし!ヘレンさん!あの時の教訓を忘れたのですか?」
「はいっ!了解です!!!」
うーん……“あの時の教訓”?どういう意味だろう?何も戦わずにA+級?……これ、ちょっと得した気分?
それから戦士総合テスト──つまり模擬戦の時間になった。相手はギルドが用意したゴーレム。数名の試験官が審査を行う。
「あなたの実力を考慮して、次は属性の異なる三体の150級ゴーレムと戦っていただきます。どうか……全力を出して、私たちに見せてください。」
「ちょっと待って。」
私は“あれ”を思い出した。
「どうかしましたか?イサベリアンナさん?」
「この模擬戦って、噂の冒険者『流星』が最速突破した設定と同じなの?」
「はい、あの時『流星』さんが挑んだ高位戦士模擬戦と同じ条件です。」
「なるほど。ところで、彼はスキルを発動してから計測開始したの?」
「いいえ。我々の規則では、全てのスキルや魔法はタイマーが始まってから使用可能です。」
そうか……ふむ、まあいい。全力でいこう。
──30秒。これがあの“流星”の記録。
ちっ。
──つい舌打ちしてしまった。失礼だな、私。
30秒で倒すなんて、確かにすごい。でも、ルミ嬢を置いて一人で旅立つなんて、やっぱり最低だ。
見てなさい、私がその記録を破ってやる!
汎用性重視の構成なら……よし、いける!
「開始!」
全スキルを発動、全力突撃!
同時に『轟雷の衣・第三型』の詠唱を行う。
雷光ゴーレムが進路を塞ぐ──よし、自ら突っ込んできたわね!
「『翔空突き』!」
空中で回転しながら死角に潜り込み、背後から槍で雷光ゴーレムの左肩を貫く──そのまま槍を捻り抜き、左腕ごと爆砕!!
だが、まだ動ける!?──想定通り!!
「『燕返・三連』!」
三連撃を発動し、立て続けに胴を貫く!
「ガガガ……ッ」
まだ動く?やっぱり『魔力付与』なしじゃ破壊力が足りない。雷光ゴーレムの左腕が蠢き、反撃しようとしている。
でも問題ない。もうすでに私は別の位置へ回り込んでいる。
そして──
「『轟雷の衣・第三型』!!!」
詠唱、完了!!!ここからは秒殺タイム!!!
「『翔空突き・閃連』!!!」
一体目、撃破!
火焔ゴーレムの火球魔法?──関係ない!
「『迅雷縮地』!」
「『轟雷・岩砕突』!」
飛んでくる火球を無視して一瞬で間合いを詰め、一撃粉砕!!
最後は毒霧ゴーレム!
防御態勢に入り、高濃度の毒霧を纏って……?
それだけ?
ドドドドドン!!!
私は長槍を振り続け、雷撃の魔法を連射。中距離から毒霧ゴーレムを粉々に吹き飛ばした。
これで模擬戦は終了、かな?結果はどうなんだろう?
訓練場の外では試験官たちが何やら話し合っている。うーん……タイムは?30秒くらい?少しオーバーした?
いや、今日の目的はチームの評価を上げること……
スピードチャレンジじゃない。
ふう……
…
…
…
「イサベリアンナさん、おめでとうございます。これがあなたの試験結果です。見事な成績でした!すでにギルドカードのデータを更新しました。それに、小隊の評価も上がり、より高難度の任務が受けられるようになりました。」
私はギルドカードを受け取り、記載内容を確認した。
こ、これが……?
「了解しました!ありがとうございます、ヘレンさん。」
うん……
よし、これでいい。
…
…
…
「それでね、イシャっち、まだ落ち込んでるの?」
「うん…ちょっとだけ。」
今日は休日だったので、またお嬢様とルミ嬢とおしゃべりしていた。
「イーシャ、そんなに気にしなくていいのよ。ギルドにもギルドの事情があるんだから。」
「うん…お嬢様、ただ分からないの。もっと高難度でやれたはずなのに、どうしてあんなにあっさり終わっちゃったのか。」
「それは私も同意ね。ギルド側も、もう少し合理的で納得できる能力評価方法を検討するべきだと思うわ。」
「でしょ!?50枚銀貨払っただけで、手抜きされた感じなんだけど!」
ギルドの検査結果が出た。不満ってほどじゃないけど……なんか、ね。
個人総合評価:A-
職業総合評価:A+(魔戦士)、B(戦士)、C(斥候)
冒険者ランク:C
「でも、結果としては悪くないでしょ?イシャっち、どこが気になってるの?」
「うーん…」
「C級冒険者ってところ?」
「違うの…それはギルドポイントに関係あるって分かってるし。」
「じゃあギルドの称号?『紫電』とかいうやつ?ギルドの人たち、ネーミングセンスなさすぎよね。」
「うーん…そこは別に気にしてない。」
「じゃあ、魔戦士のA+評価のこと?あたしはイシャならS級でもおかしくないと思ってるわよ。」
「うん…え?お嬢様?わ、私がS級?」
「そうよ。でもね、たぶんあなたが成長しすぎたの。試験官がそこまで想定してなかったから、少し評価を抑えたんだと思うわ。」
「え!?そんなことってあるの?」
「うん…そういうことも、まあ、あるみたいね。」
「お兄ちゃんの時もそうだったよ。」
え?ルミ嬢の“お兄ちゃん”?
「そう。今思えば、あの人も当時はすでに戦士S級の実力があったのに、試験官の予想とのギャップで評価を控えめにされたのよ。」
「え…お嬢様…それって、まさか冒険者『流星』のこと?」
「そうよ。イシャっちも気づいたのね?『流星』の話に。」
「う、うん…たぶん、そうだと思う。まさか…ルミ嬢の兄上が冒険者『流星』なの?」
「兄上?違うよ、『お兄ちゃん』だもん。」
「え…?ルミ嬢の“兄上”じゃないの?」
どういう意味?
「やはは、そんなわけないよ!私、一人っ子だもん。」
えっ?えっ?えぇ──!?
「じ、じゃあルミ嬢がいつも言ってる“お兄ちゃん”って……もしかして……」
「ルミィが親しみを込めてそう呼んでるだけよ。」
ああ、なるほど、そういう呼び方か……ん?なんか違和感が……え!?
「それでね、イシャっち、結局なにをそんなに気にしてるの?」
そ、そんな!?ちょ、ちょっと待って、想像するな私!!でももしそうなら──あの人!!
「私が気にしてるのは、模擬戦のクリアタイムです!」
「あ?ああ、あの?たしかお兄ちゃんの最速記録は30秒だったよね?イシャっちは?」
「36秒…」
「十分速いじゃない!第二位でしょ?」
「でも負けたんです!『魔力付与』の詠唱時間さえなければ!戦闘時間だけなら私のほうが速かったのに!」
「負けた?そっかぁ!あははは!アリネー、イシャっちってお兄ちゃんをライバル視してるんだね!」
「うぅ…わ、私はただ、悔しいだけよ!ほんの少しの差なのに…!」
そう!私は悔しい!あの男──いや、あの女の敵が!!憎らしい!!!
「ふふっ…イーシャね、ただのクリアタイムじゃない。気にしすぎよ。それに、あのテストは半年前のものだから、今の実力とは全然違うのよ。」
「お嬢様…それってどういう意味?」
「つまりね、あの人は今、当時よりずっと強くなってるの。30秒なんて、もうとっくに過去の話よ。」
本当?じゃあ、私よりずっと強いってこと!?ま、まさか…それが“あれ”の理由…?
「お嬢様…その…冒険者『流星』って、そんなに強いの?私はまったく敵わないの?」
「そんなことないわよ。」
「え?」
「当たり前じゃない?イシャは魔力付与戦士。強化や補助の魔力付与を使える中近距離のバランス型。あの人はね、結局は近接戦しかできない純戦士タイプ。単純比較はできないの。」
「うん…そうね…そう言われると納得。」
「でしょ?イシャっちはすごいの。わざわざお兄ちゃんと比べる必要なんてないわ。それに、これからもっと成長できるんだから。近接強化スキル、まだ上級に達してないでしょ?自分を超えることだけ考えればいいのよ。」
「はい、確かにその通りです。」
しかし――あの男に負けたこと、やっぱり納得いかない。
あの男、冒険者『流星』のどこがそんなにいいっていうの!?
二股!? ふざけないでよ!? 鏡でも見たことあるの!? 相手はお嬢様とルミ嬢なのに!
どうして……この世で二人といないほど素敵な子たちが、あんな男に独占されなきゃいけないの!?
お嬢様だけでも到底釣り合わないっていうのに、そこへルミ嬢までだなんて!?
まったくもって女性の敵! いや、『神の民』全体の敵! クズ男!
くっそ──!!
…
…
…
「倒れろッ! はぁああ─────!!!」
全力で中級魔物の胴を突き貫き、そのまま蹴り飛ばし、すぐさま次の標的へ。
「はぁあ─────!!!」
六体の魔物を、全部倒しきった。
「どうした、イシャ? 今日はちょっと、いつもより荒れてないか?」
荒れてる? 私が? そんなはず……いや、ふぅ……ヨナさんがそう言うなら、やっぱりそうなのかも。
「イシャさん、すごいです!」
後ろからドロシーちゃんとルーカスが駆け寄ってきた。
「ううん……たぶん、ちょっと焦ってたのかも。」
いや、焦りというより……苛立ち、かも。
「そう? まぁ確かに、慎重なのは大事だね。でも本当にすごかったよ、イシャさん。『魔力賦予』は使ってなかったんでしょう? ただのスキルだけでしょ?」
「う、うん……あはは、まぁね。私なんて、まだまだだよ。よし、みんな怪我はない? 行こっか!」
「はーい~~」
…
…
…
その日の迷宮探索が終わって、みんなで夕食を済ませたあと、解散──ただし、一人を除いて。
「イシャ、ちょっと散歩でもどう?」
ヨナさんが声をかけてきた。
「うん、いいですよ。」
川沿いの遊歩道を、ゆっくり歩く。
「何か悩んでる?」
「うん……まぁ、少しは……かな?」
「話してみる? 力にはなれないかもしれないけど。人間関係のことだったら、俺まるでダメだからね。」
「それは……」
「でも、聞いてるくらいならできるさ。どう? 少し吐き出してみたら?」
「吐き出すって……それはあまり良くないんじゃない?だって、ジョナさんの問題じゃないし!」
「よかった。てっきり俺が何かやらかしたのかと。」
「えっ!? そ、そんなわけないじゃないですか! 私はただ……」
「うん?」
「うーん……話してもいい、ですか?」
「もちろん。暇だからね。」
「……私、友達が二人いるんです。どっちも心の優しい、いい子。」
「うんうん。」
「最近知ったんですけど……その二人、同じ男と付き合ってたんです。」
「ふむふむ。」
「でも、その男がいきなり姿を消したんです。別れたわけじゃなくて、ちゃんと二人分の“誓いの品”を残して、彼女たちに待っていてほしいと。……でも、もう三ヶ月も音沙汰なしなんです!」
「なるほど。」
「これ、ひどくないですか!?」
「なるほどね……ひどい、のかな?」
「ひどくないんですか!?」
「うーん……俺はただの聞き役なんだけど、意見が欲しいってこと?」
「すみません……ヨナさん、考えを聞かせてください。」
「そうだね。まず、“ひどい”かどうかはわからない。だってその男が誰かも知らないし、三人の関係がどうしてそうなったのかも知らない。イシャは知ってるの?」
「えっと……正直、あんまり。」
「それに、“いきなり姿を消した”って件。もしもどうしても行かなきゃならない理由があったなら、責められないかもしれない。どうして出て行ったのか、わかる?」
「わかりません……」
「最後にもうひとつ。イシャは友達を思って怒ってるけど、その二人、可哀想だと思ってる?」
「……実は、思ってないです。」
「騙されてるとも知らない、そんな単純な子たち?」
「絶対に違います。」
「なら、きっと問題ないのだ。」
「問題……ないの?」
「うん、俺が聞いた限りでは、その二人の女の子は、どっちも『彼』のことを本気で愛してるんだろうね。そうじゃなきゃ、三人の関係を受け入れたうえで、彼が出て行ったあとまで想い続けるなんて、できるわけがないよ。」
「……たしかに、深く愛してると思う。」
私の頭の中に、お嬢様とルミ嬢の、あの甘くて幸せそうな笑顔が浮かんできた。
「ところで、その二人の仲はどうなの?」
「とっても仲がいいよ。まるで本当の姉妹みたいなの。」
「なるほど、じゃあ特に問題はなさそうだね。」
「でも、でもさ、あの男って……どうしてもムカつくの! 二人の良い子の心を独占しておきながら、自分だけ姿を消すなんて!」
「“姿を消した”って部分は……まぁ、どうしてもそうしなきゃいけない理由があったんだろうって思おうか。そうでもなきゃ、自分の愛する子を、しかも二人も置いていくなんて、普通できないでしょ?」
「うん……それは、そうかも……」
「じゃあ、残るのは“二人の良い子の心を独占してる”ってところだね。違う?」
「そう! それが許せないの! あの人、何様のつもりなのよ……」
……あれ?
「……私、もしかして……嫉妬してるの?」
「どう思う?」
「うぅ……そんな気がする……えっ!?」
ヨナさんが、そっと私の頭を撫でた!?
「全部が嫉妬ってわけじゃないと思うよ。イシャは、その二人のこと、本当に大切に思ってるんだね。だからこそ、心配で、腹が立つんじゃないかな。でもね、恋愛って、当人たちにしかわからないことなんだ。信じてみてもいいんじゃない?」
「信じる? そんなの、もちろん信じてるよ!」
「じゃあ、彼女たちの“見る目”を信じよう。その『彼』が、本当にふさわしい男で、二人に相応しい存在なんだって、そう思ってみるんだ。」
……ああ、そうか。私があんなにこだわってたのは、たぶん――あの人がお嬢様とルミ嬢の両方にふさわしいなんて、ありえないって思ってたからだ。
結局、それって私の勝手な思い込みだったのかも。
もしかして……あの人って、本当にすごく優秀なの?
うん、戦闘の評価は確かに高かったけど……まさか、それ以外も全部優秀で、だからこそお嬢様とルミ嬢の二人が、あんなに心を奪われてるってこと?
それとも……これが恋? 理由なんて、いらないものなの?
「うん……ありがとう、ヨナさん。」
目の前のヨナさんを見つめる。胸の奥のドキドキは、あの日から少しも鎮まっていなかった。
……まさか、これってもう……




