十二、決意
「手加減しないだと?君はまだ一人も殺したことがないだろう。」
それはお父様があの日、あたしに投げかけた問いだった。
「戦争が始まれば、あたしが躊躇すれば死ぬのはあたしたちの兵士と領民なんです!」
あの日、あたしは勢いに任せてそう答えた。
「その覚悟があるのか?戦争を知らず、屍の山も見たことがないのに?」
お父様はいつもあたしを溺愛し、苦しみを背負わせたくなくて、ずっと『あちら側』の世界に入ることを許さなかった。
「あります!あたしはもう分かったんです!これは自分のためじゃない!あたしの『大義』が何なのか、はっきりと!」
『大義』──それがあの日のあたしの答えだった。
そして今、あたしは再び確信している。これこそあたしがすべきことだと。
今日の計画のために、お父様と何度も衝突を繰り返した。
お父様の心遣いが分からないわけではない。
「潜入!?内外呼応?一網打尽!?駄目だ!危険すぎる!救出なら、俺が兵を率いて強攻すればいい!」
『危険すぎる』?──そうだろう。彼の心の中では、あたしは全てに勝る存在だ。何よりも大切だからこそ、その『危険』に耐えられないのだ。
「お父様!どうして救出だけで済ませられますか!?あたしたちはこれを終わらせるのです!一網打尽にしなければならない!ご存じでしょう!あたしが行くのが、犠牲を最小にする唯一の方法です!」
「分かっている!本気で戦えば、俺ですらお前の相手にならん!だが!お前は俺の娘だ!万一のことがあれば!どうして認められるものか!退け!」
「馬鹿なお父様!」
幾度となく、あたしはそう叫びながらお父様の書斎の扉を開け放ち、無礼な言葉を投げつけて飛び出した……廊下に立っているイシャさんに聞かれることすら気にせずに。
結局……あたしは相当な手間をかけて計画を練り、王都に忍んで情報を確認し、連絡を取り、万全の準備を整え……お母様の助力も得て、ようやくお父様を説き伏せ、あたしの計画を通すことができたのだ。
目の前にいる、この人の尊厳を踏みにじる醜悪な犯罪者たちを見て、あたしは再び悟った。あたしの責任……あたしが為すべきことを。
今こそ!『正義』を執行する時!そしてこれが、あたしの『大義』の第一歩!
恐れなどない!なぜなら、あたしの隣にはルミィがいる!今はイシャもいる!そして!大切なのは!『あなた』が!あたしの心の中にいつもいるから!
「みんな!戦闘開始!」
…
…
…
お嬢様の号令とともに、私は即座に突進!この事件の元凶──『クレモント侯爵』へと真っ直ぐに!
「うわあああ……お前たち、かかれ!」
『クレモント侯爵』はさきほどの余裕を一瞬で失い、慌てて後退した!
衛兵たちが一斉に押し寄せる。私は空戦の利を活かして回避と受け流しに専念!王都衛兵の腕は、先ほどの警備兵とは比べものにならない!この数を同時に相手取るとなると……
「イサベリアンナさん!俺も加勢します!」
よかった!ヨナさんだ!そうだ、さきほどルミナスさんが密かに彼を癒してくれていたのだ!
ヨナさんが前線に飛び込み、長斧を振り回しながら左側の攻勢を食い止めた!
これで、私は戦いながら詠唱に入れる!
「(詠唱)……『轟雷の衣・第三型』!」
私は個体魔力付与魔法を発動した。『轟雷の衣・第三型』──雷属性を付与し、大幅に速度と反応を高め、さらに通常攻撃に雷属性の効果を与える!一撃ごとに轟雷を走らせ、攻撃距離も殺傷力も飛躍的に増大する!
「おおおおおおああああ……」
六名の衛兵が同時に襲い掛かってきた!だが、全く問題ない!
「『思考加速!』『高・自己加速!』」
そう、これが私のリハビリの成果!長年『空戦槍術』しか使えなかった私が、他の『白羽族』では通常覚醒しない『血統スキル』をいくつも開花させた!今や『魔力付与』を取り戻したことで、『血統スキル』と同時使用でき、その効果を相乗させることができる!これもお嬢様が教えてくれた技だ!
たった一秒で、六名の衛兵が全員倒れ伏した!
「わあ!すごい!がんばって!」
ルミナスさんが声援を送ってくれる!
「ありがとう!全力を尽くします!」
「ぐああああ!」
そして会場のあちこちから悲鳴が響き渡った!お嬢様だ!お嬢様が会場内の数十人の護衛を狙い撃ち、遠距離魔法で攻撃したのだ!
「わあ!あれはパルちゃんとの戦いで使っていた『潜影・黒岩刺錐』の魔法じゃない?」
「そうだ!ちっ、半数は逃げられたな。やはり中には経験豊富な強者も混じっているか。」
「なに?あの女は魔法使いだったのか?おい!俺を守れ!俺はお前たちの主人だぞ!」
『クレモント侯爵』が怒鳴り散らす。
「旦那、このまま立ち止まっていれば狙撃されます!彼女は護衛だけを狙って攻撃しているようです!前に出て挟み撃ちにさせてください!」
「ちっ!よし、お前たち五人であの女を挟め!」
「はっ!」
五名の護衛がお嬢様に向かって突進!それぞれスキルや剣技を繰り出し、四方から挟撃する!
しかしお嬢様は微動だにせず、その攻撃はすべてお嬢様を取り巻く光の壁に阻まれた!
「な、何だと!?」
「魔法障壁だ!俺が打ち消す!」
後方の護衛が腰の短剣を抜き放つ!あれは知っている、魔法を無効化する効果を持つ高価な魔導具だ!
キィン!
「なぜだ!?なぜ壊れない!?」
「護衛さん、あなた馬鹿なの?あたくしの『魔法障壁』をなめないでくれる?」
「なっ!?ぐわああ!」
刹那のうちに、五人の護衛はお嬢様の尖晶石の槍に貫かれ、全員倒れた。
「はやく!はやく!全員でかかれ!お前たち!自分の護衛を差し向けろ!」
「あ、ああ……わ、分かった!全員、行け!」
残っていた護衛・衛兵たちが一斉に突撃し、衛兵指揮官はヨナとの一騎打ちに突入した!
ヨナさんはまるで『狂戦士』になったかのようだ!ルミナスさんの『魂の鼓舞』の奇跡を受け、その猛攻は息もつけないほどだった!
ならば!この衛兵たちを一掃するのは私の役目!残りはどれくらい?全部倒してみせる!
混戦開始!!!私は力いっぱい長槍を振るい、轟雷の閃光を走らせる!目前の衛兵たちを武器ごと打ち砕いた!
「なんだその武器は!?下がれ!距離を取れ!!!」
「無駄だ!」
私は長槍を一閃し、中距離に雷光魔法を放つ!
「ぐあああ!!!」
同時に命中!次は誰だ!!!
「魔法!?詠唱の遅延はどうした!?」
「ただの『白羽族』じゃない!『魔力付与戦士』だ!」
「なに?!命令だ!『対飛行魔物』戦闘陣形!支援班はデバフ!前列は魔抗を上げろ!」
一人の衛兵が号令を発した!おそらくこの隊の副官か?『対飛行魔物』戦闘陣形?一体どういう意味だ?
「了解!」
「『スピードダウン』!」
「『防御力ダウン』!」
「『反応低下』!」
「『攻撃力低下』!」
「『思考遅延』!」
私の動き!?これは状態異常スキル!
後方の衛兵たちの視線を感じる!あれが支援班か?!くっ…ならば…
「(詠唱)……」
刺客のような衛兵たちが一斉に突進してくる!だが、『高・自己加速』と『轟雷の衣』の速度を重ねた今、減速スキルを受けてもまだ動ける!問題ない!
「囲め!行動を封じろ!魔力を消耗させろ!」
私は詠唱を続けながら彼らの攻撃を受け止める!奴らはわざと上段から攻めて、飛翔で距離を取らせない!接近戦に持ち込むつもりか!
仕方ない、長槍を振り続け、轟雷魔法で安全圏を確保する!
「(詠唱)……」
「詠唱を止めろ!」
「『ハイ・刺突連閃』!」
三人の衛兵が同時に別方向から刺突剣技を放つ!!!見える!はっきりと見える!
私を侮るな!
ギィン!ギィン!ギィンギィンギィン!
ズッ──ズッ──ズッ──
ぐっ……ちっ!くそ!減速スキルのせいで完全には防ぎきれない!全身に次々と血の線が走る!だが大丈夫!致命傷はしっかり防いだ!
「集中攻撃だ!」
くそっ!痛みに耐えろ!!!あと少しだけ持ちこたえれば……!
「『聖霊浄化』!」
これは!ルミナスさんの支援!!!状態異常がすべて解除された!
私は速度と反応を取り戻し、長槍を力強く振り抜いて目前の衛兵の武器を弾き飛ばす!
「なに!?支援班!デバフをもう一度!」
「……(詠唱)、『聖露の衣・第二形態』!」
やった!ルミナスさんが時間を稼いでくれたおかげで、ついに詠唱完了!『聖露の衣・第二形態』──自然回復力を大幅に強化し、環境耐性を高める『魔力付与』!
『魔力付与』が一度発動されれば──術者と対象は『リンク』を結び──他の魔法を重ねて施すことができる。同一対象に重ねがけも可能!根本属性で衝突しない限り、術者の能力と対象の耐性次第で三層、四層の『魔力付与』すら可能なのだ!
「叩き潰せ!手早くやれ!」
「『スピードダウン』!」
「『防御力ダウン』!」
「『反応低下』!」
「無駄だ!」
『聖露の衣』の加護によって、私は『轟雷の衣』の力を取り戻した!さらに状態異常耐性も大幅アップ!お前たちのスキルはもう効かない!今度は私の番だ!
「『迅雷縮地』!」
目前の衛兵の隙間を突き、スキル発動!一気に『支援班』の眼前へ!
「ぎゃあああ!!!」
全員撃破!!!そして──背後の奇襲!
私は長槍を横に薙ぎ払い、雷光魔法で三人の衛兵を倒す!さらに……あそこだ!回復魔法使い!!!
…
…
…
「なぜだ!? あいつは何者だ!? 魔法になぜ遅延がない!? 無詠唱だと!? こんな青二才の小娘が?」
「おかしいぞ! さっき…自分をなんと呼んでいた? 彼女は…」
「どうした? たしか『アリシア』とか…」
「『アリ…シア』!? そ、それは『赤薔薇のアイリ』じゃないか!!!」
「『赤薔薇のアイリ』!? あの噂のS級魔導師!?」
「まさか!? この小娘が!?」
「S級魔法使いだからなんだ? 結局は魔法使いにすぎん! 前衛の『白羽族』はすでに引き離した! 前衛を失った魔法使いなど的にすぎん! 数で押し潰せ! 暗殺者は一撃離脱! 魔法の反撃に気をつけろ! 他の者は各自で飽和攻撃! 魔力を消耗させろ! 魔法使い、詠唱開始!」
腐敗貴族に高給で雇われた護衛たちは、やはり並の相手ではなかった! 本来は別々の主に仕えているというのに、一瞬で意思を統一し、見事な連携戦法を展開した!
「うおおおお!!!!!!」
護衛たちが一斉に襲いかかる! だがその攻撃はすべて、領主令嬢を包む光の壁に阻まれた!
「反撃が来る、回避しろ!」
暗殺者型の護衛が一撃離脱で退避し、少女の魔法反撃は急所を外れた。
「もう一度だ! あの障壁を衣服を剥ぐように打ち破れ!」
護衛たちの無情な刃が、領主令嬢の前に広がる光壁へと繰り返し突き立てられる!
「なぜ貫けん!? これだけ攻撃しても!? あいつの魔力は無限なのか!?」
「デバフはどうした? 誰もかけてないのか!?」
「試した! 効かなかった! 知力が異常に高い!」
「やはり只者じゃないな? だが、いくら強かろうと結局は一人。魔力障壁を維持しながら反撃魔法を放つとなれば、魔力の消耗は時間の問題だ!」
「おかしい! 一人足りない! さっきは女が三人いたはずだ!」
「三人? もう一人はどこだ? 隠れているのか?」
「構うな! 手を止めるな! まずはこのお嬢様を倒せば勝ちだ!」
「詠唱完了! 前衛退け! 魔法使い、一斉攻撃!」
(ルミィ、こっちは大丈夫。イシャを助けて。)
(わかったわ、アリネー! あなたも気をつけて!)
護衛たちの火球魔法が一斉に少女の障壁へ叩きつけられる! 轟音と共に風煙と砂塵が巻き上がった!
煙が晴れると…少女の障壁はちらちらと光を放ち、ゆっくりと消えていった!
「消えた! 障壁が消えたぞ!」
「はぁ…はぁ…」
お嬢様は荒い息をつき、疲労の色を浮かべ、立っているのもやっとの様子。それでもなお胸を張り、敵を睨み据えた。
「はぁ……ふ、ふふ、どうした? あたくしはまだいけるよ? 死にたいやつからかかってきなさいよ?」
お嬢様は苦笑を無理やり浮かべた。
「なに? 俺たちの総攻撃を受けても、まだ粘るのか?」
「立つのもやっとじゃないか、魔力切れだ!!! だから強がってるだけだ!」
「そうだ! 虚勢だ! 今ので自白したようなもんだ!」
護衛たちは得意げに、狡猾な笑みを浮かべ始めた。
「じゃあ来いよ、今が絶好の機会だろ?」
そう言いながら、お嬢様は背後から小瓶を取り出した。
キンッ!
閃光が走り、その小瓶は無惨に叩き割られた! 破片と薬液が地面に散らばる!
「え、ええ!?」
お嬢様は一瞬だけ悲鳴を漏らし、自信を失ったかのように怯えの表情を見せる──が、すぐに顔を引き締め、再び敵を見据えた!
「はは! 小細工なんて通じると思ったか? 小娘、俺たちを舐めすぎだな? 今ここで体に穴を三つほど開けてやろうか? もっとも、こんな綺麗な体に傷をつけるのは惜しいけどな?」
護衛の一人が小刀を弄びながら、傲慢に嘲笑した。
「ははは、対峙の最中に薬を飲もうと? 本当に机上の空論だけで育った箱入り娘だな?」
「もう魔力は尽きたんだな。だったら遠慮はいらねえ! 可愛いお嬢様!」
「体が震えてるぞ、悲鳴を上げろ! 俺は女には甘くない!」
護衛たちはじりじりと近づく。
「ちっ、その容姿…まるで罪を誘うじゃないか……俺たちを誘惑しに来たのか?」
「殺すな? だが、できることはまだ山ほどあるだろう!?」
「誰が先に押さえ込むかだ! 俺が一番に可愛がってやる!」
「お、俺だ! こんなの娼館の女よりよっぽどいいじゃねえか! 遠慮なく行かせてもらう!!!」
形勢が有利と見た護衛たちは、下卑た言葉を次々と吐き、欲望を隠さず暴走し始めた!
「俺のものだ!」
「いや、俺のだ!」
「ははははは………」
欲望に駆られた護衛たちが、我先にと一斉に飛びかかった!
「……」
「だから言ったろ……」
「うおおおおおおおおおおおお…………!!!」
お嬢様の足元に十数個の小型魔法陣が輝き、そこから放たれた岩の槍が前衛の護衛を貫き尽くした!
「ぐあああああ…………!!!」
さらに上空の十個の魔法陣からは、尖晶石の槍が飛び出し、四方から突撃した暗殺者型の護衛たちを次々と貫いた!
「ちっ! 馬鹿ども! 罠にかかった! もう近づくな! 遠距離攻撃だ! 魔導師は詠唱を続け、第二波の準備を!」
「わかった! ……うわああああああああ!??」
後方にいた魔導師型の護衛が地面の異変に気づいた!
「広域氷結魔法だ! 退け! 退け!」
「うわあああ! は、速すぎる! う、動けん! ぐああああ!!!!」
十数名の魔法使い型護衛が、生きたまま氷像と化した。
「…ほんの一瞬の油断が命取りになるのよ。」
…
…
…
こうして最後の乱戦に突入し、奮戦の叫びと苦痛の悲鳴が入り乱れた! 私は全身全霊で戦い抜き、そして──!
…
…
…
乱戦は、幕を下ろした。
アリシアお嬢様は最後までその場に立ち続け、無傷なばかりか、一歩も動いていなかった…
…杖すら持たずに、六十名を超える精鋭護衛を打ち倒したのだ。
やはり私のアリシアお嬢様だ。幸い、私も貢献できてお嬢様の期待に応えられた。もちろん、あの衛兵指揮官も最終的にはヨナさんの長斧の前に倒れた。
しかし…
「お前!よ、よよ余計な真似をするな!俺はあの有名な『クレモント侯爵』だぞ!こ、この者たちを倒したからといって、ど、どどどうしたというのだ!お前たちは違法に貴族の私有地へ侵入し、大虐殺を行った現行犯にすぎん!」
何だ?さっきまでは法など無きものとしていたではないか?今になって逆に我々を違法と罵るのか?
「ふ──やっぱりもう救いようがないのね?本気でうちのアリネー…アリシアお嬢様がそんなことも考えられないほど愚かだと思ったの?」
「ど、どういう意味だ……え?」
舞台の側面の扉が開き、十数名の文官風の人物が奥から走り出てきた。
「我々は王都司法部の執行官である!司法部長の命を受け、『奴隷オークション』の捜索に来た!我々は今しがた起きたことをこの目で確認した!」
「司法部だと!?」
成功だ。これがお嬢様の計画の全貌──全てお嬢様の読み通り…あ、ただ『あれ』を除いては……
今回の計画、お嬢様の目的は人々を救うことだけではなく、この『人身売買』の組織に終止符を打つことだった。
彼女はこの者たちの悪行を到底容認できず、未来にさらなる犠牲者が生まれることを望まなかった。
だから彼女は潜入作戦を選んだ。目的は内外から連携し、このクズどもを一網打尽にすること。
──あの日、私たちは潜入作戦の細部を話し合ったのだ。
…
…
…
「適切な役を探さなきゃね…ウェイター…何でもいいけど、イシャは参加できないわ。やっぱり『白羽族』だし、特徴が目立ちすぎるから。」
「でも!お嬢様、私も役に立ちたい…お嬢様を守りたいです!」
「その気持ちだけで十分よ…それじゃあ…」
「待って、アリネー。あなたの計画によると、最初に裏方を制圧する必要があるんでしょ?」
「そうよ。どうしたの?」
「じゃあ、あの素晴らしい『白羽族』の役割がイシャっちにあるってことじゃないか?」
そう、ルミナスさんは言い直し、今では私をイシャっちと呼ぶ。お嬢様は直接イシャと呼んでくれる。その響きは本当に心地いい!でも、私はメイドだから、やっぱりルミナスさんやお嬢様と呼ばなきゃね!
「それって…?確かに…い、いや待って。その役って、イシャはすごくセクシーな格好をしなきゃいけないんじゃないの!?それはちょっと…!」
「違います!あなたたちが言っているのは、私がニコリの代役として出て、競売品になるってことでしょ?それなら大丈夫です!セクシーな格好……恥ずかしいけど、やれます!……直接露出しなければ……」
「それなら…いいわ。衣装のことは…」
「商品としての魅力を備えつつも、過度に露出しないデザインにしましょう。奥様に伝えます。」
「ありがとうございます、ヴィルマさん。」
「伯爵夫人に?」
「ええ。衣装のデザインは全部、アンジェママに任せればいいのよ!」
こうして、私はニコリの代役を務めることに決まった。そして…
「アリネー、私たちはどうする?」
「そうね…できれば舞台に常にいられる役がいいわね…司会?助手?とか?」
「お嬢様にいい提案があります。」
「え?ヴィルマおばさん?どんな提案?」
「ほら、ここに舞踏の演目があるでしょう?ちょうどイサベリが登場する直前に。」
ヴィルマ先生は、私たちが集めたオークションの進行表を指し示した。
「わぁ、良さそう!アリネー、一緒に踊り子になろうよ?」
「それは…時間もちょうど合うし、裏方の仕事とも両立できる…悪くない選択ね…」
「じゃあ、それで決まり〜」
「うん…そうだ、ヴィルマおばさん、その演目って何?」
「バニーガールのポールダンスよ。」
「ば、バババニーガール!!!ポールダンス!!!?」
バニーガール?ポールダンス?それって何?
「どうしたの?アリネー?何か問題でも?」
「そ、それって超絶は、は、恥知らずなことじゃないの!?」
お嬢様の顔が真っ赤!かわいい!いや、待てよ、さっきのってそんなに恥ずかしいものなの?
「え?そうなの?」
「そうよ!!!!あんなことして、あ、あたしたちまだ嫁に行けるの!?」
「露出するの?アリネー?」
「い、いや露出はないけど…ただ…」
「だったら問題ないじゃない、イシャっちだってさっき言ってたよ?この計画のためならセクシーな格好も問題ないって…?」
「そ、それは!!!わ、分かったわ!!!あたしが率先してやらなきゃどうするの!?そうよ!!!あ、あたしだってできる!!!ルミィ!一緒に行きましょ!!!」
「もちろん!で、それって一体どんなの?」
「ルミさん、この本を見てごらんなさい、ここに…」
ルミナスさんは、ヴィルマ先生が本棚から取り出した本を受け取った。
「おぉ…おお…ふふふ……あぁ……」
「どうしたの?ルミナスさん?」
「これ…超絶かわいいじゃない?」
「え!?ルミィ!本気で言ってるの?」
「ん? や、やめやめ! これはエロすぎるでしょ! 恥知らず! そ、そうよ! アリネー、任務が終わったら衣装は全部私に回収させて! 責任をもって処分するから! そうだ……とにかく……私たちはイシャっちと同じように、屈辱に耐えてでも正義のために犠牲になるのよ! それくらい、なんでもないんだから!」
「わ、わかったわ……」
――こうして、アリシアお嬢様とルミナスさんのバニーガール役が決まったのだった。その後、二人は舞の所作を学ぶため、わざわざ専門の指導者まで雇ったらしい。
そして、お嬢様が私たちに告げた。
「ずっと気になっていたの。ドロシーちゃんが言っていた、あの王都から来た冒険者の言葉。」
「えっ、アリネー? あの、ニコリを探していた冒険者のことですか?」
「そう。その人、王都の衛兵に助けを求めたって言ってなかった?」
「うーん……確かに、お嬢様。王都の衛兵、どうも怪しい感じでした。」
「そうなの。考え抜いた結果、王都の衛兵は共犯の可能性が高いわ。」
「じゃあお嬢様、どうするんですか? もう衛兵に支援は求められないんじゃ……?」
「いいえ、それでも報告はするべきよ。必ず彼らを会場に呼び寄せなければ!」
……
……
……
――そう、今日の王都衛兵の裏切りは、すでにお嬢様の計算のうちだったのだ。むしろ彼女が驚いたふりをして放った台詞こそ、全員が共犯者か、それとも『上からの命令で仕方なく動いている』だけなのかを見極めるための罠だった。
最後に必要なのは司法部からの支援。法的な裏付けを得るためには、必ず「公式の証人」が現場にいなければならない。
腐敗しきった王都にあって、司法部だけはまだ腐りきっていない部署だと聞いた。お嬢様は自身の人脈を駆使し、ある『王都の良心』を介し、司法部長に連絡を取っていた――あの日、変装して外出したのは、この最後の切り札を手に入れるためだったのだ。
だから……この計画で唯一の誤算は……ヨナさん。
ヨナさん……あなたに一体、何があったんですか? なぜこんなところに現れたのですか?
……
……
……
「ルミィ、さっきの『巨人族』の方って……あなたとイシャが以前組んでいた仲間じゃないの?」
舞台を離れ、私たちは裏方を抜けて囚われた少女たちが監禁されている地下室へと向かう――。
「そうよ、あれはヨナさん。」
「ふふ……そうだったのね! 正直、天井をぶち破って飛び込んできたときは目が点になったわよ。まさか単独で救出に来るなんて! どうして……?」
「アリネー、あの噂覚えてますか? 『鋭い眼差しの巨人族が睨みつけている』っていうやつ。」
『鋭い眼差しの巨人族が睨みつけている』? どういう意味?
「えっ!? あれのこと!? なるほど、そういうことだったのね! わ、わぁ……それって……」
「な、何ですか!? お嬢様?」
「な、なんでもないわ! イシャ! ヨナさんはわざわざあなたを救いに来てくださったのよ。きちんとお礼を言わなきゃね! せめて一度はご馳走するくらいは!」
「お嬢様のおっしゃる通りです! 必ずそうします!」
地下牢に辿り着くと、そこにはヴィルマ先生と仲間のスタッフが待っていた。
「お嬢様、お疲れさまでした。被害者を外に連れ出してよろしいですか?」
「いいえ、私よりも皆さんの方が大変だったでしょう。ありがとう。ヴィルマさん、計画通りにお願いします。」
スタッフたちが次々と囚われの少女たちを外へ連れ出していく――だが問題は……。
「大丈夫? ニコリ?」
私は一番奥の牢に独りで囚われていた『白羽族』の少女に声をかけた。
「いや……いや……いやぁ……行きたくない……」
呂律の回らない声、全身の震え……そう、舞台裏と地下室を制圧したとき、すでに彼女の精神はこの有様だった。
「アリネー、どうする? このままじゃ無理矢理連れ出すしか……奇跡を使おうか?」
「うん……強引だけど、今はそれが最善ね。ルミィ、お願い。」
「了解です。……『魂の鼓舞』!」
聖なる光がニコリを包み込む……オリシウス様、どうかこの哀れな同胞をお救いください……!
「……」
「……」
「……だれ? なぜ? あなたも同胞……? あなたも捕まったの?」
――よかった! まだ混乱はしているが、ニコリが正気を取り戻した!
「『ニコリ』……『ニコレイタ』。私たちはあなたを助けに来たの。」
「な、なぜ私の名前を……あなたは誰?」
「私だよ! 私は――」
お嬢様が私の肩に手を置いた。……どうして?
「『ニコリ』さん、もう大丈夫。私たちは救出のために来たの。詳しいことは後で説明するから、まずはここを出ましょう。」
「ほ、本当に……?」
「ふふ、もちろんよ。見てごらんなさい、枷はもう解かれているでしょう? 立てそう?」
「あ……う、うん……」
――よかった。お嬢様には必ず意図があるはず。でも、今の制止の意味は……まだわからない。
……
……
……
その後、お嬢様はすべての貴族の犯人に対し、身元確認を徹底して行った。
確認の方法はこうだ。犯人に名を名乗らせ、お嬢様が密かに『嘘判定魔法』を使う。もっとも、この魔法は絶対的な証拠能力を持たない。だが、偽名を口にした瞬間に嘘を暴き、本名を言わせるように仕向ければよい。最終的に真名を得て、すでに逮捕した以上、魔法の信憑性など問題ではなくなるのだ。
その後の護送については、私は詳しく知らない。
ただ――翌日、お嬢様は司法部の人々と共に、犯人貴族たちの王都邸宅に踏み込み、大量の奴隷少女を救出したという。




