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七、二人の冒険

あの日のあと、あたしと冒険者くんは再びパーティを組んで冒険する約束をした。そして今日、あたしたちは前回撤退した『地下城』中層の奥地に再び足を踏み入れている。


「またこの部屋だね、アリシア。」


「そうね。この部屋、階層主の部屋へ行くための通過点みたいな感じがするわ。」


『地下城』の転送門を使って中層へとやって来たあたしたちは――前回の探索で得た地図がまだ有効なことを確認した。


だから最短ルートを選び、転送門からまっすぐ進んでここまで来た。途中の戦闘は数回だけ――あたしが前衛で、冒険者くんがサポート。最速の手段で敵を片づけてきた。


なぜなら、今日の目標は中層階層主。未知の強敵だ。どれほどの時間がかかるかも分からない。だからこそ、無駄な戦闘で時間を浪費するわけにはいかなかった。


「さて、どうする?」


「決まってるじゃない。もう仕組みは分かってるんだし、心配なんていらないでしょ? ドアの外から片づけちゃえばいいのよ。」


「ははは、じゃあ頼んだよ、アリシア。」


ぷっ……ま、また自然に呼んだ……。ほんとこの冒険者くんってば……! こ、これはあたしが頼んだんだけど、あまりに自然すぎるでしょ!?


呼ばれるたびに心臓がドキドキして……! い、今さらやめてなんて言えないし! うん、いいの、慣れればいいのよあたし! や、やはは……。


「アリシア?」


「わ、分かってるわよ! ちょ、ちょっと待って……!」


お願いだから、そんな自然に名前呼ばないで~~~!


あたしは目を閉じ、魔力感知と感覚拡張スキルを発動。感知範囲を部屋の内部へ広げる――見つけた。


位置が変わってる。やっぱり迷宮が召喚装置を修復したのね。さすがは七大迷宮のひとつ。


「見つけた――《スカーレット・ランス》!」


位置が分かれば、あとは《スカーレット・ランス》を二発撃ち込むだけ。

遠慮なく――発射!


召喚装置は粉々に砕け散った。ふぅ……簡単すぎる。あ……ダメダメ、笑いが出ちゃう。抑えて、抑えて……。


「もう終わり? これ……戦闘になってないよね? やっぱりアリシアはすごいな!」


「や、やはは……仕組みが分かれば、こんなの簡単よ。」


うわぁ……うれしい……って、落ち着けあたし! 褒められたぐらいで浮かれないの!


「それじゃ、先に進もう。階層主の部屋はもうすぐそこだ。」


中層の階層主の間――父上に“ひとりで入ることを禁じられていた場所”。戦えないわけじゃない。


父上は分かっていたのだ、もしあたしが階層主を倒してしまったら、今度はそのまま深層へ進んでしまうってことを!


だからこそ、禁じられていた。


でも、今は違う。今は“ふたり”だ。あたしはヴィルマおばさんから正式に許可を得て、この場所に立っている――中層階層主《亡霊の英雄》の前に。


その存在は公会の記録にも残されている。接近戦主体の魔物で、魔法耐性が極めて高く――ほぼ無効化される。


だから、あたしたちは連携戦術を決めていた。


「まずはあたしが突撃する! アリシア、援護を頼む!」


「えっ!? ちょっと!? 気をつけて!」


冒険者くんが先に突っ込んでいった。え、えぇ!? いつもならあたしが先陣なのに!? ちょっと、今日テンション高すぎじゃない!?


まさか、自分の成長を見せようとしてるの!? でも……危ないわよ!?


あたしは慌てて彼の背後に追いつき――


「《スカーレット・ランス》!」


五本の《スカーレット・ランス》を生成し、いつでも援護できるよう構える。


「ふぅ──っ!『超攻擊強化』!『超防御強化』!『超自我加速』!……!」


冒険者くんは疾走しながら、次々とスキルを発動していく。

えっ!?『超超自我加速』!? 加速系スキルまで上位覚醒したの!?


そして――信じられない光景が、目の前に広がった。


黄金の闘気が、冒険者くんの全身を包み込んでいく!? そ、そんな……まさか……!


闘気纏身とうきてんしん!?」


『闘気纏身』――それは戦士系スキルの奥義にして、決して自然に覚醒するものではない!


攻擊、防御、速度――それぞれの上位スキルを修めたうえで、三つを同時に発動しながらの瞑想修行を繰り返し、ようやく到達できる境地!


己の闘気を自在に操り、身体に纏わせることで、肉体能力を飛躍的に高める究極の技!英雄級戦士への登竜門とも言えるその境地を……


『闘気纏身』発動中は、基本能力が飛躍的に上昇するだけでなく、闘気を武器に纏わせることで、剣技の攻撃力強化効果と攻撃範囲がさらに増大する!


なぜ、冒険者くんが突然、会得できたの!?


普通なら、どんな天才でも一年以上の修行が必要とされるのに……!でも、間違いない。あれは確かに『闘気纏身』だ!


あたしも『闘気纏身』は使えるけれど、十二歳のときに習得するのに、一ヶ月も瞑想修行を続けたんだから。今の冒険者君、たった三週間でこんなに成長したのか?はぁ~、どうやら俺、彼を見誤ってただけでなく、過小評価してたみたいだな!


「すごいわ、冒険者くん!」


胸の鼓動が早まっていく。この昂揚感……止まらないっ!


「ガキィン!」


冒険者くんの双剣がぶつかり合う音が響く!


『亡霊の英雄』が巨大な剣を振り下ろす。その一撃一撃は圧倒的な威力を誇るが――冒険者くんはその猛攻を次々と受け止め、呼吸ひとつ乱さず、互角に渡り合っている!?


まさか、中層階層の城主相手にここまで冷静に……!しかも『闘気纏身』を発動した今、彼は――『亡霊英雄』と互角!?


こ、これはもう……あたしの出番、ないんじゃない!?


三週間でここまで……!『闘気纏身』だけじゃない、剣術も格段に上達してる!


ならば――あたしも本気でいかせてもらうわね!抑えきれない!作戦、変更!


「『闘気纏身』!魔装解放!」


あたしは闘気を纏い、自身の『術式魔装』へと注ぎ込む。第二形態――『紅刃クリムゾン・ブレード』解放!十二の眷属――赤い蝙蝠たちが、闘気を纏って空へ舞い上がる!


「冒険者くん!作戦変更よ!」


「了解!」


『亡霊の英雄』の猛攻をいなしながら、冒険者くんは即座に退避。あたしの攻撃範囲を確保してくれる。


「殲滅しなさい!」


紅刃蝙蝠たちが一斉に突撃!


刃の群れが『亡霊の英雄』の身体を切り裂き、鎧の隙間から青い燐光があふれ出す!


「グォォォォォォ!!」


呻き声と共に、奴の肉体は無数の傷を負っていく。でも――その膨大な魔力が、まだ身体を動かし続けている!無差別に大剣を振り回す『亡霊の英雄』。けれど、あたしの眷属にそんな攻撃は通じない!


「まだよっ!」


ふふっ、どう? 『闘気強化』を受けた紅刃蝙蝠の攻撃――実戦で使うのは初めてだけど、やっぱり『亡霊英雄』みたいな戦士型魔物には効果抜群ね!


「グオォォォォォ!!」


奴が回避行動を取り始めた――ならば!


「冒険者くんっ!」


言葉を発する前に、冒険者くんはすでに『亡霊の英雄』の懐へ飛び込み、動きを封じていた!ああ、なんて賢いの! 完璧な連携ね!


冒険者くんが敵を拘束、あたしが攻撃指示を出して紅刃蝙蝠たちが連続斬撃――少しずつ、『亡霊の英雄』の体力を削っていく!


「グォォォォォォアアアアアア──────ッ!!!」


突如、『亡霊の英雄』は大剣を一周振り回し、耳をつんざくような咆哮をあげた!その周りに約20個の召喚魔法陣が現れ、どうやら眷属を召喚するつもりらしい!どうやらHPが半分以下になると発動する第二段階の行動のようだ!


「させるかっ!」冒険者くんが突撃!


「『詠唱破壊えいしょうはかい』!」


あたしも魔力操作の奥義を発動――魔法の詠唱を直接妨害する!


「グ、グオォォォォ!」


干渉成功! 召喚陣のうち十四が消滅、残った六つからのみ魔物――『死霊重鎧』が現れる!


「またお前たちね!」


今回は容赦しないわ!


「アリシア、任せた! 迷うな!」


冒険者くんが『亡霊英雄』の猛攻を受け止めてくれる――その間に!


「『魔装解放』――『夢幻樂園ファンタズマ・パラディス』!」


私はもう後がない。すぐに頭の中で魔法陣を描き、魔装解放の別の形態、『夢幻楽園』を発動した…この名前はあたしが付けたものじゃないけど、とりあえず以前使った巨大な手の変換魔法を使うんだ。眷属を呼び戻し、それを無数の巨大な『赤い手』に変換する。


「砕きなさいっ!」


赤の巨手が死霊重鎧の頭部を掴み――壁へ叩きつけ、そのまま頭蓋と魔晶石を握り潰す!


「ナイスだ!」


「ふふっ? おかしいですねぇ? そんな眷属――わたくしの前ではただの鉄くずですよ?」


「グオォォォォォ──ッ!!」


『亡霊の英雄』が挑発されて狂ってしまったのではない?もちろん違う。それは召喚された眷属が片付けられた後、次の段階に進むための流れだ。でも、君の思い通りにはさせないよ〜。


「捕まえてっ!」


赤の巨手が一斉に動き、『亡霊英雄』の動きを封じる。退避を強いられ、巨剣を乱れ打ちして抵抗するが――


「冒険者くん! チャンスを作ったわ! 大技を準備して!」


「了解ッ!!」


冒険者くんが構える――あの姿勢は……!双手剣剣技『溜め斬り・一文字斬り』の構え!


闘気を削り続けて力を溜め、一気に放つ渾身の斬撃!しかも今は『闘気纏身』状態……威力は数倍、いや、それ以上!!


「捕まえたわね?」


あたしは階層主の動作の硬直時間を見極め、巨手を操る……よし、掴んだ!武器を握っている右腕を固定成功!


だけど、すごい力……! 来なさい、どっちが上か、勝負よ――!


「くっ、ぬおおおおおおおおっ……!」


全身の魔力を一気に巨手へと流し込み、力で押し返す……他の手も! 十本の巨手で右腕を完全に拘束! そして――! 左腕も捕縛成功!


「はぁぁぁぁっ!! 今よ、冒險者くん!!!」


「はあああああああああああっ!!」


冒險者くんが一気に突進――『溜め斬り・一文字斬り』!!


鋭い閃光が走り、『亡霊の英雄』の魔晶石を真っ二つに断ち割った!


次の瞬間、地鳴りのような音と共に、深層への扉が開く音が響く。さらに――『討伐の証』。戦闘、完全に終了!


「やったわ!! 冒險者くん!! すごいじゃないの!!!」


興奮のまま駆け寄るあたし。だけど――突然、膝が力を失った……しまった、魔力を使いすぎた!?


「きゃっ!」


その瞬間、彼が――伸ばした手であたしを支えてくれた。あ、ああ……心臓が、また――。


「アリシア! 大丈夫か?! お、俺が抱えてあっちで休ませる!」


床は先ほどの戦闘でボロボロ。座る場所なんてどこにもない。……え? ちょ、ちょっと、ま、待って!? な、何してるの!?


冒險者くんは、ためらうことなく――あたしを抱き上げた。


「えええええっ!? ひゃああああああっ!?」


私は言葉を失った。な、なにこれ!? 全身が火鉢のように熱くなってきた。ど、ど、どうしよう!? ま、まさかこんな急に!『お姫様抱っこ』!!!???あたしは、全然心の準備ができてないよ!!こ、こんなこと、……してからするべきじゃないの!?」


「あ、あたし平気! お、おろして……!」


抱えるか、抱えないか…混乱して、頭が真っ白になった…気づいたら、もう部屋の隅に抱きかかえられて座らされていた。そして彼も、すぐ隣に腰を下ろす。


「……もう少し近くにいてくれる?最後に魔力を使い過ぎて、少し疲れちゃった。何かに寄りかかりたいの。」


「……わかった。」


「うん!❤」


あたしはそっと彼の左肩に頭を預ける。すると彼は、まるで石像のように固まって――顔を真っ赤にして、前を向いたままピクリとも動かない。


……ふふっ、なんか……可愛い。


いや、ちがう! 可愛いじゃなくて……その……おもしろい、かな? うん、おもしろい!


三週間で、彼は信じられないほど成長した。今日の彼は、頼もしくて、安心できて、そして……眩しかった。


『闘気纏身』を自分の力で会得して――もう、深層でもきっと大丈夫。いや、もしかしたら――あたしのことも、守ってくれるのかも?


そうなったら、もっと一緒に冒険できる……!


ううん、違う。もう嬉しすぎて言葉にならない。鏡があったら、今のあたし、絶対ニヤニヤしてる。


や、やばい、恥ずかしい……でも、止まらないっ!!よかった、彼、顔そらしてるし……!


……


……


……


はぁ、はぁ……ようやく落ち着いてきた。なにか話そう。そうだ――


「今日はお疲れさま、冒險者くん。本当にすごかったよ! また一段と強くなったね。疲れたでしょ?」


頭はまだ彼の肩の上……べ、別に意味はない。ただ、ちょっと疲れただけだから!


「いや、そんなに疲れてない。」


「ふーん、カッコつけちゃって。『闘気纏身』を維持してたのに、疲れないわけないでしょ?」


「……『闘気纏身』?」


「そう、『闘気纏身』!」


「『闘気纏身』?それって何のこと?いや、わかってる、あれは英雄級の戦士が使う技だよね?でも、それって…俺に関係あるの?」


「うん?」


「俺、それを? う、嘘だろ……え、え? ま、まさか……あの感覚がそうだったのか……? 俺、習得してたの?なんで?」


「えっ? まさか気づいてなかったの?」



「高級加速スキルを覚えたばかりでさ……全部の強化を同時に使ったら、なんか、体が軽くなって、呼吸も動きも妙に静かで……力が増してる気がしたんだ。」


「それは強化スキルの効果じゃないんだよ、実は『闘気纏身』の効果なんだ。『強化スキル』と『闘気纏身』はどちらも闘気を使った技だけど、『闘気纏身』はもっと制御可能なんだ…つまり、スキルの制限を突破する技だよ!詳しく説明してほしい?」


うんうん、『闘気纏身』はかなり奥深いんだよ、もっと詳しく教えてあげるね?


「いや、説明は後でいい。君、もう立つのもやっとだろ? 今は休め。」


「え、あ、う、うん……そうね、そうする……」


あれ、もしかして心配してくれてるのか…?あ、心配してくれてるんだ!嬉しい…!


「で、でもさ……この三週間、何してたの? どうしてそんな急に?」


「中層の魔物を一人で討伐してたんだ。君と一緒に戦った経験をもとに、冷静に、慎重に、でも集中して……戦ってるうちに、気づいたら自然と身体が動いてた。いつも通り、夢中で。」


「夢中で……?」


――それは、まさしく『無我の境地』。

修行せずに、自然にそこへ至るなんて……彼、まさか最初から……!?


「そういえば、変なことがあって。この前瀕死だった俺を君が助けてくれた後、しばらく妙に体調が良くてさ……なんか、健康的? みたいな?」


「健康的? って、どういう意味?」


「うん、なんか……体力の回復が速くて、睡眠も少なくて済むようになったんだ。しかも、前よりずっと元気で!」


な、なにそれ……まさか!?


「数日経ったら、スキルや魔法の発動も滑らかになっててさ。魔物にぶつかっても、傷の治りが早い気がする。君が言ってた“戦闘中ずっと回復魔法がかかってる感じ”に近いかな……無意識に魔法使ってたのかも?」


「そ、それは……ま、まさか……!?」


――『自我再生』!?ちょ、ちょっと待って!? それって……あたしの血、あたしの魔力の影響――!?


あの日、彼を救うために──あたしは、すべてを賭けた。

失血があまりにもひどかった彼を助けるには、もはや他に方法がなかったの。


だから、あたしは自分の血を彼の体内に注ぎ込み……その血を媒介として魔力を流し込んで、新たな血液を生成したの。さらに、あたしの血に宿る《自我再生》の力を利用して……ようやく、彼の命をつなぎ止めることができたんだ。


けれど──他人の魔力なんて、普通は二、三日もすれば消えてしまうはず……なのに、彼の話を聞く限り、確かに数日で消えたみたいだけど……その後も影響が残ってるって、どういうこと!?


「ま、待って……ちょっと見せて!」


「えっ?」


あたしは思わず、冒險者くんの左腕を掴み、魔力感知を行った。

……感じる。ほんの、ほんのわずかだけど……間違いない。これは、あたしの魔力!な、なんで消えてないの!? あたしの魔力……あたしの血が、まだ冒險者くんの体の中に……!?


──あ、あたしの血が、彼の体に残ってる!? こ、これは……まさか《血の絆》!?


う、うああぁぁぁ──っ!? な、なんで顔がこんなに熱いの!? な、何考えてるのあたし!? ちょ、ちょっと血を分けただけじゃない! そ、それだけなのに……!


ああああ! 血だよ!? あたしの魔力だよ!? あたしの一部だよ!? うああああ──っ!!


「アリシア!? な、なんか様子おかしいけど!?」


「ん、んんっ……げほ、げほっ、大丈夫、大丈夫よ! 冒險者くん、あなたは全然正常!」


落ち着け、あたし! 冷静に、冷静に!


「そ、そうよ! だ、大丈夫だもん! それで……」


……ん? なんか、今度は彼の様子が変?


「ちょっと、冒險者くん。今、何考えてるの?」


「な、なんでもないっ! なんにも考えてないっ!!」


うそつけー! この人!


「おかしいなぁ……ねぇ、こっち向いて、ちゃんとわたしを見てよ!」


「む、無理だ! 近すぎるっ!!」


「えっ!? ええっ!? きゃっ!? ちょ、ちょっと──!?」


あ……い、いけないっ! 魔力を感じ取ることに夢中で、あたし……冒險者くんの左腕を胸の中にぎゅって──!?


ああああ──っ!! ちょ、ちょっと待って、は、恥ずかしいっ!! も、もうどうしよう!?


で、でも……ここで動いたら、余計変に見える!? だ、だったら……


「うぅ……疲れちゃった。少しの間だけ、こうして……寄りかからせて。」


何気ないふうを装って、そう小さく呟いた。腕は離さず、ただ頭を少し下げて……そっと、彼の肩に凭れた。


……思考が、止まった。体が熱い。この感覚は、きっと魔力を使いすぎたせい。『精神力低下』の症状よ、うん。絶対それ以外じゃない……!


「わ、わかった……」


……


……


……


しばらくして、ようやく立ち上がり、スカートの裾を軽く払う。あ、そうだ──『赤い巨手』がまだ動いてた。


「戻って!」


『赤い巨手』は粉のように崩れてわたしの体へと戻り、第一形態──《装備形態》へと変化した。


「ねぇ、冒險者くん。これがあたしの秘技、《術式魔装》。これは中・遠距離戦をサポートするために、あたしが独自に研究して生み出した魔装具なの。

魔力を消費して発動するけど、普通の魔法と違って実体を持っているから、発動後も消えないの、それで魔力を補給……。ま、まぁ、これ以上の仕組みとか、開発過程は……絶対秘密よ?」


ごめんね、冒險者くん。これが言える限界。あなたがただ興味を持って聞いてるのはわかってるけど、これ以上話すと……あたしの《血統魔法》に触れちゃう。


「すごい! そんな技術、聞いたこともない! でも、どうして今まで使わなかったんだ?」


「今まで、他人の前では使ったことがなかったの。でも、あなたは特別。もう二度も見られちゃったし……。これからもっと難しい場所に挑むなら、隠してる余裕もないもの。……うん、あなたなら信用できる。秘密は守ってくれるでしょ?」


……彼になら、少しくらいあたしを知ってもらってもいいよね?いや……違う。あたしが“彼に”知ってほしいだけ、なのかも。


「安心して! 約束する。誰にも、一言たりとも話したりしない!」


その言葉に一片の嘘もない。やっぱり、あたしの知ってる冒險者くんだ。ふふっ……なんだか嬉しい。


「この《術式魔装》には満足してるけど、欠点は制作に時間がかかること。

量産なんて無理だし、使えるのもあたしだけ。前のセットはもう使い切っちゃって、今のは予備なの。」


「アリシア、君って本当にすごいね。近接戦闘では《闘気纏身》、魔法では独自開発の《術式魔装》。代理領主の仕事も完璧だし、農場や市場で自ら動いてる姿を見れば、一目瞭然だよ。」


「け、けほっ……は、はは、何でもない、ちょっとしたことさ!あたしの魔法戦闘スタイルは『術式魔装』だけじゃないんだよ!」


うぅ……褒められた。嬉しいっ! 冒險者くんに褒められたっ!


も、もう少し褒めてくれてもいいのよ? ……な、なんでもない! 努力が認められて嬉しいだけ! 相手なんて関係ないんだからっ!


「君は聡明で、努力家で……それに」


うんうん! もう少しだけなら、聞いても──


「……え? それに……なに?」


「それに……見た目も、すごく綺麗で可愛い。」


「えええ────っ!?!?」


わあああ!? は、初めて……初めて言われた! “可愛い”って!う、嬉しいっ!! ……ちがうっ、ちがうちがうちがうちがうっ!この人、なんでそうやって真顔で言うの!? もう! あなたってほんと、天然タラシなんだからっ!!


「ふんっ! そんな手には乗らないんだからっ!」


ぷくっと頬を膨らませ、つま先で彼の足を軽く小突いた。


「え? なに?」


「ふんっ!」


……


こうして、あたしたち『地下城』の中層探索は終わった。次は──まだ誰も踏み入れたことのない深層。しっかり、準備しなくちゃね。


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