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二十二、前進する方向

パルお爺ちゃんの説明を聞いた後、あたしはルミィと一緒にアスランくんの部屋の前まで駆けつけた。


コンコンコンコンコンコンコンコンコンコン……


ルミィは素早くドアを何度もノックした。


「お兄ちゃん!今すぐ開けろとは言わないけど、あなたの勝手な行動はもうバレてるのよ。おとなしく降参しなさい!」


「アスランくん!あなたでしょ?いいえ、やっぱりあなただ!あたしたちはもう確信してるんだから!」


ドアが開いた。


「降参って何さ、ルミ?それにお孃さま、またそうやって問い詰めるのか?何のことを言ってるのか教えてくれよ。」


「言い逃れは無用よ。中に入ってから話を続けましょう。」



あたしたちはソファに座り、アスランくんはベッドの上に腰掛けた。


「焦らないで。もともと君たちに隠すつもりはなかったんだ。でも……まずは、ごめんと言わなきゃな。」


まさか、アスランくんがこんなにもあっさりと認めるなんて、思ってもみなかった。


「えぇ──?お兄ちゃん、まさか本当にあれをやったの?あの警備を一人で突破したって!?」


「一人じゃないって!あの反則級の『魔像』であるパルお爺ちゃんがいたからできたんだよ!俺には『認知妨害魔法』なんて使えないし!」


「つまり…アスランくん、どうやってそれをやったの? あの報告書って一体どういうこと?」


「だから言ったじゃないか。パールじいさんを上着の中に隠して、『認知妨害魔法』を使ってもらったんだ。『潜伏』スキルの欠点──“見られてはいけない”──という制約を補うことで、皇宮の外壁の遮蔽物がない場所でも『潜行』『潜伏』『潜行』の連続コンボが使えるようになったんだよ。」


「まるで伯爵様と戦った時みたいに?」


「そうそう。理屈は同じさ。でも、俺自身に魔法の才能がないから本来なら無理なんだ。だから成功したのは、完全にパルお爺ちゃん──この反則級の『魔像』のおかげなんだよ。」


「それは違うわ。」


「どういう意味? アリネー?」


「皇宮外壁の侵入防御システムは、そんな単純なものじゃないの。設計者は冒険者の能力上限や、潜伏系スキルの組み合わせ効果、さらには種族適性まで計算して設計してあるのよ。」


「ははっ……最初はちょっと手こずったけど、パルお爺ちゃんがいてくれて助かったよ。」


「だから違うって言ってるでしょ! こ、これは……!」


「どうしたの? アリネー?」


ああ……胸が高鳴って止まらない。うれしくて……うまく言葉が出てこない……。


「これはアスランくん、あなた自身の様々な能力が組み合わさって初めて成し遂げられたのよ! アスランくん! あなた、三秒で百三十メートル走ったんでしょ!? そんなの、普通の人間にできると思う!?」


「まあ、それは……アリシアだってできるだろ? 『闘気纏身』を使えば。」


「あ、あたしには『潜行』スキルなんてないわよ! それに、あなたの『潜行』は三秒間! 三秒って、記録上の最長発動時間じゃない!」


「そうだね! たしかほとんどの人は一~二秒が限界だったよね? アリネー?」


「そうよ! しかも皇宮の監視範囲は直線で二百六十メートルもあるのに! あなたはパルお爺ちゃんの『認知妨害魔法』と『潜伏』を組み合わせて、その距離を半分に縮めたのよ! 一体誰に教わったの!? それに、どうして皇宮の監視装置の設計や配置方法なんて知ってるの!?」


「えっとね……方法はたまたま思いついただけなんだけど、情報の方は……あ、そうだ、これ見て。」


アスランくんは引き出しから一枚の書類を取り出した。


「大哥哥? これなに? 『クズ野郎調査報告』?」


ルミィ……? 表紙をそのまま読んだだけで、よくもまあそんな絶妙な置き換えができるね……。


「そう、それの写しだよ。俺はこれの正本をマリア王女に提出したんだ。」


あたしとルミィは報告書を開いた。……内容は整然としていて、専門家が作成したものだと一目でわかる。後半を読み進めるにつれ、あたしは理解した──これこそが、あの結果を導いた材料なのだと。


「なるほどね、アスランくん。この報告書、どこで手に入れたの?」


「もちろん合法的に情報屋を雇って集めてもらったんだよ! 安くはなかったけどな……。でも、やっぱりプロの仕事は違うね。正本にはちゃんと裁判所の認証印まで押してあるんだ。驚いたよ!」


「情報屋って……いくらかかったの?」


アスランくんはホリーさんとバンナさんのことを簡単に説明してくれた。なるほど、そういうことだったのね。バンナさん、なかなか組織力のある人のようだわ。今度ぜひ一度会ってみたい。……でも、アスランくんはどうしても金額を教えてくれなかった。しかも、あたしが代わりに払うのも拒んで……。あなたって、普段は無駄遣いなんて絶対しないのに……。ああ……あたしのために、いったいどこまでしてくれるの?


そのあとアスランくんは行動の細部を丁寧に説明してくれ、ようやく全体の計画が見えてきた。……彼はどれほどの時間と労力を注いだのだろう。


「とにかく……やり遂げたのね。アスランくん、本当にすごいわ。」


「やはは、褒めなくていいって。とにかく結果オーライだったし、それでこの話は…」


アスランくんは何事もなかったかのように立ち上がって話を打ち切ろうとした。そんなこと、させるわけにはいかない!あたしはルミィに視線を送った。ルミィもあたしを見返してきた。うん…


あたしたちは同時に立ち上がり、正面からアスランくんに突進し、それぞれ片側から──


「な、何してるの!?お二人とも!?」


「ルミィ!」


「了解!アリネー!」


勝手な行動をしたこの男を力強くベッドに押し倒した!さらにそのまま飛び乗って、彼の腕を押さえつける──


え!?ルミィ、あなた、腕の上にそのまま座ってるの!?!?


こ、これが幼なじみの距離感ってやつ!?!?


な、ならあたしも負けていられない!あたしも乗る!身体で彼を押さえ込む!


あああ!アスランくんの腕、ちょうど……ちょうどあたしの下に……!


ダメ!ルミィができるなら、あたしだってできる!


「きゃっ!」


彼の腕がそこでちょっと動いた!ダメダメ!変な顔しちゃダメ!負けを認めるな!


「な、何これ!?お孃さま!?ルミ様!?」


「やっぱり、まだ懲らしめが足りなかったようね?お兄ちゃん!」


「誰が勝手な行動を許したって?アスランくん?」


「ま、まままってくれ!たとえそうでも、腕の上に乗るのは、ちょっと、いや、すごく危険だと思うんだけど!?」


「そ、そうよ!あ、あなたの腕、動かさないでよ!動いたら、私、叫んじゃうから!お兄ちゃん!」


うわああああ!!!口ではそう言ってるのに、ルミィの顔、真っ赤っかじゃないの!あたしももう限界!頬が熱すぎて煙出そう!


「そ、そ、そうよ!ア、アアスランくん!これで動けないでしょ!おとなしく罰を受けなさい!」


「ば、罰って何さああああ!?」


そう!罰よ!罰って何?なんであたしたち、アスランくんを押し倒してるの?思い出した!前にあたしが押し倒された時の仕返しよ!これは報復!


「お兄ちゃん、こうして微動だにせず、じっと耐えるのよ!どう?動きたいでしょ?誘惑に耐えきれないでしょ?その理性と欲望の狭間で、しっかり反省しなさい!」


わわわ!「理性と欲望」!?ルミィ、それ女の子が言っていいセリフ!?!?


「ご、ごめん!俺が悪かった!勝手に計画なんてすべきじゃなかった!一緒にやるべきだったんだ!そうだろう!」


「わかったのね!アリネーの調子が悪かったのは別として、なんで私まで外されたのよ!」


「そ、それはお前を巻き込みたくなかったからに決まってるだろ!?あそこに潜入してバレたら、簡単には済まされないんだ!お、俺は『ルリ』まで犯人扱いされるのを絶対に避けたかったんだ!」


「『ルリ』!!!きゃっ!」


ルミィはアスランくんに『ルリ』と呼ばれた瞬間、気が緩んで「きゃっ」と声を上げてしまった。もうルミィは戦線離脱だ!ここからはあたしの出番!


「でもあなたは!?そんな危ないことして!もし何かあったら、あなたを心配してるあたしたちはどうなるのよ!?」


「わかってるさ!でも君のために!君を助けたくて!危険を冒すことなんて、どうだってよかった!この数日、君のこと見てて、どれほど胸が痛んだか、わかるか!?」


「な、なななに言ってるのよぉぉぉ!?」


こ、こいつ、言うことがいちいち反則じゃない!?あぁぁ!体に電流走ったみたいなこの感覚は何!?


「だからさ、これは仕方なかったんだ!ちゃんと計画は立ててたし、無茶はしてないよ!」


「ア…アリネー!み、見て、見てよ…!」


「ルミィ?見て?どこを?」


「あ、あそこよ…」


ルミィは恥ずかしそうに目を閉じて、彼女の左後ろ──つまりあたしの右後ろを指さした。


なっ!なにあれ!?!?


「ぎゃあああああ!!!!!!」


「見るな!早くどいて!て、手出すぞ!?」


「ひゃあああ────」


あたしとルミィは驚いてベッドから飛び上がった。こ、これが…『アレ』ってやつか?


あたしたちがその場から退いた瞬間、アスランくんはすぐに手を引っ込めてベッドから飛び降り、床に立って、あたしたちに背を向けて正座の姿勢になった。


「ご、ごめん、そんなつもりじゃなかった。本当に反省してる。次からは、ちゃんと話し合って決めるよ!」


…………


30秒ほどして、あたしとルミィもようやく正気を取り戻した。


「こほん、お兄ちゃん…わ、わかってくれればいいのよ。次はないんだからね!」


「そ、そ、アスランくん、あなたがあたしのためにやってくれたのはわかるけど、でも危ないことを勝手にやっちゃダメよ!」


「わかったよ!」


「そ、そ、それじゃあ…償いとして、もう一度…皇宮に連れて行ってよね。」


「えぇぇぇぇ!?」





全ては、アスラン君があたしたちを背負いながら──しかも助走を除いた三秒間で二百六十メートルを走り抜けてくれたおかげ。


しかも今回はルミィの『魂の鼓舞』による五倍の闘気強化と、『聖殿』で風圧を防いでいたのだから……。


狂ってる。あれはもう、人族の歴史に残る記録じゃない?


そして、あたしはようやくマリに会うことができた。


また借りができちゃったね、アスランくん。……あなた、いったいどこまであたしを甘やかすつもりなの?





休息日。


『婚約の脅迫』事件が一昨日、正式に取り消されてからというもの、あたしはずっと計画書の処理に追われていた。

とはいえ、ちゃんと食事も睡眠も取っているし、皇宮にも行って自分の務めは果たした。


でもね……あたしは、働き続けなければいけないの。


時間が足りないとか、そういう理由じゃない。


だって……


休んでいても、食事中でも、お風呂に入っていても、ベッドに横になっていても──


少しでも頭を止めたら、心臓が跳ねて、胸が熱くなって、興奮が全然止まらなくなるんだ!


ああああ────


うれしい……本当にうれしい……アスランくん。


あなたは今回の事件で、あたしの心の支えになってくれただけじゃなく、あの集会の時には陰であたしを救ってくれて、


そしてあたしに自分自身を見つめ直させ、本心と向き合わせてくれた……。


それだけでもう、あたしは十分に舞い上がっていたのに……まさか、あの『婚約の脅迫』事件まで、あなたが完璧に解決していたなんて!?


──はぁ……。


好き……大好き……本当に大好き。

あなたみたいに、こんなにも優しくしてくれる人、どこにいるのよ……。


でも、わかってる。


あなたみたいな人は、たとえあたしのためにあんなことをしてくれて、どれだけの時間や労力を費やしてくれても──


それが『愛』を意味するわけじゃない。


あなたはよく言ってた。『アリシアは俺の恩師で、命の恩人でもある』って。

きっとその恩義だけで、あなたは火の中でも水の中でも飛び込める人。


だから……あなたは、どれほどあたしのことを想ってくれているの?


あなたの優しさは、愛情なの?


それとも……ルミィが言ってたように、心の繋がりみたいなもの?それとも、あたしのただの思い上がり?


あたしが『恩人』として、あなたに越えてはいけないことをして、迷惑をかけているだけなの?


ああ────


ルミィを見るときの、あなたの眼差し。あたしは見逃してなんていないわ。


それは自然と溢れる、温かい想いのこもった視線。まるで本当の家族のようでいて……それ以上の、深い感情がそこにある。


『保留する!』──あの日、ルミィがあなたに告白したとき。


確かに彼女の誘いに乗せられた形ではあったけれど、あなたは『保留する』と、即答した。


『妹としてしか見ていない』なんて言葉ではなく。


つまり──あなたは最初から、ルミィを妹として見ていなかった。


じゃあ、それは何?


当然、とても大切で、もしかしたら好きな女の子として見ていたんじゃないの?


そしてあの夜……ルミィと語り合って、あたしは自分があなたを好きだと認めて、『公平な競争』って約束までした。


それなのに──あなたの曖昧な態度。あれが本当にわからないの。


もしかしたら、あたし、この『恩人』の『自惚れ』に気を遣って、ルミィの想いに答えなかっただけなのかもしれない。


けれど、あなたは何度もあたしを甘やかして、何度もあたしを見透かして、

そして何度も、あたしに自分の本心と向き合わせてくれた。


……どうしても、好きにならずにいられない。抜け出せない。


たとえあたしが、ただ“恩を盾にして甘えている”だけだとしても──。


ああ────


もう考えるのはやめよう!


アスランくんは、もう十分すぎるほどあたしに与えてくれた。あとは、彼自身がどうしたいかを決める番。


たとえ……ううん、たとえどんな結末になっても──あたしはそれを受け入れる。


そうよ、アスランくん。


あなたがくれたものはもう十分。


あなたがそばにいてくれるだけで……


たとえ恋人になれなくても、あたしは一生、幸せだと思える。


うん。


ようやく、心が決まったみたい。





そして今日。たしかに休日ではあるけれど、休めるわけじゃない。午前中はやっぱり仕事をしていた。


そんな中で、アスランくんがあたしとルミィを午後の市へ誘ってくれた…うん、多分あれね?以前言っていた『話したいことがある』ってやつ。


だから、あたしたち三人は久しぶりの『デート』をすることになった。


町を歩くあたしたちに、冬の冷たい風は思っていたほど刺すようではなく、むしろ正午の陽射しが肩にやさしく降りそそぎ、ちょうど良い心地よさを感じさせた。前回一緒に買い物に出かけたのは『収穫祭』のときだったから、もう二ヶ月近く前になるのね。


時間が過ぎるのは本当に早いけど、それ以上に色んなことが起きた。


ルミィとアスランくんの再会と告白。


『エスコタ』の魔物暴走事件。


『地下城』の完全攻略。


そしてあの『政略結婚』に関する一連の騒動。


今振り返ってみると、この半年──アスランくんと出会ってからのこの半年──まるで夢のようで、幻のように感じる。


アスランくんとルミィが現れたことで、運命に縛られていたあの少女は、今や世界を変えようと決意するあたしになった。


……大好き、本当に大好きよ、あなたたち。


それはそうと、アスランくん、あなたがあたしたちに話したいことって何なの?最初はあたしにだけ話すつもりだったのに、今はあたしたち二人に同時に話すの?あなたの決断なの?もう答えは出たの?


ドキン、ドキン……


そんなことを考えるだけで、胸の鼓動がどんどん激しくなっていく。


前は本当に怖かった。アスランくんが選ぶのはルミィなんじゃないかって。でも、今は少しわかった気がする。たとえそうなっても、もう素直に受け入れられると思うの。


あなたたち二人からもらったものは、もう十分すぎるほどだもの。もし二人が将来一緒になるなら──ふふっ、想像しただけでお似合いだと思うよ……。


後ろ姿のアスランくんが、元気いっぱいのルミィの手を引いて……ああ、きっと『ルリ』って呼び戻すんだろうね。歩きながら笑い合って、時々軽くじゃれ合って……うん、それもまた一つの幸せな風景なんじゃないかな。


もしよければ……ううん、どうせ二人はあたしを友達として、姉のようにそばにいさせてくれるんでしょう?それだけでも、もう十分幸せだよ。


あたしは街西の小川沿いの柵にもたれながら、山に沈みゆく夕陽を眺めて、その未来の光景を想像していた。まさか、笑顔で想像できるようになるなんて。


あたし、本当に変わったんだな。ありがとう、ありがとう。


「お兄ちゃん、遅い~!」


ルミィが横のベンチに座って、文句を言い出した。このベンチ、あの日ルミィがあたしたちに告白した時のベンチでもある。アスランくんがここを選んだの、偶然なんて信じられないわよ?


目の前のルミィを見つめて……え?ちょ、ちょっと待って?


「ルミィ、なんか……気のせいかな?髪の色、どう言えばいいんだろう?なんか急に青くなったような?」


「そうだよ!見て、これが本来の髪の色なの!ここに来てから、元の髪色が少しずつ戻ってきたんだ!今はもう半分くらいが琉璃色に戻ってるの!」


「えっ?いつの間にそんな……!?すごい!うん……もしかして、アシランくんと再会してから戻り始めたとか?」


「うん!絶対そうだよ!」


うわぁ……それは驚きだな。


「アシランくん、気づいてた?」


「うん、月初めの頃にはもう気づいてたよ。」


「えっ?あ、あたし全然気づかなかった……ごめんね……」


「何言ってるの、アリネーは毎日私の顔見てるんだから気づかなくても当然だよ?それに、この二週間いろんなことがありすぎたしね?」


「う……そうかも……」


アシランくんのほうがあたしより細かいところに気づくのか、それともルミィ――いや、『ルリ』のことをあたしよりもずっと気にかけているのか……たぶん、後者なんだろうな。


「うぅ……お兄ちゃん、まだ帰ってこないの?」


「もう少しだけ待とうか。本人は“お菓子を買いに行くだけ”って言ってたけど、どうせぬいぐるみ屋とか寄ってるんでしょ。仕方ない、待つしかないよね?」



「はは、ルミィ、もうちょっと待ってあげよう?口では『お菓子み物買いに行く』って言ってたけど、ぬいぐるみ屋で何か買ってるとかじゃなければね?」


「そうだよね?さっき嘘ついてなかったよね?アリネー?」


「うん、嘘じゃなかったよ。だから、たぶんサプライズとかじゃないかな。」


「じゃあ、お腹壊したのかな?」


「え?あ、まあ、なくもないかも。あはは。」


「それとも、この辺に来たら、ぬいぐるみ屋の女店主さんと逢引したくなるのかな?」


「え?女店主!?お姉さんじゃなかったの?」


「そう、そのお姉さんが店主かもしれないよ。」


「そ、そんな!まさか…まさかまさか、ちょっと年上で落ち着いたタイプが好きってこと!?」


「や、やめてよアリネー!それ、ずっと気にしてたの!?」


「あ、あたしが知るわけないでしょ!でもルミィのお兄ちゃん、落ち着いてて、スタイルも良くて、ちょっと年上の人が好みかもよ?」


「ス、スタイルもいい!?やばい!アリネー、魔法教えて!私も大きくなりたい!」


「もう、気にしなくていいってば!」


「ど、ど、どうしよう…そうなるとシャーロットって、まさにお兄ちゃんのタイプなんじゃ…!?」


「えぇ──!?マジで!?」


「おや、アリシアお嬢様、ルミィ様、お待たせしました。ちょっと並んだだけなのに…何話してたんですか?なんか怪しい雰囲気になってるし、『大噓つき』の話まで出てたような?」


「な、なにもないよっ!」


アスランくんはあたしたちにお菓子を手渡してきた。


「ごめん、そんなに時間かけるつもりはなかったんだけど、あのお店、新作のお菓子が出ててさ。すごく人気らしくて、並んじゃった。でも、すごく美味しいらしいから、買ってきたよ。食べてみて?」


うぅ…やめてよ、そんなに優しくしないでよ。嬉しすぎて、泣きたくなるじゃない。


「あっ、あぁ、これすごい!すごく美味しい!アリネー、食べてみて!」


「え!?ほんとだ!?」


「じゃあ、行こうか。」


「ん?どこ行くの?アスランくん?」


「ちょっと郊外を歩こうと思って。まだ時間あるし…ってか、冬の日没、早すぎない?」


「やはは、ちょうど冬至も過ぎたから、日照時間はこれから少しずつ長くなるよ。」


「そうなんだ?アリネー、物知りだね!」


「ふふ、それは農民の知恵よ。」


「だよね、『アリシアちゃん』。」


「うぅ──からかわないでよぉ。」


「からかってなんかないよ、褒めてるんだって。君が『アリシアちゃん』って知られたときの、みんなの反応忘れた?領民のアイドルって言っても過言じゃないよ。」


「うぅ…」


あなたって、いつもそう。優しくしてくれるかと思えばからかってきたり、そして無意識のうちに、真心のこもった言葉をかけてくれる。そのせいで、心がぐちゃぐちゃになるの。


あぁ……好きすぎて、困る。


あたしたちは笑いながら歩き、アスランくんに連れられて城外へと足を運び、ゆっくりと歩いて──たどり着いたのは『あの場所』だった。


「わぁ、綺麗…」


湖面はまるで鏡のように静かで、冬の夕陽に照らされ、金色の波紋がきらきらと輝いていた。ルミィも思わず声を上げて感嘆した。


「うんうん、本当に綺麗だね。」


アスランくん、あたしたちをここに連れてきた目的は何?こ、ここはあたしたちが約束した場所じゃないでしょう?


「ゴホン…太陽もそろそろ完全に沈んだし、二人とも寒くない?」


「ううん、大丈夫。」


「ははっ、私も!問題ないよ!」


アスランくんは湖を背にして、あたしたちの方を向いた。


「それじゃあ……どこから話そうか。アリシア、満月の夜のことから始めようか?」


「うぅ……もうそんなに重要じゃないけど、言いたいなら言っていいよ。」


「じゃあ……やっぱり言わないでおこうかな。」


「ええっ!!!お兄ちゃん!知りたいよ!」


あっ、そうだった。これはルミィも知りたがってたことだった。


「そっか!じゃあ、簡単に説明するよ。」


アスランくんは、あの満月の夜にあたしが『夢遊病』で彼女のベッドに行ってしまったこと、そしてあたしを『布団巻き』にして部屋に戻してくれたことまで……さらには、あたしが夢遊状態で彼の首にしがみついて離れなかったことまで、細かく話してくれた。


聞けば聞くほど、恥ずかしくて穴があったら入りたいくらいだった。ルミィは隣で静かに聞いていたけど、あまり反応はなかった。あたしが恥ずかしいって分かってるのかな?


でも、肝心なところを言ってない気がする。


「お兄ちゃん、肝心なところは?」


「肝心なところ?」


「その騒動が、どうしてあなたを変えたの?どうして優しくなったの?」


「それはね、アリシア、言ってもいいかな?」


「いいよ。あたしも知りたい。もう恥ずかしいことは散々言われたし、今さらだよね?」


「本当に?じゃあ、約束どおり全部話すよ。」


「うん…」


「君は俺のベッドに座って、こう言ったんだ…」


「『アスランくん…なんで、あなたなの?なんで、あたしにあなたを会わせたの?』」


あたしは息を整えながら、心の動揺を抑えようとした…


「『あたしはとっくに…受け入れてたのに…政略結婚の宿命を…』」


心臓がバクバクして止まらない…


「『もう…戻れないのに…苦しいよ…あたし…』」


息ができないような気がした…


「『ずっと…あなたのそばにいたい…あたし……』」


わ、あたし…!あたし…、何て言ったの!?最後に何を言ったの!?


「それで、終わりだった。」


「ええええええっ!!!!」


「最後の一言は、はっきり聞こえなかったんだ。」


あたし…、体が完全に脱力した。あたし…、いったい何を言ったの?さっきのって…告白?…じゃないよね?じゃあ何!?ていうか、アリシア!あんたのこの体質、危なすぎるでしょ!?満月の夜はテンション上がるだけじゃなくて、落ち込むと夢遊病まで発動!?しかも彼のベッドに行って!勝手に心の内を全部ぶちまける!?あたし…、プライバシーとかまだあるの!?あたし…のイメージ、もう完全に崩壊じゃん!?きゃ──────!


「アリネー、お顔が真っ青だよ?」


「そ……う……ね……気……に……しないで……」


「お兄ちゃん!アリネーが灰になっちゃうよ、どうしよう!?」


「アリシア!大丈夫!?アリシアちゃん!?世界を変えなきゃいけないんでしょ!?戻ってきて!?あ、そうだ!ルミ!『魂の鼓舞』!!」


「うん!『魂の鼓舞』!」


聖なる光に包まれて、ようやく正気に戻った気がした。


「え?あたし…、どうしたの?」


「アリネー、戻ってきた!?びっくりしたよ!」


「や、やだ、あ、あたし何してたの?」


「何でもないよ!さっきお兄ちゃんが話したこと、私たちもう知ってたし!恥ずかしがらなくていいよ!」


「な、何のこと?」


「あの夜言ってたことだよ!言葉にしなかっただけで、お兄ちゃんはずっと分かってたんだよ!だから恥ずかしがらなくていいの!」


「ほ、本当?」


「はは、本当だよ。でもね、君が実際に言ってくれたからこそ、俺も覚悟を決められたんだ……だから、あの夜は運命のいたずらってことで受け入れて?とにかく、あの夜がなければ、今こうして解決することもできなかったから。」


「そ、そうなの?」


「うん!そういうこと!じゃあ、『満月の夜』については、これで全部かな?もう終わりにしよう?いい?」


「う、うん…」


そ、そうかも…やっぱりあの夜のことがきっかけで、アスランくんはあたしに対してもっと優しくなったんだ…


「じゃあ、次は俺から君たちに伝えたいことがある。」


そう!それが本題!言って、言って、言って!あたし、もう心の準備できてる!


「分かりました、どうぞ。」


「うん、お兄ちゃん、言って。あたしも準備できてる。」


結局どうなるの?あなたの選択は?


「ふぅ──」


アスランくんは深く息を吐いた……


「俺は…」


何?誰のこと?言って……


「『魔境』に行きたい。」


えぇ!?


「ええええええええええっ!!???」



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