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十九、命運之日(中編)

あたしはベッドに座り、部屋のすべてを見渡した。


ここを離れるのか?


もしかしてあたしは、根っからの甘やかされて育ったお嬢様なのかもしれない。自分一人で生活するなんて、身の回りのことを全部自分でこなすなんて、できるはずがない。メイドのお姉さんたちがいなければ、あたしは何一つできない。家のこともできないし、料理なんて一度もしたことがない。


やっぱりあたしは、ただの何の取り柄もない箱入り娘なのかもしれない。家の力がなければ、あたしはただの無価値な存在なのでは? 一日中、自分しか使えない魔法や魔法装備、魔導具の研究ばかりして、冒険者の身分だって裏で用意されたもので、ちゃんとした『能力テスト』を受けたことすらない。


本当にあたしは愚かで思い上がった馬鹿な女だったのかもしれない。ただ、お父様とお母様と一緒にいたかっただけなのに、どうしてこんなことになったんだろう。婿養子の話なんて、もうどうでもいいから、せめてここに住み続けて、毎日お父様とお母様に会えればそれでよかったのに。


お父様とお母様がアスランくんにあたしを連れて行かせて、新しい生活を始めさせようとしている? でも、こんなあたしが? 何もできないし、何もわからないあたしが、アスランくんについて行ったところで、足手まといになるだけじゃない?


あたしは『トマトくん』を抱き上げて、表面を優しく撫で、布の繊維を整えた。


それから『トマトちゃん』も抱きしめて、ベッドに横になった。


「アスランくん……」


あなたはあたしにこんなにも優しくしてくれたのに、あたしはその優しさに値しない。


あたしは、何の取り柄もない、思い上がった愚かな女にすぎないのに。





あたしはまだベッドに横たわっていた。乾いた涙の跡が頬をくすぐって、あたしは手を伸ばして軽く拭った。


「アスランくん……」


コン、コンコン。


「どなた? どうしたの?」


どうやらあたしは、気配を察する気力すらなくなっていたようだ。


「俺だ。少し会えるかな?」


アスランくん……どうしたの?


あたしはドアに向かって手を振り、魔法のドアロックを解除した。


「どうぞ、鍵はもう開けたわ。」


扉がゆっくりと開いた。


「アリシア? ルミが君の様子がよくないって言ってたから、様子を見に来たんだ。大丈夫か?」


あたしはもう一度ドアに手を振って、扉を閉めた。魔法ロックが「カチッ」と音を立てて自動で施錠された。


あたしは今、ベッドに横たわったまま。しかも、今着ているこのドレスの素材だと、扉側から入ってきたアスランくんには、きっと少しだらしない姿が見えていると思う。でも、もうどうでもよかった。あたしは淑女なんかじゃない。ただの何の取り柄もなくて、憐れむ価値もない馬鹿な女なのだから。


「アスランくん……」


あたしは起き上がらなかった。顔を見ることすらできなかった。目はただ、空っぽの天蓋の布を見つめていた。


「どうしたんだ? アリシア?」


「あたしって、何の取り柄もない人間じゃない?」


「どうしてそんなことを?」


「だって、家事もできないし、料理もできない。メイドのお姉さんたちがいなければ、きっと着替えることすら難しいわ。」


「そう? 着替えなんて、練習すればすぐできるようになるさ。」


「家の後ろ盾がなければ、あたしは何者でもない。世に出せない魔法研究しかしてこなかったし、冒険者の身分も偽物で、『能力テスト』すら受けたことないの。」


「身分は偽物でも、実力は本物だろ? それで十分だろう。」


「あたしは……結局、思い上がってたのよね? 婿養子を受け入れていれば、今まで通りお父様とお母様に毎日会えたのに。そうでしょう?」


「そうだな。」


「やっぱり、あなたもそう思うのね?」


「いや、同意したわけじゃない。君の言ってることが間違ってないと言っただけさ。」


「違いがあるの? 正直、今は頭が全然働かないから、そんな言葉遊びには付き合えないわ。」


「ごめん、それならはっきり言うよ。これ以上、自己憐憫に浸るなら、俺もルミィも君のことを放っておく。今すぐ荷物をまとめて出ていくよ。君はここに残って、嫁げばいい。」


「うん、わかった。それがあたしの運命なら仕方ないわ。あなたたちは幸せになって。いつか結婚する時には、式に呼んでね。」


あたしは何を言ってるの? あたし、何を口走ったの?


「了解! じゃあこれでお別れだ。今まで半年以上、世話になったな!」


怒ったのね……アスランくん……またあたし、あなたを怒らせてしまった……。あんなに優しくしてくれたのに……結局、あたしはまたあなたを傷つけてしまった……。そ、それでもいいのよ……あたしなんか、あなたに優しくされる資格なんてないんだから……。


扉が開いて、閉じる音がした。アスランくんの気配も消えた。アスランくんは……本当に行ってしまった。


アスランくんは……本当に、あたしの前からいなくなった。


あたしは……本当に、アスランくんを失ったんだ。


「うっ……ひくっ……ああああ────!」


あたしは大声で泣き叫んだ。使用人に聞こえてもいい。廊下の向かい側の客室にいるアスランくんやルミィに聞こえてもかまわない。もう何も考えられなかった。思考すらできなかった。ただ、果てしない悲しみが心の奥底からあふれ出してくる! 痛い! 苦しい! 泣きたい! もう自分を抑えられない!


「うっ……ひくっ……ああああ────!」


「やだ……やだよぉ……!」


「ひっく……やあああああ────!」


「ひとりにしないでぇ……お願いだから……」


「あああああ────あああああ────あああああ────あああああ────!」





どれだけ泣いたか、もうわからない。けれど、あたしはまだ泣き止めなかった。


「痛いか?」


「痛いっ!すごく痛い!苦しいよっ!」


え?誰……?


「どれくらい痛い?『迷宮の王』に挑んで負傷した時よりも痛いのか?」


「比べものにならないくらい痛い!すごく辛いよ!」


幻聴……?


「どうして?あの時は重傷だったのに?」


「だって、あなたたちがいたから!全然怖くなかったもん!」


それとも夢……?


「じゃあ、なんで俺たちを見捨てようとしたの?」


「いやだ!見捨てたくなんかない!絶対に見捨てたくない!それが一番辛いんだよ!」


違う!?これは……!


「──ああっ!!」


残っていた力を振り絞って、あたしはベッドの上で身を起こした。目の前に見えたのは──


「アスランくん?!?」


アスランくんは静かに床に座っていた。


「やあ──ようやく起きたか?」


「あ、あたし……ま、また『潜行』であたしを騙したの?!」


「正解!実は出て行ってなんかないよ。『潜行』で出ていくフリをして、そのまま『潜伏』で床に座ってた。君が起き上がりさえすれば、すぐに俺が見えるはずだったのに……ずっと動かずに泣いてるばかりでさ。もう声をかけないとどうにもならなかったんだ。」


「や、やあ……」


さっきまでの出来事を思い出すと、もう言葉も出なかった。そ、そうか……アスランくん、ずっと……ずっとそばにいてくれたんだ……!


嬉しい、嬉しい、嬉しい!もう何もかもどうでもいい。


「ルミの言った通りだったな……」


アスランくんは立ち上がり、あたしの前まで来て、顔を近づけてきた。


彼は、無言のまま、あたしの腕をガシッと荒々しく掴んだ!ど、どうしたの!?


「ほんと、教育が足りてないな。」


「きゃっ!」


そして、そのままあたしをベッドに押し倒した!さらには……あたしの上に跨ってきた!!!な、なにが起こってるの!?ゆ、夢……まだ夢の中なの……!?


「いつまで独りよがりで、自分を捨てるつもりだ!?」


彼は体を屈めて、あたしの顔に顔を近づけた。


荒々しい動き、冷たい声……怒ってる!アスランくんは、あたしを見捨ててなんかいなかった!むしろ怒ってくれてる!こんな彼、初めて見た!あの時の演技よりもずっと激しい!!あ、あたし……!


あたしは抑えきれずに、両手を伸ばして──


アスランくんの頭を抱き──


顔を寄せて──


……


あたしは、深く、彼にキスをした──アスランくんに。


……


……


……


「はぁ、はぁ……少しは落ち着いたか?」


アスランくんは少し息を切らせながら、あたしの顔に頬を寄せて優しく囁いた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……うん、ちょっとは……」


初めてのキスの余韻が頭の中で渦巻いていて、頬が熱くて仕方がない。何も考えられない。息を切らしながら、やっとのことで答えた。


あたしは手を離したが、アスランくんはまだあの危ない体勢のままだった。


「じゃあ決めろ。逃げるか、戦うか。」


「ふふっ、それは『迷宮の王』に挑んだ時の質問でしょ?」


「ああ。まだ力が残ってるのに、諦めて逃げるって、本当にそれでいいのか?」


「今のあたしは違う。たとえ力の差があっても、必死に戦うよ。そう教えてくれたのはあなたでしょ?それがあたしがあなたに惹かれた理由。あなたのその勇気、あたしはずっと持ってなかった。でも今は……あなたからもらった。」


「そうか。それなら、俺はもう──」


「もう一度だけ……もう一度だけでいいの、あなたの勇気をちょうだい?」

挿絵(By みてみん)

あたしはまた手を伸ばし、もう一度、深くキスをした──あたしが愛してやまないアスランくんに。


……


……


……


「まだ昼間なんですけど!?夜じゃないんですけど!?ご飯の時間なんですけど!?イチャイチャしてる時間じゃないんですけど!?!」


「まだ昼間なんですけど!?夜じゃないんですけど!?ご飯の時間なんですけど!?イチャイチャしてる時間じゃないんですけど!?!」


「まだ昼間なんですけど!?夜じゃないんですけど!?ご飯の時間なんですけど!?イチャイチャしてる時間じゃないんですけど!?!」


部屋の外からルミィの声が聞こえてきた。


さっきの騒ぎで来たに違いない。


うぅ……あたしの上に跨るアスランくんを見て……は、恥ずかしいっ!!でも!もうあたしは違う!あたしは……ちゃんと向き合う!もう、勇気を持てたから!


「アスランくん、ルミィを迎えに行こう。きっとびっくりさせちゃったよね。」


「ん?ああ、行こうか。手を貸そうか?」


アスランくんはベッドのそばに立ち、そう言って手を差し出してくれた。


「ふふっ!お願い!」


あたしは再び彼の手を取り、ぎゅっと握って、ようやくベッドから立ち上がった。





あたしは扉を開けると、そこには顔を真っ赤にしたルミィが立っていて、じっとあたしたちを見つめていた。


「ルミィ、そんなに焦らないで、あたしたちは……うぐっ!」


ルミィは頭で思いっきりあたしのお腹に突撃してきた!


「うっ…ルミィ……な、何をしてるの…?」


「ふんっ!アリネー!さっきの話、なんとなく聞こえちゃったんだから!これはおしおきよ!本当はお兄ちゃんだけにするつもりだったけど、今日は我慢できなかったの!自分で治しなさい!」


「ううっ、わ、わかった、ごめんね…ハグしてもいい?」


「ふんっ!もちろんよ!」


ルミィはまたぎゅっとあたしを抱きしめてくれた。ごめんね、あたしは本当に弱虫なの。あなたたちと比べたら、まるで温室で育ったお嬢様みたい。でも、今は違う。だって、あなたたちがあたしのそばにいてくれるから──。





正午、伯爵邸宅のダイニングルームにて。


「お父様、お母様、あたしはもう決めました。どうか、あたしの考えを聞いていただけませんか?」


あたしは、父と母に真剣に自分の思いを伝えるつもりだ。


「どうした、もう決まったことだ。私たちが君を守ると言っただろう?まだ何か言いたいことがあるのか?」


お父様…分かっています。でも、あたしはもう逃げません。


「あたしは、ちゃんと伝えたいんです!あたしの本当の気持ちを!どんな決断をされても!受け入れられなくてもいい!それでも言わなきゃいけないんです!」


父と母は驚いた様子だった。きっとあたしの口調が失礼だったのかもしれない。でも、もうそんなことどうでもいい。


「あたしは戦います!ここに残って、皆さんと一緒に戦います!一人で逃げたりなんかしません!」


そう、あたしは言い切らなければならない!


「アリシア、お前の幸せは私たちが守ると、言ったはずだ。」


「そうじゃないの!あたしの幸せは、あたし自身で守るものなの!それが、あたしの本当の幸せ!」


そうよ!ちゃんと言葉にしなきゃ!心の奥の想いを!


「アリシア…」


「あたしの幸せは、あなたたちと一緒にいること!そして、大切な人と共にあること!あたしはこの領地の皆の笑顔が見たいの!民が平和に暮らせるようにしたい!善を讃え、悪を罰し、正義を貫きたいの!!!」


笑顔…アスランとルミィの笑顔が、あたしを励ましてくれる。ありがとう、ふたりとも!


「娘よ、それは…つまり、さっき言ったことを全部やるつもりか?」


「はい!お父様!お母様!あたしは分かったの!本当に自分が何を望んでいるのか!あたしはとんでもなく欲張りな人間だったの!選びたくないの!全部欲しいの!!!」


「お前の言いたいことは分かった。しかし、全部やり遂げると言うなら、どうするつもりだ?まず、この縁談をどう処理するつもりだ?」


「拒絶します!全部はっきり断ります!友好の証?和を乱す?上下関係?『皇帝の祝福』?そんなの全部嘘です!全部無視します!!」


「その結果、どうなるか分かっているのか?」


「戦争です!『ヴァンダーホルト家』は大義名分を掲げて、あたしたちを討伐しようとするでしょう!でも…」


「本当に戦争になったらどうするんだ?」


「でも!間違っているのはあっちです!あたしたちは反撃します!これは領土防衛戦です!言葉巧みに誘導されたりはしません!民が信じているのはあたしたちです!民の生活を守るあたしたちなんです!」


「それで…?」


「まだ話は終わっていません!戦争が始まったら、あたしは『ヴァンダーホルト家』の主力軍を、最速かつ最も直接的な手段で爆撃します!あたしがそれをできるって、あなたたちなら分かってるでしょ!」


「ふむ…それで、その後は?」


「『ヴァンダーホルト領』の首都の横に、でっかい穴を開けてやります!あたしの『手のひらの太陽』で!」


「『手のひらの太陽』?それは何だ、アンジェ?」


「それはあなたの娘が開発した広域殲滅魔法よ、アリシア。まだ理論段階じゃなかったかしら?」


「もう『地下城』で『迷宮の王』との戦いに使ったよ。威力は完璧!直径一~二キロの大穴を空けるのも問題なし!この魔法で戦略的な制圧を行うつもり!」


「その『手のひらの太陽』が本当に画期的な兵器なら、戦争の形そのものを変える可能性があるし、死傷者を最小限に抑えられるかもしれない。本当なのか、アンジェ?防御結界や魔法無効化領域には?」


「ふふっ、あなた、自分の妻が誰か忘れたの?アリシア、『手のひらの太陽』は物理攻撃よね?」


「うん!詠唱さえ完了すれば、魔法無効化領域なんて関係ない!」


「なるほど。それなら『手のひらの太陽』を秘密兵器として温存するとして、第二の攻撃手段はあるのか?」


「『地下城』の迷宮で手に入れた『烈焰の女王』の装備がある!あの装備を使えば、『煉獄・ファイアボール』一発で一個師団を壊滅できる!さらに、改良すれば魔法無効化領域にも対抗可能!」


「アンジェ……君は娘を一体どう育てたんだ?彼女の魔法はどれも、俺の常識を根底から覆してくる。」


「私が教えたんじゃないわよ。アリシアは我が家に千年に一人の血統適性を持って生まれたの。彼女の知識も能力も、全部その血筋から来ているのよ。私はあんなに凄くないわ。」


「君自身、何度も俺の常識を更新してきたけど……今度は娘がそれを上回るのか。」


「そうよ。」


「お父様!あたしは『ヴァンダーホルト』の経済中枢、兵器工場、補給線の制圧方法を何度もシミュレーションしてきました!!ご希望があれば、複数の適切な作戦案を提出できます!」


「おお~、見てよ、我が娘を軍事専門家に育て上げたのは誰だろうね?」


「……物事はそう理想的にはいかないぞ。『ヴァンダーホルト』が降伏せず、最後の一兵まで戦うと言ったらどうする?」


「『ヴァンダーホルト』が降伏しないなら!あたしは戦場で彼らの兵士をすべて爆破します!それが戦争です!命は尊い、でもあたしは手加減しません!」


「手加減しないだと?君はまだ一人も殺したことがないだろう。」


「はい、あたしは誰も死なせたくない。でも今は分かりました。何を守るべきか、何を排除すべきか。戦争が始まれば、あたしが躊躇すれば死ぬのはあたしたちの兵士と領民なんです!」


「言うのは簡単だ。だが、自分が殺しに夢中になってしまうことが怖くはないのか?」


「怖いです!でもあたしは一人で戦うわけじゃない!お父様!あたしはあなたの無敵の槍!どこで収めるべきか、どこで振るうべきか、あなたが教えてください!無意味なことはしたくない!『『神の民』』から生まれた魔王になんてなりたくない!」


「その覚悟があるのか?戦争を知らず、屍の山も見たことがないのに?」


「あります!あたしはもう分かったんです!これは自分のためじゃない!あたしの『大義』が何なのか、はっきりと!」


「『大義』だと?」


「体制を変えるんです!今の貴族優先の制度を改める!貴族間の政略結婚の慣習をやめさせる!貴族の築いた閉鎖的なサークルを壊す!平民との階級差を無くす!腐敗した貴族たちがこの制度を利用して民を苦しめるのは、もう許せません!」


「娘よ!自分が何を言っているのか分かっているのか?その主張をするだけで、国全体を敵に回すことになるぞ!?」


「あたしは婚姻を拒否すると同時に、この主張を掲げます!戦争になるなら、我らは独立を宣言します!」


「な、何を言っているんだ!?」


「お父様!今の皇帝は正統性がなく、言動も乱れ、無能です!間違ってますか!?不満を持つ他の領主たちと手を結び、王都の腐敗の事実を集め、公表すべきです!」


言っちゃった!そこまで言っちゃった!あたしはもう正気じゃないのかも!


「おまえ…」


「皆知っているはず!『征服王』──『オーガスティン・ドラクリヴィラン』こそが『カシン』第一の血統『ドラクリヴィラン』の正統な後継者!今の皇帝の父、前皇帝は陰謀で王位を奪った!国民の生活が豊かならまだしも、でも実際の王都は、貴族以外の民はどう暮らしているか、知っているでしょう!?」


「アリシア、どうしてそんなに多くのことを知っているんだ?王都の様子も把握しているのか?我々、君をそんなに王都に連れて行ってないはずだが?」


「それは今の皇帝の実妹──『マリア王女』が書簡で教えてくれたんです!彼女はずっと悩んでいて、経済をどう立て直すか、民生をどう改善するか、ずっとあたしと意見交換していたんです!」


「あなた…うちの娘、知らぬ間にこんなにも成長していたなんて…」


「娘よ、おまえ『征服王』についても調べたのか?普通の書物ではそんな詳細な記述はないはずだが。」


「はい。だって、それはお父様が仕えた前の主君で、お父様が唯一心から忠誠を誓った君主でしょう?もちろん興味あります!」


お父様の視線が一瞬だけアスランくんに向けられた。なぜ……?


「では、おまえの主張は?『ドラクリヴィラン』こそが正統ということか?今の皇帝を倒すつもりなのか?」


「違います!あたしは『ドラクリヴィラン』にはもう後継者がいないと知っています!あたしは正統性を主張したいわけではなく、皇帝に腐敗問題と民生改善を直視してもらいたい!必要なら、『マリア王女』を女王として支持します!」


言えた!全部言えた!アスランくん、あなたの勇気、ルミィ、あなたの純粋な善悪観、それがあたしを変えてくれた!あたしに自分自身と向き合わせてくれた!


「それがあなたの『大義』なのですね?」


「アリシア…本気なのか?その道を選べば、多くの命が失われることになる。それに耐えられるのか?」


「耐えられます!アスランくんがいれば!ルミィがいれば!アスランくんはあたしの勇気!ルミィはあたしの良心!そうでしょう!」


「アリネーの言う通りだよ!私、最後まで付き合うから!」


「俺も、問題ないよ。」


ありがとう!大好きなあなたたち!


「娘よ!おまえの言っていることは、もしかしたら間違っていない…!だが、そんな重い責任、本来おまえが背負うべきものではないんだ!」


「ノブレス・オブリージュ。」


「……」


「それはお父様、あなたがあたしに教えてくれた言葉です!!!あたしは料理もできない、家のことも何もできない、日常生活すらメイドさんに頼り切った温室育ちのお嬢様です!でも、あたしはあなたたちが教えてくれた知識を持っている。圧倒的な戦闘力も、家系の記憶からくる、常識を覆す知識と力もある!だからこそ、この力には責任が伴うのです!!!あたしは自分の人生を賭けて、この世界を変える!『神魔戦鬥』の呪いを終わらせます!!」


アスランくんが目を大きく見開いて、あたしを見つめている!ごめんね!あなたの目標を勝手にあたしの目標に組み込んじゃった!あとでちゃんと謝るからね!


「アンジェ!!!アリシアは何を言ってるんだ!?それって君たちの家訓に反するんじゃないのか!?」


「家訓?そんなの、私はアリシアに教えたことなんてないわよ。あれは先祖たちの傲慢にすぎないわ。それに、ノブレス・オブリージュって言葉は、あなたが彼女に教えたものでしょう?」


「どうしてこんなことに……」


「あなた、これがすべて運命の導きだとは思わない?あなたと私の出会い、アリシアの誕生、あなたの家柄、私たちが教えてきた信念、彼女の持つ才能、そしてルミちゃんと……アスランくんがここに現れたこと、すべてが『『神の民』』に変革をもたらすために仕組まれたようじゃない?」


「そ、それは理想論に過ぎないだろう。」


「あなたは『アスランくん』の存在まで偶然だと思う?そうかもしれないし、そうでないかもしれない。とにかく、今うちの娘はああなってしまった。あなたは彼女を否定するの?それとも支えるの?」


「アンジェ……俺に選択肢があるとでも?」


「お父様!!さっきのことは、あたしひとりの力では到底できません!だから……お力を貸してほしいのです!助けていただけますか?!」


「お前の目指すものは、もう分かっている……アリシア。俺は全力でお前を支えよう。思うままにやってみなさい。ただし……俺はこの地の領主であり、何よりお前の父親だ。何をするにしても、俺の名の下に行うこと。責任はすべて、俺が負おう。」


「お父樣……あたし……そんなこと……」


「気持ちは分かっている。しかし、これはお前ひとりの戦いではない。

お前の幸せこそが、私たち家族全員の幸せだ。だからこそ──その幸せを、共に守ろうではないか。」


「そうだよ、アリシア。私たちは家族なんだから。」


「うん!ありがとう、お父樣!ありがとう、お母樣!」


「目標が定まったなら、一歩一歩、慎重に進むことだ。無謀な行動は禁物だぞ……後悔しないようにな。」


「それから……ルミナスちゃんとアスラン、今聞いた話はね、うちの娘の妄想に過ぎないんだから、君たちが責任を感じる必要はないよ……」


「そんなことありません!伯爵様、アリネーは私のお姉ちゃんです。たった一人の家族なんです。私は絶対、彼女の味方でいます!」


ルミィ!


「本気でそう思っているのか?君は『オリシウス中央聖教会』の神官なんだぞ、それが何を意味するか分かっているのか?」


「お父様、どういう意味ですか?」


「『オリシウス中央聖教会』とは、『人族』最大の保守派勢力だ。改革に反対し、『征服王』の反乱にも関与していたと言われている。」


「知っていますよ。伯爵様、アリネーに教えてもらいました。」


「ならば、それでも君はうちの娘の味方でいると?」


「どうしていけないの?」


「なっ?!」


あはは、お父様とお母様、呆然としてる。これがルミィのすごいところ。


「私が信じているのは『オリシウス』そのものであって、『オリシウス中央聖教会』ではありません。」


「どういう意味だ?!」


「私が信仰しているのは『オリシウス』の教えです。無私で平等な愛、善悪を見極め、善を賞し悪を罰する理念、感謝の心と大地への敬意。それらは教会とは関係ありません。むしろ、教会が『オリシウス』の教えに反するのであれば、教会の存在意義はありません。」


「こ、これは……娘よ、どんな友達を作ってきたんだ?!」


「お父様、すごいでしょ?ルミィ、ほんとにすごいでしょ?神官なのに、教会のしがらみに全然縛られてないんだよ!」


「ははは!それが本来あるべき姿だよ!もしアリネーが道を踏み外したら、その時は私がビシッと正してあげるからね!」


「ふふ、それは心強いわ!」


「アンジェ…俺はもう無理だ、後はお前に任せる。」


「ふふ、あなた、今の娘の姿をしっかり見てあげて。それじゃあ次は……アスランくん!」


「はいっ!伯爵夫人!」


「あなたはどう?アリシアのそばに残って、彼女を支えていく覚悟はあるの?」


「もちろんです!」


「さっき彼女が語ったあの目標を聞いても?」


「はい!むしろ、あの目標だからこそ……彼女の目標は、俺の目標とも重なっていたんです!ずっと無力だった俺が、もう一度その目標に手が届くかもしれないって思えたんです!」


「えっ?どの目標なの?」


「『神魔戦争』を終わらせることです!」


「あなた、聞いた?これが運命の導きでなくて何なの?」


「ふん。坊主、お前、自分が何を言っているのか分かっているのか?どうやってそれを成し遂げるつもりだ?」


「『人族』の王となり、『『神の民』』同盟の盟主になることです。今のうちに、魔王が準備を整える前に先手を打って、魔境に攻め入るんです!」


「お前が!?『人族』の王になるって?」


「まさか!俺は平民の出ですから、王になるなんて無理です!でも、今はアリシアがいます!アリシアが女王になるってわけじゃありません。皇帝と関係を築くんです。さっき言った通り、『王都の良心』──『マリア王女』を支持して、彼女を女王にする。そして次の段階へ進むんです!とにかく、これがアリシアの目標なら、俺は彼女のそばでずっと支えていきます!」


『王都の良心』?アスランくんも『マリア王女』の異名を知ってたの?王都のことなんて一言も言ってなかったのに?


「アンジェ……娘はこの半年で、どういう友達を作ってきたんだ?一人残らず極端すぎるぞ……」


「ふふ、私はいい子たちだと思うけどね。」


「わ、分かった。じゃあ坊主……アスラン、お前は『征服王・オーガスティン』を知っているか?」


「はい、少し前に資料を読んだことがありますし、アリシアからも聞きました。」


「なら、その結末も知っているな?」


「知っています。でも、彼は間違っていなかったと思います。」


「…そうか。では聞こう。『征服王』の信念とは何だ?」


信念?お父様、どういう意図?「魔族への反撃、魔族を滅ぼす」じゃないよね?それはスローガンであって、信念ではない。アスランくん、分かるかな?





「分かりました。それは『運命改変』です。自らの力で運命の束縛を打ち破ること。つまり、腐敗や古き慣習を打ち壊し、革新と変革をもたらすということです。」


「アスランくん!」


すごいよ!さすがアスランくん、本当に頭がいい!


「お兄ちゃん!」


ルミィも叫んだ!お兄ちゃんは薬を飲まなくても頭がいいんだからね!


「ふん、合格と認めてやる。ならば、お前たちの思う通りにやってみろ。」


「ありがとうございます!お父様!」



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