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十、皇命による結婚

ドォン! ドォン! ドォン……。


それはまるで鈍器同士が激しくぶつかり合うような鈍い衝撃音、あるいは空中で爆発する轟音のようでもあった。


地面がわずかに震え、空気には重々しい圧力が満ちている。


アリネーは双剣を風の如く振り下ろし、お兄ちゃんに襲いかかる。だがそのすべてが、的確に受け止められていた。


『闘気纏身』を全開にした状態のふたりの戦いは、まさに本気の勝負。


一撃ごとの交差が空気を震わせ、耳をつんざく爆音が鳴り響く。それはまるで狂った戦鼓の連打。


剣閃が交錯し、砂塵が何度も巻き上がり、砕けた石が弾丸のように飛び散る──まるで世界の終わりを思わせる戦場だ。


これは迷宮での戦闘よりもはるかに苛烈で、森に住む大小の動物たちはすでに恐怖で逃げ去っていた。


アリネーは残像のように身を翻し、お兄ちゃんの姿を追って動き回る。多段ジャンプのスキルを駆使し、あらゆる角度から死角を狙って一撃必殺を狙い続けていた。

挿絵(By みてみん)

だがお兄ちゃんもただ受けるだけではない。機動力の差を迂回移動で補い、視点を操作しながら死角を次々とずらしていく。アリネーの奇襲を回避しつつ、反撃の隙を虎視眈々と狙っていた。


もともと、お兄ちゃんの強みは高火力と高防御、そしてアリネーの強みは連撃とスピード。


この状況下では、明らかにアリネーが有利。


だが、それでも決定打を奪えるほどの余裕はまだ生まれていないようだった。


ドォン! ドォン! ドォン……。


……正直、ちょっとうるさい。私は両手で耳をしっかりと塞いでいた。


ドォン!


爆煙が晴れ、見えたのはその場で動きを止めたお兄ちゃんとアリネー。ふたりとも完全に静止していた。


アリネーの練習用の木剣は、お兄ちゃんの身体を打つ寸前で止まり、お兄ちゃんの木剣は中空で静止している──どうやら、アリネーの方が一歩早かったようだ。


「───アリネー命中、2点!」


「……これでアリネーが10点先取。このラウンドは終了です。」





「アリシア、お腹すいてる? お昼ご飯にしようか?」


「あたしは大丈夫。さっきメイドたちには用意しなくていいって言ってあるの。」


「じゃあ、午後の予定は?」


「ん…昨日のことを考えても仕方ないし……」


「じゃあ、予定はなしってことでしょ? 動きやすい服に着替えて、体を動かしてリフレッシュしようよ。」


「迷宮に魔物退治しに行くの? お兄ちゃん?」


「違うよ、『練習』だよ。ルミ、空いてる? 一緒にどう?」


「うん、いいよ。アリネーは?」


「『練習』か……いいわ、ちょっと着替えてくるわね。」





──そして今、こんな状況になっている。


「くっそー、あとちょっとだったのに。今のは読んで反撃できたはずなのに……!」


お兄ちゃんは汗を滝のように流しながら、ぶすっとした顔で私の隣に腰を下ろした。水筒を取り上げて二口飲むと、そのまま顔にもかけた。


「やははっ、アスランくん♪ あの隙を突くために、あたしはいっぱい工夫したんだよ? ふふ、やっぱりあたしの方が上だったかな〜? どうしたの? 降参する?」


アリネーも、顔も服も髪の毛までびしょびしょだった。汗が首筋を流れ、半濡れの上着から透ける肌が──うわっ、めっちゃセクシー。


ていうか、アリネー、それってわざと?それとも天然?「動きやすい服」って言ってたのに、なんでそんなヒラヒラのスカート着てくるのさ?


まあ…中はギリギリセーフって感じだけど、恥ずかしくないの?


「ふぅ…確か三本勝負って言ったよね? まだ二回目だよね? てか、一回目って誰が勝ったっけ? あ〜忘れちゃった。ルミ?」


勝ち気なところ、本当にこのふたりはそっくりだ。


「え〜っと…私も忘れちゃった〜」


「おい! 俺だよ! ルミ、お前はお前のアリネーの味方するつもりか?」


「そうだっけ? あ〜うん、そうだそうだ! やははっ♪」


「ふん! お前が『潜行』スキルで奇襲してこなければ、致命打なんてくらわなかったぞ!」


「最初に言ったでしょ〜? 魔法は禁止だけど、スキルは全部OKだって。」


「ふん、もし『スカーレットランス』が使えたらなぁ…」


「魔法OKなら、戦うまでもないよ。1分も持たないわ。」


「1分? マジで? 30秒の間違いじゃないの?」


わぁ…1分か30秒かで言い争うの?


「やははっ、俺が1分もたないって言いたいわけ?」


「さぁ? どうだろうね?」


「えええ──っ!お兄ちゃん、それってズルくない!?戦争の号砲か何か!?アリネー!本気出すの!?来るなら来いよ!勝負つけようよ!『魂の鼓舞』でも使って、世界を滅ぼすくらいの大決戦しようか!?」


「いいね!じゃあ第三ラウンドはルール変更!」


お兄ちゃん…


「よし、1分間のサバイバルバトルに変更だ!」


アリネー…


「1分生き残ったら、俺の勝ちってことで!」


「魔法の使用も可!」


「異議なし!」


「ルミィ!『魂の鼓舞』をお願い!」


「ちょ、ちょっと待って!冗談だったのに!?ここは人里離れた森の奥とはいえ、本当に生態系にダメージ与えるつもりなの!?」


「問題ないわ!高威力・広範囲の魔法は使わない!」


「大丈夫!アリシアが大丈夫って言ったんだ、信じよう!」


おいおいおい、本気でやるつもりなの!?


「ルミィ!お願い!」


「は、はい…でも何かあっても責任は取らないよ!?『魂の鼓舞』!」


ああ──もう見てられない。がんばってね、森のみんなさん。


「よし、時間計測の魔道具は?ルミィ、頼んだよ。」


「は、はい、アリネー…。3、2、1、スタート!」


こうして、魔法の閃光と武器の爆音が鳴り響く1分間が始まった。私は『聖殿(ザ・パレス)』を発動して、両耳をふさぎ、もう見ないことにした。うん、森のみんな、我慢してね。たった1分だけだから…たぶん。





「はぁ、はぁ、はぁ…」


「ふっ、はぁ、はぁ、はぁ…」


1分が経過した。


「はぁ、はぁ、なぜ…なぜ当たらないのよ!!!」


「はぁ、ははは、それは…こっちが聞きたいくらいだよ~」


お兄ちゃん、ほんと演技が上手いよ。あなたは元から闘氣の精製量が多いし、『魂の鼓舞』で5倍の効果になれば、そりゃ有利になるに決まってる。でも、あのスキルを要求したのはアリネー自身だったからね…。まさに「賢者も過つ」だよ。


「もう一回だ!今回はあたしの負けでいい!第二戦いくよ!」


「いいよ、いつでも!」


うーん…もう勘弁してよ。この二人、どこまでムキになるつもりなの?


「ストップ!もうやめて!これ以上やったら、森の動物たちが戻って来れなくなる!」


「う…分かったよ。」


「わ、分かった。まぁ、つまり俺の勝ちってことで。」


「うぅ……なんで……」


「はぁ、アリネー、あなたちょっとバカすぎるよ。『魂の鼓舞』って魔法強化には向かないし、『サバイバルバトル』ってルール、あなたにはめちゃくちゃ不利でしょ。」


「…どういうこと?」


「分かんない?戦闘の腕前はともかく、ビビリと逃げ足に関しては、お兄ちゃんはプロレベルだよ!?あの条件であなたが当てに行って、お兄ちゃんはただ逃げるだけ…それって不公平でしょ?」


「やはは、ルミ、それ褒め言葉だと思っていいのかな?ははは。まさか1分間耐えられるとは思わなかったよ~。接近戦と魔法も使えるアリシアと同条件で戦う方が、こっちにとっては不公平なんだけど?」


「むぅ──」


ふふっ、ぷくっと膨れたアリネー、かわいいなぁ。





休憩の後、二人はもう本気でぶつかるのをやめたようで、ペースを落として、木剣で基本の素振りやガードの動作を繰り返していた。気づけば、冬の太陽ももうすぐ沈もうとしていた。


「帰ろう、ルミ、行こうか。」


「うん!」


アリネー、ちゃんと元気取り戻せてるといいな。


「少しは気分晴れた?アリシア。」


「うん、ずいぶんスッキリした!」


「ははっ、やっぱりお兄ちゃんは頼りになるね。」


本当にお兄ちゃんには頭が上がらないよ。彼がいると、アリネーもずっと明るくなった気がする。ていうか、あなたたち二人、あまりにも分かりやす過ぎじゃない?……あの日、邸宅であなたたちが一緒にいる様子を初めて見たときから、何か変だと思ってたんだから。いったい、いつまで誤魔化すつもり?





あれから二日目の朝を迎えた。満月の夜とは違って、昨晩は何も起こらなかった。アリシアの「夢遊病」も発動せず、邸宅全体がとても静かだった。そして俺はようやくぐっすり眠れた。


昨日、邸宅に戻った後、俺はルミと相談して決めていた──アリシアをしっかり囲っておくこと。というのも、あの子は一人で静かになると、きっとまた色々考えすぎてしまうから。


まずはいつも通り、三人で一緒に夕食をとった。昼間の訓練で疲れていたのか、それとも昨日の「食べさせる事件」を警戒していたのか、アリシアの食欲はかなり良くて、ちゃんと全部食べきっていた。


それから、ルミがアリシアと一緒にお風呂に入ることになった……細かいことは聞いていないけど、後からの二人の反応を見る限り、結構にぎやかだったみたい。


その後、ルミはアリシアの部屋で一緒に過ごして、彼女が寝るまで側にいることにした。


「それじゃあ、二人ともおやすみ。俺は先に戻るよ……」


「……アスランくん?」


「ん?どうしたの?」


「その……一緒に来てくれる?……もう少しだけ、一緒にいてほしい……ダメかな?」


「えっ!?」


「いいよ、アリネー!三人で何かゲームでもしながら、アリネーが眠くなるまで遊ぼう?」


うーん……ここ、アリシアの寝室なんだけど、男の俺が入っていいのか? まあ、俺の意思なんて完璧にスルーされたけど。ルミの後押しもあって、結局俺も二人と一緒に床に座り込むことになった。二人の寝間着姿や、ふんわり香る匂いは全力で無視して、ルミがヴィルマさんからもらったカードゲームで遊ぶことに……


「お兄ちゃん、また負けた!ほんとにルール分かってるの?それとも、頭使いたくないの?」


「う、うるさいな!ちょ、ちょっと手加減してあげただけだよ、ダメなの?」


はぁ……ルミさん、俺がこの状況でどれだけ辛いか、少しは察してくれないかな?


「ねえ、お兄ちゃん、さっきからアリネーの部屋をチラチラ見てない?」


「み、見てないよ!初めて入るわけでもないし……」


「え?どういう意味?お兄ちゃん?」


「そ、そんな意味じゃないよ!……あっ、忘れたの?前に二回、部屋の外から中が見えたことがあったんだよ。だから、そんなに気にならないっていうか……別に覗いたわけじゃないよ!」


アリシアの視線が感じられるけど……あれ?いつもの殺気混じりじゃない、むしろ……


「あ、あたしは別に、気にしてない……」


うわぁ、お孃さま、その顔真っ赤で恥じらってる感じ……破壊力ありすぎるって!


「ん……」


ルミ?どうした?


「ん……」


「ん……」


「ん……」


なんか、ちょっと不満そうで、でもどこか寂しそうなルミもすごく可愛い……


「よし、次の勝負行こう!」


ルミも、ちゃんとアリシアの気持ちを気遣ってるんだ。いつもみたいにズバズバ言わないなんて、珍しい。


そんな風に、ちょっとだけ曖昧な雰囲気をまといながら、三人で笑い合い、カードゲームに興じた……そして、アリシアが自然と枕に寄りかかり、眠りに落ちたのを見て、俺とルミもようやく自分の部屋へ戻ることにした。


……


今日は休日で、俺たち三人はダイニングルームで朝食を取りながら、ルミが『冒険者週刊』に載っていた俺たちの記事について話していた。元気いっぱいに喋るルミを見ていると、なんだか安心するんだよな。


「アリシア、俺は魔法のことはあまり分からないけど、『冒険者週刊』の『アイスクォーター』魔物暴走事件の報道で使われた表現を見て、お前のあの『煉獄・火球術』の一発の威力って、史上最強なんじゃないのか?」


「うん……ちょっと自惚れてるように聞こえるかもしれないけど、あれは当代一の『爆炎魔法学者』──マリン先生の論文で得た知識を、あたしの魔力と魔力制御で具現化したものなの。だから、確かに最新の魔法理論の結晶といえるし、史上最強の『煉獄・火球術』だって言われても反論できないわね。」


「お嬢様の『煉獄・火球術』かぁ……」


あっ、ルミが『パルお爺ちゃん』を起動しておしゃべりしてる。


「そうよ、パルちゃん、アリネーの『煉獄・火球術』は本当にすごいのよ。『アイスクォーター』の氷原で同時に16発撃って、『魔物暴走』で現れた200体以上の魔物を一掃したの。」


「うーん……俺たちが戦ったときも見たっけ。あ、あれがいわゆる現代魔法研究の成果ってやつか?」


「そうそう。アリシアが全力で放った『煉獄・火球術』は『魔晶骸骨竜』の体を粉々にして、魔晶石のコアが露出するほどだったのよ。あと一歩で撃破ってとこまでいってた。」


「えぇっ!?たった一発の『煉獄・火球術』で?あんな化け物の体を!?それって俺たちの戦いのときのやつと比べ物にならないじゃん!お嬢様、今度絶対一回見せてよ!」


「やはは、そんな大げさな……」


「うん、でもさ、俺が言いたいのはさ、冒険者『赤薔薇のアイリ』の画期的な魔法が世間に知れ渡った今、どんな影響が出るのかってことなんだよ。」


「影響って?アスランくん、どういうこと?」


「例えば……誰かが君──冒険者『赤薔薇のアイリ』を引き入れようとしたり、学者たちが押し寄せてきたり……とかさ?」


「うん、あるよ。ヘレンさんのところに問い合わせの手紙がいっぱい届いたの。」


「そうか……で、君はどうするつもりなんだ?」


「どうするも何も、特に何もないわよ?あたし、ここから出られないし、どこかの貴族の勢力に入るなんて無理。だから全部お断りよ。学者たちにはマリン先生の論文を読めば分かるって返事してるし。」


「ふむ……結局、その魔法を再現できるのは、魔法の天才、アリシアだけってことか。」


「天才なんて……でも、まあ否定はしないかな。やはは。」


「わしもその日、真似してみたけど、お嬢様の半分の効果が出せたかどうかって感じだった。」


「うんうん、やはは!」


それより俺が気になるのは、アリシア本人がすでに軍事的な脅威になり得る力を持ってるんじゃないかってことだ。もしかすると戦争なんて起こさずに済むかも?でも、本人にはその自覚がまるでなさそうだ。


「そうだ、お兄ちゃん、知ってた?昨日、正式な『縁談の招待状』が届いたのよ。」


「えっ?今初めて聞いたけど。内容に何か特別なことでも?」


「えっと……基本的にはあたしたちが知ってる通りの内容だけど、一つだけ新しいことが書かれてた……日付、つまり期限。」


「どういう意味だ?」


「その手紙……たぶんヴィンセント代理の名義だと思うけど、『エレナガード家』の面子のために盛大な式を挙げる必要があるからって、皇帝に謁見する手配をして、祝福を願い出るそうよ。」


「『皇命による結婚』!?それがやつらの次の一手か!?日程は!?」


「一週間後の金曜日。」


ってことは、対策を立てる時間が二週間もない!?くそっ、でも落ち着け。俺まで焦ってどうする。冷静になれ……戦争を起こすような展開になったら、『皇命による結婚』かどうかなんて関係ないだろうし。


「うん、分かった。やっぱり、伯爵夫妻が戻ってから話そう。」


「そういえば、ルミィ、昨日ここで初めて手紙を受け取ったって言ってたけど、誰からだったの?」


「えっ!?アリネー、あれは中央聖教会からの手紙だったよ。」


「ああ、そうだったわね。あたしにここで暮らしてることを報告していいか聞いてたもんね。だから手紙がここに直接届いたのね。構わないわよ。」


「中央聖教会?君に何の用事だ?」


「別に特別なことはなくて……ただ、冒険者の仕事報告をちゃんと提出してないって、ちょっと叱られただけ。それと、あとで大神官が様子を見に来るって言ってたよ。私がちゃんと生きてるか確認するために、みたいな。」


「冒険者の仕事報告を提出してない?」


「う……わ、私は外派遣の神官なんだから、報告を出すのは当然でしょ!?ちゃんと関係ないことしか書いてないし、ヴィルマさんにも確認してもらってから出したの!」


「俺が言ってるのは、“提出してない”って部分だよ……」


「やはは? なにそれ、仕事が忙しいって?文書仕事なんて、後回しでいいのよ〜」


「ふふっ、まさにルミィらしいわね。そしてその気持ち、痛いほどわかるわ!よくやったわ。」


アリシアお孃さま???教会が嫌いなのはわかりますけど、ルミの教育に悪くないですか?


「それにしても、神官ちゃんもすごいよね。今、十四、五歳くらいじゃない?もう正式な神官なの?」


パルお爺ちゃんがそう疑問に思う理由、よくわかる。


「ははは、教会の中では目立たない下っ端の神官にすぎませんよ〜。だから冒険者として外に出されたんです〜」


「目立たない?下っ端?坊主、この神官ちゃん、何を言ってるんだ?時代が変わったのか?彼女の奇跡力と奇跡召喚能力も“下っ端”ってことか?」


「ははは、それは本人に聞いてみてくださいな。『目立たない下っ端の神官』にね。」


「どういうこと?お嬢様?」


「やはは、大した時代の変化なんてないですよ。パルお爺ちゃんもご存じの通り、奇跡召喚はそもそも進化するようなものじゃありませんし、これはルミィの謙遜のスタイル、ってとこでしょうか。」


「そうそう、わたし、すっごく謙虚なんだから。」


「決して弱いフリをしてサボろうなんてしてないもんね〜」


「ちょっと!お兄ちゃん──!ひどい!」


「ああ、なるほど。面白いな。」


ははは……


みんな笑い合って、まるであの件なんてなかったかのようだ。うん、「一週間後の金曜日」か。なら、できれば『あれ』は一週間以内に終わらせておきたい……





朝食の後、彼女たちに簡単に説明をしてから、約束通りの時間にギルドへ向かった。


「流星さん! こっちこっち! おはよあん!」


ホリーだ。


「おはよう! 本当に悪いね、お願いしちゃって!昨日の件だけど……」


「問題ないよ!それに、もう人も連れてきてるの。後ろの会議室にいるよ!もうギルドに使用許可も取ったし!」


ホリーに案内されて会議室へ入ると、そこには『獣人族』の男性が待っていた。


「お兄ちゃん! この人が流星さん! 流星さん、こっちはわたしのお兄ちゃん、バンナだよ。」


この『獣人族』の男性『バンナ』が、昨日ホリーが言っていた職業情報屋の兄。会議室に入った瞬間、その鋭い視線に思わず緊張した。


「こんにちは、バンナさん。」


「お客さん、ようこそ。座ってください。時間は貴重ですから、挨拶は抜きで。情報か?それとも暗殺か? ハッキリ言ってくれ。」


うわ──ずいぶん直球だな。プロ意識の表れか、それとも虚勢か?


「情報がほしい。」


「情報ね?問題ない。誰の?」


「『マクシミリアン・ヴァンダーホルト』、ヴァンダーホルト公爵家の……」


「次男だな?了解だ。何か特定の方面に重点を置きたいのか?」


「基本情報以外に……人間性というか、性格面を知りたい。」


「え〜? 流星さん、あの貴族のこと調べたいの?なんで?」


「ちょっと理由があるんだ。」


「ホリー、黙ってろ。俺は客の動機なんて聞かない。」


「つまり『マクシミリアン・ヴァンダーホルト』の黒歴史ってことか。貴族がターゲットでも、潜入や尾行はしない。公開情報の収集だけでいいんだな?」


「問題ない。」


「なら低リスク案件だ。所要時間は十日、報酬は……」


「十日は長すぎる。五日以内で頼む。」


「了解。では報酬は1.5倍、手付け金は……」


「問題ない、契約成立だ。」


「お客さん、話が早くて助かるよ。」


連絡方法や進捗確認の手段も確認した。バンナさんは終始きっちりしていて、話し方にも一切の隙がない。料金の妥当性は正直わからないが、高級宿三か月分程度で、今の状況なら値段のことは言っていられない。


「アンタ、ぼったくってないよね?この人はわたしの命の恩人なんだよ?」


「わかってるって。基準通りの料金だ。料金表見るか?」


「いらないわよ。アンタ、そういう誤魔化しの手口、山ほど持ってるし、その料金表も何パターンかあるんでしょ?」


「問題ないよ。バンナさん、俺が大事にしてるのは結果だけ。よろしく頼む。」


「じゃ、俺はこれで。連絡を。」


バンナさん……真面目で頼りがいのある人だ。今のところ、唯一の情報ルートかもしれない。本来なら自分でやるつもりだったけど、せっかくこういう手があるなら──プロに任せよう。何か掘り出してくれればいいが……





ホリーに礼を言って、領主邸に戻ってきたが……なんだ、この状況は?!


領主邸の門の前に、百人はくだらない──どうやら領民と思しき人々が集まっている。彼ら、何を叫んでる?


「領主様!!」


「領主様!!! どうかお会いください!!」


「領主様!!! 私たちを見捨てないでください!!」


いったい、何が起きたんだ?!




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