十六、『手のひらの太陽』
迷宮の王──魔晶骸骨竜
魔力が凝縮された魔晶骨で構成された巨大なアンデッド魔獣。
七つの竜首を持ち、侵入者すべてを喰らい尽くす。
七種の竜首、それぞれが破壊的な攻撃手段を持つ!
強力な物理衝撃、属性魔法……一瞬でも気を抜けば、その刃に引き裂かれるだろう。
最も厄介なのは……その再生能力!
たとえ体を粉砕されても、魔力が周囲の魔晶骨を引き寄せ、再び形を成す。
斬り落とされた竜首すら、数秒で再生されるのだ!
……
アリシアが精魂込めて放った『煉獄・火球術』は、あの迷宮の王の体を何層にもわたって爆破し、無数の魔晶骨を吹き飛ばし、あるいは蒸発させた!
そしてついに──その最深部に埋もれていた『魔晶石』──人間よりも大きなその魔晶石が姿を現した!
ダメだ……あと少し!あとほんの少しなんだ!!!
くそっ!!あれだけ体を爆裂させたのに、まだ足りない!?あと少し火力があれば……!あと一撃で魔晶石を破壊できるのに!
爆風がまだ収まらないが──これがチャンス!!!
核心が露出しているこの瞬間、ほんの数秒……いや、一秒もないかもしれない!
それでも行くしかない!いけぇぇぇ!!!
俺は全力で飛び出し、最後の一撃を叩き込もうとした!
「グオォォォォ───」
俺は自分の持つ最速の突撃スキルを発動し、露出した魔晶石へと突き刺す!
ギィィィンッ!!!
金属がぶつかる鋭い音──
魔晶骸骨竜の自己修復の魔力が周囲の魔晶骨を集め、俺の攻撃を防ぎ、さらに再びコアである魔晶石を完全に覆い隠した。
刃がまさにコアに触れようとした瞬間、無数の魔晶骨が狂ったように押し寄せ、積み重なり、結合し、再生した!一秒も経たないうちに、コアは完全に魔晶骸骨の中へと埋め戻されてしまった!
「くっそおおお!!!」
骸骨竜の反撃がすぐに襲いかかり、俺はすぐさま後退する。
だが……!まずい!白眼の奴はどこだ!?
白眼の龍頭が濃密な爆風を突き抜け、まるで亡霊のようにアリシアへと襲いかかった!その鋭い牙は不気味な光を放ち、開いた巨大な口はアリシアを丸ごと飲み込もうとしていた!
「大丈夫っ!」
『煉獄・火球術』を放ち終えたばかりのアリシアは、白眼の龍頭の攻撃を見切って回避しようとする──しかし、その瞬間、彼女の両脚が急に力を失い、抑えられないめまいが襲ってきた。視界がわずかに歪み、体のバランスを崩しかける。
「えっ!?カカカカ───ッ!」
アリシアは咄嗟に体を起こし、白眼の龍頭の直撃を避けた!だが……無理やり体を制御していたため、動きが一歩遅れた!
「アリシア!!」
「ドゴォォン!!!」
白眼の龍頭の攻撃による衝撃がアリシアを直撃し、その体は砲弾のように壁へと叩きつけられた!
石の壁は一瞬で粉砕され、無数の石材が剥がれ落ち、背後の破壊された構造が露わになる!
「ぐっ……!」
アリシアの口から鮮血が噴き出した!!!
「アリネー!!!『超自己加速』!」
ルミが加速スキルを発動し、即座にアリシアのもとへと駆け寄る!
「聖殿!」
よくやった、ルミ!俺たちが話し合った対策を忘れていなかったな!どんな状況でも、俺かアリシアのどちらかが傷ついて倒れた時、ルミの任務は安全確保だ。狙撃から守り、治療の隙をつくること。俺が負傷すればアリシアが治療する。アリシアが倒れたなら、彼女を守り、自己回復を可能にするまで守ること!
ドン!ドン!!ドン!!!
巨大な衝撃が空気を震わせる!白眼の龍頭が繰り出す牙の突撃、爪撃、衝撃波が何度も金色の光壁を叩く!
だが──その金色のバリアは、まったく傷つかない。やはりルミの絶対『聖殿』は伊達じゃない!
ルミは奥歯を食いしばり、あの凶暴で禍々しい威圧を前にしても、一切の動揺を見せなかった!
「アリネーを、絶対に傷つけさせないからっ!!」
だが、それでも俺はアリシアの様子が心配だ。もう一度、あの七つの頭すべての注意を引きつける必要がある!
「──群体挑発!!」
一瞬にして、魔晶骸骨竜の七つの龍頭が同時に一秒だけ動きを止めた。まるで何か見えない力が、奴らの意識を一気に引き寄せたかのように。
「よし……全部引きつけた!!!」
七つの龍首の視線が俺を貫く!次の瞬間、嵐のごとく激しい攻撃が襲いかかってくる!
七つの頭による攻撃は相変わらず熾烈だが──さっきと同じように、避けられないわけじゃない。予測、予測、そしてさらに予測!死角に追い込まれなければ、俺は避け続けられる!
思考加速スキルを連発しながら、最高速度で骸骨竜の周囲を駆け回る。問題ない!問題はアリシアのほう……!
そのころ──
「アリネー、アリネー!意識はある!?痛くない!?!?」
ルミは今にも泣きそうなほど動揺していたが、『聖殿』の維持には一切の隙がない。
「うう……ゴホッゴホッ……」
鮮やかな赤がアリシアの口からこぼれ落ち、彼女の襟を染める。それでも彼女はほんの少し眉をしかめながらも、口元にかすかな笑みを浮かべた。
「アリネー!」
「だいじょ……ゲホッ!」
「痛いのは……確かに痛いけど、大丈夫……この血を吐いたら、ちょっと胸が楽になったわ……」
アリシアは地面に横たわり、全身ほとんど動かせない。口元の血を拭うことすらできない状態だった。
それでもなお、彼女は歯を食いしばり、懸命に声を絞り出していた。
あのアリシアが──出会ってから今日まで、一度もこんなに酷い怪我をしたことはなかった。いや、もしかしたら人生で初めて「痛み」というものを真正面から受けた瞬間かもしれない。
「体中が、大槌で砕かれたみたい……ゴホッゴホッ……」
胸の奥から鋭い痛みが走る。それは、見えない何かが心臓を鷲掴みにするかのような感覚だった!
でも──ダメだ、ここで揺らいではいけない!!!
今こそ、冷静でいなければ!!!
大丈夫だ!俺が迷宮王の注意を引き続けていれば、たとえアリシアが自己回復できなくても、ルミの神聖治癒の奇跡がある!
「でも、ちょっとだけ時間をくれれば、自力で回復できる……ゴホッゴホッ……ルミィ、『聖殿』を維持していて。」
「本当?よかった!お兄ちゃん!アリネーは無事だって!」
本当か?!よかった!!!!本当によかった!!
アリシア!俺は信じてる……いや、君なら絶対に大丈夫だ!
「よし、ルミ!アリシアを頼む!迷宮王は俺が食い止める!」
それじゃあ、指揮は今、俺が取る……撤退すべきか?
アリシアがさっき渾身の力で放った最大出力の『煉獄・火球術』でも、あの魔晶骨の山を貫けなかった……あと一歩だったのに!!!他に方法はあるか?
……あれ?待てよ!!!
「アリシア!!」
「はいっ!」
よし!会話はできる!それなら──
「さっきの『煉獄・火球術』、火力があとちょっと足りなかった。もっと強くできるか?」
「無理です。あれはあたしが制御できる、最大の魔力量で、ギリギリ臨界点まで届かせた火球です!」
「ってことは、それ以上の魔法はもう使えない?」
「それは……」
やっぱりな!!!そういうことか!
「正直に言ってくれ!まだ切り札があるんだろう!」
「は、はい!でも……」
俺は竜頭の攻撃をかわしながら、アリシアに言う:
「ためらうな!それは君の秘密なんだろう!」
「はい!」
「このまま、ここで諦めるのか!?まだ力が残ってるのに!」
橘眼の竜頭が火炎のブレスを吐く!
「諦めたくない!!」
「お兄ちゃん……」
「俺たちは秘密を守るって約束する!な、ルミ!」
青眼の冷気ブレス!さらに紫眼の雷撃ネット!
「うん!アリネー!私たちを信じて!」
「あ、あたしは信じてないわけじゃなくて……でも……」
アリシアはまだ地面に倒れたままだけど、自己回復は始まってるみたいだ。ただし、まだ動ける状態にはなっていない。戦うにしても、撤退するにしても、まずは彼女の回復を待たなければ。それなら今のうちに会話を終えよう!
「それは、あたしと母上との約束で……わ、あたしには……」
約束か!?それなら単なる秘密というより、信念の問題だ!アリシアにそれを破らせるのは難しい。でも、それなら──撤退するか、あるいは……やってみるしかない!
「アリシア!聞いてくれ!」
「はい!」
「俺にもな、もう亡くなった両親との約束があるんだ!それに、俺にも子どもの頃から守り続けてる秘密がある!」
黄眼の光線砲と白眼の体当たり!
「そんな……!」
「だから、交換しよう!その秘密!今の俺たちには、撤退か──秘密の交換、二つしか選択肢がない!」
「君が選んでくれ!」
赤眼の広域針攻撃!碧眼のツタ攻撃!
「潜行!」
「交換!?」
「そうだ!そうすれば共犯だ!絶対にお互いの秘密は漏らさない!」
「群体挑発!」
「なっ!?冒険者くん、それは……」
「この戦いでは、お互いを信じるしかない!君は、俺を信じてくれるか!?」
「わたし……」
「俺から言う!」
「えっ!?」
「──アスラン!!」
「ええっ!!!?」
「『アスラン』!それが俺の本当の名前だ!!」
今まで誰にもこの名前を言ったことがない。これは父さんと母さんとの約束……いや、遺言だったから!
「ごめん!アリシア!騙すつもりはなかった!でもこれは、両親との約束だったんだ!これは、君に言った唯一の嘘だ!そうだろう!?」
アリシアはずっと俺のことを「冒険者くん」と呼んでいた。初めて会ったときのあの呼び名、それから一度も変わらなかった。俺はずっと、彼女なりに距離を保ちたいのだと思っていた。彼女は貴族で、俺の雇い主で、先生でもある──それは当然のことだ。慣れてしまえば、呼び方なんてどうでもよかった。
だが、最近になってようやく気づいたんだ。アリシアの『嘘を見破る』の能力を知ってから、ある日ふと気づいた。彼女が俺の名前を呼ばなかった理由──それは、最初に自己紹介したとき、あれが本当の名前じゃないと分かっていたからなんだ。
「そうだ!」
この秘密、長い間守ってきた秘密は、俺と父さん母さんを繋ぐものだった。記憶でもあり、弔いでもあり、魂に刻まれた『痛み』そのもの! そして──神魔戦争に対する俺の怒りの象徴でもある!それが俺という存在の全てなんだ!……でも、アリシアになら……彼女になら……
いや、正しく言うなら──
「でも今は……!」
「君に伝えたいんだ!!」
「アリシア、君は特別な存在だから!!」
「冒険者くん!」
「俺のことを『アスラン』って呼んでくれ!!」
「……」
アリシアの目に一瞬、信じられないという色が浮かぶ。唇が微かに震え、さっき聞いた言葉を確かめるように、ぽつりとつぶやいた。
「アスラン……?」
彼女はその名前の重みを噛み締めるように、静かに繰り返した。そして次の瞬間、その表情は一気に輝き、抑えきれない喜びが口元に浮かんだ。
「うん!アスラン!!」
もう一度、今度は大きな声で叫ぶ。その名前を自らの魂に刻み込むように。彼女の目に浮かぶのは、涙だけじゃない。信頼、絆という名の絶対の信念が宿っていた。
「それじゃあ!次は君の番だ、アリシア!撤退か、それとも……奥の手を使うのか?」
「『再生』!」
アリシアは必死に立ち上がった。痛みが電流のように全身を貫くが、彼女は歯を食いしばり、決意に満ちた目で自らに高位治癒魔法『再生』を放ち、最後の回復を成し遂げる!
「魔法の詠唱には……一分かかるわ!」
「アリシア!一分だなんて……君のためなら、百分でも耐えてみせるさ!」
それは、俺の約束じゃない。俺の存在意義そのものだ。
「だから、集中して!君のすべてを俺が守る!」
「もぉっ!もう十分嬉しいのに!それ以上からかわないでよ!ルミィ!『聖殿』を維持してて!魔法の準備ができるまで!」
「任せて!大丈夫よ!」
「じゃあ……ふぅ───」
アリシアは大きく息を吸い込み、右手を伸ばして『秘密の魔法』の発動に入る。大気から血のように赤い魔力が彼女の手のひらに集まり始めた。自分の魔力ではなく、大気中の魔力を取り込んでいる?しかも……この現象、まさか伝説の……
「創造…、構造維持…」
アリシアが小声で呟くと、空気中の魔力が血管のように流れ出し、目に見えない魔法の軌跡を描き始める。血潮のような魔力が集まり、まるで心臓のように脈動する魔力の塊が空中に現れる。
「ルート固定…」
それは詠唱ではない。ただ、彼女が魔法を起動するための工程だ。彼女は『無詠唱』で複数の魔法を連続発動し、最終目的に至ろうとしている。
「防御障壁、第一層、第二層……粒子加速……」
声が震え始め、右腕は強大な圧力で裂かれ、肌や肉が紙のように剥がれ、鮮血が噴き出す……だが彼女は止まらない。
「エネルギー変換……発動遅延……」
脈打つ魔力の心臓は次第に純白の光球へと変わり、その球体は激しく震えながらも徐々に収束していく。アリシアの傷口から噴き出した血液は即座に蒸発し、赤い霧となって彼女の周囲に舞う。それはまるで炎のように渦巻き、そしてすべてが光球に吸収されていく。圧力と高熱が彼女の体を襲い続け、遠くからでも彼女の装備が燃え始めているのが見える。
だが、血霧が消えると同時に、彼女の『自我再生』がそれら全てを完璧に修復していく。破壊と再生の輪廻が、彼女の中で繰り返される。
アリシアは歯を食いしばり、尽きることのない痛みに耐えながら、その苦しみを力へと変えていく!
「かああああああああっ!!」
突然、世界が静寂に包まれる。白い光球はもう揺れていない。ただ静かに、アリシアの右手に収まっていた。
「完成よ!」
「アスラン!戻ってきて!」
「了解!『群体挑発』!『潜行』!」
俺はわざと『群体挑発』を発動し、敵の注意を俺に集中させた。そして直後に『潜行』を使用。これで、ドラゴンの首たちは突然俺を見失い、数秒間混乱状態に陥るはずだ。
「ルミィ、『聖殿』にアスランを入れて!」
「了解!」
「着いたよ!」
「よしっ、ルミィ、突破口を開けて!」
「任せて!」
アリシアは認識妨害の魔法で、魔晶骸骨竜がこの脅威に気づくタイミングを遅らせた。
しかし、魔晶骸骨竜もただの的ではない。この真っ白な光球を察知した瞬間、魔法を発動して周囲の魔晶骨を集め、自身の前にもう一つの魔晶骨の山を築き、未知の脅威を迎え撃とうとした。
「撃てっ!『手のひらの太陽』!」
アリシアの掌から放たれた光球は、次第に加速しながら魔晶骸骨竜へと飛んでいく。飛距離が伸びるほど、その白光の輝きは増していく!要塞のように堅固な魔晶骨の山は、光球の前では無意味で、一瞬にして蒸発して砕け散る!複数の首が交差して魔晶骨の網を形成しようとするも、それすらも次々と消し飛んだ!
幾層もの防御を突き破り、ついに光球は魔晶骸骨竜の本体に直撃。視界が白光に包まれ、直後には魔晶骨の破片と爆風が四方に炸裂する。
「『多重防御障壁』!」
アリシアはルミの『聖殿』の前に『多重防御障壁』を展開する。連続十二重の防御魔法だ!
次々と押し寄せる衝撃波がアリシアの障壁に襲いかかり、ガラスのように一枚、また一枚とヒビが入り砕けていく。十二層すべての障壁が破壊されたその瞬間、爆風と破片が『聖殿』に迫った!
しかし、『聖殿』には一切の傷がない!中にいた私たちは、爆風の風圧すら感じなかった。これが……『聖殿』の力か!?
よく考えてみれば、俺はこれまで一度もルミの『聖殿』に避難したことがなかった。というのも、それほどの脅威に直面したことがなかったからだ。ルミ……君の力をまた見直さなきゃいけないな。
……
しばらくして、爆風はようやく止んだ。世界に再び静けさが戻り、ようやく戦果を確認できた。今度こそ……成功したはず。
「『討伐の証』?」
俺たち三人の手元に、新たな『討伐の証』が現れた。それはつまり……本当に迷宮王を倒したってことじゃないか!?
「やったーっ!」
「うぅっ……!」
アリシアの体がぴくりと震え、小さく嗚咽を漏らした。あ……俺……
迷宮王を倒した安堵、そして先ほどアリシアが重傷を負ったときに抑え続けていた焦りと不安……気がつけば、俺はアリシアを強く抱きしめていた。
「ご、ごめん!俺、つい……」
そっと、腕を緩めようとした。
「ん……動かないで……」
「ちょっと、立ってるのが……しんどくなっちゃったの。少しだけ、寄りかかってもいい……?」
アリシアは静かに息を吸い込んで、そう呟いた。そして、彼女も俺の背中に腕を回して、ぎゅっと抱き返してくる。
「うぅ……みんな無事で、本当に良かった!」
ルミも抱きついてきた。うん……やっぱり、みんなが無事なのが一番だ。
「ふぅ……」
アリシアは長く息を吐き出し、力なく俺の肩に頭を預けてきた。その髪が首筋をかすめ、あの馴染み深い香りが漂ってくる……
さっきの光景が思い出されて、つい、彼女の頭を撫でてしまった……あぁ、俺、どうしたんだろう……。でも、今だけ、少しくらいなら──いいよな?
「アリシア?大丈夫?さっきの傷……まだ痛む?」
「ん、大丈夫よ。『精神力低下』じゃなくて……本当に、疲れちゃっただけ。いろんな意味でね。ルミィ、さっきは守ってくれてありがとう。」
その声は少しだけ疲れていたけれど、アリシアの顔には満面の笑みが浮かんでいた。
「アリネー、そんなの気にしないでっ!」
…
…
…
しばらくして、俺はルミにアリシアへの回復の奇跡を頼み、それから、この天災級の現場を見て回った。
あれほど広かった深層の最終ボス部屋は、今では四方のレンガ壁が砕け、背後の岩盤が剥き出しになっている。
そして……迷宮の王の姿は、完全に消え去っていた。幸いなことに、奴の人間大の魔晶石は、掌ほどの大きさの欠片として残っていた。
「それ、多分……魔晶石の精髄だわ。ほとんど破壊不能な強度を持つ、魔晶石の中核部分よ。」
「アリシア!?もう大丈夫なのか?」
「もう大丈夫よ、ルミィの奇跡のおかげで、また元気いっぱい動けるわ!えへへっ!」
「よかった!お兄ちゃんもアリネーも無事で…それに、わぁ!すっごーい!」
「ルミ、それ言わないと気が済まないの?」
「ふん!すごいのは事実でしょ!?間違ってないもん!」
「そんなこと言わないで。今回、ルミィの功績が一番大きいのよ?この魔法は威力を上げるのが重要なんじゃなくて、いかに抑えるかが難題なの。もしルミィの『聖殿』がなかったら、あたしは絶対にあの魔法を撃てなかった…みんな死んでたわ。」
「えっ!?私も貢献してたの!?やったー!お兄ちゃん!私の方が活躍したかも〜えへへ〜!」
「はいはい、ルミの功績は第二位ね!」
「アリネー、その魔法があれば、城壁の一角どころか、町全体を吹き飛ばすのも余裕だよね!?」
「えっ!?城壁を爆破?町を壊滅!?ルミ、なに言ってるのよ!?アリシア、それ本当にやる気!?」
「もちろん、そんなことするわけないでしょ!?わ、あたしはどうしてそんなことを──あれ?」
「思い出したでしょ、アリネー?はいはい、あなたは無敵なんだから、『あの』無能な──」
「や、やめてっ!アスランくんに誤解されるじゃないのっ!」
「ふふっ〜そうだよねぇ、ア・ス・ラ・ン・お兄ちゃん?」
「えっ、ええ!?そ、そうだよ、ルミはずっとここにいたんだよね!?」
「ふんっ、いいよねぇ〜私がずっとここにいたのに、イチャイチャしてさ!!さっき、完全に私のこと無視してたよね!?」
「イ、イチャイチャ!?してないよ!?あ、あたしはただ……いや、そもそもあたしから聞いたわけじゃないし……そ、それに……アスランくん!あれってどういう意味だったの!?」
「別に何でもない!本当に何もないってば!それより……そうだ!アリシア!あの魔法、君の秘密って一体何なんだ!?まさかあれが──」
「それはあたしの秘密の一部よ!ちゃんと見せたでしょ?だから、おあいこってことで!」
「はぁ!?あれ、俺にとっては『またとんでもない魔法』ってだけなんだけど?どこが秘密だよ!?アリシアの魔法がヤバいのなんて、ほぼ公然の秘密だろ!ずるいぞ!!」
「そんなことないわよ!あの魔法こそ、本当の意味での『ぶっ壊れ』なんだから!魔法学者が見たら、十人中十人がその場で昇天するレベルよ!?」
「マジで!?じゃあ、その魔法がすごい理由ってなに?周囲の魔力を吸収するから?それともあの『創造』なんとかってやつ?『粒子加速』?『粒子』ってなんだっけ?」
「な、なぜ全部聞いてたの!?七つの竜頭と戦ってたんじゃないの!?なんでそんな余裕があるのよ!?」
「なんでって?俺は常に君を見てるんだよ。不思議なこと?」
「常に…あたしを!?あ、あの、もうちょっとわかりやすく言ってくれる!?常に!?どのくらいの常になの!?今もなの!?」
アリシアは思わず振り向き、その頬は見る見るうちに紅潮し、耳の先まで真っ赤に染まった。
「今?もちろんだよ。なにか問題でも?」
「や、やだっ…もう、怒っちゃうわよ!?だから言ったじゃない、あれは秘密なんだから!本当に魔法関係者には絶対に言わないでよ!?マジでヤバいやつなんだから!とにかく、さっきの魔法も、あたしが言ったことも、ぜ〜んぶ秘密の一部だからね!」
「君たちさあ……いい加減にしてよ!ずるいよ!秘密秘密って!私だって、私だって秘密言いたいのに!うぅ……なんで私には秘密がないのぉ!?」
「ぷふっ───」
思わず笑ってしまった俺に続いて、アリシアもこらえきれずに口元を緩めた。
「うわああっ!なんで笑うの!?お兄ちゃんひどい!アリネーまで〜!」
「ルミさん、あなたの秘密、ひとつもう教えてくれたじゃない?」
「お兄ちゃん?えっ!?なにそれ!?何のこと!?」
「ほら、冒険者になるために、聖教会でわざとサボってたって話。」
「えええっ!?お兄ちゃんひどいよぉ!」
「うふふ、『それ』も含めるなら、もう一つあるわね?つまり、二つ秘密があることになるのかしら?」
「な、なにそれ!?」
「あなたがお兄ちゃんのこと、好きだってことよ。告白する前に、あたしには先に言ってたじゃない?」
「えええええええええ!!アリネーまでえええええ!!!」
「ははっ、別に秘密の交換とかしなくていいよ。俺は気にしないし、アリシアは?」
「わたくしも構いませんわ。」
「ふ、ふんっ!ダメ!わ、私、今度ちゃんと秘密ができたら、すぐに言うから!」
「ルミィ、無理しないでいいんだよ?」
「無理なんかしてないもん!私たち、仲良し姉妹でしょ?わ、私はオリシウス様に誓って、次に秘密ができたら、絶対に一番に言うからね!」
「そ、それなら……ルミィも、あたしたちの“秘密共犯者”ね!」
「そう!!!私も共犯者だよ!!」
「やれやれ……本当、参ったな。」
「じゃあ、アリシアが守ってる秘密って、一体何なの?あの魔法の威力だけじゃないよね?お母さんとの約束ってことは、きっと──」
「ストップ!ストップ!!!アスランくん!もう推理しないで!」
「『くん』はつけなくてもいいけど、『くん』がそう呼びたいなら別に構わないよ。」
「や、やだ……習慣だから……じゃあ、『アスランくん』って呼ぶね!うん……?それじゃあ……その名前に何か特別な意味があるの?秘密なの?あっ、そうだ!君のファミリーネームは何?」
「え?ああ、そうだね、まだ言ってなかったね!はは、今は内緒!」
「なんでよ!」
「君も半分しか言ってないでしょ?これでおあいこ!」
「な、なにそれ!?ひどい!あたし、あたし……完全に信じてたのに……うう……」
「うわぁっ!!!お兄ちゃん、アリネー泣かせちゃったよ!」
「泣いてないから!?アリシア、君!……『嘘を見破る』、発動してないのか!?」
「ふん!ひどいことされたから、泣いたの!何か問題でも?どこが嘘なの?」
「騙すなーっ!それ、絶対演技だろ!?『嘘を見破る』鳴ってるのに気にしないのか!?」
「冗談くらい、いいじゃない!」
「うえええええええええっ!!」
ルミはまるで雷に打たれたような顔で、目をまん丸に見開いていた。
「どうしたの、ルミィ?」
「アリネーが……冗談!?寒いギャグじゃなくて、泣くフリで冗談!?今まで見たことない!聞いたこともない!」
「そう?そんなに珍しい……のかも……あたし、どうしちゃったんだろ?あははっ、変なの!?っていうか、寒いギャグって何よーっ!?」
「はいはい、まあまあ、今はそれより……俺たち、迷宮の王を倒したんだぞ?どんなお宝があるのか、気にならない?」
「そうだった!すっかり忘れてた!行こう行こう!」
俺たちは魔晶骸骨竜から魔晶石のエッセンスを回収し、周囲に散らばっていた魔晶骨の破片も少し拾った……ん?これだけ?まさか、全部アリシアの魔法で焼き尽くされたんじゃ……?
「心配しないで、宝物はあっちよ。」
アリシアが部屋の奥を指差すと、瓦礫の中に扉が一つ見えた。その扉は本当に頑丈で、爆風を受けただけのようで今も無傷だった。距離が離れていたおかげかも?
「じゃあ、行きましょう!『迷宮の心』へ!」




