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七、『地下城』深層攻略始動

公会の用事を済ませ、少し道具を補充した後、約束の時間に「地下城」迷宮転送魔法陣の前に到着した。


「アリシア、ルミ!」


「待たせたわね、冒険者くん。」


「問題ない、俺も今来たところだ。」


アリシアとルミがこちらに向かってくる……ん?アリシア、なんだか機嫌が良さそうだな?


「アリシア、これはパーティーのギルドカードと、ヘレンさんからの伝言だ。」


「うん!お疲れさま!」


「アリネー、それ何?」


「ほら、これがあたしのギルドカードよ。」


「わぁ!昨日ヴィルマさんが言ってた身分証のこと?もう発行されたの?」


「そうなのよ!だからヴィルマさんの仕事、早すぎでしょ。」


小さな封筒の中には新しく作られたギルドカードがあり、名前の欄には『アイリ』と記されていた。


「じゃあ、俺も『アイリ』って呼べばいいのか?ルミもアリネーって呼んでるし。」


その方が便利だろう。せっかく新しい身分を作ったんだし、活動の機会も増えるだろう。だったら、他の冒険者の前でも統一した呼び方のほうがいい。


「えっ!?えぇ~…好きにすれば?」


「じゃあ、冒険の時は『アイリ』でいくぞ!」


「や、やはは……う、うん。」


「ねぇ、お兄ちゃん、いきなりアリネーの愛称で呼ぶの?いつの間にそんなに仲良くなったの?」


「何が?これは愛称じゃなくて、今のアリシアの冒険者としての名前だろ。」


「ねぇ、アリネー、お兄ちゃんとあなたの関係って、私よりも近いの?」


ん?…ルミ、お前何言ってんだ?


「もう!そんなのどうでもいいの!ただ『アイリ』って呼べばいいの!冒険者名でも愛称でも、どっちでもいいから、やはは!」


「えぇ~、アリネー、ずるいなぁ……どんどん仲良くなってない?」


だから、ルミ、何を言ってるんだ?


「よし、もういい!出発しよう!」


俺たちは転送魔法陣を使い『モナガヌ平原』へ転移し、地下城の入口へ向かう。昨日、『神魔戦争年代記』を読んで、あることが分かった。


「アリシア…いや、アイリ、地下城の魔物って大半がアンデッド系だけど、これってやっぱり、ここが古代の戦場だったからか?」


「えっ!?そ、そうよ!!……冒険者くんも知ってるんだ?誰に聞いたの?」


アリシアはニコニコと上機嫌な様子で、なんだかふわふわしている。何がそんなに嬉しいんだ?


「なになに?お兄ちゃん、何の話?」


「ここにいるアンデッド系の魔物が、昔の戦争で死んだ兵士たちの亡霊や骸骨なんじゃないかって推測しただけだよ。」


「本当に?!」


「えっ!?冒険者くん、自分で推測したの?!大正解!『地下城』の正式名称は『モナガヌ古戦場大墓地』で、昔の兵士たちの乱葬の地なの。でも後に地脈の魔力が暴発して、今の七大迷宮の一つ『地下城』になったの。その高濃度の魔力が、周囲のあらゆるものを魔物に変えたってわけ。」


「つまり、魔物は古代の兵士の亡霊や骸骨、あるいは鎧なんかが変異したものってことか?」


「その通り!しかも魔物たちは、周囲の戦争遺物を集めて迷宮内に持ち帰る習性があるらしいわ。」


「へぇ!そうだったのか!」


「うん、冒険者くんは本当に考えるタイプね。勉強しないなんてもったいないわ。」


「そんなことねぇよ。勉強しろって言われるのはいいけど、読書は眠くなるんだよ。」


「お兄ちゃん、要するに怠け者ってことでしょ?」


「違う!これは相性の問題だ!戦闘訓練はサボったことないぞ!」


「やはは、ルミィは冗談よ。あたしたちが分かってないわけないでしょ。」


「ははっ、お兄ちゃんってほんと面白いよね。」


「俺は真剣な性格なんだぞ!」


「はいはい、分かった分かった。」


「そうだ、さっきヘレンさんに深層探索の依頼を受けるって言ったら、すごい驚いてたよ。長期依頼とはいえ、あまり手を出す人はいないのか?」


「そうね、『地下城』の閉鎖的な戦闘環境は、多くの冒険者にとってあまり魅力的じゃないし、さらに深層の魔物の特性もあって…攻略のコスパが悪すぎるのよ。それに、もう十年以上、中層を突破したパーティーはいないわ。」


「えっ!?どうして?アリネー?」


「まず、この地下城自体が七大迷宮の中でも高難度に分類される迷宮であり、しかも問題なのはあの『無限魔物召喚の部屋』だ。 ある程度の実力を持つパーティーでも、次々と押し寄せる魔物の波には最終的に撤退を余儀なくされる。 原理が分からなければ……いや、原理を知っていたとしても、ルミィのような広範囲の浄化能力がなければ対処できない。」


「ルミみたいな神官を見つけるのなんて、ほぼ不可能でしょ?」


え? じゃあアリシアは最初どうやって攻略したんだ? というか、そもそも彼女の探知能力はなんでこんなに強いんだ?


「不思議だな? じゃあ、お前たちは最初どうやって突破したんだ?」


「ああ、それはね、環境感知と感覚拡張のスキルを同時に発動させて、それに魔力感知の能力を組み合わせたことで、あの隠蔽魔法で守られている二つの召喚装置を見つけたんだ。」


「魔力感知? スキルなのか?」


「違うよ。 魔法使いが長い間魔力を使っていると、だいたい自然と身につく能力だよ。魔力を感じ取る力っていうのかな。」


「俺もできるぞ、ほんの少しだけどな。でも知ってるか? アイリシ……おっと、アイリは特にスキルを発動していない時でも、普通の人より感覚が鋭いよな? 間違ってないだろ?」


「そうかな? そう言われたこともあるけど、普通の人がどうなのかはあまり分からないのよね。」


「お兄ちゃん、なんでそんなこと言うの?」


「ああ、それはな……一緒に戦っていると分かるんだよ。俺がずっと観察してた感じだと、アイリは普通の状態でも警戒範囲がめちゃくちゃ広いんだ……たぶん百メートル以上? 獣人の感覚より鋭いくらいだ。 しかもスキルを使えば、その範囲と精度は何倍にも跳ね上がる。そうだろ?」


「……そ、そうね。」


……ん? なんか、耳が赤くなってないか? 気のせいか?


アリシアはまた顔をそむけた。もう慣れたけど、このお嬢様はたまに話す時に人と目を合わせない悪い癖がある。俺はずっと「マイペースな性格」だからだと思っていたけど……あっ! 分かった、これって単なる癖じゃなかったんだ。


「うわぁ、すごい! アリネー、獣人族の血を引いてるの?」


「獣人族? あたしが? そんな話は聞いたことないわよ。」


「獣人族って魔法は苦手だからね。でもアイリは、獣人並みの鋭い感覚と高位魔法使いの魔力感知力を併せ持ってるんだから、特別な存在じゃない?」


「やはは……特別? はは……」


アリシアの足取りが軽くなり、表情は抑えきれないほど明るくなっている。 まるでふわふわと浮いているみたいだ。


「それで、ルミも気づいてるよね? アイリって、話してる途中で急に顔をそむける癖があるんだ。俺、さっき気づいたんだけど、あれってたぶん、常に広範囲の感知をしているせいじゃないか? 何か異常を察知すると、そっちに意識が向くんだろ?」


「お兄ちゃん、なにそれ!?そんな解釈まで思いつくの!?天才じゃん!」


「やはは……悪い癖?まぁ……『たまに』そうなることはあるかもね!?やはは……」


「アリネー……」


「やはは……感知能力なら、冒険者くんのも結構いい線いってるんじゃない? そうでしょ?」


「お兄ちゃん? そうだね、なんとなく感じてた。」


「ああ、多分俺がずっと一人で魔物と戦ってたせいだろうな。感知、索敵、追跡系の初級スキルが知らないうちに身について、戦闘経験を積むうちにどんどんレベルが上がったんだ。なんたって、俺の『斥候』適性はAランクだからな!」


「あっ、そうだ! 以前の適性検査で分かったやつだよね。」


「ところで、さっきの『十年』ってなんのことだ? 十年といえば、どう考えても神魔戦争のことだろ?」


「そう、その神魔戦争で多くのベテラン冒険者が犠牲になったんだ。今の冒険者のほとんどは若い世代で、深層攻略ができる人材は少ない。それに、リスクを考えると、適度な危険度で安定して稼げる中層の方が圧倒的に効率がいい。」


「じゃあ、なんでアイリは地下城の深層攻略にこだわるんだ? 深層の地図や魔物のデータを集めたところで、他の冒険者にはあまり役に立たないだろ?」


「高難度の挑戦が目的なの?」


「うーん……一つはもちろん挑戦のためよ。『地下城』の深層が完全攻略された記録はないから、挑戦してみたいの。それに、高難度の敵と戦えばスキルのレベルも上がるでしょ?」


「えっ!? 今まで誰も完全攻略したことないの?」


「ええ、『神の民』側の七大迷宮のうち、三つは一度も完全攻略された記録がない…… もしくは、記録が残っていないの。」


「なるほど……それで、もう一つの理由は?」


「魔法道具と装備よ! ねえ、考えてみて? 十年以上も深層が放置されているってことは……」


「装備がたくさん手に入る?」


「数じゃなくて、質の問題よ! 深層の高濃度魔力は、装備や素材の質を変化させるの。 ただ強くなるだけじゃなくて、時には予想もしない特性を持つこともあるわ!」


「えっ!? どういうこと?」


「『魔力変異』よ! 物質が長期間高濃度の魔力に晒されると、魔力がその内部にまで浸透するの。 例えば、普通の『鉄』が『魔晶鉄』に変化し、硬度や柔軟性が向上する。 武器にすれば、より効果的に闘気を集め、スキルの攻撃力を強化できるの!」


「魔晶鉄? それって、魔物のドロップ素材のこと?」


「そう! 普通、魔物は死ぬと、または魔力の核である『魔晶石』が破壊されると、その体は灰になって消えるわ。でも、大量の魔力を吸収し、魔力変異した部分だけは残るの。それが、いわゆる『ドロップ素材』よ!」


えっ!? そういう理屈だったのか!アリシア、お前どんだけ博識なんだよ……!


アリシアはさらに熱く語り始め、顔まで赤くなってきた。……そうか、アリシアはそれが目的か。


「高濃度の魔力環境といえば、やっぱり深層地下城しかないわ!それに、この地下城は最近誰も探索していないから、まるで可能性に満ちた巨大な天然魔法道具工房じゃない!」


来た、これがアリシアのもう一つの姿──魔法マニア。うん、目をキラキラさせて、普段よりも話すスピードが速くて熱意たっぷり……やっぱりそういうことか。


「わぁっ! すごいね! それじゃあ、頑張ろう! アリネー、お兄ちゃん!」


「よし! 今日が俺たちの冒険隊『レッドスピネル』の初挑戦だ! 今日は一気に深層を攻略するぞ、準備はいいか?」


このパーティー名は昨日の夕食中にアリシアが決めたものだ。なかなか悪くない、彼女の趣味にぴったり合っている……そしてリーダーは……名目上は俺だけど、実際はもちろんアリシアだ。さぁ、出発だ。なんだか儀式っぽいな。


「問題ないわ、みんな気をつけてね。」


「了解!」


俺たちは『地下城』の入口に到着し、そのまま転送門を通って深層へ向かった。これが地下城の設計……いや、特性と言うべきか? 入口にはすでに中層や深層への転送門があり、『討伐の証』を持つ者なら通過できる。便利な仕組みだ。


『地下城』の深層……最後に来たのはいつだったっけ? 計算すると……だいたい二ヶ月前か? あの時はまだルミが『フローラ』に来る前だったな……なんだかずいぶん昔のことに思える。たった二ヶ月の間に色々あったな……ルミの登場、観察日誌、実戦訓練、そして『ルリ』との再会……


「アリネー、お兄ちゃん、深層は攻略したことあるの? 魔物ってやっぱり手強い?」


「うん、一回だけね。でも全然勝てなかったのよ。」


「えっ? アリネーでもダメだったの?」


「そうよ! 深層には『上級怨霊』専用の部屋があるんだけど、それが本当に厄介で! しかも30体以上倒さなきゃいけないのよ!」


「『上級怨霊』?」


「邪念の集合体よ。実体を持たなくて、攻撃できるのはコアの魔晶石だけ。でも、その魔晶石はじっとしてくれないのよね……うーん、簡単に言うと、小さな魔晶石が空中を超高速で動き回ってて、それを一つずつ撃ち落とさなきゃいけないって感じ! すごく面倒くさいの!」


「超高速で移動? 魔法でも当たらないの?」


「当たらないわけじゃないけど……追尾機能がある雷光矢なら命中する。でもね、あいつらには『幻影』って魔法スキルがあって、瞬間的に幻影を作り出して魔法攻撃を無効化しちゃうの。それに範囲魔法を使っても、高速移動で散らばって避けるのよ。」


「すごい! なんか面白そう! じゃあ、攻撃手段は? 実体がないなら魔法攻撃?」


面白いのか? ルミ、本気で言ってるのか?


「精神攻撃よ! あいつらに触れられると精神的に疲れるし、ネガティブな感情が増すの。あたしには精神攻撃耐性があるけど、あの空中を飛び回りながら『ほら、攻撃してみなさいよ?』って煽る感じが本当に腹立つの! 直接的なダメージはないけど、屈辱感は満点よ! もう二度と見たくないわ!」


アリシア、本当に精神攻撃耐性あるのか? 魔法による精神攻撃は防げるかもしれないけど、煽られたら普通にキレるよな? うん、おそらく耐性があるのは魔法攻撃に対してだけだな。あー、分かった。お前、魔力耐性が高すぎるせいで、ついでに精神攻撃耐性も得ただけなんじゃないか? 聞いてみるか? ……いや、また講義が始まりそうだからやめておこう。


「そうだな、あれは本当に厄介だった。アイリが即座に撤退命令を出してくれて助かったよ。」


「どうしようもなかったわよ! 魔法は当たらないし、紅刃コウモリの飛行軌道は分かりやす過ぎて、全部避けられるし! あたしが多段ジャンプで一体ずつ斬るにしても、さすがに効率が悪すぎるわ! それに、倒しても魔晶石の欠片しかドロップしないし、全然割に合わないのよ!」


アリシアが色々言っているけど、本当の問題はその後の戦闘だろう。もし『上級怨霊』が混ざった複合魔物の部屋だったら……俺にはアリシアみたいな精神攻撃耐性はない。もちろん耐性を上げる装備は持ってるけど、それでも完璧ではない。精神疲労で戦闘不能になったら、他の高レベル魔物に狙われる可能性が高くなる……つまり、アリシアは俺を気遣って、あえてその部分には触れなかったんだろう。


「ごめん! 俺、二段ジャンプしかできないから、手伝えない!」


「ははっ、何言ってるの? 最初から君が空戦型の戦士じゃないことくらい分かってるわよ! でも大丈夫、今はルミィがいるもの! 『上級怨霊』なんて死なせてやるわ!」


『上級怨霊』って、もともと死んでるんじゃないか……まぁ、気にするな。


「任せて! S級神官の出番だよ~♪」


「そういうわけで、これが俺たちが『地下城』深層探索を中止した理由、そしてアリシアが『ブラックボックスの仕組』してでもオリシウス聖教会の神官を頼んだ理由よ。」


「何よ、その『ブラックボックスの仕組』って? これは交渉と妥協の結果よ? いやはは~でも、まさかルミィが来るとはね~❤」


アリシアは思わずルミをぎゅっと抱きしめた。うん、その気持ちは分かる。だってルミは本当に俺たちの小さな天使だから。


「ぷふっ、アリネー、私も大好き! ぎゅ~❤」


ルミもアリシアを抱きしめ返した。この二人、いつの間にこんなに仲良くなったんだ? そして俺も『ルリ』……今のルミと再会できた。こんな奇跡みたいなことが起こるなんて、俺たちどれだけ運がいいんだ? これは全部……!? 『上級怨霊』のおかげなのか?


「えっ、それじゃあ『上級怨霊』に感謝するべき?」


「えぇ──?!」




「『聖霊浄化』!」


ルミが広域浄化の奇跡を発動し、眩い聖なる光が迷宮の部屋全体を包み込んだ。かつて傲慢に振る舞っていた三十体の『高級怨霊』は、瞬く間に悲痛な叫び声を上げ、黒い霧のような体が光の中でねじれながら崩壊し、完全に消滅した!カラン、カランカラン……三十個の高級魔晶石が雨のように床に落ち、澄んだ心地よい音を響かせる。


「わぁ!三十個の無傷の高級魔晶石!これは実験用の素材だね!遠慮なくいただくよ!」


うん、まさにそういうことだ。一ヶ月前、俺たちを撤退に追い込んだあの存在も、今日のルミにとってはただの高級魔晶石に過ぎない。





俺たちは探索を続け、何度も行き止まりを引き返しながら、三十以上の部屋を掃討した。ようやく第一区域の地図を完成させ、次回の探索で直接第二区域に到達できるルートを確認した。迷宮の構造は主に浅層・中層・深層の三つに分かれ、各層は転送門によって区切られている。どの層にも階層主がいるが、同じ層の中でも魔物の強さには違いがあり、魔力濃度によって三つの区域に分類されるらしい。さらに、深層には副階層主がいて、第二区域と第三区域の間を守っているとのことだ。


部屋に入ると、三体のスケルトンソルジャーの姿をした魔物が待ち構えていた。しかし……妙だ。これらのスケルトンソルジャーの半透明の骨は淡い燐光を放ち、輝く双眸にはゾッとするほどの強大な魔力が渦巻いている。


「全身魔晶化したスケルトンソルジャー?……『魔晶スケルトンソルジャー』か?」


この部屋にいるのは三体の『魔晶スケルトンソルジャー』。俺たちが遭遇するのは初めてだが、アリシアの推測によると、これは『スケルトンソルジャー』の上位種で、全身が完全に魔晶化しているらしい。


「ちょっと試してみるか。」


「分かった。気をつけて。」


深層第一区域の魔物は、基本的にすべてが亡霊英雄第一段階と同等の強さを持ち、何よりも耐久力が非常に高い。どの戦闘も長期戦になりがちだ。しかも、俺たちは『魂の鼓舞』を使わずに戦っている。一つはルミの精神力を温存するため、もう一つはアリシアの意向で、魔物の特性をしっかり観察・分析するために『魂の鼓舞』の強化効果に頼りすぎないようにするためだ。幸い、深層の部屋にいる魔物の数は多くなく、さらにアリシアの強力な魔法火力もあって、今のところはまだ余裕がある。では、第二区域はどうだろうか?


「『集団挑発』!」


スキルを発動し、三体の魔晶スケルトンの注意を引こうとしたが……ん?おかしい、一番奥の一体に効いていない?まさか耐性があるのか?


「アイリ!」


「了解!この魔物たちはさらに知能が向上しているみたいね。あなたは二体を相手して、残りはあたしがやるわ。『紅刃』!」


アリシアは紅刃コウモリを数体放ち、孤立した魔晶スケルトンを妨害する。紅刃コウモリは俊敏に飛び回り、魔晶スケルトンの行動を妨げ、すぐに戦闘へ加わることを防いだ。なるほど、これで目の前の二体に集中できる。


「よし!」


俺は二体の魔晶スケルトンと白兵戦に突入した。『魔晶スケルトンソルジャー』の攻撃速度は亡霊英雄第三段階に匹敵するが、攻撃力はやや低い。問題ない、二対一の戦いなら対処できる。回避、受け流し、反撃を繰り返しながら剣を振るう。魔晶化した骨と剣がぶつかるたび、金属よりも硬い感触が伝わってくる。幾度も攻防を重ねる中で、魔晶化した魔物の肉体強度を実感する……これはまた厄介な戦いになりそうだ。


「冒険者くん!」


「分かってる!」


アリシアの支援魔法が飛んできた。魔物の死角に回り込んだ四体の紅刃コウモリが見える……両方の戦線を同時に対処してるのか?なんて頼もしいんだ!


ドーン!ドーン!


アリシアが紅刃コウモリを通じて遠隔発動した『煉獄・火球術』が、『魔晶スケルトンソルジャー』の背後から至近距離で炸裂した。熱気が空気を揺らし、『魔晶スケルトンソルジャー』の骨が真っ赤に焼ける。しかし、それでもなお立ち続けている……ダメージが足りないか!だが、確かに動きが止まった!


「グォォォォォ───!」


今だ!俺は蓄積した力を解放し、スキル『蓄力・破空水面斬』を発動する。しかし、『魔晶スケルトンソルジャー』はすでに体勢を立て直している……こんなに早く?!


「まだいける!冒険者くん、焦らないで!」


アリシアの『煉獄・火球術』の攻撃はまだ続いている。さらに、紅刃コウモリを使った第二波の爆撃が魔物を抑え込んでいる……よし、これで時間が稼げる。俺はスキルを発動しながら気を練り続け、剣に纏わせる闘気を高めていく。スキルの闘気と俺自身の闘気が掛け合わさり……きた、蓄力が限界に達した!


「おおおおおお──!」


突進しながら平面斬撃を放つ。狙いは『魔晶スケルトンソルジャー』の上半身!二体まとめて斬り裂く──!


「!」


確かに手応えはあった……どうだ!?……魔晶スケルトンの肋骨から下が粉々に砕けた。成功したのか?いや、違う!奴らは倒れながらも、まだ両腕で上半身を支えている……再生するつもりか!?砕けた下半身が怪しく光り始め、魔力が体の破片を引き寄せている……まずい、間に合わない!魔晶石を狙わなきゃ!動け、俺の体!


「よくやった!あとはあたしに任せて!」


天から降り立ったアリシアは、二本の剣で二体の魔晶骸骨の胸骨を貫き、それぞれの魔晶石を粉砕した!


「見事だ!!」


戦場のアリシアは本当に期待を裏切らない! さて、最後の一体は…


「爆破しろ!」


アリシアの紅刃コウモリが爆撃を開始し、次々と至近距離で『煉獄・火球術』を発動した。『魔晶スケルトンソルジャー』は空中へ跳び上がり、回避しようとしたが、アリシアの魔法によって撃ち落とされる。地面に倒れた『魔晶スケルトンソルジャー』に、さらに灼熱の火球が連続で炸裂し、魔晶の骨格が四散した末に灰となった。


「ふぅ、二十発。」


「二十発?『煉獄・火球術』の?」


あの中層の『死霊重鎧』を一撃で倒せる『煉獄・火球術』を、この魔晶骸骨たちは二十発も耐えたっていうのか?


「そう! 耐久力が本当に驚異的ね。」


「うーん…第二区域の魔物は確かに手強くなってきたな。どうする? まだ進む?」


「うーん…ちょっと考えさせて…」


「お疲れ様! 神聖治療!」


「えっ!?」


ルミが俺に治癒の奇跡を発動した。まあ、さっきの白兵戦で少しは傷を負ったが、大したことはない。 だが、問題は…


「撤退するぞ、アイリ、ルミ。」


「えっ? あっ、なるほど。」


「え? 撤退は別にいいけど、急にどうして? お兄ちゃん?」


「お前の奇跡の発動が第三段階まで遅れてたぞ。」


「えっ!? そうなの? 私、まだいけると思うけど?」


「冒険者くんが…いや、お前のお兄ちゃんが言ってることも聞けないのか?」


「うぅ…! き、聞くよ! お兄ちゃん、私は素直だよ! ちゃんと言うこと聞くから、帰ったらご褒美ちょうだい!」


「はいはい、ルミは今日よく頑張ったから、ご褒美あげような。よし、帰るぞ!」


「えへへっ、やった〜♪」


「…」


アリシア? あっ、しまった、俺のミスだ。


「でも、一番火力を出してくれた俺たちの優秀な隊長──アイリが、今日のMVPだな!」


「わーい! アリネー万歳!」


「いや、そんなに大げさにしなくても…あはは…」


このお嬢様、拗ねるとわかりやすいな。


「じゃあ、今日の深層探索の成果を祝って、帰って盛大に祝おう!」


「おー!」




転送魔法陣を通り、『フローラの街』の外へ戻った。 夕陽が石畳に降り注ぎ──もう黄昏時か。 転送魔法陣から帰還する冒険者のパーティーの姿が見え、遠くには商隊がゆっくりと街へ入っていくのも見える。


「えっ!? あれって流星さんじゃない!?」


遠くからエルフの声が聞こえた。ん? 冒険者の一団がこちらへ近づいてくる。 フレイヤのパーティーか? 彼女たちも探索を終えたところなのか?


「!」


…ん? アリシアが急に魔術師のローブを羽織り、どこからか取り出した仮面をつけた?


「流星さん! ルミナスちゃん! それから…えっ? あれ? この魔法使さん、どこかで見たような…新しいメンバー?」


仮面をつけていても顔がバレるのか? なんで?


「フレイヤ姉さん! 彼女よ! 私たちの命の恩人! 私の鼻が覚えてる! 同じ匂いがする!」


ホリー──獣人族の盗賊。嗅覚の鋭い種族だ。 でも『命の恩人』ってどういうこと? もちろん俺じゃない。アリシアのことか? ああ、そういえば…アリシアとルミが初めて出会った時に助けたのが、フレイヤたちのパーティーだったんだっけ。


「えっ、そうだったの!? ずっとお礼を言いたかったんです! その節は本当にありがとうございました! お名前を伺っても?」


「うん、大したことないわ。ただの助け合いよ。」


「アイリ! 彼女は私のアリネー! 超すごい冒険者なんだから!」


「えっ…! アイリさん、どうかもう一度お礼をさせてください! ホリー、サラ、あなたたちも!」


彼女たち三人は正式にアリシアへ感謝を述べ、アリシアもそれを快く受け入れた。 まるで領主の令嬢のような振る舞いだな。


「お姉さん! この方が前に話した命の恩人! アイリさんだよ!」


「アイリさん…ですか? 初めまして、私はシャーロット、シャーロット・ヴァイス。この子の姉で、今年……」


…またか、この流れ?


「ねーねー! ストップ! もうちょっと控えめにしてよ!」


「え?どうしたの、別に変なこと言ってないでしょ…」


「…」


「さて…流星さん!また会えたね!」


シャーロットは軽く髪をかき上げ、優雅な微笑みを浮かべながら、ゆっくりと手を差し出した──


え!?またこの微妙な距離感のお姉さんが来た!また手を伸ばしてきた!


「いい加減にしてよ!お姉さん!」


サラが強引に彼女の手を押し戻した。うん、協力ありがとう。


「…」


アリシアがずっと沈黙してる?なんだか妙な雰囲気だな…。それに、このパーティー…。


「エルフのお姉さんたち、なんだか少しボロボロじゃない?クエストが大変だったの?怪我してない?治療してあげようか?」


「大丈夫だよ!ルミナスちゃん、ありがとう!ただ…ちょっと必死に戦いすぎちゃってね。ははは、全部流星さんのせいだよ。」


「え?オレのせい?」


「知らないの?流星!冒険者ギルドのみんなが君の話をしてるよ。君と一緒にパーティーを組んだ冒険者たちが、君の戦い方を語り合っててね。それを聞いて、私たちももっと頑張らなきゃって思ったんだ。」


人間の騎士パールは、フレイヤたちとは違ってオレと組んだことはない……。つまり、同じ噂だけど、悪評から賞賛に変わったのか?


「ええっ!?お兄ちゃん!それって超恥ずかしいじゃん!」


「ルミ、もう慣れたよ。気にするな。」


「うわぁ、お兄ちゃんのメンタル強すぎ!」


「それで、私たちも無意識に全力で戦っちゃって、その結果…こんな感じさ!ははは!でも心配しないで!サラのお姉さんに手伝ってもらったからね!彼女はプロの治癒魔法使いだよ!おかげで、私たちは安心して戦えたんだ!」


「いやいや、フレイヤさん、お気遣いなく。」


(チッ!)


またアリシアが何か…?小さな声だったけど、聞こえたぞ…。お前、一体何が不満なんだよ?


俺たちは城へ戻る道すがら雑談を交わし、そして城門前で別れた。





「さて、アリシア。そろそろ説明してくれないか?」


「そうだよ、アリネー。さっきからずっと機嫌悪そうだったよね?」


「うーん…そんなにわかりやすかった?」


「どうしたの?アリシア。他の人は気づかないかもしれないけど、俺たちが気づかないわけないでしょ?」


「それは…そうね…。うん、実はさっきのパーティーの中に、昔の知り合いがいたのよ。」


昔の知り合い?それがどうした?


「えっ!?そうだったの!?てっきりアリネーが嫉妬してるのかと…って、で、どの人?」


「あの『シャーロット』よ。かつての『天才爆炎魔法学徒』、シャーロット・ウィース。」


「あのシャーロットさん?何か問題が?」


「昔のことは話したくないわ。でも…この人とは絶対にうまくやれない。」


アリシアの目が一瞬揺らぎ、何か嫌な記憶を思い出したように唇がわずかに震えた。でも結局、何も言わずに飲み込んだ。


「わかったよ、アリネー。きっと理由があるんだよね。無理に聞かないよ。お兄ちゃんも気をつけてね、その人。」


「…ああ、わかった。それじゃあ、帰ろうか。『レッドスピネル』の初陣を祝わないとな!」



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