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十二、再続・少女の夜話

収穫祭のデートが終わり、今夜もまたお姉さまの部屋に来て、一緒に寝ることになった。


「お姉さま、顔がまだ少し赤い気がしますけど、大丈夫ですか?どこか具合悪いとか?」


「大丈夫よ。心配してくれてありがとう。ルミちゃん、意外と気が利くのね。」


お姉さまは微笑みながら、私の頭を軽く撫でてくれた。その微笑みと赤らんだ頬の組み合わせは、本当にお姉さまが美しいことを再確認させてくれる。そして…お姉さまが抱えているあの…トマトのぬいぐるみ…。何と言うか、少し場違いな感じのもの。


「お姉さま、それ…ぬいぐるみを抱いて寝るんですか?」


「うん!❤」


「本当に好きなんですね、その…ぬいぐるみ?」


「ん?どうしたの?かわいいでしょ?トマトくん。」


トマトくん!?もう名前までついてるの?この物体…いや、このやつめ。


「こんばんは、トマトくん。」


「ふふ❤かわいいでしょ?」


また言った。うん…かわいいと言えばかわいい、というか、まぁ確かにかわいいかもしれない。


「お姉さまがこういう子供っぽいものを好きなんて意外ですね。」


「そうかな?自分でもよくわからないけど、トマトくんを見た瞬間に好きになったの。たぶんトマトの形だからかな?」


お姉さまがトマト好きなのは知っている。でもこのやつめ…何と言うか、見た瞬間にイラッとくる。


「なんて言うか…お姉さまへの贈り物って言えば普通、アクセサリーとかきれいな服とか、魔導具とか武器とか、そういうのじゃないですか?ぬいぐるみってちょっと場違いな感じが…」


「そう?あたしは庶民のものも尊重してるわよ?まぁ、詳しく知るつもりはないけど。でもトマトくんは別!見て、このかわいさ!ぷにぷに、ぷにぷに❤」


お姉さまはトマトくんの顔を両手でぷにぷにしながら、いろんなおかしな表情をさせて、声までつけている…。うん…かわいすぎる。いや、こいつじゃなくてお姉さまが。お姉さまにこんなかわいい一面があるなんて、驚きだ。まぁ、わからなくもないけど。


「結局、お兄ちゃんがくれたものだからでしょ?」


「え?た、多分ね?あはは、そうかもしれないわ!❤」


うん…わかった。このやつめがイラッとする理由…この胸の奥にくすぶる不快感、モヤモヤするこの気持ち、これが「嫉妬」ってやつか。お姉さまがこいつを抱えているときに浮かべる、あの恋する少女の笑顔。こいつが何の徳を積んで、こんなにもお姉さまに気に入られているのか。羨ましい…いや、嫉妬する、そんなやつめ。私も欲しい。


「まぁいいや、とりあえずトマトくんは置いといて、今夜は私とお姉さまの二人きりの時間です。」


「ふふ、ルミちゃん、昨日も来てたじゃない。よっぽどあたしと一緒に寝るのが好きなのね?」


「そうですよ。お姉さまは私を歓迎してくれないんですか?ちなみにお姉さま、とってもいい香りがします。」


「歓迎しないわけないでしょ。ただちょっと気になっただけ。香りならルミちゃんも負けてないわよ。」


「今日は記念すべき日なので、お姉さまと心ゆくまでお話ししたいんです。」


「記念すべき日?何の記念?お兄ちゃんを見つけたこと?」


「そうです。でもそれだけじゃなくて、お姉さまに宣戦布告した日でもあるんですよ!」


「あなた…ふん!」


お姉さまは指で私のおでこを軽く弾いた。


「痛い痛い!」


「力を入れてないでしょ。痛いなら自分で治したら?」


「うわーん!嫌だー!お姉さま冷たいー!」


「ふん、今日は色々やらかしたのに?”ヒール”。」


「何ですかそれ!私はただお兄ちゃんに告白しただけですよ。お姉さまは何を言いたいんですか?」


「ただ?自分ではわかってないと思うけど、あなた、ずっとあたしを挑発してたわよね?」


「ええー!?何それ、私そんなことしました?」


「最初は気づかなかったけど、最後に告白したところで全部繋がったわ。」


「さすがお姉さま!」


「ルミちゃん、昨夜どうして私に打ち明けたのか、今なら分かるわ。あなたも大変だったのね。」


「え?」


「長年恋しく思っていたお兄ちゃんと再会できたのに、それでも私のことを気にかけて、名乗らなかったんでしょ?」


「そ、それは…私、彼の噂を…」


「その噂、もうずっと前に誤解が解けたでしょう?この二週間以上一緒に過ごして、冒険者くんが全然悪くなっていない、心の底から善良な人だって確信したんじゃない?」


「…うん…」


「だから昨日、冒険者くんに正体を見破られたのに、名乗ることを避けたのは、彼の噂のせいじゃなくて、私のことを気にかけたからでしょ?」


「…うん…」


わぁ! 姉上、あなたの言う“全てを繋げる”って、どこまで繋げる気なのよ!?


「だから、ありがとうね、ルミちゃん。」


「ありがとう?何が?」


「ありがとう、自分の心に正直になって、卑怯なことをしなかったこと。」


「うぅ…恥ずかしい!でも、それもお姉さまの言葉のおかげよ!お姉さまがお姉さまが信じてくれるって言ってくれたから、私は思いとどまって、みんなを傷つけることをしなかったの!ごめんなさい…」


「大丈夫よ。もしかしたら、もしあなたがその言葉を口実に、あたしに身を引けって言ったら、それはそれで良かったのかもしれないけどね。」


「そんなのありえません!お姉さま、今日のことで自分の気持ちがはっきりしたはずですよね?」


「うんうん…」


「だったら、こっそり私に教えてください!誰にも言いませんから!」


「どうして“ライバル”に話す必要があるの?」


「はぁ~、“ライバル”なんて、もう認めちゃったじゃないですか?」


「ふん、そういうところだけは少しだけ賢いのね。」


「今の私はただの妹ですよ!だからお姉さま、妹に心の内を教えてください!一緒に背負いますから!」


「うん…仕方ないわね。でもね、あたしが本当に何も分かっていないとでも思っているの?…ただ…冒険者くんを好きになっちゃいけないの。」


「えっ!?いけない!?どういう意味?」


「それはね…まず、あたしの立場の問題があるのよ…あたしは領主の娘だから。」


「それがどうしたの?貴族は貴族同士でしか結婚できないってこと?」


「そういうわけじゃないの。だってお母さまだって貴族じゃない。でもあたしは違うの、あたしは女の子で、父さまのただ一人の実の娘だから…」


「うんうん、それで?」


「あたしの将来の夫になる人は、領主の跡取りになるべき人でないといけないの。平民じゃ無理。父さまも、いや、皇帝陛下も、貴族の誰もがそれを許さないわ。」


「それってどういうこと?」


「つまりね、他の貴族の次男と結婚して、“エレナガード”家に婿入りしてもらうしかないの。」


「そ、そんなのって…」


「それが現実なのよ。もし、あくまで冒険者くんを好きになって、一緒にいるっていうのなら…」


「なら?」


「この家も何もかも捨てて、家出するしかないわ。そして“エレナガード”家はこの大陸から消えることになる。それに、この地の民たちを苦しみのどん底に突き落とすの。」


「ちょっとちょっと!お姉さま!話が飛躍しすぎてない!?どうしてそんなことになるの!?」


お姉さま、そんなとんでもない話をされても…ただ好きな人と一緒にいるだけで家名が滅びるとか、この地の民が苦しむとか…


「もし、あたしという血縁の娘がいなくなったら、父さまは後継者を失ったことで非難を受けるでしょう……ずっと父さまに不満を抱いていた貴族たちは、この機会を狙ってあたしたちの領地を奪おうと画策するでしょうね…それどころか、戦争が起こる可能性すらあります。」


「どうして!?同じ王国の者同士なのに、そんな陰謀を企てたり、急に戦争を仕掛けたりなんてできるの!?」


「それは……簡単に言うと、あたしたち“エレナガード”家は、今となっては数少ない“元”親皇派なのです。そして、さっき言った貴族たちは“現”親皇派……」


「どういうこと?“親皇派”って、皇帝陛下と親しい派閥のこと?それなら、“元”と“現”の違いって?」


「ルミちゃん、あなたは知らないかもしれませんが、今の皇帝は先代皇帝が指名した正当な後継者ではありません。その経緯は少し複雑で……とにかく、あたしの家はもともと権力闘争の渦中にあるのです。」


「そんなのありえない!皇帝陛下は!?内戦を許すつもりなの!?」


「“あの”皇帝陛下のことだから……陛下を悪く言うつもりはないけれど、多分『別にいいんじゃない?みんなの好きにすれば~』って感じかしら。」


現皇帝、そんなに頼りないのか!?この時代にこんな無責任な皇帝がいるなんて、人族の未来が危ういな!


「じゃあ、養子を取るとか、弟を生むとかは?」


「養子は無理ね。跡取りは貴族の血を引いていなければならないから、それはもう“引き継ぎ”ではなく、その家の領地になっちゃう。弟を生むにしても…今までいない時点で察してよ。」


「だから、“家が消える”ってそういうことなの?」


「そうよ。」


ええ、なんて話だよ…お姉さま、そんな重いものを背負いながらお兄ちゃんと向き合っていたのか…


「酷すぎる!お姉さまが気の毒すぎる!もしお姉さまが貴族の家に生まれていなければ…!」


「そんなことないわ。これもあたしの宿命よ。それに、あたしは父さまと母さまが大好きなのよ。父さまは領主の模範で、母さまは多くの知識を教えてくれて、あたしを一番愛してくれるのだから。それに、あたしはこの土地も、みんなも好きなの。」


そうだ、お姉さまは貴族の義務を果たすだけじゃなく、本心からこの地と民を愛しているんだ。


「それに、もしあたしが今の領主の娘じゃなかったら、きっと冒険者くんとも出会っていないわ。」


そうだな、世の中に“もしも”なんてものはない。


「ごめんなさい!私、余計なこと言っちゃった!」


「大丈夫よ、あなたはあたしのことを心配して、悲しんでくれているだけだから。ありがとう、ルミちゃん。」


優しく慰めてくれるお姉さまを見ていると、涙が溢れてきた。


「泣かないで。」


お姉さまは手を伸ばして、頬を撫でてくれた。親指で私の目尻の涙を拭ってくれる。


「我慢できないよ~~うぅ、お姉さまがこんなに大きなものを背負っているなんて知らなかったのに、ずっとお姉さまに感情を向き合わせようなんて!私、バカだよ~~バカすぎるよ~~!」


「泣かないで、泣かないで。ルミちゃん、いい子、もう大丈夫よ。」


うう…どうしてまたお姉さまに慰められてるの!?かわいそうなのはお姉さまのほうなのに!


「うぅ、わ、わかった、泣かない…うぅ…」


「でも、やっぱりありがとうね。」


「うぅ…どうして?」


「今はルミちゃんがいるから、あたしが告白できなくても大丈夫。冒険者くんのそばに、しっかりいてあげてね。」


お姉さま、それってまた“公平な競争”のを放棄するってことじゃないの?


「納得できない!そんな結末は嫌!それじゃあお姉さまだけが傷つくじゃない!約束の“公平な競争”はどうなるの!?」


「そ、それは矛盾していないわ!あなたはどんどんアプローチしていいのよ!あたしはもう自分の気持ちに気づいているわ。ただ、家族のことを考えるあまり、自分の想いを告白することすらできない…無能な女の子だから。堂々と勝っていいのよ。あたしはそんなことであなたを嫌いになったりしないから!もし…万が一…あたしが、冒険者くんを本当に好きだとしても…あたしはただ…はぁ…え?」


お姉さまの大粒の涙が、自然とこぼれ落ちてきた。お姉さまはぼんやりと自分の頬を触り、手を下ろした。


「うぅ…あたしはただ…うぅ、見守るしかなくて…うぅ、お二人を…うぅ、祝福するしかないの!」


「違うよ!それは私が望んでいることじゃない!」


私は涙でぐしょぐしょになった恋する少女――お姉さまを強く抱きしめた。悔しい!お姉さまがあまりにも可哀想すぎる!


「お姉さま!せめて、お兄ちゃんに選ばせてよ!もし彼が私を選んだら、二人を祝福してくれればいい。でも、彼があなたを好きで、あなたを選んだなら!あなたたちは一緒になるべきだよ!家族のことだって、貴族のことだって、きっと解決策があるはずだよ!」


「うぅ…解決策?」


「そう!絶対にあるよ!」


「うぅ…本当に?」


「もちろん!もしどんな貴族や皇帝が反対しても…私、誰かに頼んで魔法でみんな吹き飛ばしてもらうから!違う!お姉さまの魔法だって強いでしょ?貴族が迫害してきたら、魔法で城壁の一部でも吹き飛ばしちゃえばいいよ!」


「ルミちゃん、何を言ってるの!?そんなの本当にできるの!?」


「できるよ!皇帝が反対するなら、倒しちゃえばいいの!皇帝を倒す!お姉さまが史上初の人族の女皇になるのよ!」


「ふふふ…あははは!何それ?ルミちゃん、さすがに大げさすぎるわよ!」


「大げさじゃないよ!これが恋する乙女のポリシーよ!」


「そ、そんな…」


私のあまりの勢いに、お姉さまも思わず笑い出した。


「いいわ!言ってみなさい!」


「え?何を?」


「さあ!頑張って!言ってみて!冒険者くんのことが大好きって!」


「ええっ!?」


「ほら!がんばって言ってみて!冒険者くんのことが大好き!」


「わ、わたし、冒険者くんのことが大好き!」


やった!お姉さまが告白した!


「もう一回!もっと大きな声で!」


「あ、あたし、冒険者くんのことが大好き!」


「私も言うよ!私もお兄ちゃんのことが大好き!」


「冒険者くんのことが大好き!」


「お兄ちゃんのことが大好き!」


……


「はははは……」


……


ベッドに寝転びながら、私はお姉さまの身体にぴったりと寄り添った。さっきの馬鹿騒ぎから、ようやく落ち着いてきた。


「ねぇ、ルミちゃん、本当に信じてるの?」


「何を?さっきの?お姉さまが女皇になる話?」


「違うし、それもそうだけど…“きっと解決策がある”って言葉よ。」


「信じてるよ!」


「本当に武力で脅すの?」


「必要なら、やるよ!だって、どうせろくでもない奴らなんだから!」


「ふふ…ありがとう、ルミちゃん。」


今日だけで何回目だろう?うん、やっぱり私はいい妹だ。


「お姉さま、もう悩むのはやめようよ。あれこれ怖がって一歩も踏み出さないくらいなら、何も考えずにとりあえず進んでみたほうがいいよ!」


「わぁ、ルミちゃんってこういうことに関して本当にすごいわね。」


「当然だよ!だって、お姉さまが認めた、S級の意志を持つS級神官だもん!」


「ふふ、本当ね!やっぱりあたしの目に狂いはなかったわ!」


「ねえ、ルミちゃん、もう私のことを『お姉さま』って呼ぶのやめたら?」


「どうして!?お姉さまは私のこと嫌いになったの?」


「逆だよ。もっと親しみやすい呼び方に変えてみない?」


「うーん…お姉さまはやっぱりお姉さまだけど… 親しみやすい呼び方か…う

ーん…アリシアお姉さま?お姉ちゃん?アリシア姉ちゃん?…アリ…姉?ん?これいいかも?アリネー!」


「アリネー?うん?いいね!なんか悪くない!じゃあ、私も今日からルミィって呼ぶよ!」


「いい!アリネー!」


「うん!ルミィ!」


……


「ねえ、アリネー、今なら教えてくれるよね?どうしてお兄ちゃんのことが好きになったの?」


「はあ…それはね…」


「うん?」


「どうしてかな?最初は、彼が無理ばかりして、全身傷だらけで汚れているのを見ていられなかっただけ。」


「ふむふむ。それって前に聞いた噂のこと?」


「そうよ。彼は努力しすぎるあまり、その必死さで他の冒険者たちを怖がらせていたの。」


「なるほど、じゃあその噂は本当だったんだね?」


「ええ、その点については本当よ。最初の1か月は毎日迷宮に通って魔物を狩って、休みの日でも休むことを知らなかったんだから。」


「わあ!お兄ちゃん、本当に狂気じみてるね。」


「それで少し接してみたら、意外と中身はいい人だって気づいたの。」


「なるほど!」


「それから、ある偶然の機会に彼の戦闘を見たの。もう滅茶苦茶だったけど、戦う意志の強さに、もし指導すれば大きく成長するはずだと思った。」


「うんうん!それであの”地獄の特訓”が始まったんだね?」


「そうよ。最初は本当にひどかったわ。ただ突っ込むだけで、怪我しても平気そうで、疲れ果てても頑張り続けていたの。」


「はは!それって小さい頃のケンカと同じじゃない?さすがお兄ちゃん、何年経っても変わらないね!」


「まさにそうね。あなたがお兄ちゃんのことを話すたびに、本当に性格が冒険者くんと全く同じだって思っちゃうの。」


「それでその後は?」


「冒険者くんが少しずつ成長していくのを見て、訓練の難易度をどんどん上げていったの…彼を常に限界状態にしてね。」


「ええっ?」


「わかってる!あたしが悪かったの!あたし、厳しすぎたの!でも、それでもせいぜい中層のモンスター相手だけだったのよ!一般人にとってそれが地獄だなんて、思いもしなかったの!」


「アリネー、それってどういう意味?」


「ある日、ヴィルマおばさまに言われたのよ!」


「ヴィルマ…おばさま!?何て言われたの?」


「『お嬢様、それは普通の”人族”ですよ』って。それでようやく気づいたの…あたし、ちょっと厳しすぎたかもって…」


「!?」


ああ、アリネーの基準が高すぎるんだな。そういえばヴィルマさんってアリネーのおばさまだったんだ。どうりでちょっと似てると思った。


「でもね、冒険者くんはそれを乗り越えたの。一度振り返ってみると、どうしても彼に感心せざるを得ないわ。その意志と忍耐力は本当に尊敬に値するの。視点が変わったからかもしれないけど、それ以来、彼が強敵に立ち向かう姿を見るたびに、勇気に興奮して、気づいたら夢中になってた。そして、冒険者くんの実力が上がるにつれて、一緒に戦う仲間としての感覚がますます楽しくなったの。」


「わあ──そういうことだったんだね!やっぱり真剣で勇敢なお兄ちゃんはすごく魅力的だよ!」


「それに、ちょっとした出来事もあって…詳しくは言わないけど、彼があたしにとって大切な存在なんだと気づいたの。」


「えっ!」


来た来た!心の中で大切な存在になったって!アリネー、もう逃げられないよ。その笑顔、すごく幸せそうだし、今すぐ鏡を持ってこようか?


「でも、それってただの” 大切な人”って感じかも?少し好意があるだけ?でもこれ以上は考えられなかったのよ。さっき言った理由があるから。そして、ちょうどルミィと出会った頃のことなの。」


「うんうん、なるほどね。」


その”少し”の好意?私がここに来たときには、もうその段階をとっくに超えてた気がするけど。


「まあ、大体そんな感じよ!正直言うと冒険者くんってお世辞が上手いと思ったらドジなとこもあったり、時々カッコつけたり、それに…少しスケベなところもあるし!どこがいいのか、自分でもよくわからないのよ!そんな彼に夢中になってるあたし、本当にちょっと変よね!」


アリネー…今さら何を”ツン”としてるの?お兄ちゃんもここにはいないのに……っていうか、お兄ちゃん、あなたって本当に罪深い人だね。いつの間にかアリネーまで引き込んじゃうなんて。


「じゃあ…アリネー、明日告白するの?」


「えっ、その、その、その、そんなのは適したシチュエーションとか、ロマンチックな雰囲気とか、そ、それに男の方からするべきことでしょう!?」


「あ~、アリネー、考え方がちょっと古いよ!手に入れたいものがあるなら自分で掴み取るんだよ!」


「えっ?そ、それってあなたのお兄ちゃんが教えた言葉じゃない?」


「そうだよ!一生役立つ名言だね!それでね、私は今日もう実行したんだ!しかも雰囲気も完璧だったよ!」


「そ、そ、それでも、わ、あたしはちゃんと計画を立ててから…!とにかく、も、もう逃げたりしないわ!そ、それに…冒険者くんって、積極的すぎる女の子が苦手かもしれないし!?そ、そうよ!これはあたしの作戦なの!あなたには絶対に教えないわ!わ、あたしだって女の子なんだから!ひとつ…二つ、いや三つくらい秘密があったって普通でしょ!?全部なんて教えられるわけないじゃない!」


「あはは、本当かな?じゃあ、私ももっと本気出さないとね!ふふん!」


「ふふっ!か、かかってきなさい!」


「はははは……!」


また笑いあった。なんて幸せな時間なんだろう。この戦いは今のところ不利だけど、結果が出るまでは絶対に諦めない!


……


「ねえ、アリネー。」


「ん?どうしたの?」


「ずっと不思議に思ってたんだけど、アリネーはどうして”冒険者くん”って呼び続けてるの?お兄ちゃんの名前を呼ばないの?」


「え?」


「最初はあまり親しくないから、丁寧な呼び方をしているのかと思ったけど、今になって考えると、アリネーとお兄ちゃんの関係って…なんだか変じゃない?」


「その問題はね……うん、だって……彼、本当の名前を一度も教えてくれたことがないのよ。」


「えっ?」


「そうなの。彼が最初に名前を名乗ったときから、あたしは嘘だって気づいてた。つまり、公会で使っている名前はずっと偽名なのよ。何か事情があるんでしょうけど、それは彼のプライバシーだし、あたしも深く追及はしなかった。でも、偽名で呼ぶのも嫌だったから、最初から使っていた呼び方、”冒険者くん”をそのまま使い続けているの。それで今はもう慣れちゃったわ。」


どういうこと!?公会のギルドカードだって、子供の頃の呼び名だって…あの名前……それが本当の名前じゃないなんて、お兄ちゃん、一体どういうつもりなの?



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