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八、東の森浅層攻略戦

「それじゃあ、今日もルミちゃんを頼んだわよ、冒険者くん。」


アリシアは再び優雅な笑顔で僕たちを見送り、少女神官と僕は「東の森」迷宮の浅層攻略へと出発した。


「東の森」は「フローラの街」の東に位置する迷宮で、「七大迷宮」の一つでもあり、「フローラの街」に最も近い迷宮だ。「東の森」は元々「フリン」と呼ばれる森だったが、数十年前に迷宮化し、大陸の東に位置することから「東の森」と呼ばれるようになった。


「七大迷宮」とは、「東の森」「永久凍土」「地下城」「山岳」「通天の塔」「終末火山」、そして「魔域」を指し、大陸のさまざまな地域に分布している。その中でも「魔域」はその名の通り魔族の領地に位置し、我々「神の民」は立ち入ることができない。


なぜかはわからないが、地名をそのまま使うよりも、冒険者たちは「七大迷宮」の特徴を反映したこの呼び名を好んで使っているようだ。


「フローラの街」が冒険者の間で名を馳せる理由は、街郊外に設置された転移魔法陣にある。この魔法陣のおかげで、冒険者たちは異なる迷宮地域へ簡単に移動できるのだ。当然、各迷宮の近くには対応する街が建設され、それぞれが冒険者の拠点として機能している。しかし、他の迷宮街と違い、「フローラの街」だけが五大迷宮へ通じる転移魔法陣を同時に備えている。これらの魔法陣を発明し設置したのは、ほかでもない「フローラの街」の領主、エレナガード伯爵だという。どうやら十年前の大戦後に作られたもので、これが冒険者業界に革命的な変化をもたらしたらしい。ただし、材料の問題で新しい魔法陣を増設することは難しいようだ。


いつの間にか、ルミさんとの「新人訓練」も十数日が経ち、アリシアの計画に従って彼女を六つの迷宮の浅層に連れて行き、実戦経験を積ませながら、それぞれの迷宮に棲む魔物の習性を学ばせた。同時、アリシアの指示どおり、私はルミさんの精神力の消耗状況を把握し始めた。今では、スキルの発動遅延から彼女の精神力を高・中・低の三段階に分けられるようになった。低段階に入ったら、その日の訓練を終了するタイミングだ。


「さて、ルミさん、今日は調子どうですか?浅層のフロアボスを倒す番ですよ。」


「もちろん大丈夫だよ!どうせ攻撃はしないし、強化をかけて、あとは自分の身を守ればいいんでしょ。」


そうして僕たちは再び「東の森」に戻り、アリシアはそろそろ浅層フロアボスを討伐し、ルミさんが中層に入る権利を得る時期だと判断したようだ。


「権利」とはフロアボスを倒した後に得られる「討伐の証」のことだ。それは実体のある物ではなく、フロアボスを討伐した本人とそのチームメンバーだけが次の層へ進む転送門を通れる権利だ。これが冒険者の間では常識となっているが、その原理については僕もよく知らない。


「そうだ、浅層のフロアボスは大したことないし、取り巻きも数が多いだけのゴブリンと弓使いくらい。ボスの動きをよく観察すること、中層で出てくるゴブリン戦士と同じような行動をするから。それと、ゴブリンの子供たちの奇襲と“落石トラップ”には気をつけて。」


「任せて、冒険者お兄さん!特に坂の近くには寄らないように注意するからね!」


元気よく答えるルミさんの姿に安心した。ここ数週間で彼女もすっかり僕と打ち解けたようだ。いつの間にか僕を「冒険者お兄さん」と呼ぶようになったし!名前はまだ呼んでもらえないけど、最初の頃に比べたら天国のような状況だ。


『“落石トラップ”は「東の森」浅層フロアボス戦の特徴で、戦闘地点が小さな丘の下にあり、ゴブリンの子供たちが落石で冒険者を攻撃し、隊形を崩そうとしてくる。』


これも以前、アリシアが僕を連れて「討伐の証」を取るときに教えてくれた知識だ。うん、今までアリシアに頼りっぱなしでその恩恵を受けてきたわけだし、今回自分の力で挑むのも悪くない。


今日はギルドで確認済みだ。今日は階層主の「復活時間」ではない。もし階層主が再び現れているとすれば、それは誰かが我々の前に攻略を終えた場合だけだ。


「復活時間」とは、討伐された階層主がそのまま蘇るという意味ではなく、迷宮が数日内に同じ種類の魔物を新たに送り込んでそのポジションを埋める時間のことを指す。この期間中は討伐証を得ることができない。


「ねえ、何考えてるの?また変なことでも考えてるの?」


彼女は時々こんな風に僕をからかう。どう言えばいいのか、妹のような感じだ。それに、彼女のサポート能力は本当に頼りになる。きっと、この後アリシアと合流して深層を攻略するときに、彼女の能力の真価が発揮されるだろう。


「ハハ、アリシアが僕を連れて攻略したときのことを思い出してたんだ。」


「はあ、お姉さまのこと?」


「ああ、前に話したよね。お姉さまは僕にとって鬼教官みたいな存在だったって。彼女のおかげで、ここまで早く成長できたんだよ。」


「ふふん。」


ルミさんはニヤリと笑い、悪戯っぽい表情を浮かべた。


「どうしたの?」


「ねえ、君はお姉さまのことどう思ってるの?」


「どう思ってるって?どういう意味?」


「お姉さまみたいに高貴で美しく、しかも強い人のことを、どう評価してるの?」


「評価か…そうだな。Sランク?いや、それ以上だね。S級冒険者並みの強さ、領民思いの素晴らしい領主代理、努力家…そんな感じかな。」


「ふーん、じゃあ、女性としてはどうなの?」


え?ルミさん、今なんて聞いた?その質問、答えなくてもいいよね?


「えっと…答えなくてもいいかな?」


「ふふ、図星?どうして答えないの?ねえ、答えてよ、気になるんだから!ねえ、ねえ!」


銀髪の少女が悪戯っぽく笑いながら、僕の左手を引っ張る。この様子だと、どうやら逃げられそうにない。


「はいはい、誰にも言わないでよ。アリシアは…すごく可愛いし、背も高くて、スタイルも…じゃなくて、性格も優しくて思いやりがあって、どんな男でも好きになる理想のタイプだよ。」


「ふふ、そんな当たり前のことを言われてもね。あ、そうだ、”どんな男”って、君も含まれるよね?」


「まあ、それは…全員じゃないと思うけど、大半はそうかもね。」


「へえ、大半ね。じゃあ、例外ってあるの?」


「うん、もちろんいるよ!例えば、年上で落ち着いた人が好きな人とか、小柄でかわいらしい人が好きなタイプとか…ルミさんみたいなタイプが特に好きな人もいるだろうね!」


「ええっ!特に私みたいなタイプが好きなの!?かわいい?私がかわいいってこと?」


「そうだよ。ルミさんもかわいいよ。」


「うう~ん、なんか話が変な方向に…って、違うよ!話題をそらそうとしてるでしょ?さあ、お姉さまの個人的な感想をもっと言ってよ!」


やばい、今日はなんだかルミさんが特別鋭い気がする。


「それは…」


「はっきり言って!お姉さまのこと”好き”なんでしょ?」


「!」


え?僕がアリシアを好き?そんなの誰が言った?あり得るのか?いや、僕が”強くなる”以外のことを考えるなんてあるのか?もし本当に好きな人がいるとすれば…


「…多分違うと思う。」


「えーっ!お姉さまの条件が足りないってこと?それとも君の目にはかなわない?」


「そんなことない!むしろアリシアの条件が良すぎるんだよ!僕が高嶺の花に手を伸ばせるわけがない。アリシアを恋愛対象として考えるなんて、想像できないよ。」


「ふーん。」


「それに、今は強くなることだけに集中したい。男女のことを考える余裕なんてない。」


「ええ~。」


「うん、そんな感じ。」


そうだ、それでいいんだ。もう一度自分に言い聞かせる。”強くなる”以上に大事なことなんてないんだ。


「はあ~、強くなる強くなるって、どうしてそんなにこだわるの?」


「それはもちろん、”守る”力を手に入れるためさ。力がなければ何も守れない。それでは何かを”持つ”資格なんてないだろう?」


「……資格って何のこと?感情は大事じゃないの?」


「感情の話なら、僕がアリシアに抱いている感情は、感謝の方が強い。他の感情よりもね。」


「ええ~、なんかつまんない。いつも感謝感謝って言うけど、お姉さまに何かしてあげたことあるの?」


え?アリシアに何かする?プレゼントを渡すってこと?でも、彼女には時間以外何も足りてない気がする。今手伝っているクエストだって、報酬をもらってるし、ただの仕事の一環だよね?


「君の言う通りだ。今度何か感謝の気持ちを表す方法を考えるよ。」


「ふーん、まあいいわ。今回はこれで許してあげる。」


ようやく話題が一段落した。さあ、先に進もう。

僕たちは浅層の階層主がいる場所を目指しながら、出現する魔物を次々と倒していく。いつの間にか、階層主の近くまでたどり着いていた。



「こっちだ!みんな、右側からの奇襲に気をつけて!」


女性エルフが大声で叫び、右側に現れたゴブリンアーチャーを警戒するように促した。モンスターたちの気配が次々と現れ、完全に包囲された状況だった。


「問題ない!」


騎士は正面の大ゴブリンを押さえ込みながら、背後の少女魔法使いを守っていた。


「二人一組で行動しよう。魔法使いと盗賊は前衛の背後に注意して。」


「了解!」


少女魔法使いと女盗賊が声を揃えて答える。


「後ろは任せたぞ、盗賊ちゃん!エルフさん、心配するべきは自分自身じゃないか?」


「分かった。」


ドワーフの戦士は一撃で目の前の大ゴブリンを倒し、飛んでくる投石をそのまま受け止めた。一方、盗賊は素早く木に登り、姿を隠して斥候の役目を果たしていた。


「私は大丈夫!一人の方がむしろ避けやすい。矢がある限り、戦い続けられる。」


女性エルフは周囲のモンスターの位置を観察しながら、弓矢でゴブリンアーチャーの数を減らしていく。しかし、チーム戦ではなく単独行動には限界があった。


「来たか!あはは、一騎打ちってわけか?」


騎士の正面に立ちはだかったのは階層主──ゴブリンチャンピオン。狡猾な笑みを浮かべながら、ゆっくりと近づいてくる。

数分前、”東の森”の迷宮内で、冒険者パーティーは慎重に進んでいた。


「ギルドがくれた情報によれば、そろそろ浅層の階層主の位置に近づいているはずだ。」


女盗賊が地図を確認しながら言った。


「うん、確かにここだ。あの小さな丘を見て。ゴブリンたちの動きがもう見える。」


女性エルフが周囲を警戒しながら、耳と目で全ての動きを観察していた。


「階層主を攻略するのか?最終確認だ。」


エルフはまだ”討伐の証”を持っていない他の三人に問いかけた。

このパーティーは、最近再編成されたD級冒険者4人とE級1人のチームであり、ギルドの提案によれば”東の森”の浅層を攻略するには十分な構成だった。


「問題ない!」


三人が声を揃えて答える。


「よし、では計画通りに進める。隊形を維持しつつ進む。魔法使いは防御魔法でアーチャーの奇襲を防ぎ、盗賊ちゃんは感知スキルでモンスターの動きを把握して報告。騎士さんは敵の注意を引きつけ、戦士と交互に攻撃する。最後に指揮は私が取る。丘に近づきすぎなければ、落石トラップも問題ない。魔力消費とマナポーションの数を考えて、全滅を目指さず階層主だけを倒す。その後はゴブリンたちが撤退するだろう。道具の数を最後に確認して。」


女性エルフは計画を再確認した。この迷宮の浅層攻略は、多くの冒険者が既に達成している「七大迷宮」の中で最も簡単な”東の森”での作戦だった。パーティーには既に一度攻略経験のあるメンバーが二人おり、慎重に行動すればクリアは問題ないはずだった。


「問題ない!適切なタイミングで、必殺の火球術を一発お見舞いしてやる!」


「はは、魔法使いちゃん、今回の相手はゴブリンの群れだ。残念ながらあなたが活躍する場面は少ないだろう。防御をしっかりして攻撃は私に任せてくれ!」


「注意を引きつけるのは俺に任せろ。」


「うぅ。」


「泣かない泣かない、君も重要な役割だぞ~。」


「ふぅ、とにかくみんな慎重に行動して、状況に応じて柔軟に!よし、出発だ!」


パーティーは隊形を維持しながら、ゆっくりと交戦区域へと進んでいった。


「階層主が見えた!作戦開始だ!」


女性エルフは丘との安全な距離を保ちながら、一矢を放った。その矢はゴブリンチャンピオンの眉間を目指して飛んでいった。


「ギギッ!」


しかし、ゴブリンチャンピオンは軽く体を傾けるだけで矢を避けた。


「くっ!」


「問題ない!作戦通りに進め!」


騎士が挑発スキルを発動し、ゴブリンチャンピオンの注意を引きつける。全員が陣形を維持しながら、慎重に距離を詰めていった。


「ギギギッ!」


挑発スキルの効果で、ゴブリンチャンピオンは騎士に目を向けたままじりじりと接近してきたが、突然立ち止まり、左側に突進した。


「側面突破だ!反対方向からの奇襲に注意して、誘導されるな!」


女性エルフは指揮役として冷静に指示を出した。


「右側にゴブリンアーチャー8体接近中。30秒以内に射程範囲に入る!」


「了解!」


盗賊と魔法使いも緊張しながらそれぞれの役割をこなしていた。


「な、なんだあれ!?」


女性エルフが丘の上に奇妙なものを見つけ、驚きの声を上げた。それは高さ2メートルにも及ぶ草むらのような物体だった。


「まさか!草むらに偽装した巨大な岩だなんて!」


言葉が終わるや否や、その巨大な岩は丘の上から転がり始めた。これまでの落石トラップではせいぜい1メートル程度の石が限度だったが、この岩はその8倍の大きさと重量を誇っていた。その圧倒的な質量により射程も伸び、轟音を伴ってパーティーに向かって猛スピードで迫ってきた。


「うわぁっ!」


「落ち着け!全員、右側に回避しろ!…くっ!」


予想外の事態にパーティーメンバーたちは一瞬冷静さを失い、各自が本能的に外側へと動いて回避を試みた。しかし、エルフの指示が遅れたため、陣形は巨大な岩によって無惨に崩されてしまった。


その隙を見逃さず、ゴブリンたちが一斉に突撃を仕掛け、小隊のメンバーは完全に分断されてしまった。


「大丈夫!各自、自分の身を守れ!」



時は現在に戻る。


騎士は盾を構えながらゴブリンチャンピオンの攻撃を受け続けていた。しかし、素早さに優れた軽装のゴブリンチャンピオンに対して、騎士はただ打たれるばかりだった。魔物は鈍器を振るい、死角を探りながら攻撃を加え、その一撃一撃が騎士の鎧に打ち込まれていく。一方で、騎士の反撃はすべて防がれるか、避けられてしまうのだった。


「卑怯だ!」


見た目は一騎打ちだが、実際には背後からゴブリンたちが冷箭を放ち続け、絶え間なく攻撃を加えていた。それらの矢は、後方の魔法使いが防御魔法でなんとか防いでいる状態だった。


「魔力がそろそろ限界!マナポーションを飲んで回復するわ!先にそこの木陰に隠れて!」


「騎士さん、少しだけ耐えて!」


女性エルフは、一人でゴブリンたちの連続攻撃を凌ぎながら、魔法使いが消耗しきらないように注意を促していた。


「わかりました!すみません、すぐに戻ります!」


「大丈夫!2、3本の矢くらい耐えてみせる!」


木の上に隠れていた女盗賊の姿もゴブリンに見つかり、身を翻しながら回避行動を取っているが、かなり追い詰められている。


一方、ドワーフ戦士は複数の大型ゴブリンに囲まれ、激しい攻防を繰り広げていた。


「うぅっ…や、やばい~!」


女盗賊が足を滑らせて木から落下してしまった。だが、受け身を取ることで大きなダメージは免れた。しかしその瞬間、彼女はゴブリンたちの新たな標的となった。


女性エルフは短剣を抜き、道を塞ぐゴブリンを倒しながら女盗賊の元へ突進した。


「大丈夫?」


「ええ!まだ戦えます!」


エルフは全体の状況を冷静に見渡した。騎士の背中には毒矢が何本か刺さり、鎧を貫通している。ドワーフ戦士もまた毒矢を受け、動きが鈍くなっている。魔法使いは回復を終えて再び援護に回れる状態だが、自分と女盗賊の周囲にも数体のゴブリンがじりじりと近づいていた。


「くそっ!撤退する!自分を守りながら後退しろ!周囲のゴブリンは私が弓で仕留める!まだチャンスはいくらでもある!」


「いや~!そんな!」


魔法使いが小ゴブリン3体に押し倒されてしまった。


まずい!弓矢は…だめだ!彼女に当たる!


「くっ…!」


騎士も体力の限界が近いようで、盾を弾き飛ばされてよろけながら地面に膝をついた。


「撤退だ!撤退!全員、生き延びることを優先しろ!」


女性エルフはそう叫び、すぐに魔法使いを救出するために駆け寄った。魔法使いを押さえつけていたゴブリン3体を次々と蹴り飛ばす。


「泣かないで!もう大丈夫、私がいるわ!行きましょう!支えるから!」


「う、うん!」


「うおおおおお!」


騎士は気合の咆哮を上げ、なんとか立ち上がると態勢を立て直し、ゆっくりと後退を始めた。


ドワーフ戦士も頭を手で守りながら遠距離攻撃に耐えつつ、後方への突破を試み、ついに安全圏へ到達した。


傷だらけで散々な様子だったが、全員がなんとか撤退することに成功した。


「もう少しだ、みんな頑張って!」


その時、


「魂の鼓舞!」


「じゃあ、行くよ!彼女たちは頼んだ、しっかり守ってね!」


俺は全力で前方に突進した。まずは大型ゴブリン3体。身を沈め、魔物の急所を捉えながら弧を描く斬撃を放つ。一撃で3体を仕留めた。


「了解!『聖殿』!」


少女神官が広範囲に及ぶ聖殿を展開し、冒険者たちを包み込むと同時に後退するための空間を作り出した。


「皆さん、私のところへ!」


「ルミナスちゃん!」


「お久しぶり!エルフのお姉さん、もう大丈夫!私たちが来たから!」


俺は剣技を使い、剣風で木の上のゴブリン弓兵を落とすと、小刀を投げて散らばったゴブリンたちを片付けた。


「すごい…!彼、もしかして“あの”冒険者?」


女魔法使いが驚きの声を上げた。


「流星ってやつか?」


騎士も目を見開いて呟いた。


「本当に…あの戦闘狂がA級になったって話?」


エルフは身に刺さった毒矢を引き抜き、解毒薬を飲みながら呟いた。

ゴブリンチャンピオンはそれを見て取ると、急に身を翻して山のふもとへと逃げ出した。


問題ない。俺はすぐに両手剣を構え、突撃剣技を発動してゴブリンチャンピオンの背後を貫いた。


「ぐあああああ!」


ゴブリンチャンピオンは断末魔の叫びを上げ、死ぬ間際に指を鳴らした。その瞬間、山の斜面に仕掛けられていた落石の罠が一斉に発動した。無数の岩や巨石が俺に向かって押し寄せてきた!


「お兄ちゃん!」


少女神官が悲痛な叫び声を上げた。


……


しばらくして、落石による砂埃が収まり、戦場には静寂が訪れた。どうやら残っていたゴブリンたちはすべて撤退したようだ。


「お兄ちゃん!」


俺は両手剣を軽く一振りして周囲の砂埃を払い、向こうにいる少女神官に勝利のポーズを取った。そしてゆっくりと彼女たちのいる位置へと歩み寄る。


「うぅ~お兄ちゃん!無事でよかった!」


少女神官は俺に向かって駆け寄ると、頭から勢いよく俺の腹に突っ込み、杖を持っていない方の手で俺の右手をぐいっと掴んだ。


え?どういう状況?この光景!?それに…今、彼女俺をなんて呼んだ?


「ひどい!私、本当にびっくりしたんだから!」


「あ?あんな落石、俺にとっては全然ダメージなんてないさ~」


「うん、そうだね。」


少女神官は腰を折りながら一歩下がり、目元の涙を手で拭い、再び顔を上げて俺を見た。


「そうだよね!冒険者のお兄ちゃんの実力なら、あんなの攻撃にもならないよね!」


「だろ?」


そのとき、少女神官の手の甲に光る紋章が現れ、一瞬で消えた。


「えっ?これがいわゆる“討伐の証”ってやつ?」


「うん、任務成功だよ。」


「すみません、皆さんも“討伐の証”は得られましたか?」


俺は彼らの獲物を横取りしていないか心配になり、すぐに確認した。


「正直、少し恥ずかしいけど、私たちもちゃんと得られました。本当に助けてくれてありがとう……あなた、私を覚えていますか?以前、一緒にパーティを組んだことがあったんです。あなた、あのときの冒険者ですよね?」


「私も!覚えてる?あなた、今こんなに強くなったなんて!本当に信じられない!」


エルフと魔法使いがそれぞれ尋ねてきた。


「皆さん、こんにちは。俺も覚えていますよ。間違いなく俺です。」


どうりでさっきどこかで見覚えがあると思ったんだ…これで、今日のことが少しでも彼女たちへの償いになればいいんだけど。あの頃の自己中心的な行動を思い返すと、後悔はないものの、きっと彼女たちや当時の仲間たちに迷惑をかけたに違いない。


「数ヶ月でここまで成長するなんて、まるで別人のようね!」


「ちょっと、エルフのお姉さん、何考えてるの!?わ、私も同意だけど!でも、そんなに積極的にならないでよ!」


「へぇ?あなたも気になったの?目の付け所がいいわね。」


エルフと魔法使いが冗談交じりにお互いをからかっていた。


「ありがとう、人間の勇士よ!あなたが“流星”なのか?」


傷の応急処置を終えたドワーフも会話に加わった。


「流星?」


「ああ、数日前にギルドで新しいA級冒険者の発表があったんだ。記録的なクリアタイムでギルドが“流星”って称号をつけたらしい。私たちも半信半疑だったけど、今の戦いを見て確信した!噂は本当だったんだな!」


はあ!?この数日ギルドに行ってなかったから、そんな話があったなんて知らなかった。それに…また俺の噂話かよ?まあ、気にしないけどさ。もう噂なんて慣れっこだし。


「ああ、なるほど。それなら多分、俺のことだな。」


「はは、助かった!俺、もう本当に限界だったよ!“不屈”スキルがなかったら、立ち上がれなかったかも。」


騎士は地面に座り込んだまま、一歩も動けないでいた。


「すみません!私がやります。“神聖治療”!」


少女神官が広範囲の治癒魔法を発動すると、10秒もしないうちに冒険者チーム全員の治療が終わった。


「おおお!!!これが奇跡の力か!」


騎士は驚きの声をあげた。


「本当に情けないわ、ルミナスちゃん。またあなたの前でこんなみっともない姿を晒しちゃって。」


エルフは服を整えながら、困ったような顔をしていた。


「そんなことないですよ。私たちオリシュス神官の信念は助けること!それに、私がいなくても、皆さんはほぼ撤退完了していたはずです。」


ルミさんの戦況把握能力、本当にすごく上達したな。


「さて、皆さんはこれからどうします?私たちは転送門を通って中層に行こうと思っていますが。」


「いや、俺たちは一旦撤退するよ。次は準備を整えてから挑むさ。みんな疲れたよな?」


「うんうん。」


こうして冒険者チームは街への帰還を始めた。


「また会おう!エルフのお姉さん!」


「ルリ?」


目の前に立っている女神官の背中を見ながら、思わず“あの子”の名前を口にしてしまった。


少女神官の動きが一瞬止まり、2~3秒後に突然振り返り、俺を見つめてきた。


「今、何て言ったの?」


ルミさんは振り向き、空虚な目で俺を見つめながら冷たい声で問いかけた。


「『ルリ』だ。俺の昔の友達の名前だよ。なぜか君を見ていたら彼女のことを思い出したんだ。たぶん、君たちがどこか似た雰囲気を持っているからだと思う。失礼だって分かってるけど、本当に申し訳ない…」


「へえ?そうなの?女の子なの?」


どうしたんだ?少女神官の冷たい口調は、冒険初日のことを思い出させた。俺、何かまずいこと言ったか?でも…これは良い機会だ。このチャンスを無駄にはしたくない。


「ああ!彼女は俺が子供の頃に知り合った女の子だ。実はずっと君に聞きたかったんだ。君が聖教会の中央本部で修行していたとき、君と同年代で、名前が‘ルリ’という女の子がいなかったか?彼女には綺麗なルリ色の髪があったから、きっと目立つはずだ!」


「『ルリ』?‘私の同輩’の中にはそんな名前の子はいなかったわ。」


「そうか…それはおかしいな。でも…大丈夫、教えてくれてありがとう。」


俺の勘違いだったのか?ルリは中央本部に連れて行かれたんじゃなかったのか?それとも他の支部に?


その後、俺たちは中層の転送門を通って中層に到達し、ルミさんを連れて少し案内した。簡単な戦闘をいくつかこなしてから領主邸に戻り、今日の任務を終えた。


「ねえ、冒険者のお兄ちゃん、今度は私が質問する番よ。今、何歳なの?」


「どうして?」


「別に。ただ、私の年齢はもう教えたでしょ?だからあなたも教えてくれなきゃ公平じゃないもん。」


「あ、そうだな!俺は17、もうすぐ18だ。」


「ふーん、そうなんだ。」


「?」



「おかえりなさい~。みんな無事だった?」


俺たちが戻ってきたことを察知したのだろう、大広間に入ると、アリシアがすでに待っていて、温かくて眩しい笑顔で迎えてくれた。


このアリシアの姿を見て、俺は今日のルミさんの質問を思い出し…思わず苦笑いを浮かべてしまった。


「……」


ん?このタイミングでルミさんはいつも『お姉さま~、私たち戻りました~、今日はこんなことがあったんですよ~』と延々と喋るはずなのに。妙だな。ただ黙ってアリシアをじっと見ている?


「問題ないよ。目標は達成したし、ついでにルミさんを中層に連れて行って少し見学してきた。」


「それはよかったわ。それじゃあ、まずはゆっくり休んでね~。」


「ああ、明日会おう…いや、明日は休息日だったな。じゃあ明後日だ~。」


「ふふ、分かったわ。冒険者くん、お疲れ様。また次回ね。」


「……あっ!ちょっとした用事があるんだけど、ミス・ヴィルマを探してもいい?」


「ええっ─?」


二人の少女が同時に声を上げた。


「そうだよ。いいか?」


「い、いいけど…ヴィルマさーん~~」


「ここにおります!」


え!現れるのが早すぎるだろう。


「まあ…それじゃあ…ルミちゃん、私たちは部屋に戻りましょう。」


アリシアは困惑と気まずさが入り混じったような笑顔を見せた。


「うん。」


ルミさんは俺をちらっと見て、少し不満そうな顔をした。


うーん…ただ少し話を聞きたいだけなのに、そんなに怪しいか?


俺はミス・ヴィルマに少し相談してから邸宅を後にし、宿屋に戻る途中で市場に立ち寄った。



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