25話 レオと坊ちゃんのしばしの別れ
一連の事件の犯人であるカロスを裏で操っていた黒幕は、ギルバートの義父の従兄だった。カロスは、現ルーセント辺境伯の親族としての立場を利用して送り込まれた手先だったのだ。
そして真面目に執事として仕える傍ら、カロスは黒幕の指示を受けて一年以上前からギルバートとガラテアを監視していたのだ。
「カロスの任務が私達の監視から私の暗殺に変わったのは、ギルバートがルーセント辺境伯爵家の後継者になることがいよいよ内定したからです」
ラドグリン王国の法律では、各貴族家の当主となる者は一族の正当な血を引いていなければならない。
ギルバートの場合、彼は先祖がルーセント辺境伯家の者であるだけだ。その血縁は遠く、本来なら王国の法律では親戚と認められる範囲内にいない。
しかし、彼は初代ルーセント辺境伯爵の固有魔法『魔眼』を生まれ持っていた。それによって例外的に辺境伯家の一族と認められたのだ。
王国政府の承認も取り付ける算段があるか、既に話が通っているのだろう。
「黒幕は私と私の実家がルーセント辺境伯家の外戚として振舞い、害となるのを防ぐためには致し方ない。そうカロスに指示していました」
「先例もあったからな。義父上の実父の専横には、義父上も苦慮しているそうだ」
ギルバートがガラテアの説明をそう補足した。詳しくは語らなかったがギルバートの義父も養子だったそうで、ルーセント辺境伯家の当主は二代続けて養子が継ぐことになるようだ。
「もっとも、そんなものは方便だ。母上を排除して、俺を自分達の傀儡にでもするつもりだったのだろう」
「まあ、そう言うもんだよね」
吐き捨てるように言ったギルバートの意見に、レオディーナも頷いた。
カロスが捕まってから約二週間。ようやく一段落付いたので事情を説明したいと、レオディーナはルーセント辺境伯家のタウンハウスへ非公式に招待されていた。恰好も相変わらず『レオナ』に変装している。
場所は『防音』の結界を張った、ガラテアの私室。そこに用意された席で、二人に加えタニアやグレン、あの時いたのと同じ面々が集まっていた。
「呪いを仕込んだ呪物を犯罪組織に作らせたのも、旦那様の従兄です。カロスは彼の指示に従って呪物を仕掛け、私が呪いに倒れると証拠を回収し処分したそうです。そのまま私が命を落としていれば、彼らの企みは成功していたでしょう」
しかし、カロス達はギルバートの『魔眼』を侮っていた。彼はガラテアを蝕む異様な魔力……呪いに気が付いた。さらに誤算だったのは彼が呪いを解ける人物、レオディーナと知り合っていたことだ。追い打ちに、グレンが習得した『快方』も呪いには効果はなかったが、弱ったガラテアの回復に大いに役立った。
そうした幸運に恵まれ、ガラテアは短期間で回復。カロス達の陰謀は防がれた。
「でも、証拠は処分したのなら、何故カロスはあんな強引な真似をしたのでしょう?」
ギルバートは『魔眼』を使って犯人探しに取り掛かったが、上手くいっていなかった。カロスが何もせず大人しくしていれば、ギルバートが彼にたどり着くまでもっと時間がかかっていただろう。
その間に何らかの理由で退職して王都から去っていれば、怪しまれても尻尾を掴まれることはなかったはずだ。
「小僧、それは我々から見ればの話だ」
その疑問に答えたのは、カロスを直接尋問したグレンだった。
「カロスの奴から見れば、企みが上手くいく目前で何故か呪いが解除された。しかも、表向きにはガラテア様が倒れた原因は病のままだが、ギルバート坊ちゃんが犯人探しをしているのは明らか。まだ何も気づいていなかった俺さえ、奴にとっては敵に思えただろう」
むしろ、カロスにとってグレンはガラテアの呪いを解いた張本人に思えたはずだ。「当時のことを思い返すと、カロスに避けられていた気がする」と本人も口にした。
「ゆっくりとだが、確実に迫ってくる坊ちゃんの『魔眼』による捜査。しかし、黒幕からは『待機』以外の指示は来なかったそうだ。……単に王都と黒幕がいる本領の距離が離れてて、黒幕が事態を把握するのが間に合わなかったからだと思うが」
レオディーナ達が暮らすラドグリン王国は、現在アルフラム大陸の中央を南北に渡って治めている。王都はその中央で、ルーセント辺境伯家の本領は北限だ。
「馬車で片道一か月半から二か月だったでしょうか?」
「途中、山を越えるそうなので季節と天候次第ではもっとかかりますよ」
レオディーナに紅茶のお代わりを注いだタニアがそう答える。
「空路を使えば、早ければ片道三日ですみますが――」
この世界では、人や物の行き来に空路が利用されている。ただ、王族を始めとした裕福な貴族や商人でなければ使えない高価な移動および運送手段となっている。
「ありがとうございます。鷲馬にしろ飛竜にしろ、スパイとのやり取りにそんな高価で目立つ手段を使えるはずもないですよね」
お代わりを受け取ったレオディーナが、薫り高い湯気に頬を緩める。
ちなみに、鷲馬は鷲の頭部と馬の体を持つヒポグリフ。飛竜は前足が皮膜の翼になっているドラゴンの一種、ワイバーンのことだ。それらはこの世界では魔物ではなく、ネズミやウサギと同様に天然自然の動物に分類されている。……なので、魔物化することもあり、その場合は恐ろしい脅威となる。
「その通りだ。話を戻すと、黒幕からの次の指示が待てなくなったカロスは焦って独自に動いた。この屋敷の金を横領し、黒幕の伝手を勝手に使ってあの魔道具を調達して殺し屋を雇ったのだ」
上司のアドニスに薬を盛り、『変身』の魔道具で彼に成り代わり、『目印』の魔道具をガラテアに持たせる。そして雇われた殺し屋がガラテアの位置を捕捉し、遠距離からクロスボウで狙撃。当初の目的である暗殺を完遂。
その後は眠らせたままのアドニスを殺し、犯行を告白する偽の遺書をその場に残して彼に罪を着せる。そして、折を見て自身も退職して逃げる。
そんな筋書きだったらしい。
「ずいぶん乱暴な企みですね」
「焦りで暴発するような輩のやることだからな。逃げた後も、本領に辿り着けば黒幕が助けてくれると信じていたようだ」
そうグレンが吐き捨てる。カロスがもし首尾よくガラテアの暗殺を成功させ逃げ延びたとしても、黒幕に口封じされていただろう。
「それで坊ちゃん、本物のアドニスさんは助かったのかい? それに黒幕は?」
「アドニスは無事救助出来た。グレンの回復魔法のお陰で薬の後遺症もない。自分の次の執事長にと見込んでいたカロスの犯行に責任を感じて辞めようとしていたが、母上の慰留で思いとどまって復帰している」
「カロスは表向きの仕事は真面目に、しかも素早く丁寧に熟していたので評判はよかったのです」
「それも、裏でスパイとして活動するための時間を確保すためだっただろうがな」
「黒幕の方は、あの数日後に本領から届いた書類の中にカロスへの指示が書かれた暗号が見つかった。それを証拠に義父上が動いて取り押さえたと連絡があった」
黒幕と違い、こちらは緊急の要件なので遠慮なく鷲馬を使って連絡を取ったそうだ。
「それと、カロスが雇った殺し屋や呪物を作った魔道士も王国警備隊の協力もあって捕まえることが出来た。魔道士の方は新聞にも載ったはずだぞ」
「あー、新聞は読んでないんだよね」
前世では昔から新聞やテレビがあり、大人になってからはスマホで簡単にニュースを見聞きすることが出来た。しかし、現在のラドグリン王国ではニュースメディアは週刊の新聞や、各ギルドが発行している会報誌ぐらいしかない。そして、レオディーナの家ではそれらを取っていなかった。
(引っ越す前は、井戸の水汲みの時におばさん達から情報収集していたけど、今はそれもないし。世の中の動きにすっかり疎くなっちゃった。
今度、パパに新聞を取ってくれるようねだってみようかな)
「新聞の発行元は王国政府や各領地の領主なので、それぞれに都合の良い情報ほど大きく扱われますが、話題作りには便利ですよ。私も王都に来てからは読むようにしています」
「ありがとうございます、ガラテア様、読めないか、両親に相談してみます」
「その新聞にも、逮捕された事までしか載ってはいなかったがな」
ギルバートは自身のカップに口を付け、喉を湿らせてから話をつづけた。
「母上を呪った件については、カロスの自白以外の証拠がないので罪に問えなかった。身内から犯人が出た以上、ルーセント辺境伯家の醜聞にもなるからな。
罪に問えたのはカロスの横領、『変身』の魔道具の違法入手と使用、アドニスへの暴行と監禁。母上の暗殺未遂までだ。具体的には……グレン」
「はっ。使用人の立場で貴人を害そうとしたカロスは大罪人として、牢に繋がれております。裁判はこれからですが、奴が今生で自由の身になることはないでしょう。
殺し屋と魔道士は労役に就かせても逃げられるとのことなので、まず死罪でしょう。……余罪が多く執行まで時間がかかるそうですが」
カロスはやはりガラテアへの殺人未遂が最も大きい罪として裁かれるようだ。軽く裁いては示しがつかないため、見せしめの意味もあるのだろう。殺し屋と魔道士も、持っている情報が絞り尽くされるまでの命のようだ。
「そして黒幕は、先日届いた本領からの手紙に急病を得たため職を辞し、閑静な土地にある修道院で静養するとありました。彼の部下数名も同様だそうです」
「つまり、母上を呪った件では裁けないが、野放しにはできないので監獄代わりの場所に収監した、ということだ」
グレンの報告に被せられた絹を、ギルバートがそう言って剥がしてしまう。
「坊ちゃん、黒幕は旦那様の従兄に当たります。呪いの件で裁くと連座で旦那様の親族の方々も裁くことになるので、後々角が立ちます」
「ギル、関わった者達は全て罰したと手紙に在りました。旦那様を信じましょう」
「不満があるわけではありません。悪かったな、グレン」
「いえ」
「私としては、誰も犠牲にならず犯人達が皆捕まったのなら安心です。教えてくれてありがとうございます」
これでアリバイ工作をして昼間に家を空ける必要がなくなると、レオディーナはほっとした。スカッと爽快! と言うにはカロス達に下った裁きが重いが、彼らはそれだけのことをしたのだから同情する気にはならない。
「……小僧、報告は以上だがお前に言っておくことがある」
肩の荷が下りたと安堵するレオディーナに、グレンが不意にそう言うと立ち上がって彼女を正面から見下ろした。
「すまなかった」
そして、深々と頭を下げる。
「え、何っ!? 何のこと!?」
「カロスがお前を突き飛ばそうとするのを、俺は止められなかった。貴様に散々偉そうなことを言っておきながら、面目次第もない」
「いやいやいや、頭を上げてよ! グレンさんはガラテア様を守っただけでしょ。当然だよ!」
カロスがアミュレットと評した魔道具を投げつけた時、グレンは咄嗟にそれを叩き落とした。何故なら、彼の後ろにはガラテアがいたからだ。彼があの場で優先して守るべき人物の内、一人が。
そうした事情を理解しているレオディーナは、改まって謝罪の必要はないと言うがグレンは納得しなかった。
「確かにそうだが、それはそれとして詫びないわけにはいかん。ガラテア様と坊ちゃんを守ったうえで、貴様の安全も確保する。それがルーセント辺境伯家に仕える魔道士として、当然のことなのだ」
「坊ちゃん……俺、報酬について考え直していい?」
出世払いの報酬としてギルバートのお抱え魔道士になることを提示されているが、そんな高い練度を要求されるとは思わなかった。
「こいつの意識が高いだけだから気にするな。それとも、魔道士が嫌なら執事か秘書にしてやる」
「執事……? あ、そうだね」
メイドや侍女じゃなくて? 思わずそう首を傾げかけたが、自分は今『レオナに女装しているレオ少年』だったと思い出し、頷くレオディーナ。本当にややこしい。嘘なんてつくもんじゃない。そう思うのはこれで何度目だろう。
「ふと気が付いたことがある」
その様子を見たグレンが、不思議そうな顔をして尋ねた。
「これは咎めるわけではない。気になっただけだ。小僧、お前は基本的に礼儀正しい。ガラテア様にはもちろん俺やタニア殿、クロエに対しても。しかし、何故坊ちゃんとテッドには子供らしい態度になるのだ?」
「言われてみると……初めて会った時から咎められなかったこともありますが、坊ちゃんとテッドは友人と言う意識が強いからだと思います」
思い返してみると、レオディーナは家庭教師のイネス夫人等の事情を知らない者の前以外では、ギルバートとテッドに『レオ』としての態度で接していた。
(大目に見られていたからだけだと思うけど、よく咎められなかったもんだよね)
これからは二人にも敬語で接するべきか。
「グレン、余計なことを言うな。レオ、お前も気にするなよ。今のままでいい」
そうレオディーナが考えていると、ギルバートがむっとした様子でそう言った。それでいいのかと周囲に視線を走らせると、グレン以外はテッドも含めて困ったような笑顔を浮かべて頷いている。
「友人……そうかっ! 確かに、坊ちゃんの交友関係に口を出すとは余計なことだったようだ!」
そのグレンは満面の笑みを浮かべると椅子から立ち上がり、レオディーナの両肩にそれぞれ手を置く。
「小僧っ、これからも坊ちゃんを友人としても支えてやってくれ! テッドやクロエと同じく、幼い頃から交流があり信頼できる家臣兼友人の存在は、坊ちゃんのような方には貴重だ!」
「は、はいっ」
「お前と同僚として共に働ける日を楽しみにしているぞ! 俺もその時までに精進しなければならんなっ!」
「グレン、そのぐらいで。レオ君が目を回してしまいますから」
「おっと、すまん。つい力が入ってしまった」
前後に揺らされたレオディーナは、グレンから解放されてほっと息を吐いた。
「レオ君、これで一連の事件の後始末で話せることは全てよ。それでこれからのことなのだけど――」
「母上、後は俺から。レオ、俺達は春にはルーセント辺境伯爵家の本領に移る」
「本領って、王国の北限に?」
しかし、ほっとしている間もなく衝撃の報告を受けた。
「そうだ。元々俺と母上がここで暮らしているのは、義父上の勧めだった。後継者が誰になるのか、俺か義父上の実の息子か、はっきりするまでは本領から離れていた方が安全だと言われて」
しかし、今回はその王都でガラテアが呪われた。さらに当主の従兄の手の者によって殺し屋が雇われ、暗殺が実行目前まで迫っていた。
「大丈夫なの? 今回捕まった黒幕以外にもガラテア様を害したい人や、坊ちゃん本人の命を狙う人がいるんじゃないの?」
そんなことは自分に聞かれるまでもなくギルバートが、そしてガラテアも考慮した上の決断だろう。そう分かってはいるが、尋ねずにはいられなかった。
「ああ、いると思う。だが、さっきも言ったがルーセント辺境伯家の後継者は俺になることが先日内定した。義兄上が友好国に婿入りすることが決まったそうだ」
「さっきも思ったけど、それって俺に話していいことなの?」
「それはともかく、後継者に内定した以上いつまでも王都で暮らしている訳にはいかない。本領に足を踏み入れたことのない次期当主なんて、家臣も領民も信用できないからな」
ギルバートはそこまで言うと、グレンに視線を向けた。
「グレン、ここからは義父上以外には言うなよ」
「旦那様には言っていいのですか?」
「お前が忠誠を誓っているのは義父上で、俺じゃないことは分かっている」
再びレオディーナに向き直ると、ギルバートは話をつづけた。
「レオ、本音を言えば俺はルーセント辺境伯家が煩わしかった。実の父親と縁を切ってくれたことや、色々と便宜を図ってくれた事には感謝しているが、それだけだ。
養子になんてなりたくなかったし、後継者なんて願い下げだと思っていた」
そう聞いてグレンは目を見張っているが、レオディーナは「あ、やっぱり」と思っていた。これまでのギルバートが発した言葉の端々から、ルーセント辺境伯家に対して距離が感じられたからだ。
ガラテア達も彼の真意を察していたのだろう、視線は伏せているが驚いた様子はなかった。
「南にある母上の実家で祖父母と叔父夫婦と暮らしていた俺にとって、ルーセント辺境伯家との関りは全くなかった。それなのに俺が魔眼を生まれ持ったせいで養子にされ、故郷から引き離された。しかも母上が狙われ倒れるなんて、ふざけるな。そう思っていた」
それがギルバートの本音だった。ルーセント辺境伯爵になることで得られる権力に財力、そして名誉。それらは彼にとって、押し付けられる危険や重圧、果たさなければならない義務に見合うものではなかった。
横でグレンが何度か口を挟もうとしているが、そのたびにテッドとクロエが「今は坊ちゃんがお話ししている最中です」と制してくれている。
「そんな俺がルーセント辺境伯家と向き合う気になれたのはレオ、お前のお陰だ」
「えっ? まさか俺への報酬を払うために?」
「そうじゃない。今回の件で俺なりに改めて考えて気が付いた。この『魔眼』からは一生逃れられないと」
『魔眼』は視力を失えば使えなくなる。しかし、それでもギルバートの血を引く子に、固有魔法である『魔眼』が遺伝する可能性は消えない。魔法の素質は母親側の方が強く現れる傾向にあるが、父親の影響がないわけじゃない。
ギルバートが仮にルーセント辺境伯家の養子でなくなっても、彼の血を取り込む、もしくは絶やすために多くの者が狙うだろう。
「なら、立ち向かうしかない。ルーセント辺境伯家で俺の立場を確かなものにして、厄介な義理の大叔父も、今回の件の黒幕のような他の親族も黙らせる。そのために、俺は辺境伯領へ行く」
逃げられないなら諦めるか、向き合うかしかない。ギルバートは覚悟を決めて後者を選んだ。
「そう前向きに決められたのも、お前が母上を助けてくれたから。そして大人を頼るよう言ってくれたからだ」
実は、ギルバートは以前からガラテアやタニアに同じことを言われていた。しかし、同じ子供のレオディーナから言われたことで初めて聞く気になれた。
そして頼った結果、グレンという味方を得たのが彼の心境に大きな影響を及ぼした。過酷な敵地にしか思えなかったルーセント辺境伯家の本領に、立ち向かえるかもしれない。そう思えるようになったのだ。
「改めて礼を言う。ありがとう」
「そう言われると照れくさいけけど、役立てたならよかったよ。それじゃあ、付き合いのある貴族のご婦人や令嬢とも上手くやっていけそう?」
「……努力は、するつもりだ」
スッと視線を逸らすギルバート。彼の人間不信はだいぶ改善したが、貴族女性への忌避はまだ根強いようだ。
「そこは、私達が精一杯支えていくつもりです。ええ、精一杯」
自身を励ますようにガラテアがいい、タニア達も表情を引き締めて頷く。レオディーナは彼女達を心から応援し、健闘を祈った。
「頑張って。でも、寂しくなるね」
ギルバートが本領へ行くということは、もうこうして会うどころか秘密の手紙のやり取りすら難しくなる。
「ああ、一年や二年じゃ王都に戻ることは出来ないと思う。それに、お前もまだ身の上を明かせないんだろう?」
「うん、本当に悪いと思ってるんだけど」
本当の性別くらいは明かしてもと思っていたが、さっきの様子では躊躇われた。
(まあ、あたしは貴族女性じゃないんだけどね。マナーを習っているだけの平民だし)
「構わない。ただ、再会の目印になる物を用意することにした。出世払いの利子だと思って受け取れ。
アドニス、いいぞ」
すると、『失礼します』という声が聞こえたあと、扉が開いて見覚えのある四角い顔の壮年の執事長が現れた。
「わっ……って、失礼しました」
思わず身構えかけたレオディーナだが、あれは偽者で現れたのは本人だと思い出して姿勢を正す。
「いえ、私の監督が行き届かなかったばかりに怖い思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした。並びに、深くお礼申し上げます。
レオ様、あなたの活躍のお陰でガラテア様が助かり、私も命と名誉を救われました」
もしカロスの企みが進んでいれば、アドニスは貴人殺しの罪を着せられ命を奪われていた。防ぐことが出来たとしても、カロスを取り押さえられなければ薬で眠らされていた彼は助からなかったかもしれない。
「レオ様、坊ちゃんからの贈り物です。ご覧ください」
頭を上げたアドニスは、そう言って恭しく取り出したのは一目で高価な品だと分かるブローチだった。銀細工に澄んだアイスブルーと琥珀のバイカラーの宝石があしらわれている。
「これって……魔道具?」
「ああ、魔晶石だ」
魔晶石とは、魔力を帯び変化した鉱石のことだ。魔物の鉱石版のようなもので、多くの場合魔力を貯蔵させることが出来る。魔法を使う者にとって、充電器のようなものだ。
「めちゃくちゃ高いんじゃない!? 受け取れないよ!」
当然、高価な品だ。質によっては、同じ大きさのダイヤよりも高い値が付けられる。
「大きさの割にはそこまでじゃないぞ。それに、予算ならある。今までできるだけ使わないようにしてきたから、その分だ」
「いや、でも女物だし」
「それは……そうだったな。だが、男物で丁度いいものが見つからなかったんだ。ある程度希少じゃないと、目印にならないだろう」
再会まで数年かかるため、その際の目印としてレオディーナに持たせたいとギルバートは考えたようだ。
「そういうことなら、ありがたく受け取るけど……うん、ありがとう」
本当は女だから、女物のブローチの方が目印として助かる。
数年後、このブローチを着けて坊ちゃんと再会するときには『変色』を使わず男装もしないで、本名を打ち明けられたらいいな。
(それで、坊ちゃんが許してくれたら最高なんだけど)
そう都合が良いことをレオディーナは願っていた。
何とか本年中に投稿することができました。最近ペースが落ちてしまい、申し訳ありません。
皆様どうかよいお年を。
もし面白いなと思っていただけたら、ブクマや評価、いいねで応援していただけたら幸いです。よろしくお願いいたします。
誤字報告ありがとうございます!




