22話 レオナと坊ちゃんのダンス
ラング子爵邸から帰って暫くすると、家を警備する傭兵が増えた。あまり物々しくなっても人目を集めてしまうので、門の外側に二人、内側に二人の四人体制一日三交代制だ。
(抜け出すとき少し面倒になっちゃった。やって来たのが顔見知りだったのは驚いたけど)
パウルが派遣した傭兵の一人が、スラム街でレオディーナの勉強を見ていた元騎士だった。他にも、裁縫を教えてくれたおばさんも住み込みのメイドとして加わっている。二人ともレオディーナが魔法を使えることに驚いていた。
『身なりの良い旦那が馬車で迎えに来たから、ナタリーが良いところの若旦那を引っか――おっと、失礼。いい仲になったんだろうと噂になっていたけど、レオディーナが魔法使いとは驚いたね』
『昔から頭は良いと思っていたし、スラムじゃ妙に余裕があると思っていたが、魔法使いだったとはな』
なお、元商会員のおじさんはいなかったが、彼はピッタリア商会の方に雇われることになったらしい。
メアリーは「お嬢様たちが留守の時に人手が欲しいと思っていたので助かります」と、同僚が増えたことを歓迎していた。
(魔法の練習と昔やっていた癖で、掃除とかは結構やっちゃうからね)
以前「働かない生活って最高ね」と話していた母娘だが、じつは割と家事をしていた。特に、清掃は生活魔法の練習も兼ねてレオディーナがほぼ全て行っている。それに加えてナタリーも魔法が使えるようになったため、今では母娘がいない時の方が人手不足になる。
使用人より働く婦人とその娘とはいったい……と、パウルは遠い目をしたという。
(それを活かして侍女を目指すって選択肢もあるのかな? 貴族の使用人って実はそんなに給料は良くないみたいだけど、主人が裕福な高位貴族や豪商なら高収入を狙えるそうだし。持っている技術によっては青天井だとか。
ギル坊ちゃんの家だと――)
「おい、何かあったのか?」
そのギル坊ちゃんに問いかけられたレオディーナは我に返り、『レオ』から『レオナ』になっていることを思い出した。
「ううん、何でもない」
この日、レオディーナは再びギルが暮らしている屋敷を訪れていた。以前手紙にあった回復したガラテアへの見舞の品を、魔法で調べるために。
「『鑑定』したけど、かけられている魔法はどれも普通の付与魔法だと思う。温かさを保つとか、劣化を防ぐとか。このお香にも、変な効果はないと思う」
推定高位貴族の第二夫人以降となると、お見舞いの品のグレードも高い。魔法薬や魔道具が幾つも含まれていた。
「本当か? この動く人形もか?」
「ただの可愛い犬のヌイグルミだよ」
頭を撫でると尻尾を振って、『クゥン』と鳴くだけのヌイグルミの魔道具だが、ギルには怪しく見えたようだ。
「可愛い……か? 不意に動き出して気味が悪いぞ」
「坊ちゃん、もしかして犬が苦手なのかい?」
「この子は人から贈られた物で嫌な思いをしてきましたから」
レオディーナとギルの会話を微笑ましく見守っていたガラテアが、そう口を開いた。デイドレス姿でイスに座っている様子は、二週間ほど前まで昏睡状態だったとは思えない。
呪いの解呪とグレンの回復魔法の『快方』で、文字通り快方に向かったようだ。
「それも私が至らないせいで……苦労をかけてしまったわね」
「母上のせいじゃない。バカなことをやる奴らのせいだ」
二人の言葉に、レオディーナは以前魔法薬が仕込まれた菓子をギルが渡されていたのを思い出した。きっと彼はそれと同じか、もっとひどい目に遭ってきたのだろう。
「レオ君、あなたの働きにまだ報いていないのに心苦しいけれど……」
「いえ、後払いの報酬は先ほど頂戴いたしました」
元々不満を覚えていないレオディーナだが、見舞いの品の高級菓子を分けてもらってかなり満足していた。やはり貰い物の菓子は格別だ。
「あなたの謙虚さに感謝を。レオ君、これからもこの子の力になってあげてね」
「もったいないお言葉です」
そう言って礼をするレオディーナから、照れた様子で視線を逸らしたギルが呟いた。
「お前……いつの間にか女装が板についてきてないか?」
それを聞いてレオディーナは「しまった」と胸中で頭を抱えた。
彼女は今、『メイドに変装している少年』のふりをしているのだった。それなのに、ガラテアに声をかけられてつい淑女教育で身に着けた礼儀作法を発揮してしまった。
「あははは、二度目だからね。それより坊ちゃん、贈り物にかけられた魔法が呪いじゃないか見分けるだけなら、坊ちゃんの魔法で充分じゃないの?」
話題を逸らすついでに気になっていたことを尋ねると、ギルは「念のためだ」と答えた。
「俺は母上が呪われたときに、気づけなかった。だから、俺以外に確かめる手段が他にあるなら、それを試すに越したことはない」
「なるほど。でも、そこまで慎重になるってことは犯人の目星はまだついていないのかい?」
「……何人かは容疑者から外せた」
誰が、どんな理由で容疑者から外せたのかまでは説明してくれなかったが、捜査は進んでいるらしい。
(昼間に何度も家を抜け出したらいつかばれちゃうから、早く犯人を捕まえられるといいんだけど)
しかし、まだ部外者の自分がこれ以上尋ねても迷惑だろう。話題も逸らせたし。
(ここでそろそろ坊ちゃんの本名とか家名を確認するべきかな? でも……う~ん……よし、聞くだけ聞いてみよう)
会話が途切れたので、レオディーナはいよいよ踏ん切りをつけてギルの素性を詳しく尋ねようとした。
「今更だけど坊ちゃん、坊ちゃんの家名を聞いても良いかな?」
「ギル、もしかして話していなかったの?」
すると、ギルが答えるよりも早くガラテアが驚いた様子で息子に問いかけた。
「……色々あって、言いそびれた」
ばつが悪そうにそう答えるギルに、ガラテアはため息を吐いた。
「あなたが言いたくない気持ちはわかるわ。でも、いずれ知られることは避けられません。あなたが選べるのは、自ら打ち明けるか、他の者の口から語られるかだけです」
ガラテアに諭され、小さく呻き考え込む様子を見せるギル。
(耳がめちゃくちゃ痛い!)
そしてレオディーナは、ばつが悪くて身悶えしそうになるのを堪えていた。
「分かりました、母上。レオ、俺の今の本当の名はギルバート・ルーセント。ルーセント辺境伯家の養子だ」
その間に決心したのか、ギル――ギルバートは、レオディーナから視線を逸らしたままそう打ち明けた。
(やっぱり偉い家だったんだ)
辺境伯とは、ラドグリン王国の貴族制度では上から二番目、侯爵と同じ地位に在る爵位だ。王国の外縁部に広大な領地を持ち、外国や魔物から自領と王国の防衛を任される重要な地位に在る。
そのため軍事に関する大きな権限が与えられており、ラドグリン王国の現状を考えると実質的に公爵家とほぼ同列と言っていい。
(たしか、授業ではルーセント辺境伯の本領は王国の北限。南以外を魔物の巣窟に囲まれている危険な土地だけど、海の向こうの友好国との交易で潤っている豊かな家だって習ったな)
その有力な跡取り候補が何故王都の旧貴族街の屋敷に? ガラテアの立場とギルバートが庶子ではなく養子と名乗ったことも含めて、やはり複雑な事情があるのだろう。
「これで分かっただろう。俺やテッドがお前に本名や家名を隠していた理由が」
しかも、レオディーナが察した以外にも深刻な事情があるようだ。ギルバートは視線を逸らしたまま、そんなことを言い出すし、ガラテアはそんな息子を痛ましげに見つめている。
「いや、お前程の魔道士なら薄々察していたかもしれないな。俺が打ち明けるのを待っていてくれたのか。感謝する」
「ごめん、坊ちゃん。ルーセント辺境伯家ってそんなに危ない家系なの? 見込んでもらって悪いけど俺、何も知らないんだけど」
「……なんだと?」
正直に分からないと言うと、ギルバートはハッとした様子で顔を上げ彼女に視線を向ける。金色の瞳が見開かれ、まじまじと見つめてくる。
「本当に知らないのか? いや、気づいていなかったのか?」
「うん。ルーセント辺境伯家について、大まかなことは知っているけどそれだけ」
「教わってないのか!? お前ほどの魔道士が!?」
「褒められてるんだよね? でも教わってないよ」
そう素直に答えると、ギルバートは深々と溜息を吐いた。その背後でガラテアも苦笑いを浮かべている。
「お前に魔法を教えている師は訓練法を教える以外何もできない能無しか、お前の将来を考えている師の鑑かのどちらかだな」
「じゃあ、後者だね」
まだ見習い段階なのだから、基礎訓練と技術の習得及び向上に集中させたいということだろう。流石バンクレット先生だと、レオディーナの彼に対する株がまた上がった。
「分かった。説明してやる、構いませんよね、母上?」
「勿論です。レオ君、少し長い話になるけど――」
そのタイミングで、扉からノックが響いた。
『ガラテア様。ギルバート様をお迎えに参りました』
「マナーの家庭教師だ。もうそんな時間か」
苦虫を嚙み潰したような顔するギルバート。レオディーナはすぐに壁際に下がり、メイド見習いらしく控える。それを待って、ガラテアが「どうぞ」返事をした。
「失礼します、ガラテア様。ギルバート様、本日はダンスの試験を受けていただきます。お部屋へ」
「分かった」
話の続きは後日になりそうだなと、レオディーナはギルの後姿を見送ろうとした。手紙には残したくないことだろうし、仕方ない。
「待ってください、イネス夫人。社交ダンスの試験ならここで行いましょう」
しかし、ガラテアがそう言いだしたため家庭教師のイネス夫人とギルバートも、驚いて立ち止まった。
「ここで、ですか? お体に障るのでは?」
「もうだいぶ回復したわ。ギル、私に勉強の成果を見せて頂戴」
「それは、構いませんが……分かりました。では、誰かにクロエかテッドを呼びに行かせます」
普段、ギルバートが社交ダンスを習う時は主にクロエかテッドが相手を務めていた。背が近い子供同士の方がやりやすいというだけでなく、人間不信のギルバートが幼馴染の二人以外を嫌がったからだ。
「ギル、今日はクロエもテッドもいないわ。タニアとカニングスと一緒に、家族水入らずで過ごしているはずだから」
しかし、今日は生憎どちらも不在だった。カニングス……テッドとクロエの父が王都に戻ってきたためガラテアが家族で過ごせるよう休みを出したからだ。
「困りましたね。私は試験を見なければならないので、ギルバート様のパートナーは誰か適当な者を呼びましょう」
「なら、ここにいるレオナに頼みましょう。レオナ、お願いできる?」
「はい、ガラテア様」
滑らかな動きで一礼する『レオナ』ことレオディーナ。しかし、内心では「なんでわざわざあたしを指名するの!? あのイネスっておばさん、『あんた誰?』って顔してこっち見てるよ!?」と慌てていた。
「は、母上、こいつはただのメイド見習いです。ダンスなんて踊れるはずがありません」
その彼女より慌てていたのがギルバートだ。彼はレオディーナを、メイドに女装しているスラム育ちの『レオ』少年だと思っているからだ。
(レオが社交ダンスなんて踊れるはずがない。正体がばれたら、イネス夫人が母上を呪った犯人だったら拙いことになる。なのに何故だ、母さん!?)
そう胸中で問いかけるが、ガラテアに伝わるはずもない。
「分かりました。パートナーが踊れない方が、ギルバート様の試験に丁度いいかもしれません」
しかも、イネス夫人までそんなことを言い出した。
「では、二人ともここに立って。私の手拍子に合わせて踊ってみてください」
もはや避けられないと、ギルバートは青い顔をしてレオディーナと向かい合った。
「俺に合わせろ、何とかする。足を踏んでも構わない」
「そんなに緊張しないで大丈夫ですよ、坊ちゃん」
一方レオディーナはもう落ち着いていた。小声でそう囁くギルバートの方が動揺していたので、逆に冷静になることが出来たのだ。
「では、基本のステップから始めますよ」
何より、レオディーナは社交ダンスを踊ることが出来た。やや苦手科目だが、同い年の子女と比べて劣っているわけではない。
イネス夫人の手拍子に合わせえて動くギルバートに合わせて、遅滞なくステップを刻む。
「いいでしょう。基本は合格です。次は――」
その後、いくつかのダンスを夫人の指示通り、ギルバートとレオナは踊り続けた。
「ギルバート様、合格です。満点ではなく及第点ではありますが、短い時間でよく頑張りましたね。これからもルーセント辺境伯家令息として、研鑽を積みましょう」
そして、イネス夫人は満足したようで生徒を労うと、「失礼しました」とガラテアに一礼して退室していった。
「踊れるなら踊れると、何故最初に言わなかった?」
「緊張しないで大丈夫って言ったじゃん」
ほっと安堵した様子のギルバートに、レオディーナは悪びれもせずそう答えた。
「というか、なんで踊れるんだ? しかも、女性パートを」
「将来役に立つからね。教えてもらったんだ」
細かいことはギルバートに言わず、大雑把に誤魔化す。ちなみに、レオディーナはナタリーと一緒に淑女教育を受ける際、お互いにペアになって踊っている。なので、彼女達は男女どちらのパートも踊ることが出来た。
「そうか……お前が勉強熱心だったお陰で助かった。しかし母上、いったい何故急に? レオがダンスを踊れることを知っていたのですか?」
「ギル、それよりも話の続きを。時間を置いてしまうと、決心が揺らいでしまうわ」
理由を聞こうとする息子に、ガラテアは告白の続きを促した。レオディーナも疑問は覚えていたが、ギルバートが話しかけていたことの方が気になったので、口は挟まなかった。
「分かりました。
レオ、できるだけ手短に話すが、固有魔法について知っているか?」
「必要な素質が特殊で、他人に教えることが出来ない魔法だってことは知ってる」
魔法は技術だが、生まれつきの適性や素質の影響が大きい。固有魔法はその最たる例だ。生まれ持った特殊能力、ゲームふうに言えばユニークスキルに相当する。
「初代ルーセント辺境伯は、その固有魔法の使い手だった。だから、辺境伯家では後継者を選ぶ際に生まれた順よりその固有魔法が使えるか否かで判断するようになった」
この世界では魔法の素質は遺伝する。固有魔法もその例外ではない。また、ラドグリン王国では基本的に家督は長男が継ぐが、慣例であって法律で定められている訳ではない。
「その固有魔法は、通称『魔眼』。魔力を見ることが出来る。俺は、『魔眼』を持って生まれた」
「あれかー。度々坊ちゃんが言っていた魔力を見る魔法って、固有魔法だったんだね」
『魔眼』とは、おそらく常に発動している魔法なのだろう。ギルバートの目は、光や色と同じように魔力を視覚情報の一部として認識できるのだ。
魔法の発動に気づかなかったのも、呪いを見ることが出来たのも、そしてレオディーナに教えることが出来なかったのも納得だ。
しかし、それだけならギルバートが彼女に家名を隠し続けてきた理由が分からない。
「『魔眼』には、魔力以外にも見えるものがある。俺が見たくなくてもな。それは――」
そこまで語って、ギルバートは言い淀んだ。よほど言葉にしにくいのだろう。
「もしかして、人の寿命とか死期とか末路とかが見えるの?」
「違うっ、そんなもの見えるか!」
「じゃあ、未来? 悲劇限定で」
「それも見えない!」
「じゃあ何が見えるのさ? 嘘とかじゃなさそうだけど」
もしそうなら、ガラテアを呪った犯人も早急に割り出せるだろうから違うだろう。
「……それだ。『魔眼』で見つめると、そいつの感情や嘘が見える」
そう思って口にしたレオディーナだったが、当たってしまった。
「そうだったんだ。じゃあ、淑女教育を受けた貴族の女の子が苦手なのも?」
「ああ、女に限らないけどな」
ギルバートの答えは短かったが、彼の様子やガラテアが悲しげに視線を伏せたことから、彼が今までどれほど傷ついてきたか察するに余りある。
笑みを浮かべる相手が内心では自分を嫌い、口にする優しい言葉は嘘ばかり。そんなことが何度もあったのだろう。多感な年頃のギルバートが女性不信に陥り、それを人間不信に悪化させても無理はない。
「そのくせ、肝心な時に役に立たない。嘘が見えると言っても、真実が分かる訳じゃないからな。母上を呪った犯人一人見抜けない」
この世界の人々にとって魔力は心身の一部だ。『魔眼』はそれを視覚情報として捉えることで、魔力の主の感情や言葉の真偽を見抜くことが出来るのだろう。
(だけど、全部お見通しならあたしの性別も髪や肌の色も見抜けるはずだもの。多分、坊ちゃんの『魔眼』が見抜ける嘘は正確じゃないんだ)
そう見当を付けたレオディーナは、意を決し口を開いた。
「坊ちゃん、今から嘘と本当のことを言うから俺をよく見て」
「は? いきなり何を言い出す?」
「俺はスラム育ちの六十歳。実は女でテッドに一目惚れしていて坊ちゃんに手を貸しているのは、大切な友達だと思っているから。
どれが嘘で本当か分かった?」
「なっ!? そんな一気に言われて分かるわけ……ちょっと待てっ、テッドに一目惚れだと!?」
「それは嘘」
やはりギルバートの『魔眼』で見抜ける嘘は、「一定時間の間に嘘を一回以上口にしたか否か」だ。単語ごとに真偽を見抜けるほど正確ではない。
「坊ちゃん、今から俺が言うことは坊ちゃんにとって勝手なことかもしれないし、無責任に聞こえると思う。
坊ちゃん、そう考えすぎることないよ。坊ちゃんは人よりちょっと気づきやすいだけ。今は重荷に感じると思うけど、きっとそのうち慣れる」
それを踏まえたうえで、レオディーナはギルバートにそう慰めた。
人間は嘘を言う生き物だ。人を欺き騙す悪意による嘘だけでなく、お世辞や気遣い、そして優しさから嘘を吐く。本音だけでは社会は回らない。
なので、ギルバートは嘘に慣れるしかない。しかも、彼の立場では慣れすぎるのも危険だ。『魔眼』で見た嘘の真意を見抜ける聡さを磨き、そのうえで自分の心を守る胆力、もしくは鈍感さを身に付けなければならない。
それは難しく、何より大変だ。
「そもそも坊ちゃん、まだ十歳だろ? きっと初代さんより『魔眼』を使いこなせてないだけだって」
しかし、ギルバートはまだ子供だ。伸び代は十分あるはず。大変だと思うが、きっと大丈夫。
「お前……九歳の言うことじゃないぞ」
反発されることを覚悟で言ったレオディーナだったが、ギルバートは素直に彼女の言葉を受け取ったようだった。
「それに、今は将来を待っていられない。犯人を野放しにしていたら、今度こそ母上が危ない」
「それはガラテア様自身やタニアさん、それに容疑者から外せた大人の内、信用できる人に協力してもらったらどうかな?」
それは人間不信のギルバートには難しい選択かもしれない。しかし、それが出来るようになることは彼にとって有益だ。
「この先ずっと信じられるかはともかく『今』、とりあえずこの件では信用できる。そういう人いない?」
「それなら、何人か心当たりがある」
「なら、遠慮なくその人たちを頼ろうよ。坊ちゃん子供なんだし」
「お前も、協力してくれるんだよな?」
「もちろん、坊ちゃんの為なら協力は惜しまないよ。俺の生活を脅かさない範囲でだけど」
出世払いの報酬を受け取るために、将来の豊かな生活のためにレオディーナはギルバートが健やかに成長することを応援していた。それに、大切な友達だと思っていることも嘘ではない。
「分かった、考えてみる。母上、いいですか?」
「もちろんです。まずはグレンに声をかけましょう」
顔を上げたギルバートの金色の瞳に有った憂いは、だいぶ薄くなっていた。ガラテアも息子に圧し掛かっていた重荷が軽くなったのを見て、安堵した様子でそう提案する。きっと、以前から味方を増やすことを考えていたが、口に出来ずにいたのだろう。
その時、レオディーナは窓から差し込む日の光が少し赤くなっているのに気が付いた。
「もうこんな時間か。坊ちゃん、悪いけど……」
「分かっている。ことが進んだらまた手紙で呼び出すと思うが、その時は頼んだぞ」
「うん、任せといてよ。
では、失礼いたします」
『レオナ』の口調で一礼すると、レオディーナはガラテアの寝室から下がって更衣室に向かった。
色々と良い方向に転がりそうな予感に胸を弾ませて。
(性別に関してはどさくさに紛れて告白できたもんね。もし将来怒られたら、『あの時言ったじゃん』って屁理屈をこねよう! ……いや、やっぱり素直に謝ろうかな)
もし面白いなと思っていただけたら、ブクマや評価、いいねで応援していただけたら幸いです。よろしくお願いいたします。
誤字報告ありがとうございます!




