第6話 護衛依頼と悪意検索
「護衛依頼…だと…?訓練も受けずになにを言ってるのよ。」
リサの言葉は相変わらず手苦らしい。
常人なら訓練も受けずに護衛依頼を求めるのは無茶な話だが、自分は違う。
闇魔法を駆使すれば状況は変わるだろう。しかし、それを公にするわけにもいかない。
「訓練を受けるよ。戦えないと護衛もなにもないだろ。」
「ようやくですか。足が速いだけで逃げられても、何かあったときには戦えたほうがいい。」
訓練は三日後の午後。その前に孤児たちの戦い方を教える訓練に参加するのもいいかもしれない。
――翌朝
訓練場をのぞいてみると、そこにいるのは勉強中の孤児たち。それはいいが、指導している人たちの様子がどうも気になる。
「これ、魔物が出たときに対処できないんじゃないか?」
自分は闇魔法とサーチを駆使すれば何とかなるが、普通の人間にとっては大きな問題だ。
「剣振ったことないけど、足を生かして、逃げながら不意をつけばなんとかなる?」
手元の剣を一振りしてみると、体が驚くほどの重要感がない。やっぱりステータスが日本にいたときと桁違いだ。
周りの教室の人々は、自分の一振りを見ておどろいているようだ。
「冷やかしなら帰ってくれないか?」
「いや、剣持ったの初めてだし、邪魔なら見学だけでも。」
そんなこんなで、武器屋に行って剣を購入。
「やっぱり、軽く感じるな。」
――訓練後
「ミコト、十分戦えるよ。護衛依頼を受けても問題ないね。」
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リサさん、講習受けて護衛任務OKをもらってきました。
「OK? ミコトさん、戦えたんですね。 では、これとこれとこれ。討伐お願いします。」
「拒否。 護衛任務なら受けます。」 いちいち戦っていられない。遠隔で対処できるし。
「ちょっと依頼が溜まっているので、護衛依頼が入るまで受けてくれませんか?」
「依頼主と会うの面倒くさそう。」
「依頼主に会わなくてもいいですよ。討伐証明を組合に持ってくれば、それで依頼終了です。」
遠隔(サーチ&収納)だとすぐに終わって問題になりそうだ。 「久しぶりに出向くか、巡回の時以来だな。」
討伐は問題なく終わった。 シャドーハンドで身動きできなくして急所を一突き。 資料室に通った甲斐があり、この辺に出てくる魔物の急所は把握済みだ。
「全部急所を一突きですか。 ミコトさん、剣豪とか剣聖かもしれないですね。 これからも討伐依頼まわしますね。」
「しかたないから受けるけど、今日みたいにいっぱいはやだ。」
「いっぱいって? ああ、移動先を考えて、1週間分渡してましたね。 日帰りで全部やるなんて思ってもいなかったですよ。」
「・・・・」
結局、討伐組になってしまった。 「あのやり方、ひとには見せられないんだよなぁ。 硬直している魔物に剣を刺すだけなんだけど、絶対変に思われる。」
「薬草はもういらない?」 って聞いたら、道中で見つけたら採取してだと。
---翌日
護衛任務が急に入った。 どうも、討伐依頼の異常な速さの達成で、護衛の腕は問題なしと見なされ、 野蛮でない人物として任命されたようだ。
他の冒険者には任せられない?お偉いさんか? 「リサさん、護衛対象って、いきなり”無礼者”って切りつけるような人ですか?」
「護衛対象が護衛を切ることはありません。依頼出しておいて切りつけたら犯人わかるでしょ? 切りつけたい人は辻斬りでもしますよ。」
「えーと、貴族かなんか?」
「この領都の1番の商会のお嬢様が隣の領の領都に輿入れするので、その護衛です。 ミコトさんが相手するのは、出てきた魔物か野盗です。 野営番も従者がするので必要ないと。 戦うべき時に戦ってくださいと。」
「うん、(見た目)野蛮な人を避ける必要性が見えないんだけど、何か隠してない?」
「隠してませんよ、きちんと魔物と野盗に対応してくださいね。」
確実に”野盗(仮)”に狙われる人物とみた。 ま、いいけど。やることいつもと変わんないし。 悪意をサーチして収納庫へポイ。
どっちが悪か知らないけど。 護衛対象を狙うものを”悪”としておこう。
ちょっと試しに、この領都と、隣領の領都を含む範囲を指定して、デビルサーチ! ?うじゃうじゃいるんだけど? 全部っ収納に突っ込んでいい?
これが領都の中ってんなら、デモでもするつもりか?と考えてしまうが、 街道周辺にちらばっているか。
「お嬢様がどんな人か見てから収納するか。 嫌なやつだったら、ちょっと怖い目にあってもらおう。」
いい人だったら、サーチ&収容 嫌な人だったら、襲撃してきたところで一突き(シャドーハンドによる拘束つき)
---護衛当日
「ミコトです。今日はよろしくお願いします。」
「貴方には、この馬車に向かってきたものを処理して頂きます。 逃げたものは追いかけずに、馬車の近くから離れないでください。」
「わかりました。襲撃ないと何もすることないようですが、いいのでしょうか?」
「襲撃はあるので問題ありません。」
やはり、敵対勢力があるのか。大きい商会も大変だなぁ。 「あれ?面接するのって大手だっったよな? あっちは襲撃なんてないけど、人間関係大丈夫なのか?」
とりあえず、嫌な人ではない。 いい人かといわれると、それきり接触ないからわかんないけど、 さっきの指示から悪い人ではないな。
「では、デビルサーチ!からのシャドーハンド! でもって、収容して終わり。」
「さあ、野営を楽しむぞー!」
周りから白い目で見られていることに気が付かない。
ーーー道中
「あの方は何をしているの?」
「気配探知ができるようで、現在周囲に小動物の気配しかないため、
街道沿いの薬草を採取しながら、異常がないか確認しながらついてくるとのことです。
どこまでの気配が探知できるかわかりませんが、魔物はともかく、
野盗の気配がないのはおかしいために許可しました。」
「そうね。
いつもなら、とっくに何回か襲ってきているはず。
集まれるような場所はなかったはずなんだけど、
一応、集団で襲ってくることも考えておいてください。」
「かしこまりました。」
---野営地
「えっ?火を使っちゃダメ?ご飯は?
固形物ですか。
そうですか。
襲撃の目標になるからですか。
そうですか。」
キャンプファイヤーがない・・・
日が落ちたら見張りを除いて仮眠。
恋バナとかの盛り上がりもない。
なんだ?
俺は、ただ歩いて、固形物食べて寝るだけのことを楽しみにしていたのか?
がっかりである。
護衛依頼は、依頼料以外に全く魅力がないことにようやく気が付く。
「おかしい。みんな俺がお金に固執していなことを知っているはずなのに。
討伐もやりたがらないことを知っているはずなのに。
護衛依頼を受けたいと言ったときに、なんでつまらないと教えてくれなかった?」
考え方は人それぞれ。
やりたいと言っている人に、つまらないですよ、なんていう人はいないだろう。
まして、依頼として存在するものにつまらないなんて言う組合職員などいるはずがない。
---隣領都
「何事もなく到着しましたね。」
「よかったですね、と言いたいところですが、おかしいですね。
領都内で仕掛けてくるとは考えられませんが、一応警戒は続けるように指示しておきます。
冒険者はどうしますか?」
「そうですね、続けて警戒しておいてください。
冒険者の方は予定どおりに、ここで任務完了でよいでしょう。
都内で襲撃あった場合の対応などできないでしょうから。」
「まあ、都内で気配探知なんて使えないですから。」
---護衛依頼後
隣領の冒険者組合で依頼達成の手続きを行い、都内をぶらぶら。
「隣の領といっても、食べ物も調味料も変わんないな。
お土産って必要あるか知らないし、変わったものないから、
必要だったら、帰ってから買っても一緒だし。
お土産でなく、差し入れになっちゃう。
そうだ!今度焼き菓子焼いて差し入れしよう。」
道中、カエデの木に樹液採取の瓶をたくさんぶら下げてきた。
「帰り道で回収すれば、焼き菓子に練りこんで甘味として喜ばれるんじゃないかな。
砂糖や蜂蜜だと高いけど、こっちはただだから遠慮もないだろう。」
ちなみに、もう少し早しに入れば、ハチの巣がみつかったはず。
気配探知と言って使っていたサーチは、悪意特化としていたため、
人を襲わない生き物には反応しない。
いちいち虫に反応させたら役にたたなくなってしまう。
「領都内にはお嬢様へ悪意を向けるものは無しっと。さあ、帰ろう。」
実は護衛依頼開始の際に実行したサーチ&収納で一掃されてしまっていた。
現在、領都では、行方不明者が続出してバタついていた。
---領都帰還後
「わからないなら持っていこう。」
ということで、まずはパン屋にお邪魔。
「すいません、メープルシロップたくさん採れたんですけど、いりませんか?
あ、押し売りじゃないです。
隣領まで行ったけど、売っているものが変わり映えしないので、
お土産にメープルシロップ混ぜた焼き菓子をと考えたので。
作ってくれたら差し上げます。
もちろん、焼き菓子は、こちらのお店で売る場合の値段で買います。
あ、こんな時間じゃ無理でしたか?」
「いや、大丈夫。
口をはさむ暇がなかっただけで、焼き菓子っていくつくらい必要だい?
10個?
それならメープルシロップなんて貴重なものを頂けるのなら、ただでいいよ。
え?
隣領との街道脇にたくさんカエデが生えているって?
なんだよ、採取する人がいないだけかよ。
採取する人がいれば、これから甘味もやすくなるのかもな。」
「お土産は、冒険者組合の職員さんになので、その時に採取できないか相談してみます。」
---組合帰還後
「お土産ですか?
隣領にいっただけなのに?
お土産とか差し入れって組合ではないですね。
甘味?
ありがとうございます。
くれるというものはもらいます。
メープルシロップ?カエデ?
街道沿いにですか?
わかりました、甘味のためです。
組合長になんとかさせます。
ありがとうございました。」
なんとか、お土産を渡し、メープルシロップ採取をお願いして、
やることは全て終わった。
気づけば、王都からの調査員が来るまで1週間と迫っていた。
「日本に帰るか。」
帰られればよし。
ここと行き来できたらなおよし。
「あっち、魔素っぽいのないよな。
こっちにはこれなそうだ。
収納しているものどうなるのかな。
部屋に転移してぶちまかれたら、家が破裂しそうなくらい収納している。」
帰るとなったらなったで不安要素が出来てしまった。
【テーマソング(YouTubeショート)】
アドベンチャーワールド
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