第5話 時空魔法会得
翌朝、目を覚ますと、昨夜の興奮がまだ冷めやらぬまま、俺はリナさんのもとへと向かった。
「さて、今日は薬草の勉強を教わるんだったな。」
リナさんはすでに準備を整えていて、俺が来るのを待っていた。
「おはようございます。じゃあ、早速始めましょう。」
こうして、一通り薬草について学ぶことになった。リナさんの説明を聞きながら、俺はふとした疑問を口にする。
「この薬草って、どういう風に調合すればいいんですか?」
リナさんは丁寧に答えてくれるが、その間も俺は小声でぶつぶつと呟いていた。新たに考案する魔法の実験を念頭に置きながら、薬草の特性を整理するためだ。
(時間停止機能付きの収納庫と、発酵食品用の時間加速収納庫を作るんだ。まずは時間停止から……)
リナさんには不審に思われたかもしれないが、
「言葉に出したほうが記憶しやすいので」
と、なんとか誤魔化しておいた。しかし、今まで質問は一種類だけだったので、かなり怪しく映っただろう。
――さて、開発を始めよう。
「まずは、時間の概念がない収納庫だな。シャドーワールド……っと。」
魔法を発動すると、黒い影のような亜空間が目の前に生じた。
「できた。」
容量は……とりあえず後で確認しよう。周囲の土や川の水を入れて、どれほど収容できるか試せばいい。
次に発酵食品用の収納庫。
「時間を早く進める空間か……。
いや、待てよ。このままだと腐るだけだな。」
入れるものの時間経過を指定できるようにしなければ、使い物にならない。
しばらく考えた結果、「タイムワールド」という魔法を創り出した。これは、収容時に何倍の速さで時間を進めるか指定できる小さな箱だ。小さいと言っても、一部屋分ほどの広さはある。
「よし、これなら味噌樽くらいは余裕で入るな。」
複数作成できるようなので、食品ごとに使い分けることにする。
思ったよりもあっさりできたので、これからは珍しい薬草や魔物を時間停止庫に収めることにした。発酵庫については、まだ基になる食材がないので、ただ作っただけの状態だ。
その日のうちに、組合へ行き、余った薬草を納品。部屋に戻ると、早速実験を開始する。
湯を入れたコップを時間停止庫に収容し、もう一つのコップを「発酵96倍庫」(15分で24時間経過)に入れる。
「1分後に取り出してみるか……。」
結果、湯はほぼ水になっていた。
「完璧だな。」
これで、アイテムボックス的なものは全て完成した。
さて、自分自身を「デビルサーチ」で調べてみると……。
「闇魔法使いは他の魔法を覚えられないって聞いてたけど……。」
そこには、新たな魔法が記されていた。
「時空魔法……?」
まさか、こんな力を手にするとは思わなかった。しかし、これならひょっとして――
「帰れるか?」
時空を超えて、日本へ帰ることは可能なのか?
いくつか試してみたが、どうやら単純に時を遡ったり進めたりするだけのようで、界渡りの方法は見つからなかった。
(ヒントがないか探すしかないな。)
その後、魔物狩りを兼ねてシャドーワールドへ大量に魔物を収容。
「この収納庫、果てしないな……。」
魔物を処理しながら考え続ける。
(界渡りの予兆がないなら、何か別の方法があるはずだ。)
翌日、俺はリナさんに尋ねてみることにした。
「リナさん、俺が来る前、この辺りで何か大きな祭りとかありましたか?」
「ええと、三カ月前に収穫祭がありましたよ。」
(よし、これなら時空魔法で確認できるかもしれない。)
試しに時空魔法を発動し、一カ月前の座標へ。
……
「変化がない……?いや、待て。」
さらに一カ月後に飛んでみる。
リナさんにもう一度確認すると、
「新年祭が来月あるわよ。」
「よし、実験は成功だ。」
これで、日時指定の転移が可能になった。
(次は、日本の座標をどうやって手に入れるかだな。)
一歩ずつ、帰還への道が見えてきた。
「よし、もう少しこの世界で遊んでから帰ろう。」
護衛任務の野営体験がしたくなった俺は、護衛依頼を探すことにした。
しかし、この時はまだ、
「野営って結局、夜はぼっちキャンプみたいなものじゃね?」
と気づいていなかった……。
【テーマソング(YouTubeショート)】
アドベンチャーワールド
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