第2話 冒険者登録と職業相談
異世界転移翌日。
昨日、資料室でこの辺りの地図や国の法律、魔物、魔法についてざっくりと調べた。だが、浅い知識しか得られなかったのは否めない。
「辺境って、中心とどのくらい生活水準違うのかな」
この辺りは王国の東端に位置する辺境の町で、俺のことが王都に報告されるまで一か月くらいかかるらしい。通信手段がないのか?魔法や伝書鳥みたいなものはないのか?辺境だからこそ情報が遅れるのか?
「テイマーになったら、郵便屋とかどうかな」
そんなことを考えつつ、町を歩く。町の中心には市場があり、その周囲には家々が立ち並んでいる。町を取り囲むように広がる農地は、東の広大な森へと続いているらしい。森には魔物が生息し、時折そこから町へ出てきて被害を出すことがあるという。
「スタンピード起きたらヤバくね?」
国の政治についても少し調べたが、おおむね善政が敷かれているようだった。貴族と平民の区別はあるものの、特権意識はあまりなく、悪いことをしたほうが罰せられるという。現場を見たわけじゃないが、いきなりバッサリ断罪されることはなさそうなので、ひとまず安心。
農地を荒らす魔物の討伐は冒険者の仕事であり、一般人、特に子供はすぐに組合に報告することが義務付けられているらしい。報告には金はかからない。
「やってること、警察みたいなもんか?」
討伐には二、三人の冒険者が向かうらしい。強さの基準はわからないが、少なくとも雑魚のチンピラ程度か?……いや、そもそもチンピラの強さをよく知らんが。
そんなことを考えながら、俺は魔法の実験を始めていた。
書物に載っていた基本的な魔法を片っ端から試してみたが、唯一発動したのは闇魔法だった。
「わっ!」
突然、部屋に浮かんでいた光の玉が弾き飛ばされ、あたりが真っ暗になった。数秒後、光の玉が元の位置に戻り、ホッと胸をなでおろす。
「なんの魔法かわかんないけど、びっくりした……」
火や水が暴発しなかっただけマシか。闇魔法が発動した理由は謎だが、あとでじっくり調べることにしよう。
さて、今日は職業斡旋の面接の日だ。
「できる仕事なんてあるんかな……?」
とりあえず、自分の適性を探るべく、冒険者組合を訪ねることにした。
***
「ずいぶん体力があるようですね」
そう話しかけてきたのは、組合の職員らしき男性だった。彼の話によると、領地では森から出てくる魔物による被害が多く、冒険者は常に人手不足なのだという。
「見るって、何を?」
「冒険者としての適性です。あなた、体力があるようですね。ここでは、新人にまず足の速さと体力を見ます。スタミナがあれば、巡回任務に就くことができますよ」
巡回の仕事は、領地の外れを定期的に走り、魔物を見つけたらすぐに組合へ報告するというもの。戦闘経験のない俺でも、足さえ速ければ務まるらしい。
「まあ、足だけは小さいころから速かったしな」
裏山で走り回ってたことが役に立つとは思わなかった。
試験はすぐに行われた。最初は三キロの走行テスト。全力で走り抜いたが、息が少し乱れた程度だった。え、普通なら倒れこむ距離なのに?
「すごく速いですね。持久力も尋常じゃないですし……戦闘適性のテストもしてみませんか?」
戦闘適性?
気づけば俺は試験会場の外れに連れてこられ、木剣を手にしていた。
「まあ、どんなものか試してみるか」
だが、結果は予想外だった。
「嘘でしょ……」
組合の関係者たちが息を呑んでいる。見れば、目の前には無残に倒れた人型の的——つまり訓練用の木人があった。
「おそろしく速い剣。これが初心者……?」
それがこの世界の一般的な水準なのかはわからないが、どうやら俺は普通の人間よりも圧倒的に身体能力が高いらしい。
「ええっと、戦闘系の適性試験も受けませんか?」
「いや、戦闘は……」
「では、試しに領地の見回りをしてもらえませんか? 体力がありそうですし、危険な魔物が出たらすぐに報告すればいいので。」
確かに、それならば無理なくできるかもしれない。
「いいですよ、やります」
そうして俺は、異世界の定番である冒険者登録をすることとなった。
「では、巡回の試験をしましょうか。まずは2キロを全力疾走してもらいます。そのペースなら魔物に追いつかれることはないでしょう。合格基準は2キロを安全に走り抜けることです。」
言われるがままに走る。疾走。風が頬を切る。信じられないスピードで町の外れへと駆け抜ける。
「……あれ?」
3キロほど走っても、俺の呼吸はそれほど乱れていない。
「すごいです。もう一度、試してもいいですか?」
何度か走り込んでみたが、息が切れることはなく、むしろ調子が上がってくるばかりだった。気づけば30キロも走っていた。
「ええっと……戦闘系の適性試験も受けませんか?」
「ええ……」
飛脚じゃないんだけどな……
こうして俺の冒険者としての生活が始まった。まずは巡回から。2日で4時間の巡回。その後、報告書を作成し提出するのが仕事らしい。
「レポートか……」
「前例がないほど速いので、ひとまずこのまま様子を見ますが、何かあったらすぐに報告を」
「わかりました」
報告書作成のための資料を探しに行こう。ついでに闇魔法のことも調べたいし、薬草についても詳しくなりたい。何かあったとき、自分の身は自分で守らないといけない。
そんなわけで、俺の異世界での新たな生活が本格的に始まった。
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アドベンチャーワールド
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