第1話 界渡り遭遇
俺の名は、ミコト。
異世界転移してから、この名前にした。
■ 異世界への転移
就活のために面接会場へ向かう途中、突然のめまいに襲われた。
「うっ……!」
その場に立ち止まり、目をつむる。ゆっくり深呼吸。
「すぅー……はぁー……すぅー……はぁー……」
落ち着きを取り戻し、そっと目を開ける。
「……どこ?」
目の前には、見知らぬ風景が広がっていた。青々とした草原、その先には鬱蒼とした森の入り口らしき場所。見慣れた都会の喧騒も、ビル群も、すべてが消えていた。
■ 異世界の住人との遭遇
「なんだお前!どこから現れた!」
突然、背後から怒声が飛ぶ。
「えっ?」
驚いて振り向くと、筋骨隆々の男たちが3人。剣や斧を携え、無骨な鎧を身にまとっている。その風貌は、まるで中世の戦士か野蛮な盗賊のようだった。
(え、なにこの状況?)
異様な雰囲気に萎縮し、体がこわばる。
「突然現れやがって、何の用だ!」
「いや、こっちのセリフなんだけど……」
動揺しながら、拙い説明を試みる。
「突然も何も……こんな場所、知らないし。違う場所にいたんだし……めまいがして、目をつむって、開けたら、ここにいたんだし……」
(説明下手か!でも、ビビってるんだから仕方ない!)
男たちは、何やら小声で話し合い始めた。
「魔法使いっぽくないし……界渡りじゃねえか?」
(界渡り?)
「そうだな。変な格好してるし」
(お前らのほうが変な格好だろ!)
「でも、言葉が通じる界渡り人なんて聞いたことないぞ?」
(そうなのか。異世界転移の特典かと思ったけど、違うのか?それとも、前に来たのが外国人だったとか?まあ、通じてるからいいか)
■ 新たな世界での導き
「お前、名は?」
「……俺はミコト」
「俺はゲント、こいつらはダンとジンクだ」
彼らは、少し安堵したようにうなずいた。
「短い名でよかったよ。界渡り人って、長い名前で有名だからな」
(そんなに頻繁に転移してるのか?そういえば、日本でも行方不明者ってすごい数だもんな……)
「界渡り人が来たことは王宮へ連絡する決まりだ。王宮の調査次第で、取り立てられるか、放置されるかが決まる。それまでは、冒険者組合で仕事を斡旋するから、何かできることがあれば相談しろ」
(面接先が、冒険者組合になった……)
「ここにいたら、元の世界に帰れたりする?」
「それは王宮の調査員に聞け。界渡りの仕組みなんて俺たちには分からん。お前が現れたときも、予兆も揺らぎもなく、突然目の前にいたんだ。だから最初は転移魔法かと思ったんだが……いやぁ、界渡りを見られるなんて運がいいな!」
(俺は運が悪いんだが……)
「じゃあ、行こうか」
「え、あんたら、森に用があったんじゃ?」
「界渡り人を組合に連れていくと報酬がもらえる。それに、依頼は持ち越しかキャンセルになるしな。お前を森に連れて行くわけにもいかんし、組合まで護衛するのが筋だ」
(迷子扱いか……まあ、仕方ない)
「よろしくお願いします」
深々とお辞儀をすると、男たちは微妙な表情を浮かべた。
「……そこからか。組合で色々教わるんだな。あと、信用できる奴以外に気を許すな」
(やっぱり野蛮人じゃねえか!日本人の礼儀正しさを広めなきゃ……いや、嘘だな)
■ 冒険者組合へ
移動しながら、ふと気づく。
(10kmくらいある道のりを、このペースで歩いてるのに、全然疲れてない)
「界渡り人にしては体力あるな」
(やっぱり異世界転移の特典か?重力とか、魔素とか、そういう影響?……まあ、考えても仕方ないな)
無事、冒険者組合へ到着。
「ここで寝泊まりする部屋を用意した。明日、職業について説明する」
「明日?まだ昼なんだけど……今日説明を聞けませんか?」
「準備があるからな」
「じゃあ、建物の掃除とかしましょうか?」
「それは孤児たちの仕事だ」
「では、資料室とかありますか?知識を仕入れたいんですが」
「2階の奥に資料室がある。自由に使え。ただし、窓はなく、人が入ると魔法の明かりがくっつくから驚くなよ」
「ありがとうございます」
今度はお辞儀をせず、言葉だけで感謝を伝えた。彼らが礼をする習慣があるかどうか、まだ分からない。
こうして、「ミコト」として生きていくことになった俺の異世界転移1日目は、情報収集で終わった。幸い、資料は読める。
(さて、この世界の常識を知るところから始めるか)
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