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たたりの噂

作者: やまおか

 町では人の数だけ噂がながれるものですが、子供のころからずっと聞いていた特徴的なものがありました。それは“たたり”の噂です。

 

 たたりといえば皆さんはどんなことを思い浮かべるでしょうか。

 家の物がこわれたり、ケガをしたり、家族に不幸があったりといったものを連想する人もいるでしょう。あるいは霊障が起きて毎日怖い思いをする、ということもあるかもしれません。 

 でも、この町で起きたものはどれにもあてはまりません。ただ“たたり”があったという噂だけが聞こえてくるのです。 

  

 あまりに目立つその噂は子供たちの間でもよく話題となって、この街に住む人間ならだれもが知っているぐらいに有名になっていました。 

  

 だけど本気で信じている子はいなくて、たたりなんて聞かされても子供たちは鼻で笑い飛ばしていました。わたしたちの年代では特にその傾向が強く、理由は一人の友人の存在があったからでしょう。

  

「土地神様のたたりじゃー」

  

 それが彼女の口癖でした。

 

 私が住んでいる地域は田舎で、この土地だけの神様を祀っていました。

 友人の家は代々土地神様を祀っている家系でしたが、何かあるといつものお決まりの台詞でふざける明るい子でした。まわりも彼女に合わせて笑っていました。

 

 土地神様については神様をもてはやすための祭事もあったそうですがいまは祭壇をきれいにしているぐらいで、街の人々にとっても厳格な信仰というものはなく、正月やクリスマスになれば商店街がにぎわっています。

 

 私たちにとって土地神様はその程度のものでした。

 なので、たたりなんて根も葉もない噂でしかないと思っていました。

 

 

 あるとき、都会からの転校生がやってきました。町の外から新しい人が来たということでみんなわくわくしていたのですが、どうにも彼はここに来たのは不本意らしくクラスメイトを近づけようとはしませんでした。彼はぴりぴりとした雰囲気を振りまきみんなは距離を置くようになり、一人でいる姿を多く見るようになりました。

 

 そんなある日、彼がケガをしました。その場所というのが土地神様を祀ったお社でした。

 どうやら、噂のことをききつけていたずらをしに侵入したようです。

 入り口にはカギもかかっていなくて入るのは容易で、あちこちいじっているうちに倒れてきた金属製の像の下敷きになってしまったそうです。といっても、大きな音を聞いて駆け付けた神主さんに助け出された彼は大したケガもなく、すぐに学校に来ていました。

 

 友人の家も大きく騒ぐことはせずに、ただの子供のいたずらという笑い話にするつもりでした。実際私たちも何度か度胸試しに中に入ったこともありましたから、今回も同じことになると思っていました。

 

 だけどそれを許さない人間がいました。

 

 彼の父親が友人の家に怒鳴り込んだそうです。

 その怒鳴り声は近所まで聞こえてくるほどで、対応した神主さんが治療費と慰謝料も払ったそうです。このときばかりはいつも明るい友人も気分が落ち込んでる様子で、みんなで悪いのはむこうだよとなぐさめていました。

 

「なにが土地神様だよ。なんもないじゃねーか。ほらたたってみろよ」

 

 転校生の彼がにやにやと笑ってこちらをながめていました。噂では、彼の父も『わしがしかりつけて金を出させた』と近所に武勇伝として吹聴してまわっているそうです。

 

 神主さんは侵入されないようにと社をきちんと囲んで鍵もかけられるようにしました。その作業にはうちの両親も含めて町の人も参加したそうです。

 ですが、これについても『わしが言いつけたことだ』と得意気だったという噂が聞こえてきました。

 

 みんなは友人を心配しましたが、大したことじゃないよと笑っていました。そんな友人をどこかおもしろくなさそうに彼が見ていましたが、それ以上の問題を起こそうという気はないようでした。

 

 これで話は終わるかと思っていましたが、噂はまだ続いていました。

 

 

 ある日から彼の母親が買い物にいくと売り切れになっていることが増えました。

 

 ある日から彼の父親の車が小さな事故にあうことが増えました。

 

 ある日から彼の家の近くで工事が多くなり回り道をすることが増えました。

 

 ある日から彼の家ではケンカが絶えなくなりました。

 

 

 彼の姿を学校でみることがなくなったとき、だれかがぽつりとつぶやきました。

 

「これって、やっぱり土地神様のたたりなんじゃないの?」

 

 それはみんなもなんとなく思っていたことでした。うなずきかけたところで誰かの大声でそれを否定しました。

 

「そんなわけないよ!」

 

 びっくりしながらみんなが見たのは友人の怯えた表情でした。いつもはふざけてそれを口にしていた彼女がどうしてそんな顔をするのかわたしたちにはわかりませんでした。

 

 なんとなく土地神様のことを話題に出しずらい日々が続きました。

 そんなある日、彼とその家族はこの町からいなくなりました。朝早くから引っ越しトラックが町の外に走っていくのを近所の人が見たそうです。

 

 彼には気の毒でしたが、これでいつも通りに戻ると安心しました。でも、友人の調子はまだ戻りませんでした。

 

「ちがうんだ。土地神様は何もしてないんだ……」

 

 たたりじゃないと彼女はうめくようにつぶやいていました。

 

 

 これは学校の先輩から聞いたことなのですが、今回と似たようなことは昔から起きていたそうです。

 

 神主さんはそれがいやで今回のこともなるべく事を丸く治めようとしたらしいです。普段から友人が土地神様のことでふざけていたのもそういった考えをきいていたからなのでしょう。

 

 

 今回のことについても誰が何をしたかとはわかりません。もちろん、神主さんも人を使ってやらせたわけではありません。知らないところで何かが動き、何がどうしてそうなったかも分かりません。

 

 だから、みんなはこういうのです。

 

 ―――『土地神様のたたり』と

 

 

 

 

 

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