5.
新学期二日目、項は部活をサボる事無く部室へと顔を出していた。
正直に言えば、部室に行くか帰宅するかで迷っていた。というのも、昨日4人の部員を紹介していて改めて実感したのだが、学年成績一位にしてオタク女子として有名な毛利さん、バレー部元エースの武田さん、学校のアイドル住吉さん、喧嘩や空手で広く知られてる熊谷君。という学校で有名人のこの4人と、ただの陰キャの僕が同じクラブで活動していく自信が持てなかったのだ。
それでも部室へと足が向いた理由は、毛利氏、安芸武田氏への好奇心の方が勝っていたのだ。彼女たちが歴史に名を遺した一族の末裔だからといって何か事件が起こるわけではないのだろうが、そのことを僕だけが知っているという事実に優越感のようなものを感じていたのだと思う。
今日も部員5人全員が部室に詰め、各々が自由に歴史探索ではない何かをして過ごしていた。
平日は家の手伝いがある為に帰宅部だと言っていた住吉さんは、今日は午前中で授業が終わったので部室に顔を出せたのだとか。
「ねぇ、学校の裏山に古い祠があるんだけど、これから皆で行ってみない?」
脈絡もなく、そう言いだしたのは住吉さんだ。
「なにそれ、おもしろそうね」
この話に食いついたのは武田さんだ。彼女も暇を持て余していたのだろうか。
「…と、言う提案が出されていますが何か意見のある人はいませんか?……はい、では山田君ッ!」
それを部長の毛利さんが仕切って…………て、えっ?挙手してないけど? なんで今、僕が当てられたの?
「…えッ、なんで僕?……いいけど。えっと、じゃあ住吉さん、その祠ってどんなものかわかる?何が祀られているとか」
「それが、古すぎて何もわからないんだよね。管理もされなくなって長年打ち捨てられた感じ?」
「じゃあ僕たちが行っても何もわからないわけだよね。それ、わざわざ見に行く意味あるのかな?」
「……意味、意味かぁ。言われてみれば意味ないね。いくのやめようか」
「ちょっとぉ!簡単に丸め込まれてるんじゃないわよッ!!」
そうだった。武田さんも行きたい派だったな。
「歴史的価値はともかく、そんなに古い物が本当に存在しているのなら、部の活動の一環として行く意味はあるとおもうわ。まぁ、めんどいし、わたしは反対だけど。という事で、意見が分かれたので多数決を取りたいと思います。では、行きたい人~?」
手を挙げたのは武田さんと住吉さんだ。反対多数と思ったのだが、武田さんが横目で熊谷君に視線を向けると、熊谷君は、おずおずと手を挙げた。
まさか、屈強な熊谷君が武田さんの圧に負けてしまうとは。
「行きたくない人まで無理に行く必要はないと思うけど、わたしは部長として皆に同行するわ。…で、山田君はどうする?」
僕も部室に一人取り残されるのはさすがに嫌だけど? 狐さん的にも行くが正解なんだろうな、タブン。それに今、僕、試されてる?
「これって、歴史探索部として今年度最初の活動って事だよね。だったら皆で行くべきだと思うし、僕も一緒に行くよ」
「失礼ね。部は昨日から活動しているわよ……まぁ、いいけど。じゃあ、全員15分後に校門前に集合よッ!」
僕は廊下に出て周りに誰もいない事を確認すると、狐さんに裏山の祠について知っているか訊ねてみた。『祠などは知らんが、北の山のある方角からあまりよくない気が流れてきているな』と風水っぽい返答が帰ってきた。
そして終には『4人で行かせておったら危なかったかも知れんな』と言い出す始末。これは僕も行くといって正解だったな。いざとなったら僕がみんなを守らなきゃ。
その後、各自トイレ等を済まし、全員で校門へと向かった……なんでだ?
「ねぇ、これって校門に集合する意味あるのかな?」
僕の疑問を代弁したのは住吉さんだ。
「…ないわね。タブン、皆、校門で待たされるのが嫌だったんじゃないかな。次からは部室集合にしましょう」
「それが良いね」
「それじゃあ出発よッ!」
先頭を切ったのは武田さんだ。元々、体育部に所属していた彼女は体力が有り余っていたのだろう。
山道はとても狭く一列に並んで歩く。武田さんを先頭に、祠の場所を知っている住吉さん、僕、毛利さん、そして最後尾が熊谷君だ。
……いや、男子の僕がどうして一番安全な真ん中なんだよ!? そんなにひ弱と思われていた事にショックなんだが。確かに心臓弱いけど、帰宅部だったけど。最近なんだか調子良いし……そういえば、さっき行くか聞かれたのは、ただ僕の体を心配してただけとか?今更だけど恥ずかしくなってきた、顔が熱い。
「山田君、顔が赤いよ。大丈夫?少し休む?」
「……おかまいなく」
祠にはおよそ10分ほどで辿り着いた。まぁ、元々そんなに山の上にあるとは思ってなかったけど。
そして、やはりというか打ち捨てられたという言葉が相応しいほどに荒れ果てていた。
祠の傷み具合は酷く台座からも落ちかけており、周囲の草も生え放題で知らなければ祠に気付かず通り過ぎそうなほどだ。
「これはまた、酷い有様だね」
「何年も人の手が加えられていない感じだよね」
「掃除とかした方が良いのかな」
「こういう祠って何かしらの神様を祀ってあった物だろうから、粗末にするとバチや祟りがあるかもだし、キレイにするのには賛成だけど……ちょっとだけ待ってもらえるかな」
そう言って住吉さんはスマホのカメラ機能を使って祠の写真を数枚撮ると、それをメールに添付してどこかに送っていた。
「写真どこに送ったの?」
一連の作業を隣で見ていた七美が訊ねた。
「えっとね、管理されなくなった祠をもしも壊すとなったら、お寺とか神社案件だから。うち神社だし親に送っといた」
その返信メールはすぐに帰った来た。
八恵は、「うちの親、こんなにすぐ返信してくることないんだけどな」と言いつつメールを開くと、メールには短い文でこう書かれていた。
『―――いますぐそこから逃げろっ!―――』
いやー、よくある展開ですね。わかります! 私も同じメール何度も見たことありますし。勿論、創作の中での話ですよ。この女子達もきっとすぐ気付くと思います。昔みたホラーに出て来た返信メールと内容まったく同じだって…。