4.
部員紹介とか。こんなスロー展開で良いのだろうか……
項は、その場で入部届を書いて尼子先生に渡すと、早速、部室へと案内された。春休みの間もずっと活動していた部活もあるし、新学期の初日だからといって活動している部活は少なくはない。
案内されたのは、職員室から最も遠い北校舎の隅にある小部屋だった。
「えー、こっちが新入部員の山田項君。みんな仲良くしてあげてね」
「えっと、山田項です。こ、これからよろしくお願いします」
部室には既に項以外の部員四名が揃っており、項はその面子に戸惑いながらも何とか自己紹介を終え胸を撫でおろす。
「……で、部員を一人一人紹介していきたいところだけど、先生これから職員会議ですぐ行かなくちゃいけないのよね。なので、自己紹介は各自でお願いします。毛利さん、後は頼んだわよ」
そう言い残して尼子先生はそそくさと部室を後にした。そうして部室に訪れた沈黙の中「まったく落ち着きのない先生だなぁ」と、最初に動いたのは毛利六花だった。
「えー、わたしが部長の毛利六花です。まぁ、山田君とはクラスも同じで席も隣同士だし、わたしの紹介は特に必要ないと思うけど、一応、よろしくね!」
「次は私の番。住吉八恵です。尼子先生に幽霊部員でいいからと連れて来られました。平日は家の神社の手伝いがあるので、基本帰宅部ですが大目に見てやってください!」
「武田七美よ!」
「熊谷雨竜だ!」
毛利六花を切っ掛けに、順に全員が名乗りを上げ、無事に自己紹介を終えた。後ろの二人は名前言っただけの気がするけど、自分の名前を紹介したのだととらえれば間違ってはいない。
ただ、これだけでは不十分なので僕の知っている彼、彼女達の情報を紹介しておく。
まずは、毛利六花。彼女に対してこれ以上は僕の知る情報はないので省略する。
次に、武田七美。彼女は最初、バレーボール部に所属しており一年でエースに抜擢され、試合に出れば20得点以上取るなどチームを勝利に導く大活躍を見せるも、先輩たちとの折り合いが悪くなり夏には退部。これには一年生をエースに抜擢した顧問にも責任があると思うのだが、こうなってしまっては元に戻るのは難しい。
明るく活発的でスポーツ万能。美人。クラスの人気者。
そんな彼女がどうしてこんなところにいるのかは僕の知るところではない。学年成績2位。
そして、熊谷雨竜。元、空手部所属。黒帯、有段者で全国2位の実力者。高校生の不良グループと喧嘩をして無期限試合出場停止を食らって後に退部。去年の身体測定で身長178センチあったから今は180超えていると思う。
強面。狂暴。気性が荒く、少しというかかなりコワイ。関わりたくない人物。
成績は意外と良く学年5位。
そして最後は、住吉八恵。彼女の家は代々神社で「彼女の巫女姿が可愛い」と、男子共の人気が高い。去年100人から告られたという噂もあり、今一番モテているJCと言っても過言ではない。
アイドル。可愛い系。フワフワした感じ。
成績は……上位の方にはいなかったような…………
「ちょっと、山田君ッ! 成績上位の三人を前にして気圧される気持ちはわからなくないけど、わたしの方を見てちょっぴり安心した顔するのは失礼だと思うよッ!」
突然、理不尽な物言いをしてきたのは住吉さんだ。なんだか怒った顔も可愛い……ぢゃなくて、
「あっ、いや、別にそういう事を考えてたわけじゃなくって……」
ここに油を注いてきたのは毛利六花だった。
「そうだぞッ、山田君! こうみえて八恵ちゃんは85位って順位を気にしてるんだから……そういう山田君も80位とあまりかわらないじゃないか!」
そうなのだ。一学年の時の僕の成績は92人中80位だったのだ。
……って、なんで僕の順位まで知ってるの!?
こうして、僕と住吉さんは大炎上したのだった。
「ちょっ、六花ちゃん!わたしの順位教えてないよね? 何で知ってるの? ねぇ、なんで?」
「ジャーーン!! これは成績を貼り出した紙を撮影した画像よっ!」
そう言って六花は二人にスマホの画面を見せつけてきた。
「えッ、何でこんな写真もってるの!…消してッ!消してよぉ~!」
もはや、住吉さんは半泣きになっていた。
そんな二人のやり取りを「学年一位のやる事じゃないよなぁ」と思い、ただ眺める項であった。
一連のやり取りが終わった後、住吉さんは机に突っ伏していた。
「85位でゴメンナサイ、生きててゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ…………」
住吉さん、呪文のようなの唱えてるけど大丈夫なのだろうか?
一方、武田さんと熊谷君はというと、対戦ゲームをしているようだった。
意外と仲良いのかなこの二人。てか、学校にゲーム機持参って……。
『むっ、あれは……武田の娘かっ!』
そして、またもや狐さんから不穏な発言が飛び出した。もしかしなくてもそれ『安芸武田氏』の事だよね?
「エンカウント率高すぎだろッ!!」
「……えッ、何!?…………あっ、そうだった。ゴメンネッ!」
いきなり声を上げた僕に驚いて顔を上げた住吉さんが、勝手に何かを察して勝手に納得したようだ。
……ちがうからッ! 僕には見えない友達いないからッ! 狐さんだからッ!
そんなこんなで歴史探索をしないまま部活初日を終えるのだった。
歴史探索いつするの?……ねぇ、いつするの?