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狐さんと行く歴史探索  作者: 貝石箱
中二、最強説ホラー

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36/37

36.八剣祭祀①


 気付くと、僕(山田項)は、知らない街の中へと降り立っていた。

 それも、時代劇に登場するような『長屋(ながや)』と呼ばれる木造平屋建築の立ち並ぶ街並みだ。周囲にはビル等の高い建物はなく、唯一背の高いと言える建築物は、遠目に望めるお城だろうか。

 現在の鉄筋コンクリート造の外観とは多少異なるが、アレは再建前の『広島城』だ。ということは、僕は、広島城が築城された1590年代以降の広島城下に迷い込んだという事になる。


 もしや、と狐さんに呼びかけたが返事はなく、狐さんはこの世界には来れなかったようだ。


 ……どうして、こうなった!?


 思えば、住吉パパに「娘を夢の中から連れ戻してほしい」と言われ、説明もほどほどにこの世界に送り込まれた訳なのだが……。

 この世界が、とにかく広すぎた。住吉さんを探して一日中歩き回ったが、見つけ出す事が適わなかった。


 見つからないなんて想定してなかったよお。知らない街だし、狐さんもいないし、どこ探せば良いかわかんないし……。


「……どうした?……迷子か?」


 声を掛けられて振り返ると、40歳くらいの精悍な顔つきの巨躯の男が立っていた。


「え、えっと、友人を探してて………まぁ、迷子みたいなもんかな?」


「ふむ、見かけない子供がいると思えば、田舎から友人を探しに上京したといったところか……よし!その友人探し俺も手伝ってやろう! それで、今日の宿はもう決まってるのか?」


「いや…………お金無いし野宿かな?」


 ……昔のお金なんて持っていないし。


「それなら俺のところへ来るか。雨風凌げる場所くらいは用意してやれるぞ」


 男は『正吉(まさきち)』と名乗り、連れて来られたのは、とある長屋の一角だった。

 この長屋一棟、全て正吉さんの所有物らしい。正吉さんが身寄りのない子供を拾って来ては、住まわせているのだとか。

 通常は5、6人で一部屋を使わせているそうだが、僕は人探しの間、空き部屋を一人で使わせてもらう事になった。


 炊き出しは、朝夕二回、広場で行われていた。こういう人の集まる場所は情報が入りやすい。炊き出しの時間は広場で過ごし、それ以外の時間はひたすら街の中を歩いて探す。

 そんな日々を過ごして3日が経過した。4日目は正吉さんが住吉さん探しに同行してくれることになった。


「その友人とやらは、女か?」

「う、うん、僕と同い年の女の子かな」


 正吉さんは僕の顔をうかがい、


「ふむ、なるほど……そうかそうか……」


 と、何か勘違いしているのかな?

 まぁ、毎日一日中捜し歩いてるもんなぁ。


 一緒に歩いていると、正吉さんは街の人達から、度々、声を掛けられて、その様子を見るに人望の厚い人なんだと伺えた。そういう人だから子供の僕の人探しにも付き合ってくれてるんだろうけど、その度に、

「こいつの許嫁を捜してるんだが、八恵という娘に心当たりないか?」

 と言うのは、恥ずかしいからやめてほしい。


 その後、街の人々と正吉さんの会話から今の広島城主は『福島正則』だという事がわかった。まぁ、1600年代前半とわかったところで住吉さん探しに何の役にも立たないのだが。


 探し始めて一時間ほど経ったところで、浪人風の男が正吉さんに耳打ちをして去って行った。


「問題が起きたッ! スマン、ちと付き合ってくれるかッ!?」


 速足で歩き出す正吉さんについて行き、辿り着いたのは堤防のある土手だった。


「…………チッ!」


 舌打ちする正吉さんの視線の先、その先に見えたのは、紛れもなく僕の探し人『住吉八恵』その人だった。

 どういうわけか、住吉さんは儀式の生贄にされそうになっていたのだ。



「住吉さーーーん!!やっと見つけたと思ったら、どーして、もう、殺されそうになってんのぉーーッ!?」


「山田君ッ!!城主様に会ってッ!!急いでッ!!」


 正吉さんに「あの娘を知っているのか」と聞かれて、探している友人だと答えると、お城の方へと連れて行かれた。

 周囲に誰もいないのを確認すると、正吉さんは地面に何かを描き、説明をはじめた。


「良いか? ここから真っ直ぐ城の裏手に回ると、堀のこの辺りに城内まで通ずる通路がある。城主は最上階にいる!」


 急な展開に頭が付いていけてないが、住吉さんの言う『城主に会う』という行為が、きっとこの世界から脱出する方法に繋がるのだろう。


 正吉さんと別れ、城の裏手に回ると、言われた場所に子供一人通れそうな穴が開いていた。広島城に水道が整備されていたという話は聞いたことはないが、そこを通り最上階を目指す。


 辿り着いた先で待っていたのは、恵まれた体格に、鷹のような鋭い眼差しを持つ大男でした。


 ……いゃ、正吉さんだろう? 視線こそ鋭いが、そこにいたのは紛れもなく正吉さんでしかなかった。


「まさか、正吉さんが『福島正則』さんだったなんて……」


 正吉さんはバツの悪そうな顔で、そのまま本題に入った。


「俺もな、『人柱』などという古い因習は無くさねばと思っておったのだ。あの娘から『策』を授かっておるのだろう? 娘を助けるにはどうすれば良いのだ、言って見よ!」


 ……えっ!? 『策』って何? 『策』は知らないけど、福島正則さんの逸話は一つ知ってる。


「確か、殿は八本の名剣をお持ちでしたね?その『八剣(やつるぎ)の御霊』を神に祀るのです!」


「なんだと!!八本もかっ!せめて、二本、いや三本……そもそも、なぜ俺が八本もっておると知っておるのだ!!」


「八本です! 神を欺くことは誰にも出来ないのです」


「むっ、………そうだな、神を欺くことは出来ぬよな。だが、七本ならどうだ! 縁起の良い数であるし、一本一本が国を買えるほどの名剣なのだ。七本で十分だと思わんか……?」


 ダメダメ、祀って建てられる神社の名前が『八剣』から『七剣神社』になっちゃう。

 ここ、住吉さんの夢の中って事だから歴史は変わらないと思うけど、一本ケチる事で元の世界に戻れなくなる可能性が浮上するのもイヤだ!


「八本ぢゃないと意味ないんです! 正吉さんは、ヤマタノオロチを知っていますか? ヤマタノオロチは、単なる怪物ではなく河川の氾濫や洪水そのものを象徴しているという説があるんです。なので、オロチの頭の数と同じ八本の剣の御霊を人柱の身代わりとして祀る事で領民の不安も取り除くことが出来ると思うんです」


 出雲の伝承を勝手にこじつけちゃったけど、案外これが真実の理由なんじゃないかな?


 福島さんが話の分かる人なら、これで話し終われそうだけど、『呑み獲りの槍』の話がある人だからなぁ。呑み勝負を挑まれたら勝ち目ナイや。未成年の飲酒を禁ずる法律のない時代だし、まして、城主様の誘いを断る選択肢が存在するのかって話だ。


 ……………………。


 ……………………。


 ……沈黙がコワイ。


 ……………………。


 ……………………。


「フハハハ、ワシの負けじゃ! 早速、八剣祭祀の準備をさせよう」


 ……ふぅ。なんとかなったぁ。




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