35.生贄の巫女
正吉さんというのは、街で揉め事や喧嘩が起きれば、何処からともなく現れてその場を収めたり、困った人がいれば相談に乗って解決したり、オマケに役人にも顔が利くという、どこか謎だが街に住む人々にとって大変頼りになる存在である。
街の人達からは『大将』と呼ばれて慣れ親しんでいる正吉さんだが、その正体を知る人は意外と少ない。
私は以前、お役人に連れて行かれそうなところを正吉さんに助けられ、その時たまたま正体を知る事になったのだが、知れば、これほど信頼のおける人物はいない。
私は妹を正吉さんに預けて実家に戻ると、それから三日間ほど熱を出して寝込んだ。安心したら疲れが出たんだと思う。
ようやく起き上がれるようになった頃、また事態は動き出した。
咲ちゃんが村に返されて『人柱』に選ばれたというのだ。
庄屋の息子が、わざわざ家まで訪ねてきて教えてくれた。
また、オマエか……!
「妹が助かったと思えば、次は友人が選ばれるとは、ツキがないな」
と、同情の言葉を投げかけてきた庄屋の息子だが、絶対オマエが仕組んだのだろう。
こうなれば、もう、お上に直訴するしかない!
気付けば、私は家を飛び出していた。
城門の前に来る頃には少し冷静になり、私のような街娘がいきなり訪ねても相手にはされないだろうと思ったが、すんなり城内に通された。
「ここで待て」と言われ、しばらくすると別の役人がやって来て裏門からお城の外へと連れて行かれた。
マズイと思ったが、役人から逃げられるとは思えず、そのまま大人しく城の北のにある土手まで連行された。
連れていかれた先で私が見たものは、白装束姿で震えている咲の姿だった。
ついでに、庄屋の息子もいた。庄屋の息子は、私に向かい「おまえが『人柱』になるなら、この娘を見逃してやる」と、ほざいてきた。
いいだろう。乗ってやろうぢゃないか。
こいつの標的は、もともと私なのだ。
「咲ちゃん、着てる服脱いで!」
「……え?」
私は、その場で着物を脱いで真っ裸になると、咲ちゃんの白装束と交換した。
どうせ、もうすぐ死ぬんだ。公衆の面前だろうが恥ずかしくもなんともない!
咲ちゃんは恥ずかしそうにしていたが、私が無理矢理に着ている装束を引き剥がすと、慌てて私の着物を羽織っていた。
そんなこんなあって、今現在、私は吊るされてる。物理的に吊るし上げられているのだ。
前回は、城主様や民衆の前で、神様に私を捧げる儀式が始まった時点でループしたんだっけ。
やり直しても同じ結果だなんて最悪だ。
どこで間違ったんだろう。
少し時間が経ち、熱が冷めてくると、すごく悲しい気持ちになってきた。
私だって、本当は、まだ死にたくはない。
だけど、私のせいで妹や友達を犠牲に出来ない。
次は、もっと上手くやろう……。
「住吉さーーーーーーーーーーーーん!!」
遠くで私を呼ぶ声が聞こえる。いや、八恵を呼んでいるのか。
確か、八恵の友人の山田という少年だ。
彼も、この時代に転生したのだろうか……?
「住吉さーーーん!!やっと見つけたと思ったら、どーして、もう、殺されそうになってんのぉーーッ!?」
……ちがう。呼ばれているのは私だ。
名前を呼ばれた事で気付けた。
私に住吉八恵の記憶があるんじゃなくて、
私が住吉八恵なんだ。
むしろ、何で今まで自分を『幸』だと思っていたんだろう。
今は、そんなことはどうでもいい。
彼こそが、この世界のイレギュラーなのだ。
まだ、諦める場面じゃない。
今回でループを終わらせるんだ。
「山田君ッ!!城主様に会ってッ!!急いでッ!!」
突然、城主に会えと言われて戸惑っている山田君だったが、その場に現れた正吉さんが山田君の腕を引っ張り、お城の方へと連れて行った。
山田君、「何言ってんの!?」って顔してたな。当たり前だ。
いきなり城主様を訪ねて、誰にでも会えるもんじゃないのだ。
だけど、正吉さんなら安心だ。
きっと、彼なら山田君を天守まで導いてくれるだろう。
だって、彼こそが、広島城城主『福島正則』本人なんだから。
切りが良いのでここで切りました。次話から山田視点になります。




