33.邪悪なナニカ
「え、えっと、邪悪だったから降りてこなかった…………とか?」
一瞬、場の空気が凍り付いた。
……しまった! つい、思ったことを口にしてしまった。
「ま、まさか、七美にだけ…邪悪なナニカ?が、降りてくるわけ……」
「そ、そおだよ。もし、この前、七美ちゃんに『神降ろし』をしていたら邪神が降臨して、地上を滅ぼしていたなんて事があるわけ………」
毛利さんと、住吉さんは明らかに動揺して声が震えていた。あと、住吉さんに至っては、想像力頼もしいかよ!…って思ったが。
熊谷君は、口を噤んであえて発言を控え、武田さんは、言葉が出ない様子だ。
この熊谷家の結界は、狐さんでも入るのを躊躇う程に強力らしいので、邪悪ではない『霊』さんも、好んで立ち寄らない場所なのではないだろうか。それなら、単純に近くに適当な霊がいなかっただけだと思うのだが、狐さんの話をするタイミングは、きっと、今ではない。勿論、邪悪なナニカだった可能性もゼロではないのだ。
なので……
「ぼ、僕もさ、最初は何も降りて来なくて、裏山の時に、土壇場で初めて成功したわけだし、……熊谷君だって、最初は散々動物霊が降りて来てたからね。だから、武田さんも、そのうち……」
……そう、『武田元繁』さんとかが来るといいなぁ?
「そっか、そーだよね。そういうこともあるよね。でも、六花は凄いね。一発で成功して……」
「あー、それなんだけどさぁ……山田君にね、先祖由来の物を持っていると、ご先祖様が降りて来やすくなるって聞いていたからね。昨日は、父親の実家にこれを取りに行っていたんだよ」
毛利六花は、「ボロボロで開いて見せられないけど」と言って、古びた扇子を取り出すと、皆に見せた。
毛利さんが手に持つソレは、物置や押入れの片付け中に出てくれば、迷わずに捨てるレベルの『物』としての価値を感じさせないボロだった。
ただの古い扇子にしか見えないけど、妙玖さんが降りてきたという事は、きっとそういうことなんだよなぁ。
「うーん、先祖由来の物って言われてもなぁ……」
武田さんが困った表情を見せる。
まぁ、それが普通なんだよなぁ。
僕の家も、親の歳よりも古い物は、多分無いだろう。
そんな事を思っていた時だ。武田さんの背後に鈍く光る光を見つけたのは……。
「ね、ねぇ、武田さん、後ろの、箪笥の引き出し……」
……光ってるよね?
全員の視線が、武田さんの背後に集まる。
「雨竜、開けるよ?」
武田さんが熊谷君に確認を取ってから、引き出しを開けて中の物を取り出す。
武田さんがソレを手にすると光は消え、そこにあったのは、歯の欠けた黒ずんだ古い櫛だった。
「あ、これ、私が昔使ってたやつ!」
どうやらソレは、武田さんが幼い頃に祖母から貰った『櫛』で、いつも持ち歩いていたが、いつの間にか紛失していたという物らしい。
これは、新たにゲットしたアイテム『櫛』を持って、もう一度『神降ろし』をする流れ……かなぁ?
失くし物を見つけて、「こんな所にあったんだ」と、嬉しそうな武田さんではあるが、ここでセットしていたアラームが鳴り響き、時間切れとなった。
住吉パパとの約束の時間に遅れるわけにはいかないので、今回の第一回『神降ろし会』はこれでお開きだ。
きっと、すぐに第二回も開催される事だろう。
それから、神社に併設してある住吉さんの自宅へと向かったわけだが、なぜか、全員がついてきた。
全員で住吉さんの部屋へ上がり込み、その後、僕だけが別の部屋へと案内された。
「お父さんもすぐに来るから」と、部屋から出ていく住吉さんを緊張の面持ちで見送る。
住吉パパは、神社の神主をしている。という情報くらいしか持っていない僕は不安でしかたなかった。コワイ人じゃなきゃいいけど……
住吉さんが部屋を出てすぐに、廊下から――ドタンッ!と大きな音がして見に行くと、住吉さんが廊下に倒れており、意識もない状態だ。
慌てて皆を呼びに行こうとしたところに、住吉パパ現れた。顔は知らないが間違いないだろう。
「こ、こういう時って、救急車ですよね?」
震える手でスマホを取り出したところで、住吉パパに止められる。
「君が山田君だね。君とはじっくり話したかったが、それどころではなくなったようだ。事は一刻を争う。まだ中学生の君にこのような事を頼むのは忍びないが、娘を助けるために協力して貰えないだろうか?」
……えっ!? コレって、どういう状況? 119番しちゃダメなの??
最新話の更新は、毎週土曜日、もしくは日曜日に週一回くらいのペースで行いますm(__)m




