30.
「…………」
「…………」
「まぁ、山田君を納得させられなかったら、この部、畳むけどね」
沈黙に耐えられなくなった毛利さんが先に喋り出した。
「……えっ?」
「だって、山田君と一緒にいたほうが楽しいに決まってるし!……間違えた、山田君とイチャラブしたいからだし!」
「何で言い直したしっ! 絶対、思ってないでしょ!」
「思ってるし!ホラッ」
そう言って毛利さんが顔を近づけてくる。
「ちょ、顔ちかいちかい、離れて!」
なんか、僕が『歴史探索部』を退部したら、もれなく毛利さんが憑いて来るっぽい。だけど、僕と一緒にいたほうが楽しいって、……僕の周りで何かが起こるって認めてるって事だよね?
ずっとボッチだった僕にとっては、こんな他愛もないやり取りがすごく楽しくて、かけがえのない時間のようにさえ感じてしまう。
でも、だからこそ、毛利さんを危険から遠ざけなくてはという使命感が生まれてくるのだ。
だが、今の中二全開の毛利さんを説得するのは容易ではない。
僕が毛利さんをどうやって説得するかと考えをめぐらせてると、それを読んでか先に毛利さんがこう切り出した。
「ねぇ、そうやって一人になってさ、山田君は大丈夫なの? 危険じゃないの?」
「……え?」
だって、僕には狐さんがいて……いざとなったら僕を助けて……
「裏山では八恵の活躍があったし、七美の時は雨竜のおかげで助かったんだよね?」
「うん、そうだけど……」
「そして、もしも根本が間違ってたとしたら?」
「……どういう事?」
急に意味わからんことを……
「山田君の周りで何かが起きてるんじゃなくて、私たち、『歴史探索部』の周りで何かが起きているのだとしたら、残された私たちの方が危険って事になるよね?」
「うん、もしそうならね」
……多分、ないと思う。仮に百歩譲っても、毛利さんが部を畳むって言ってるし。でも、もし皆がバラバラになった後、一人ずつ何かに狙われるようなことになったとしたら…………僕、絶対に後悔するだろうなぁ。
「毛利さん、僕達もう少しだけ一緒にいたほうが良いかもしれないね。取り合えず、退部は取り消すよ」
毛利さんは、一瞬、意外そうな表情をして、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべた。かと思えば次の瞬間には真剣な表情に……。
「本当!?……良かったぁ。だけど、今のままだと不安だよね? この先、何があっても大丈夫なように、今、必要なのは皆それぞれ何が出来て、何が出来ないかを知る事だと思うの」
「……確かに」
本当、切り替えが早いなぁ、この人は……。
「だから、今度の週末は皆で集まって『神降ろし会』をしましょう!!」
そう宣言すると、毛利さんは僕から週末の予定を聞き、僕が住吉パパから呼び出されている事を話すと、皆の予定も聞いて日時が決まったら追って知らせると言い、教室へと帰って行った。
『神降ろし会』かぁ……。
そういえば、毛利さんと武田さんは、それぞれ、毛利氏と安芸武田氏の末裔なんだっけ。
もしかしたら、『毛利元就』とか『武田元繁』さんが降りてくるなんて事も…………やばい、楽しみ過ぎる。
と、心底から『歴史探索部』に残って良かったと思う項なのだった。
……って、あれ? 結局、僕、毛利さんに言い包められてる?……まぁ、いっか。
気付くと、胸の痛みは綺麗さっぱりと、無くなっていた。
毛利さんとのやり取りの最中、ストレスが全て発散されたという事なのだろうか?
『項、大丈夫か?』
ひさびさの狐さんの声だ。
「おはよう狐さん。今回は随分と良く寝てたね」
『何を言っておるのだっ! 今朝、登校中も話しておったではないか!』
……そうだっけ?
聞くと、武田さんとの事が学校中の噂になっている事を耳に入れてから、僕がおかしくなり、狐さんの声も届かなくなったのだとか。
僕がネガティブになる事で、狐さんとのチャンネルの周波数が合わなくなり、話せなくなったのではないかと狐さんが話してくれた。
狐さんに憑かれる事で無条件に話せるのだと思っていたが、そうではないようだ。
そして、ポジティブな時ほど周波数の合う狐さんは、やはり良い狐さんなのだろう。
次回は、『神降ろし会』です。余談ですが、質の悪い狐さんほど上手に人間を騙すそうです。




