24.
今日までの数日間、この場所について僕なりに調べた事がある。
まず、ここは住宅地の中にポツンとある雑木林の中にあり、そこに『安芸源氏 武田一族終焉の地』と刻まれた石碑が建っている。
ここは昔、罪人の処刑場があった場所で、銀山城が攻め落とされて武田信重が自刃した後、捕らえられた一族が六親等に至るまで、この罪人の処刑されていた場所で、罪人として処刑されたのだと言う。
捕らわれた者達の中には女子供もいて、戦から遠い場所にいた彼、彼女達が、もし、「恨むなら一族を恨め」と言われて罪を着せられ処刑されたのだとしたら一族を呪った者もいたかもしれない。
……だが、しかし、数百年の時を超えて、子孫にその矛先を向けるとは思えない。思いたくない。碑を建ててきちんと供養されているなら尚更だ。
碑の裏に刻まれた文字からも、彼らは無事『極楽浄土』へと行けた事が伺える。
では、大きな鎌を持ったあの黒い影は一体、何なのか?
そもそも、鎌は刈り取るという事に特化した農具であり、特に死神の持つ大鎌は『生命を刈り取るもの』として扱われている。
そして、この場においてそれに当てはまるのは…………
…………おそらく、処刑人だろう……と、僕は思う。
しかし……、
「処刑され無念の死を遂げた側ならともかく、数百年もこの地に留まり続けて、ここを訪れた一族の子孫の命を狙うって、……処刑人、仕事熱心過ぎると思わん? 生前、相当真面目だったとか? ねぇ、狐さんはどう思う?」
『うむ、そうだのう……例えば、もともと安芸武田氏に強い恨みを持つ者が処刑人になったのだとしたら、どうだ?』
「うーん、やっぱりそうなるよね。」
強い恨みを持つ処刑人が、のちに怨霊となって、この場に留まり、安芸武田氏の一族を根絶やしにしようとしているとか?
ここから動けないのに、それ、達成できんの?
いや、動けるのか。
武田さんを家に送る途中、一回遭遇したよな。
ということは、どういうことだ?
釈然としないが考えてもわからんし。
もっとシンプルにいこう。
鎌の奴を倒して終わり。
…今は、それでいい。
僕が茂みに潜んでから三分程が経過しただろうか。
ピコンッ!と、新着メールを知らせる音が僕の思考を遮る。
先程送ったメールの返信が届いたようだ。すぐに中身を確認する。
「もうすぐ到着する」らしい。
出来れば間に合ってほしいが、間に合わなければ僕が出ていくしかないよなぁ……。
武田さんは既に『碑』の前に待機しており、いつ何が起きてもおかしく無い状態だ。
まぁ、メール送信してからまだ数分しかたっていないし、間に合わなければギリギリまで迷っていた僕の責任だ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その頃、武田七美は石碑を前に一人、佇んでいた。
「二人で来たのに……どうしてよぅ………わたし、なんでこんな場所で一人なのよぅ……うぅ、心細いよぅ。山田ァ~…………わたしの事、ちゃんと守ってくれるんだよね?……僕が絶対に守るって、言ってくれたよね……」
七美のメンタルはすでに限界だった。
その直後、七美は急に背筋が凍り付くような感覚に襲われた。
「……い、る…………うしろ、に…………なに、か………」
さっきまで何もいなかったのに、突然、背後に……何もない空間から現れた『ナニカ』、が、わたしのすぐ後ろに立っている、逃げなきゃ……
そう思うも、七美は恐怖で足が竦んで動けなかった。
気付くと、三日月形の曲線の刃が喉元に添えられていた。
逃げようと動いていたら、首から、頭と胴体が離れ離れになっていたのだろうか。
「キミのほうからきてくれたんだね。僕に、私に、儂に、余に、我に、妾に、己に、ぼくちんに、わだすに、某に、拙者に、拙僧に、我等に……………………殺されるために………」
『ナニカ』は、わたしの耳元でそう囁くと、喉元の刃を、ゆっくり後ろへと引き寄せて行った。
「コレは、さすがに山田でも間に合わないよね?……死んだな、わたし…………」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
一方で、項は、待ち人の到着を今か今かと待ちながら、石碑の前でスタンバっている七美を茂みの中から見守っていた。
すると、突然、前触れもなく七美の背後に黒い影が現れ、七美の首元にその大鎌の刃を向けていた。
「……えっ!?マジかっ!」
項が七美を助けに動き出そうとしたその瞬間、項のいる茂みを勢いよく飛び越える人影があった。
それは、項の待ち人であり、熊谷雨竜その人であった。
「どうやら間に合ったみたい」
項は、今回は自分の出番はなさそうだと、そのまま茂みに身を潜めることに決めた。
「山田ぁッ! 頼むッ!!」
雨竜のその言葉を合図として受け取った項は、
そのままの勢いで七美の元へ駆けていく雨竜の背中に向けて、そっと『神降ろし』をするのだった。




