ケ・セラ・セラ
今日も黒いですが……エチではありません。
妻の前に不倫の証拠写真を並べながら『この調査費用の支払いは済ませたのだろうか? 支払方法は現金?それとも振込?』と言った疑問や不安が頭を擡げるが『今は離婚の事に集中せねば!!』と自らを叱咤激励し、妻に向かって話を切り出す。
「離婚はしてもらう!! しかし、私はキミからだけでは無く、相手の男に対しても慰謝料を取ろうとは思ってはいない。これはひとえに私が自分の体面を重んじるからだ!」
妻は言葉を返す。
「『なぜ、こうなったのか?!』と、理由はお尋ねにならないの?! 私にも言いたい事は山ほどあるし、闘うつもりよ!!」と
私は少しだけ皮肉を混ぜた微笑みで妻を見据え言い放つ。
「闘いにはならんよ!財産もキッチリ2分の1を分け与えるし、私は不貞行為など行ってはいないからな。キミが今後、この写真の男とどうなろうが関知もしない!」
「あなたの仰る事……とても信じられないわ!! “渡りに船”みたいな顔をなさってるもの!!」
妻は勘の鋭い女だ。
だから私は軽くため息を付いて見せる。
「まあ、その様に信頼関係が築けないからキミは不貞を働く訳だ。例えこの様に人を雇って調べさせたとしても……私が不貞を行った証拠など出やしないよ。私がワーカホリックなのはキミが良く知っているだろうに」
そう!私はワーカホリックだった。
私の疾患の原因がそれに関係するのかどうかは分からないが……そう遠くない将来、私は仕事が出来なくなる……そうなる前に、今抱えている案件を次々と引継ぎしているのだが……実は妻と別れるより仕事を手放す方が何倍も辛い!!それこそ断腸の思いだ!!
こんな薄情な夫の母親の面倒をずっとみてくれた妻の心情は、壊れつつある私でもまだ察する事ができる。
だからこそ!!今回の不倫騒動は渡りに船だった。
これから母以上に手が掛かることになるであろう“この息子”の世話で……これ以上、妻の人生を食い潰す事はできない!!
妻が出て行ったらグループホームに入り、この家は売り払おう!!
ああ!!若年性認知症で脳みそは腐っているのに……
へたに頑丈なこの体はいったい何年もってしまうのか??!!
私の人格や記憶が壊れゆく精神的な死と……取り残されたうつろな体がしでかすであろう様々な事に私は恐怖し、それを紛らわせたくて……
私は古い映画で歌われていた歌詞を口ずさむ。
そして今、妻を目の前にしても
頭の中は「Will Be」を繰り返すのみだ。
これは恐ろしいなあと思ってしまいます(-_-;)
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