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呪具使い

 ハグロ・ゲンナイと名乗ったパン屋の店主と僕は注文通りの二十人分が数日暮らせるだけの量のパンを詰め込んだ袋を持って店の外に出る。

 隣の店にはサビがいるはずだし、ちゃんとおつかいが出来たか確認してゲンナイさんのことも説明しなきゃと思っていた矢先、目の前にたぶん中にこれでもかと肉と野菜が詰め込まれているであろう袋を持った、欲張りサンタクロースみたいなサビが歩いてきた。


「お兄ちゃん、私ちゃんとおつかいできたよー!」


 ぶんぶんと手を振りながら走ってくるサビを見て安心していると、後ろにいたゲンナイさんに肩をポンと叩かれ振り向くと、なんだかすごい険しい顔をしている。


「兄ちゃん、まず説明してもらおうか……」


「あぁ~、あの子はですねぇ」


 キョトンとした顔をしているサビに一旦待ってもらって、僕が転生してすぐにサビと森で出会ったこと、村で待つ予定だったがついてきたこと、あった時からすでに継ぎ接ぎの姿だったことを、明らかに異常な容姿をした少女を連れている僕を疑うゲンドウさんに説明した。


「んで、なんで嬢ちゃんの体がこうなってんのかは知らねえと?」


「はい、でもとてもやさしくていい子で、今も村のための食料を買ってきてもらってたんです」


 ちゃんとおつかいが出来たことをほめて頭を撫でてあげると、サビは誇らしそうに嬉しがった。

 ゲンナイさんもそれを見て脅して連れまわしているような感じではないとわかってくれたようで、サビについてはこれ以上質問をしてこなかった。


「お兄ちゃん、そのつるつるのおじさんは誰?」


「つるつるのおじさんっ……!?」


「そうだった、この人はパン屋のゲンナイさん。一緒に村まで来てくれるんだ」


 なにかショックを受けているようなゲンナイさんは置いておいて、サビに今の状況を説明する。

 つるつるのおじさんに関しては子供が言ってることだ、許して欲しい。


 なんだか放心状態になってしまったゲンナイさんを連れて街の門を出る。


「じゃあ行きましょうか、村まで少し遠いですけど――」


 そこで気づいた。

 荷物は刀に収納して運ぶつもりだったがゲンナイさんがいるとそんな超常現象目の前で起こすわけにはいかない。来るときに御者の男を驚かせてしまったみたいに呪いに関連する行為は怖がられる対象だということが話あっている。


 でもこの量の荷物をもって村まで歩くのは一苦労だ。

 力のありそうなゲンナイさんは大丈夫なのかもしれないけど、サビに荷物を持たせる予定はなかったしパンとはいえこの量だと僕もきつい。

 ていうか途中で力尽きる、確実に。


「あの、ゲンナイさん。ちょっと目を閉じていてもらっても?」


「は? いいけどお前ら逃げようとしたらとっ捕まえたやるからな」


 そう言って目を閉じたすきに大急ぎで刀に荷物を収納していく。

 どうやら怪物も急に詰め込まれたに驚いたようで文句を言っていたが、とりあえず今は我慢してもらってパンも肉も野菜も全部吸収されるよりも早くぎゅうぎゅうに詰め込んだ。


「もう大丈夫です、目を開けてください」


「はあ、急に目を閉じろなんて何を言いだ――えぇ!?」


 まあそりゃ驚く、驚きますよね。

 目の前の荷物がすっからかん、ていうか疑われているのにこんなことしたらやばかったかもしれない。


「て、てめぇ俺のパンどこにやりやがった!」


「えっとですね……」


 これはもう正直に話さないと今からこのマッチョと野外プロレスが始まりそうだ、ちゃんと説明しよう。


「この刀の中に荷物を収納できるんです」


 何を言ってるんだ? という顔をされたけど、実際に見せた方が早かったのでゲンナイさんが持っているパンの袋を受け取り、抜いた刀の刀身に袋を吸収させると、ゲンナイさんは驚きと納得を混ぜたような表情をして一度んっと唸った後に刀と僕を何度か見返した。


「お前、呪具使いか」


「呪具使い?」


 また知らない言葉だ。

 呪いとか呪力は少しずつ理解し始めてるけど、呪具というのは初めて聞いた。


「その刀、呪具だろ? はぁ……なんか理解したよ、呪いがいつ出てくるかわかんねえ森に村があるとかよぉ。転移者でそんなことできる呪具がありゃあできるわな」


「理解してもらえてよかったです、正直僕もあまりよくわかってないんですけど」


 この刀、呪具って呼ばれるのか……。ゲンナイさんは理解してくれたけど、やっぱりこういうことは人前でやるのは避けた方がいいかもしれない。


「まあ荷物が無くなってすっきりしたな、じゃあ村ってとこに案内してもらおうか」


「つるつるおじさん、急に元気になったね!」


「嬢ちゃん、せめてつるつるはやめてくれねえかな……」


 再びショックを受けたゲンナイさんを連れてきた道を戻る。

 整った道を外れて森に入り、崖下に向かう坂道を降りていくと、村の門が目の前にまで見えるとまだ少しだけ疑わしかったゲンナイさんの疑いも完全に晴れたみたいだ。


「ここが兄ちゃんの言ってた村か……」


「はい、二年前に若い男性がみんな王国に連れていかれたらしくて、働き手がいないらしいんです」


「ほう、それでこの荒れようか、こりゃあ食料がいるわけだ」


 村に入ると村の子供たちが待ち構えていたように駆け寄ってくる。

 お腹を空かせて待ってた子たちだ、早く食べさせてあげないと。


 刀を抜いて中から食料の入った袋を出す。中には干し肉と野菜、パンもいっぱいあるから数日は持たせられるだろうし、その間に畑を耕したりして村での自給自足を確立できるようにしないと。

 食料は足りなくなれば僕がまた街に行って買ってくればいいし、行き来は大変だけどゲンナイさんにも繋がりが出来たことは嬉しいことだ。


 肉、野菜、炭水化物、これが揃っていれば人間はある程度暮らせるはずだし。まあ僕は一か月ぐらい米と水だけで生きてたこともあるからまあ……大丈夫だと思う。


 と、考えている間に村人はみんな袋から出したパンをゲンナイさんから受け取っていて、干し肉や野菜はサビが保管用の倉庫まで運んでいた。


「おう坊主たち! 俺のパンは美味めぇか!?」


「うん! つるつるおじさんのパンすっごく美味しいよ!」


「つるつる……おい兄ちゃん! この村のガキはなんでこんなに口が悪いんだ!?」


「いや知らないです!」


 きっぱり言い切って村の農具を持ってみる。

 刀より重いけど、触れないことはない。昔から畑の少ない港の田舎町に住んでたし経験はないけど僕も少しは手伝わないと、村の復興を進めるのは大変そうだ。


「ありがたいのう旅人さん、あなたが来てくれなけばわしらはずっと希望のないまま生きることになっておった」


「いえいえ、通りかかった村ですから、それにこの村に来て僕も学べることも多かったし助かってます」


「ゲンナイ殿も、こんな寂れた場所まで来てくださりありがとうございます」


「おう、ここのガキたち口は悪ぃけどこんなに美味そうに食ってくれるんだぜ。パン屋みょうりに尽きるってもんだ」


 腰に手を当てて誇らしそうにするゲンナイさんは、見た目に反してパンにとても真剣みたいでかなり嬉しそうだった。僕も一口食べてみたらかなり美味しかったし、この人に頼んで間違いなかった。


「なあ、持ってきたのは三日分ってとこだが……このペースだけど二日でなくなりそうだぞ」


「た、確かに……保存の効くものが多いとはいえちょっとこれは」


 老人の人たちは体のこともあって少量だけど、育ち盛りの子供たちが十人以上いるのが盲点だった。数日分なんて考えたけどもっとあった方がいいかもしれない。

 でも、このペースだと食料を買うお金も心もとないよなぁ……かっこつけてサビの服に金貨とか使ったのは少し後悔してしまうかもしれない。


「まあ俺のパンについてはちょっとはオマケしてやるけどよ、お前も働かねえとやばいんじゃねえのか?」


 お金の入った皮袋を持っているせいか、ゲンナイさんに心を読まれた。

 まあ確かにそうだけど、僕は元々こういう世界で働けそうな経験はないし……力仕事はからっきしだしなぁ、都合よくデスクワークとかないだろうか。


「ゲンナイさんのパン屋は……?」


「バカ言え、呪具ぶら下げてるやつが店にいたら誰も寄り付かねえだろうが! 呪具使いなら呪いを倒せ、呪いを!」


 あれ、呪いを倒してお金って稼げるんですか?

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