街を歩く
前回のあらすじ
怪物に迫られてストレートに断ってしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「アタシの契約を断るなんて……いい度胸じゃないの!」
「わぁーごめんなさい僕契約とかなんにも知らないんですー!」
見た目からしてめちゃくちゃ怒っている怪物を目の前にどうしたらいいかわからず逃げ出そうとするが気づいたら体がまったく動かない! マジでヤバイ、でも契約っていうのに手を出してもやばい気がする。
早くも詰んだ僕の異世界転移、動くのは口だけで出てくる言葉は謝罪ばかりでまったく何の役にも立たな
い。なんとか時間稼ごうと考えても目の前の光景が恐怖過ぎて謝るしか行動の選択肢がなかった。
「あんた、このアタシを誰だと思ってんの?」
「し、知らないです! 僕さっきこの世界に来たばかりで、右も左もなにもわからないんですごめんなさい!」
「あら、じゃあ冥途の土産に教えてあげる。アタシは呪いの王、この世全てを呪殺する始まりの呪い、これでわかったかしら?」
全っ然わからない! 呪いとか非現実的な話を異世界では常識なんだとばかりに言われても全く理解できない、わかるのは目の前の怪物がめちゃくちゃやばい怪物ってことだけだ。
本当に何とかしてこの刀を手放して逃げないと、外には騎士とか王様とかもいるからここから出ることさえできればなんとかなりそうなのに……!
「あなた程度の呪力でアタシ引きはがそうなんて無理無理、600年前の雑魚よりはマシだけど修行が足りないわ~」
必死で必死で年甲斐もなく涙が出そうだ。わけもわからず異世界に来て、まったく恵まれてないうえにもう死ぬかもしれない、なんで僕がこんな目に合わなきゃいけないんだ!
「わっかんないよ! 修行とか知らないし、呪いとか言われてもわっかんないよ! 急にこんなところに飛ばされて今目に遭って――」
腹の底から煮えくり返った気持ちが言葉として飛び出していく。
「会社の人も家族にも何一つ言えてないのに死にかけてて! もうなんなんだよ! 僕がなにしたっていうんだよ――」
へその下にある爆弾のようななにかが膨れ上がっていくのを感じる。
「お前が僕をここで呪い殺したら、僕がお前を呪い殺してやるっ!」
へその下の爆弾が爆発したような感覚と共に金属が崩れるような音がして、いつのまにか動くようになっていた体で振り抜いた刀が、武器庫の壁を乱雑に置かれていた剣や鎧を巻き込んで切り裂いていた。
何が起きたのか自分自身でもわからず壁と怪物を見ていると、怪物が怒っていた表情からまるで笑っているような雰囲気を出し始めた。
「あなた怒ると結構怖いタイプね、気に入ったわ」
怪物の大きくて異様な腕が僕の顔を包み込んでいく。
もう動けるはずなのに、いつのまにか目の前にまできていた巨大な目から感じる恐怖に、蛇に睨まれた蛙のように動くことができない。さっきまで感じていた怒りの感覚もなくなってて、もうおしまいなんだと絶望すると、怪物から予想外の言葉が飛び出した。
「契約はしない、でもアタシを手放させもしない、あなたの呪いをアタシに見せて――」
バタンッという背後からの音と共に怪物の声が途切れる。どうやら僕を案内してくれた家臣の人がさっきの音を聞いて飛んできたらしい、かなり焦ってきたのか息を切らしていてバラバラになった武器や大きく斬れた跡のある壁を見てぎょっとしていた。
「どうされました転移者様!? これは一体っ……!?」
「ごめんなさい、試しに武器を振っていたら力が入ってしまって……」
「いえ……はい、そうですか」
明らかに通用し無さそうな言い訳だけど、家臣の人はなにも疑問に思うことなく頷いてくれて再び扉を閉める。僕は武器庫の中から刀の鞘を探し出して刀身を収めてから武器庫の外に出ると、額に汗を滲ませながらこちらをみている家臣の人にひきつっているような笑顔で刀を見せてから――
「これ、貰っていきます」
とだけ言って武器庫を出た。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そこからはとんとん拍子で、転移者を示すらしい紋章が入った籠手とある程度生活ができる程度のお金を渡されて城を出ることになった。
壊した武器庫に関してはボビーにも謝ったけど、ほとんど使っていない歴代王のお古だから問題ないと言われて安心している。まあその中にやばいものが混じってたわけだけど……。
あの怪物は武器庫で姿を消してから声も聞こえてない。
もし夢だったらと考えてはいるけどあの気配が刀から感じられるから多分出てきてないだけでいるんだろう、とか考えつつ僕が今からしなければいけないことを整理していくと。
1つ、食料の確保、これが1番優先だ。
2つ、暮らせる場所の確保、さすがに現代人、野宿とかできる気がしない
3つ、収入の安定あるいは自給自足の確立、後者は難しいけどまずは仕事を探すことから始めようと思う
とりあえず手持ちのお金が尽きる前にこの3つを達成できないと結局異世界でなにをすることもなく死んでしまう。できることなら城のある街中で暮らしたかったけど、いつ何が起きるかわからない爆弾を背負っている僕がこんなところで過ごすのは災害が街中で暮らしているのと同じなので諦めた。
突然怪物が暴れだしたりしたらなんの罪もないこの世界の人々を巻き込んでしまう。ほぼ僕の不運のせいで外に出てしまった怪物だし、僕が出来る限り管理しないといけない。
「おじさん、これいくらになります?」
ポケットから財布、もとい渡されたお金の入った皮袋を出して指を差したのは野菜なのか果物なのかわからない食べ物。みたところ城下町の八百屋みたいな店なので食べられないものは置いてないと考えて適当に食料として買っていくことにした。
日持ちするものがあればいいけど、それはまた別の店で探すことにしよう。
「おう兄ちゃん転移者かい? そいつは銀貨2枚だよ」
皮袋から銀貨……たぶん100円玉ぐらいの銀でてきてるっぽい色のお金を取り出して店主の男に渡そうとすると、頭の中であの怪物の声が響いた。
『嘘ついてるぅ……そいつ嘘ついてるわよぉ……』
店主が嘘をついている……? 確かに僕の籠手には転移者の印があるしこの世界の通貨価値も知らない。ってことはぼったくられてる可能性がある。
怪物の言っていることだからすぐ信用するわけにもいかないけど、一応確かめてみよう。
僕は渡そうと伸ばしていた手を引っ込めて、困惑している店主に少しだけ微笑んだ。
もし本当に嘘ならそんなに多いとはいえなさそうなお金を損することになるし、お金に余裕がなくなるとこの世界のことを知る時間を取れなくなってしまうから試すだけ試したほうがよさそうだ。
「本当に銀貨2枚ですか? さっきここで買ってた人は銀貨払ってなかった気がしますけど」
わざとっぽく言うと店主はバツの悪そうな顔で後頭部をガシガシ掻く。
「ちっ、目ざとい奴が来たもんだぜ。銅貨3枚だよ」
「ありがとうざいます」
本当の値段を言ってくれた店主に礼をして銅貨を3枚渡し食料を受け取る。
次はもっと保存がききそうなものと、あと水があったほうがいいかな。どこになにがあるかわからないけどまだ昼間みたいだし、ちょっと歩いてみてもいいかもしれない。
っと、その前に。
「よくわかったね怪物さん、僕は全然嘘ってわからなかったよ」
姿を消して以降気配だけで一言も喋らなかった怪物に話しかけて返答を期待すると、また頭の中に声が響いてきた。
『人間の考えることなんてすぐわかるわよ、何年経ってもずる賢い生き物なんだから』
「うん、助かったよ。ありがとう……」
『ありがとう? ありがとうって言ったの!? やだぁ生まれて初めて言われたわそんな言葉!』
一度殺されかける状況になったとはいえ今は冒険仲間になった怪物に礼をすると、思いのほか嬉しかったようでかなりテンションが上がっている。
うん、上手く付き合っていけば意外とこの怪物は大丈夫かもしれない。
「うーん……たぶん時代的に保存食は干し肉とかになるかな? ってことは肉屋を探さないと」
『肉ならあそこの角を曲がった場所よ』
「わかるの?」
何年経ってもとか何百年前とか、口ぶりからかなり昔から刀の中にいたみたいだけどこの国のことに詳しいのかなと思って聞いてみたが。
『えぇ、あっちから新鮮な血の匂いがするわ、アタシ擦りつぶされて花みたいになった人間の肉が大好きなのぉ』
聞かなきゃよかったと少しだけ後悔した。