7話 ドールとの交戦
ドールには個体差がある。大きさも形も不揃い。耀が戦った中で一番小さかったのはハムスター型、大きかったのはキャンピングカー型だった。中でも一番多くて厄介なのは人型で、一見すると普通の人間と大差がない。
ドールの共通点は無表情であること、体のどこかに黒い三日月のタトゥーが入っていること。そして、核というアメシストのような正八面体の物体を破壊すれば消滅すること。
ちなみに世間にはドールの存在は知られていない。それは、ドールはなぜかヒーローのみを狙い、一般人は巻き込まないという謎の理念を持っているからである。ドールとの戦闘はすべて戦闘空間という亜空間にて行われるので、一般人は「あ、アーリートワイライトマンが瞬間移動した、きっと他の人を助けに行ったのだろう」くらいにしか思わない。
ある蒸した日の朝、人気が少ない路地でドールが現れた。
「ドールってなんでもありだけどさ、これはちょっと、、、」
《著作権的に、なかなか、はい》
「ダークムーンのやつ、絶対あの番組見てたよな」
今回現れたのは、スラ○厶だった。それも、かの有名なドラゴンクエ○トの。ぷるぷるした玉ねぎのような形状も、透明な水色なのもほぼ同じ。ドールの特徴である三日月のタトゥーは右頬に入っている。コアは体の中心にあるらしく、薄っすらと黒っぽく透けている。
アーリートワイライトマンは転移陣を使って自分とスラ○厶を戦闘空間に移した。
戦闘空間とは並行世界のようなもので、見た目は元の世界と全く変わらないけれど人や動物などはいない。そして、ここの物がいくら壊れても現実世界には影響しない。
「ぼくはスラぼー。正式名称は416号」
「これはヒドイ。「う」を「ー」にすればセーフだと思ってるやつ」
正式名称はそのヒーローに対しての製造順らしい。それはいつしかの個体から聞いた情報だった。ちなみに、襲撃してくるドールはそのヒーローの傾向を分析しつつ、オーダーメイドだということも別の個体から聞いたことがあった。
"あれから300体以上も倒したのか"
耀はふとそんなことを思ってしまった。
"あれからって、いつからだ?あれ?"
無意識の思考に、自分で疑問を投げかけた。
俺は今何を思っていたのだろうか、そう思いながらアーリートワイライトマンは内心で首を傾げた。
《油断は禁物ですよ、耀。いくら初期キャラでもドールはドールですから》
ベマが念話で耀に話しかけた。二人で変身している時は、互いに念話でやり取りしている。
"わかってるって!ってかお前、なんでゲームのこと知ってるの?"
《契約をしたとき、こちらの世界の情報が更新されるシステムです》
"そういうことなの?!だから違和感なく対応できてたのか"
《、、、気づくの遅すぎません?もう3年以上の付き合いなのに》
"うるせー"
「大人しく、ぼくに壊されろ。『マダ○テ』!」
そんなスラぼーの声に、アーリートワイライトマンは仮面越しに目をひんむいた。
「ストーップ!!それは駄目だろ?!いきなり最強技とか!」
アーリートワイライトマンはとっさに地面に防壁の魔法陣を張った。
地面から土の壁がせり上がったものの、マダ○テの威力には敵わない。壁が粉々に砕けて、アーリートワイライトマンは真後ろに吹き飛ばされてしまった。
「凄まじすぎるだろ!ふふ。まぁ、これでお前のMPは0だ!」
そう、マダ○テは自身のMPをすべて開放して放つ技。これで勝った、とアーリートワイライトマンはほくそ笑んだ。
しかし。
「それはゲームの中の話。ぼくのMPは即全回復」
スラぼーはそんなことを言ってのけた。
再びアーリートワイライトマンは目をひんむいた。
「最低だ!ダークムーン、なんてことを!」
「さあ、早く、壊されろ」
スラ○ムはマダ○テを連発した。
アーリートワイライトマンは吹き飛ばされつつ、土の壁を作って直撃を回避し続けた。
おかげで辺りは酷い有様である。
「今回の敵強すぎるだろ?!ダークムーンの本気度がすごい」
《ヤツも本腰を入れたってわけですね。耀、この前練習した必中矢でいきますよ》
「わかった」
必中矢。それは最近編み出したアーリートワイライトマンの必殺技の一つである。空間の光を集めて自身の魔力と練り合わせて弓矢をつくり、相手に放つものである。矢に念を送り続ければ、相手に向けて方向を曲げることなどができる故にこの名前をつけた。
「いくぞ!必中矢!」
「まぶし○ひかり!」
スラぼーは全身から光を発し始めた。
「命中率下げようとしてくるとは!策士すぎる!」
アーリートワイライトマンは目を瞑りそう言いながら、素早く収納空間からサングラスを取り出して装着した。相手の技を無効化し、矢に念と魔力を込める。
「でも、俺は負けない。負けないって"約束"したんだ」
強い光がアーリートワイライトマンの目の前に集まり、弓と矢を作り出した。
アーリートワイライトマンはゆっくりと光の矢を引き、そして放った。
放たれた矢は真っ直ぐにスラ○厶に向かって飛んでいく。
スラ○ムはその矢を避けようとぴょんぴょんと移動するも、矢もそれにあわせて軌道を変えていく。
「来ないで!!!」
スラ○厶がそう叫ぶも、光の矢がスラ○ムのコアに届いた。
ピキピキという小さな音を立ててコアが壊れていく。
「ぼくの負けだ。、、、たくない」
「お前、、、」
「まだ死に、たくない。消えた、く、ない」
スラ○厶はそう言い残し、黒い光の粒となって空間に散っていった。
「なぁ、なんか、」
《耳を貸す必要などありません。耀を混乱させようとしているだけです》
「だよな、きっと、、、」
ドールは感情を持たない。
耀はベマからそう聞かされていた。
それをずっと事実だと思っていた。それは、感情を表すようなドールはいなかったから。
"じゃあなんであいつは"
そこまで考えて、耀は首を横に振った。
また無意識が自分を飲み込んでいたらしかった。
"ベマが教えてくれた通り、ドールはオーダーメイドされている。俺の傾向を研究して、感情があるように見えるようプログラムされているだけだ"
耀はそう言い聞かせ、現実世界に転移した。