小話1 引き抜き
これは、"ラストヒーロー"であることを公言してから2年ほど経った頃、つまり、大学3年の秋頃の話。
俺、アーリートワイライトマンはアメリカの大使館に呼ばれた。
流暢に日本語を操る大使と握手を交わすと、早速本題を切り出された。
「アーリートワイライトマン。アメリカで生活しないか?こんな島国よりずっとずっと活躍できる」
「それはできません。私はこの国に愛着を持ってますから。それに、ヒーローの引き抜き行為は世界的に禁止されていますよね?」
そう。この世界には、他国のヒーロー引き抜き行為等の禁止条約が存在している。これを破れば世界レベルの経済制裁が行われることになる。
「それは、ラストヒーローである君が決めればいいことではないか?君が望めばどこの国でも歓迎してくれるはずだ」
大使の言葉は一理あった。ヒーローが世界に一人となった今、俺が望めばその国に移住することは可能かもしれない。でも、、、
「私は日本に残ります」
やっぱり俺は日本にいたかった。守りたいものはここにある。純粋に他国に対する不安もあるけれど、この小さな日本ですら満足に守れていない自分がアメリカなどという大国で通用するとは到底思えなかった。
「では、せめて、そのマスクを我が国で研究させてくれないか?新たなヒーローを生み出すヒントがあるかもしれない」
「マスクはお渡しできません」
「それでは、君はその力を独り占めしようというのか?」
「そういうわけでは、、、」
「とんだ傲慢ヒーローだな。君には失望したよ」
俺は大使館を追い出された。
「どうしよう、ベマ。国際問題に発展してしまったら、、!」
『人間には困りましたね』
ベマは無機質な聲で返してきた。余計に不安が煽られた。
幸いにも、この引き抜きの打診が公になることはなかった。やはり、国同士のトラブルに発展することは避けたかったのだろう。
俺は存在していていいのだろうか。
そんなことをふと考えた。